)” の例文
到る所で私は『校長の子』といふハンディキャップの下に、特別に仲間入りをさせて呉れる尊敬を彼等の間にち得たからであつた。
父の死 (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
然ればよろしく上海の戯園の如く上等桟敷には食卓を据え自由に公然芸者も呼べるようになさば政府も亦意外の遊興税をち得べし。
偏奇館漫録 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そして時雄もこの恋に関しての長い手紙を芳子の父に寄せた。この場合にも時雄は芳子の感謝の情を十分にち得るようにつとめた。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
この時五百はまだ十五歳であったから、尋常ならば女小姓おんなこしょうに取らるべきであった。それが一躍して中臈をち得たのは破格である。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
おうなは忽ち身を起し、すこやかなる歩みざまして我前に來て云ふやう。能くも歌ひて、身のしろをち得つるよ。のどの響はやがて黄金こがねの響ぞ。
ちえたところは物びている。奈良ならの大仏の鐘をついて、そのなごりの響が、東京にいる自分の耳にかすかに届いたと同じことである。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
お馨さんは、ブルックリン病院の生徒となって以来、忠実に職分を尽して、校長はじめ先輩、同僚、患者、すべての人の信愛をち得た。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
臥薪ぐわしん十年の後、はなはだ高価なる同胞の資財と生血とを投じてち得たる光栄の戦信に接しては、誰か満腔の誠意を以て歓呼の声を揚げざらむ。
渋民村より (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
世にれられない思想に獻身する爲に、亨一は憲法が與へたすべての自由を奪はれた。十年奮鬪して何物をもち得なかつた。
計画 (旧字旧仮名) / 平出修(著)
それ以来今日まで引続いて広く読まれていると共に、また文学史上においても確乎たる古典的地位をち得ているのである。
宝島:01 序 (新字新仮名) / 佐々木直次郎(著)
その勇気と忠実と親切とは、当然教区民の絶大の敬慕をち得たが、健康が許さないので、一八六八年他の教区に転任した。
白面の一書生にして都下第一の美妓をち得た恒川陽一郎も男子の本懐なら、当夜の小山内氏の如きに至つては正にそれ以上のものではないか。
青春物語:02 青春物語 (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
味わいつくしたと信じて投げ出して置いた書物から、新たに多大なる半面の内容をち得たということは、このたびの著しい経験でありました。
無我とは結局無内容だ。無内容はくうだ。空な物が膽力どころではない、これから何物をもることは出來ないのだ。
泡鳴五部作:05 憑き物 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
彼は実に天佑てんゆうによって勝ち得べからざる勝をったのである。満堂いずれも奇異の思いをなして一語を発する者もない。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
画讃の書も、他の陶人に見ることの出来ない乾山独特の権威ある書として、流暢な上に磅礴ほうはくの一気を添え、能書乾山の実をち得ていると思われる。
古器観道楽 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
私のこの健康をち得ましたのは、前にもいったように全く植物の御蔭で、採集に行くために運動が足ったせいです。
ついで三十一年にはそれが東大工科大学紀要となり、同君はこれに依って工学博士の学位をち得られたのである。
法隆寺再建非再建論の回顧 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
翁の新しい詩集「そよぐ麦」には以前の詩集「触手しよくしゆある都会」と反対に作者自身の郊外生活からち得た題目が多い。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
かれ毎年まいねんふゆからまだ草木さうもくさぬはるまでのうち彼等かれらにしてはおどろくべき巨額きよがくの四五十ゑんるのであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
あざけるやうな顏に優しさを喚び出し得たゞらうといふことを、またはそれより以上に、武器などなしに沈默の征服がち得たであらうことを私は知つてゐた。
国太郎はまたどうかしてこの教育ある令嬢出のおかみさんの尊敬をち得るような夫になろうと苦心した。
とと屋禅譚 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
明治維新のおり赤忠をもってち得た一切の栄誉は、すべてみなむなしくされたものとなった。老後の栄職である枢密院の副議長の席も去らなければならなかった。
芳川鎌子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
吾人われわれは、いくらか名前を知られ、人の尊敬をるようになると、たちまちもうらくなったような気がして、心がゆるみ、折角せっかく青年時代に守り本尊としていた理想を
ソクラテス (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
若い時はイタリー・オペラの歌手として世界の第一人者をち得たが、晩年は多く英米に暮して、『スウィート・ホーム』一点張りに歌って歩いたと言われている。
そして不思議な偶然の機会から殆ど命掛けの勇気を出して恋愛の自由をち得たと同時に、久しく私の個性を監禁していた旧式な家庭のおりからも脱することが出来た。
鏡心灯語 抄 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
世間的な尊敬をち得て目出たく職を退くと、田舎へひっこんで地主になる——つまり、押しも押されもせぬロシアの旦那衆として納まり、お客好きの地主となって
この輩のごときは、かかる多事紛雑たじふんざつの際に何か仕事しごとしてあたかも一杯の酒をればみずからこれを愉快ゆかいとするものにして、ただ当人銘々めいめい好事心こうずしんより出でたるに過ぎず。
ここにおいてかぐや姫は、現実の人間界において現実の人を動かしながらしかも現実の人の手にはち得られないものとして、すなわち理想として立てられたことになる。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
さうだ、それにちがひない、それは昨夜のくるしみによつてち得た朝であるから……でなければ、それは單に雪のあしたの眺に過ぎないであらう……私は奇蹟を見たのだ。
輝ける朝 (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
それは芸術よりも先に、観客においてすら、どれ程多くち得る所があつたか。さうして我々の知つた数人の、もう一流級に数へてよい人々の芸力ですら、我々を満足させない。
花の前花のあと (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
荘田は、何うかして、瑠璃子の微笑と歓心とをちえようと、懸命になつて話しかけた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
それは一つの隷属を[#「贏」は底本では「※」]ち得んとする企図であった。この戦役においては、民主制の子孫たるフランス兵士の目的は、他人に課すべきくびきの獲得であった。
弱點はあるが、同じく弱點のある王張二氏の所説に伍して、或は鼎足の位置を保ち得るか或は僥倖にして優勝の位置をち得るかと、試に茲に發表して、學界の批正を仰ぎたいと思ふ。
しかもかくまでしてようやくち得たる愛を一年も経ぬ間に世にも惨めに失い、加うるにそのために一生の運命に決定的契機を与えるほどの大きな犠牲を払ったことを思えば思うほど
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
けれども、彼が一旬日ほど以前、セントアレキセイ寺院のジナイーダの室においてち得たところの成功が、はたして今回も、繰り返されるであろうかどうか——それがすこぶる危ぶまれた。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
長命ながいきは時々賭につものだ。無理もない。天海は百八歳も生き延びたのだから。
試問教授並に陪審教授から名誉ある賞賛をち得たという事も併せて知った。
二人のセルヴィヤ人 (新字新仮名) / 辰野隆(著)
何だか自分には不世出の天才を俟たなくてもノーベル賞をち得られるということを示されたような気がするのである。ある意味においてはその方がさらに偉大な業のようにも思えるのである。
リチャードソン (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
或る一人の人が己の性命の時計のはりを前へ進めることを自分の特別な任務にしてゐるのである。その人のためには己の死が偶然の出来事では無くて、一の願はしい、殊更にち得た恩恵である。
復讐 (新字旧仮名) / アンリ・ド・レニエ(著)
この方法によつて成功をち得る時、彼は時宜じぎに適すると適せざるとを問はず、一面にはそれが楽である所から、又一面には、それによつて成功する所から、ややもすればこの手段に赴かんとする。
手巾 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
世の中へ出て名人の名をち得たので、既に明治十三年の竜池会が出来た時分、間もなくその会員となって、山高、山本、岸などいう諸先生と知り合い、美術のことを研究していられたのであった。
何ぜなら、コルシカの平民ナポレオンが、オーストリアの皇女ハプスブルグのかくも若く美しき娘を持ち得たことは、彼がヨーロッパ三百万の兵士を殺してち得た彼の版図の強大な力であったから。
ナポレオンと田虫 (新字新仮名) / 横光利一(著)
凡そ生活でも、自由でも、日々これをち得て、11575
(もつて二十をち得んや) はじめの駑馬うまをやらふもの
文語詩稿 一百篇 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
『皇帝万歳!』の叫び共にち得られたる
くらゐをつひにたり
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
それも、君だけの材能があって見れば、多少の心当こころあたりがないでもない。若しうまく行ったら、君は自らち得た報酬で宿屋の勘定をするが好い。
二人の友 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
ち得た所は物びてゐる。奈良の大仏だいぶつかねいて、其余波なごりひゞきが、東京にゐる自分の耳にかすかにとゞいたと同じ事である。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
揚州十年の痴夢ちむより一覚する時、ち得るものは青楼せいろう薄倖の名より他には何物もない。病床の談話はたまたま樊川はんせんの詩を言うに及んでここに尽きた。
梅雨晴 (新字新仮名) / 永井荷風(著)