両人ふたり)” の例文
旧字:兩人
やはりぶらさがったままである。近辺きんぺんに立つ見物人は万歳万歳と両人ふたりはやしたてる。婆さんは万歳などにはごうも耳を借す景色はない。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
⦅何にも知らないんだよ! これは一つ、両人ふたりをいつしよにしてやらなきやならん。先づ第一に馴染みにしてやらなくつちやあ!⦆
と云いながら、孝助と五郎三郎の手を取って引き寄せますから、両人ふたりは泣く/\介抱するうちに次第々々に声も細り、苦しき声で
ことばはしばし絶えぬ。両人ふたりはうっとりとしてただ相笑あいえめるのみ。梅の細々さいさいとして両人ふたり火桶ひおけを擁して相対あいむかえるあたりをめぐる。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
両人ふたり差向いになッた。顔を視合わせるとも無く視合わして、お勢はくすくすと吹出したが、急に真面目になッてちんと澄ます。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
仕方がないからその消えたランプをそこへ置いて、それから庭園にわへ踏みだした。砂利が靴の下でざくざく鳴って、篠つく雨が両人ふたりを叩いた。
犬舎 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
ここまで身はのがれ来にけれど、なかなか心安からで、両人ふたり置去おきざりし跡は如何いかに、又我がんやうは如何いかになど、彼は打惑へり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
両人ふたりしていたちこつこして遊すんだ時分のあたしだと思つて、これだけあたしのいふ事をいておくれな、一生のお願ひだわ
もつれ糸 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
私はこれから此の両人ふたりと、両人のお友達だった友子さんと云う人との間にあった事を皆さんに聞いて戴こうとするのです。
いとこ同志 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
こういってあやかりたがるほどの両人ふたりが容貌も、それに投げつける銭と同じことで、打ち込んでみた時には必ず外される。
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
久子さんが吉岡の話をする時の態度から察しても、大分両人ふたりの間は進んでいるようだ。小田切大使がどうしても二人の恋を許さなかったとしたら?
情鬼 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
他に今一人あるから両人ふたりは既にあるのである。今日の場合は部長を欠くということにして、他日殖えた場合に部長を置いたらよろしかろうと思います
とすっきりいった。両人ふたりは左右に分れたが、そのまま左右から、道の袖をつかまえて、ひしとすがって泣出したのである。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あの時、わしの怒りが半分も軽かったなら、わしはきっと、我を忘れて「不義者」と叫びさま、茂みを飛出し、彼等両人ふたりを掴み殺しもしたであろう。
白髪鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「あっしはすぐに、潮水浸しおびたしになったお両人ふたりの刀を、大黒宗理の所へ頼んでくれと渡されて、棟梁と別れました」
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
両人ふたりの「花園を護るものギャルディアン・ド・ジャルダン」に比べましたら、私の花馬車などは、蘭の前の菠薐草ほうれんそうのようなものでございます。
親しき友にも八重との婚儀は改めて披露ひろうせず。祝儀しゅうぎの心配なぞかけまじとてなり。物堅き親戚一同へはわれら両人ふたりが身分をかえりみて無論披露は遠慮致しけり。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
四五十分経って下りて来た小歌に、一番にどこの人と聞けば、横浜はまの方でお両人ふたりですと云うにやゝ安心した。
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
両人ふたりの間に長い沈黙が続いた。ルパンはあの事件、あの死が喚起した世論を忘るる事が出来なかった。
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
所が先生非常の熱心家なれど今年の正月からやったのだから僕と両人ふたりでやったらどんな事に相成り行くか大分心細く候につき音頭取りとして御出が願われますまいか。
漱石氏と私 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
戸や壁の隙間すきまから冷い風が吹きこんできた。両人ふたりは十二時近くになって、やっと仕事をよした。
老夫婦 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
小野は新吉と顔を見合ってち上った。他の両人ふたりも新吉も何ということなし起ち上った。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
そういう間柄でありつつも、飽くまで臆病に飽くまで気の小さな両人ふたりは、かつて一度も有意味に手などを採ったことはなかった。しかるに今日は偶然の事から屡手を採り合うに至った。
野菊の墓 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
両人ふたりで熟く/\相談して来よと云はれた揚句に長者の二人の児の御話し、それで態〻相談に来たが汝も大抵分別は既定めて居るであらう、我も随分虫持ちだが悟つて見れば彼譬諭あのたとへの通り
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
呉羽之介は両人ふたりにそう断って、自分は一人後に残り、隣座敷に入って行きます。
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
うむ、いっそ、両人ふたり帰ってしまおうか。とにわかに首を上げたる綱雄の眼には、優しき光の同時にひらめきしが、またたく間もなくもとに返りて、いや、そうでない。お前はまあいて上げるがいい。
書記官 (新字新仮名) / 川上眉山(著)
丁度義雄兄は郷里の方へ出掛けて留守の時であった。節子は叔父の骨の折れるのを見兼ねたかして、子供を呼び起しに来てくれたことがあった。その日から両人ふたりの間のりが戻ってしまった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
相方あいかたを定めて熟睡せしが、深夜と思う時分不斗ふと目をさまして見ると、一人であるべき筈の相方あいかた娼妓しょうぎ両人ふたりになり、しかも左右にわかれてく眠っているのだ、有るき事とも思われず吃驚びっくりしたが
枯尾花 (新字新仮名) / 関根黙庵(著)
「ジャンダーク」を理想の人とし露西亜ロシアの虚無党をば無二むにの味方と心得たる頃なれば、両人ふたり交情あいだの如何に他所目よそめには見ゆるとも、妾のあずかり知らざる所、た、知らんとも思わざりし所なりき。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
此二人の少女は共に東京電話交換局とうきょうでんわこうくわんきょくの交換手であって、主人の少女は江藤えとうひでという、客の少女は田川たがわとみといい、交換手としては両人ふたりとも老練の方であるがお秀は局を勤めるようになった以来
二少女 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
そのまた兄さんは月に酔う人で、或秋の夜に兄弟両人ふたりして月に浮かれて、隅田川より葛飾かつしかにわたり、田畑の別なく、ひと夜あるき廻り、暁に至りケロリとして寄宿舎に帰って来たことがありました。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
この両人ふたりが卒然とまじわりていしてから、傍目はためにも不審と思われるくらい昵懇じっこん間柄あいだがらとなった。運命は大島おおしまの表と秩父ちちぶの裏とを縫い合せる。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
よくも孝助を弓のおれったな、それのみならず主人を殺し、両人ふたり乗込んで飯島の家を自儘じまゝにしようと云う人非人にんぴにん、今こそ思い知ったか
却ってこれが間にはさまらねば、余り両人ふたりの間が接近しすぎて穏さを欠くので、お政は文三等の幸福を成すになくかなわぬ人物とさえ思われた。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
そうして両人ふたりは、人通りの絶えた街を相合傘で歩いていった。フェリシテはこんなところをひとに見て貰えないことを、少し残念にさえ思った。
フェリシテ (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
師匠と両人ふたりで何んだか情けないような感じがしました。いうまでもなく下金屋がそれらに何んの価値を認めないということで思い附いた仕事でした。
あの、なんとおっしゃいます? いいえ、とんでもない。どうして私が、見ず知らずのお両人ふたりさまから、三千法などという大金をちょうだいできましょう。
たちまち武男はわれとかの両人ふたりの間にさらに人ありて建物の影を忍び行くを認めつ。胸は不思議におどりぬ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
居眠りをしていたか、躄車を動かしてコンクリート管の蔭へ入っていたか、それとも他のものに気を奪われていた隙に、両人ふたりとも門を出て行ったものであろう。
悪霊 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ひとしく左右へ退いて、呆気あっけに取られたつれ両人ふたりを顧みて、呵々からからと笑ってものをもいわず、真先まっさきに立って
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ところが裁判所長も彼の姿を見ると、ひどく狼狽してしまって、一言として辻褄の合った話が出来ず、両人ふたりとも照れくさくなるような頓珍漢なことを言いだしたものだ。
「大層お早いじゃ御座いませんか。」といいながら愛雀軒あいじゃくけんという扁額へんがくを掛けた庭の柴折戸しおりどを遠慮なく明けて入って来たのは柳下亭種員りゅうかていたねかず笠亭仙果りゅうていせんかと呼ぶ両人ふたりの門弟である。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
叫んだのは、小次郎であったしまた、その小次郎に、突然、振り飛ばされた両人ふたりでもあった。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
両人ふたりは息子の学資に、僅かばかりの財産をいれあげ、苦労のあるだけを尽していた。
老夫婦 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
再び吉川町の往還おうかんへまぐれ出た時、加賀屋横丁を曲った両人ふたり連れの女ひとりが、どうやら小歌にまぎれがないようで、急いで自分もそこを曲ると、その女達は立花屋という寄席よせへ這入った。
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
お君は日頃に似気にげなく争いました。お銀様はほとんど狂気のていで写真をらじとしました。一枚の写真を争う両人ふたりは、ほとんど他目よそめからは組打ちをしているほどの烈しさで揉み合いました。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
十五日がこの村の祭で明日は宵祭という訣故わけゆえ、野の仕事も今日一渡りきまりをつけねばならぬ所から、家中手分けをして野へ出ることになった。それで甘露的恩命が僕等両人ふたりに下ったのである。
野菊の墓 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
汝は今日の上人様のあのお言葉をなんと聞いたか、両人ふたりでよくよく相談して来よと云われた揚句に長者の二人の児のお話し、それでわざわざ相談に来たが汝も大抵分別はもうめて居るであろう
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
頭からこの両人ふたりは過去の因果いんがで、坑夫になって、銅山のうちに天命を終るべきものと認定しているような気色けしきがありありと見えた。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
斯うやってお両人ふたり揃っておいでなさるてえのは誠にお嬉しいことで、よくまアおいでなせえました、丈助がお供で参りましたか