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醸
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かも
ふりがな文庫
“
醸
(
かも
)” の例文
旧字:
釀
ただ
静
(
しずか
)
にして居ったばかりでは単に
無聊
(
ぶりょう
)
に苦しむというよりも、むしろ厭やな事などを考え出して終日不愉快な事を
醸
(
かも
)
すようになる。
病牀苦語
(新字新仮名)
/
正岡子規
(著)
又、成熟した彼女の、目や
脣
(
くちびる
)
や全身の
醸
(
かも
)
し出す魅力を、思い出すまいとしても思い出した。明かに、彼は
猶
(
な
)
お木下芙蓉を恋していた。
虫
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
醸
(
かも
)
して、おまえに呼びかけながら、更けた寝所で独りそっと飲む癖もついた、おまえはいつもおれの側にいたのだ、わかるか、悠二郎
桑の木物語
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
それは人民の憤りを、政府がみずから
醸
(
かも
)
しだしたのである。民主日本の改造は、日本の全人民によって、おこなわるべきものである。
天皇:誰が日本民族の主人であるか
(新字新仮名)
/
蜷川新
(著)
酒は
刀自
(
とじ
)
の管理に属し、これを
醸
(
かも
)
す者もまた
姥
(
うば
)
であったことを考えると、彼らの手で分配するのが正式であったことはうなずかれる。
木綿以前の事
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
▼ もっと見る
そしてその下の方に茂つてゐる大株の山吹が、二分どほり透明な黄色い
莟
(
つぼみ
)
を
綻
(
ほころ
)
ばせて、何となし晩春らしい気分をさへ
醸
(
かも
)
してゐた。
花が咲く
(新字旧仮名)
/
徳田秋声
(著)
さきに猴酒の事海外に例あるを聞かぬと書いたは千慮の一失で、『嬉遊笑覧』十上に『秋坪新語』忠州山州黒猿
善
(
よ
)
く酒を
醸
(
かも
)
す事を載す。
十二支考:07 猴に関する伝説
(新字新仮名)
/
南方熊楠
(著)
かえって夢幻を
鮮
(
あざ
)
らかにし、われひと共にひとしい時代の抱く哀歓と、それが求める救いの滑稽とを、一種の妖気のように
醸
(
かも
)
していた。
私本太平記:01 あしかが帖
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
その浅黒い皮膚の色には今以て魅惑を感じながら、たとい人工的であっても矢張
白皙
(
はくせき
)
の肉体が
醸
(
かも
)
す幻想を破りたくないような気がして
蓼喰う虫
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
しかるに非徳の自分が京都にあるためその禍根を
醸
(
かも
)
したとは思わずに、かえって
干戈
(
かんか
)
を動かし、自分を敵視するものを
討
(
う
)
つとあっては
夜明け前:02 第一部下
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
小さな洞穴の口では真冬の空気と真夏の空気が戦って霧を
醸
(
かも
)
していた。N君からはまた
浅間葡萄
(
あさまぶどう
)
という高山植物にも紹介された。
浅間山麓より
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
それが
求道
(
ぐどう
)
の中途にあって肉親の温かい記憶を呼んだり、ある時は迂闊に道の辺の女人に水を求めて、はしなく恋情を
醸
(
かも
)
さしめたりする。
阿難と呪術師の娘
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
前々から兵卒の間に
醸
(
かも
)
されていた険悪な空気を彼は感じた。即座に、誰かゞ、かげにかくれて、何かやっているな! と思った。
武装せる市街
(新字新仮名)
/
黒島伝治
(著)
その病気は大抵風邪という
類
(
たぐい
)
、それからチベットの
水腫
(
すいしゅ
)
病という病のごときは日中睡って居るうちに発熱を
醸
(
かも
)
して死んでしまう。
チベット旅行記
(新字新仮名)
/
河口慧海
(著)
一種微妙な江戸情緒を
醸
(
かも
)
し出し、そこに生まれた幾多のロマンティストが、想像も及ばぬ美しきものを織り出した時代でもあったのである。
随筆銭形平次:17 捕物小説というもの
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
そのまた鬼の妻や娘も
機
(
はた
)
を織ったり、酒を
醸
(
かも
)
したり、
蘭
(
らん
)
の花束を
拵
(
こしら
)
えたり、我々人間の妻や娘と少しも変らずに暮らしていた。
桃太郎
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
こういう危険な空気が一部に
醸
(
かも
)
されてるのを知ってるのか知らないのか、大杉は一向平気で相変らず毎日乳母車を押していた。
最後の大杉
(新字新仮名)
/
内田魯庵
(著)
勿論彼等は現代の文明に
就
(
つい
)
て、より
少
(
すくな
)
く教育せられて
居
(
を
)
りますから
其
(
その
)
愚直は軽率なる罪悪を
醸
(
かも
)
す原因となる場合もあるでせう。
巴里より
(新字旧仮名)
/
与謝野寛
、
与謝野晶子
(著)
父親は二階の
格子
(
こうし
)
を取りはずしてくれた。光線は流るるように一室にみなぎりわたった。窓の下には
足長蜂
(
あしながばち
)
が巣を
醸
(
かも
)
してブンブン飛んでいた。
田舎教師
(新字新仮名)
/
田山花袋
(著)
「国の基」という雑誌に「
良人
(
おっと
)
を選ぶには、よろしく理学士か、教育者でなければいかん」と書いて物議を
醸
(
かも
)
したりした。
牧野富太郎自叙伝:01 第一部 牧野富太郎自叙伝
(新字新仮名)
/
牧野富太郎
(著)
その乏しい余裕を
割
(
さ
)
いて一般の人間を広く
了解
(
りょうかい
)
しまたこれに同情し得る程度に互の
温味
(
あたたかみ
)
を
醸
(
かも
)
す法を講じなければならない。
道楽と職業
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
えゝ引続いてお聴きに入れまする、お梅粂之助は互に若い身そらで心得違をいたしたるより、其の身の大難を
醸
(
かも
)
しました。
闇夜の梅
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
はげしい時代の動きは、家中の地位によって
概
(
おおむ
)
ね二派の意見を
醸
(
かも
)
すのであった。陰に陽にあらそいながら、行くべきところに行き着きかけていた。
石狩川
(新字新仮名)
/
本庄陸男
(著)
これをもってわが指令書の中にも、
首
(
しゅ
)
として土国の
嫌疑
(
けんぎ
)
を
醸
(
かも
)
すべき諸事を避け、宗教の事に
拘
(
かか
)
わる
条款
(
じょうかん
)
に至りては、ことに過多の寛裕を与えたり。
「ヒリモア」万国公法の内宗教を論ずる章(撮要)
(新字新仮名)
/
ロバート・フィリモア
(著)
女は内を守り、男は外に労するがために、外に労する男がややもすると放逸に陥り易く、ついに
頽風
(
たいふう
)
汚俗
(
おぞく
)
を
醸
(
かも
)
すに至る。
婦人問題解決の急務
(新字新仮名)
/
大隈重信
(著)
彼女の
伴
(
とも
)
としてはちょうど初春があった。新生の夢が、よどんだなま温かい空気の中に
醸
(
かも
)
されていた。若緑が銀灰色の
橄欖樹
(
オリーヴ
)
と交じり合っていた。
ジャン・クリストフ:12 第十巻 新しき日
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
この匂は
藍色
(
あいいろ
)
の
大空
(
おおぞら
)
と、
薔薇色
(
ばらいろ
)
の土とを
以
(
も
)
て、暑き夏の造り
醸
(
かも
)
せしものなれば、うつくしき果実の肉の
中
(
うち
)
には、明け行く大空の色こそ含まれたれ。
珊瑚集:仏蘭西近代抒情詩選
(新字旧仮名)
/
永井荷風
(著)
内界は悲恋を
醸
(
かも
)
すの塲なる事を知りながら、われは其悲恋に近より、其悲恋に刺されん事を楽しむ心あるを
奈何
(
いかに
)
せむ。
松島に於て芭蕉翁を読む
(新字旧仮名)
/
北村透谷
(著)
今から思えば、あの時のあの思いつきこそ私にとって大破綻を
醸
(
かも
)
すことになったのでしたが、其の時は自身素ばらしい思い付であると考えたのです。
悪魔の弟子
(新字新仮名)
/
浜尾四郎
(著)
併し同時に概念化してゆく傾向も既に
醸
(
かも
)
されつつあるのは、単にこの歌のみでなく、一般に傾向文学の入ってゆかねばならぬ運命でもあるのである。
万葉秀歌
(新字新仮名)
/
斎藤茂吉
(著)
それなので、偶然に作られてしまったその異様な構図からは、妙に中世めいた問罪的な雰囲気が
醸
(
かも
)
し出されてくる。
黒死館殺人事件
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
彼の心に不可解なものが
醸
(
かも
)
された。それで幾度もくり返し読んでは、叔父の本意を探らんとした。然し彼の眼に留ったものは以上の文句に過ぎなかった。
恩人
(新字新仮名)
/
豊島与志雄
(著)
其種族は之を
食
(
くら
)
ふことを禁止し、
若
(
も
)
し之を食したならば其の物は毒となりて、之を食したものに疾病を
醸
(
かも
)
すなどの迷信も、これに加へることが出来よう。
毒と迷信
(新字旧仮名)
/
小酒井不木
(著)
こうした不安な、ジメジメと威圧されるような雰囲気は、結局、この命がけの離れ技の
醸
(
かも
)
す一つの副産物だった。
夢鬼
(新字新仮名)
/
蘭郁二郎
(著)
今まで劇場内へ足を入れなかったような客が
俄
(
にわ
)
かに殖えて、それらが一杯機嫌などでむやみに騒ぎ立てるので、それがまた一種の群衆心理を
醸
(
かも
)
し成して
明治劇談 ランプの下にて
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
あたりは一面の孟宗竹が無限に林立し、夕陽が竹の緑に反映して、異様に美しい神秘境を
醸
(
かも
)
し出している。あたりの空気は
淀
(
よど
)
んだように
寂然
(
せきぜん
)
としている。
なよたけ
(新字新仮名)
/
加藤道夫
(著)
わけても風の吹く夜などはいたたまれぬほどの無気味さを
醸
(
かも
)
し出し、看護人も二人三人と逃げるように暇をとって今ではもう五十を越した老看護人が一人
三狂人
(新字新仮名)
/
大阪圭吉
(著)
文壇は書いた人のことはいっても書かなかった人のことはいわないから。実際文壇というものがあるために、いかほど軽い空気が
醸
(
かも
)
し出されるかしれない。
愛と認識との出発
(新字新仮名)
/
倉田百三
(著)
かつひとたび節を屈して不正の法に従うときは、後世子孫に悪例を
遺
(
のこ
)
して天下一般の弊風を
醸
(
かも
)
しなすべし。
学問のすすめ
(新字新仮名)
/
福沢諭吉
(著)
そこにはやはり昔からの支那風にこなされ渾然としたものを
醸
(
かも
)
し出しているのであろう。
楚々
(
そそ
)
とした感じは一点の難もないまでによく調和したものになっている。
中支遊記
(新字新仮名)
/
上村松園
(著)
資本主義的経済生活は自分で
醸
(
かも
)
した内分泌の毒素によって、早晩崩壊すべきを予定していたにしても
想片
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
マザリンの
下
(
もと
)
に仏国は光威を欧洲に輝かせしもこれみな外貌の虚飾にして内に
留
(
とど
)
むべからざる腐敗の
醸
(
かも
)
しつつありしなり、ルイ十四世に至てこの虚勢その極に達し
基督信徒のなぐさめ
(新字新仮名)
/
内村鑑三
(著)
三人は、底気味の悪い沈黙を、お互の間に
醸
(
かも
)
しながら、宮の下の停留場から、強羅行の電車に乗つた。
真珠夫人
(新字旧仮名)
/
菊池寛
(著)
それが近代の人間の一つの特質である事を知り、自分もそれらの人々と共に近代文明に
醸
(
かも
)
されたところの不健康(には違いない)な状態にあるものだと認めたとする。
性急な思想
(新字新仮名)
/
石川啄木
(著)
その、新聞社に
宛
(
あ
)
てた手紙と葉書は、
真偽
(
しんぎ
)
両説、当時大問題を
醸
(
かも
)
したもので、葉書のほうは、明らかに人血をもって
認
(
したた
)
め、しかも、血の指紋がべたべた押してあった。
女肉を料理する男
(新字新仮名)
/
牧逸馬
(著)
同時に彼は芸術の空気を——ひそやかな生みの喜びのなかで、すべてが
萌
(
も
)
え、
醸
(
かも
)
され、芽ばえてゆく不断の春の、生暖かい、甘い、芳香にみちた空気を呼吸していた。
トニオ・クレエゲル
(新字新仮名)
/
パウル・トーマス・マン
(著)
これら無限の天体が放射する、鋭い光芒や宇宙線の波動は、その本源の永遠性にあやかれとか、一種不可思議の精気を、われらが身うちにも、
醸
(
かも
)
し出すもののようだ。
ある偃松の独白
(新字新仮名)
/
中村清太郎
(著)
「兵は農より出でて農を軽んじ、農は兵を出だして兵を恨むの事態が
醸
(
かも
)
し出されたのは、不幸です」
大菩薩峠:38 農奴の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
何をおいても強迫観念から——心耳と心眼とにつきまとっている、恐ろしい形と恐ろしい声の、それから
醸
(
かも
)
し出されている——強迫観念から遁がれなければならない!
あさひの鎧
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
「誰かあはれといふ暮の」といった掛詞風の曖昧性が
醸
(
かも
)
し出されたのだ。そこで媒概念という役目がつとまったのだ。そこから虚偽が起ったのだ。それが誤解の正体だ。
かれいの贈物
(新字新仮名)
/
九鬼周造
(著)
醸
常用漢字
中学
部首:⾣
20画
“醸”を含む語句
醸造
醞醸
醸酒
醸成
吟醸
薫醸
麦醸果酵
醞醸者
酒醸
豊醸
自醸
紅酒黄醸
田舎醸
王立醸造場
温醸
村醸新熟
新醸