さきがけ)” の例文
もっとたかがって、いたらいいじゃないか? はるさきがけとなるくらいなら、おれみたいにてきおそろしがらぬ勇気ゆうきがなければならない。
平原の木と鳥 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そして将軍家自身の熱心な実践と唱道も大きな素因となって、斯道しどうの名人達人は、まさにこのときを陽春のさきがけとして輩出した観がある。
剣の四君子:05 小野忠明 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
外夷攘払のさきがけつかまつり度き趣旨は是れ迄愚身を顧ず度々建白奉り候通り、未だ寸志の御奉公も仕らざるうち禄位等下し置かれ候ては云々
新撰組 (新字新仮名) / 服部之総(著)
矢島優はこの年十月十八日に工部少属しょうさかんめて、新聞記者になり、『さきがけ新聞』、『真砂まさご新聞』等のために、主として演劇欄に筆を執った。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
文壇の表面に立って居る人は常に流行のさきがけにおる人である。青年には常に古いことがきらわれる。私はあえて文壇の表面に立とうとは思わない。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
林羅山は、これらの史実にかんして、「人倫は三綱のさきがけなり。人の上たるものにして、禽獣の行いあらば、いかにしてよく国家を治めんや。」
あいつもこの春までは、安兵衛殿、孫太夫殿と並んで、硬派中の硬派と目されていた。それがどうだ、脱盟者のさきがけとなってしまったではないか。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
年中行事の打止めとしてそのさきがけは深川の八幡、お飾り物は早過ぎるが、この市で羽子板はじめ市の売物の相場がきまる。
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
両国の川開きは年々の隅田川夕涼みのさきがけをなし、昔は玉屋鍵屋が承って五月二十八日より上流下流に大伝馬をもやいて大花火、仕掛花火を打揚げる。
残されたる江戸 (新字新仮名) / 柴田流星(著)
その中にまじる「百花のさきがけ」とは、中世以来の堅いからを割ってわずかに頭を持ち上げようとするような、彼らの早い先駆感をあらわして見せている。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
その日、惣八郎はやはり細川勢のさきがけであった。いつも必ず魁をする甚兵衛が、惣八郎に位置を譲ったからである。
恩を返す話 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
しかりといえども、世の中の事物は悉皆しっかい先例にならうものなれば、有力の士はつとめてそのさきがけをなしたきことなり。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
幕臣も幕臣、奥詰めだったので、親衛隊のさきがけであり、伏見鳥羽の戦いにも出て、幾百人となく敵を斬った。
大捕物仙人壺 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
しかしこうして松下の士、なおみなかくの如くんば、何を以て天下に唱えん。耕作の至れるは、たまたま群童のさきがけを為す。群童に魁たるは、すなわち天下に魁たるの始めなり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
いつもならば京橋あたりへ、薪炭しんたんを積んで来る船頭の女房が最初に罹るのであるのに、今度の流行のさきがけとなったのは、浅草六区のK館に居るTという活動弁士であった。
死の接吻 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
広い浮世が誰にも見られるように、村の娘達ののちのためを考えて、そなたが先ずさきがけを見せたらばな
壁の眼の怪 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
時々この女からイベットの持とうとする男にさきがけをしようとしたが、いつも負けた。イベットが故意に負かそうとするので無くても、イベットの変な魅力がこの女を負かす。
ドーヴィル物語 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
そして、そのさきがけを為すものは、水戸か、薩摩か? この方々は、水戸の人じゃが、斉彬公を擁立して、天下の勢の赴くところへ、赴かしめようと、この間から、その話じゃ
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
桜でも染井吉野のやうに花が咲いてしまつてから葉の出るやうな種類が開花のさきがけをして、牡丹桜のやうな葉と一緒に花をもつやうなのが、少しおくれて咲くところを見ると
木蓮 (新字旧仮名) / 寺田寅彦(著)
しかし、流行のさきがけとなろうとするには、ひまりお金も要るわけです。それに美しい人でないといけない。美しい人だと、どんな風をしてもよく似合うのはそこだろうとも思います。
好きな髷のことなど (新字新仮名) / 上村松園(著)
お前のやうに、足引のと、長たらしういひ出しては、私等もいふ事、山ほどあれど。いはぬに極めて、近々に、暇を取らふと思ふたに、さきがけられた上からは、親の病気の古手も出せまい。
したゆく水 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
それはやがて大流行になった男女交際のさきがけをしたもので、いわゆる明治十七、八年頃の鹿鳴館ろくめいかん時代——華族も大臣も実業家も、令夫人令嬢同伴で、毎夜、夜を徹して舞踏に夢中になった
明治美人伝 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
うたづる時、一隊の近衛騎兵このえきへい南頭みなみがしらに馬をはやめて、真一文字まいちもんじに行手を横断するに会ひければ、彼は鉄鞭てつべんてて、舞立つ砂煙すなけむりの中にさきがけの花をよそほへる健児の参差しんさとして推行おしゆ後影うしろかげをば
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
今時、勤王といえば、上方の方の人のようにばっかり受取られるけれど、山県大弐様なんぞこそ、その勤王のさきがけですよ、今の勤王なんざあ、みんな大弐公のお弟子みたようなものでごいす。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
さきがけをしたが何かまだおずおずしているというような風情ふぜいだな。それに今朝けさまで雨が降っていたろう。しっとりと濡れていて、今が一番見どころがあるね。ことに梅は咲き揃うと面白くなくなるよ。
我ものに一義も被引受頼母敷たのもしく共、難有共不申、身にあまり國家の爲悦敷よろこばしき次第に御座候。若哉もしや老公むちを擧て異船へさきがけ御座候はゞ、逸散いつさん駈付かけつけむへ草(埋草)に成共罷成申度心醉仕申候。
遺牘 (旧字旧仮名) / 西郷隆盛(著)
「家の子は何でも屹度さきがけをするんでございますからね」
嫁取婿取 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
万古ばんこの如きは名があっても醜い品のさきがけなのです。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
九州で福岡は東京流行のさきがけ
東京人の堕落時代 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
「ご辺がさきがけの功名をねがわるるはご随意だが、この黄忠を無用のごとくいわるるは聞きずてならん。何故、此方には勤まらぬといわれるか」
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
自由さきがけ・圧制政府顛覆・一死報国のスローガンをかざして、明治十七年九月二十三日加波山に旗上げして一敗した自由党左派の加波山事件は
加波山 (新字新仮名) / 服部之総(著)
諸藩にさきがけして大義名分を唱えたことも早かった。激しい党争の結果、時代から沈んで行くことも早かった。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
このとき芳町の芸者米八が千歳米坡ちとせべいはと名乗って伊井蓉峰と共に吾妻座で新派の旗揚げ、新しい女優のさきがけともいうべきもの。ところが大きに不評判で客はガラガラ。
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
真個しんこ関西志士のさきがけ、英風我が邦を鼓舞し来れり」。これ彼が高弟高杉晋作の彼を賛するの辞、言いつくして余蘊ようんなし。まことにこれ彼が事業の断案といわざるべからず。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
これより先五百は脩の喘息ぜんそく気遣きづかっていたが、脩が矢島ゆたかと共に『さきがけ新聞』の記者となるに及んで、その保に寄する書に卯飲ぼういんの語あるを見て、大いにその健康を害せんをおそ
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
すてて、勤王のさきがけをするし、又、変節してくるなら、吾々同志は、すぐ様、京へ上ろう
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
友人が其の故を問うと、久作曰く、「我れ且てごう州に遊んで常に遠藤と親しむ、故によくその容貌を知っている。遠藤戦いある毎に、必ずさきがけ殿しんがりを志す、故に我必ず彼を討ち取るべし」
姉川合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
松竹は芸術座を買込み約束が成立すると、そのさきがけに明治座へ須磨子を招き、少壮気鋭の旧派の猿之助えんのすけ寿美蔵すみぞう延若えんじゃくたちと一座をさせ、かつてとかく物議ぶつぎたねになった脚本をならべて開場した。
松井須磨子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
幸福こうふくしまから、さきがけをして、こちらのくにへやってきたのではないか。」
明るき世界へ (新字新仮名) / 小川未明(著)
心身共に独立して日本国中文明のさきがけたらんことを期望きぼうするなり。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
新しい和紙の運動のさきがけをなしました。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
「何としても、おきき入れかなわぬ上はこれまでのものです。御一門のさきがけに、まずわれら両名ここの御堂みどうを拝借して、腹掻ッ切って相果てまする」
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これは開化のさきがけたる牛店を背景に、作者が作中人物の一人ひとりをして言わせた会話の中の文句である。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
葡萄牙は東洋貿易のさきがけとなり、麻剌加マラッカを略し、支那南岸に立脚の地を求めんとし、遂に天文十年(千五百四十一年)七月風波は葡萄牙船を漂わして、豊後ぶんご神宮浦に着せしめたり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
乃公おれさきがけすると云えば、又一方の者は
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
陥し、このたび備中入りのさきがけに第一の功をあらわした俺だ。ただ怠けているのとはちがう
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大望にさきがけて死んだやからこそ不愍ふびんなものだ。幾多の将士の白骨は浮かばれもしまい
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)