いやし)” の例文
阿父さんはこの家業を不正でないとお言ひなさるが、実に世間でも地獄の獄卒のやうに憎みいやしんで、附合ふのもはぢにしてゐるのですよ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
能々よく/\見るに岡山におはせし時數年我が家に使ひたる若黨の忠八にて有ければあまりの事に言葉も出ず女の細き心にてかゝいやし姿すがたに成しを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
暗殺は卑怯ひけふなりとしていやしめられ、決闘は快事として重んぜらる、而して復讐なるものは尤も多く人に称せらる。人間何ぞ斯の如く奇怪なる。
復讐・戦争・自殺 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
勞働者勞働者と一口にいやしんだツて、我々われ/\も其の勞働者と些ツとも違やしないぢやないか。下らぬ理屈りくつならべるだけかえツて惡いかも知れない。
虚弱 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
お父さんの説によると職業に貴賤上下の別がある。金そのものを直接の目的とする商売はいやしく、報酬を二の次にする職業は貴いのだそうだ。
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
軽んじいやしむる色はそのおもてに出でたれど、われは逆らわでうなずきぬ。かの人の継母なれば、心からわれもかれに対しては威なきものとなれるなるべし。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
原因事情の如何いかんを問はず、みずから生命を害するは、独立自尊の旨に反する背理卑怯の行為にして、最もいやしむ可き所なり。
修身要領 (新字旧仮名) / 福沢諭吉慶應義塾(著)
所為しわざいやしけれども芸術げいじゆつ極意ごくいもこゝにあるべくぞおもはるゝゆゑに、こゝにしるして初学しよがくの人げいすゝむ一端はししめす。
その結果が恋愛となり自由結婚となりあるいは失恋となり自殺となり、中には最もいやしむべき情死しんじゅうなんぞとなる。よく娘や息子を持った親たちが平気でいられるね。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
ソロモン王の如きも女子をいやしめているけれども、彼は世にソロモンの栄華の称ある如く、金殿玉楼きんでんぎょくろう酒池肉林しゅちにくりんにおよそ人間として望み得らるべき物欲の限を満足せしめ
現代の婦人に告ぐ (新字新仮名) / 大隈重信(著)
それに引かへて、一方の老人はいやしい処から武芸や文事ぶんじを磨いて、人が驚くほど立身して、江戸家老のお気に入りに其人ありと知られるほどの勢力のある生活を送つて来た。
(新字旧仮名) / 田山花袋(著)
終生一主義を貫徹して死せり、彼が世を去るや彼の政府はただちに転覆され、彼のかばねあばかれ、彼の名はいやしめられ、彼の事業は一つとして跡をとどめざるがごときに至れり
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
これを読まば蕪村が漢詩の趣味を俳句にうつしし事も、李杜を貴び元白をいやしみし事も明瞭ならん。
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
「四十余年戯楽中。老来猶喜迎春風。請看恵政方優渥。一邸不知歳歉豊。」前詩はとしゆたかにしてこめいやしきを歎じ、後詩は年の豊凶と米価の昂低とに無頓着であるものと聞える。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
吾人ごじんは彼がみずから処する所以ゆえんを視、人に処する所以を見れば、他の自から水を飲み、人に酒を強い、他を酔倒せしめて、みずから快なりとする教唆きょうさ慷慨こうがい家の甚だいやしむべきを知るなり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
俺が朋輩の家禽にはとり牛馬うしうま夥伴なかまでは、日本産でも純粋種は大切だいじにして雑種はいやしんでおるさうだ。それ当然あたりまへの筈だのに、犬だけは雑種までが毛唐臭い顔付をしてけつかるは怪しからん咄だ。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
ゆえにだんだんいわゆる理想の奥を探るとすこぶるいやしむべき野卑やひなる動機に到着することがしばしばある。自己の欲望の汚穢おわいおおうために理想という文字を用うるものがたくさんある。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
園芸を好んだので、糞尿ふんにょうを格別忌むでもいやしむでもなかったが、不浄取りの人達を糞尿をとってもらう以外没交渉のやからとして居た。来て其人達の中に住めば、此処ここうれかなしい人生である。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
又死に際には権田時介との約束に縛られて其れが為に秀子にいやしまれる様に仕向けた次第を打ち明け、充分に詫びて秀子の心を解く事も出来得るで有った者を、儘ならぬ浮世とは此の事だろう
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
貫一は吾を忘れて嗤笑あざわらひぬ。彼はその如何いかいやしむべきか、謂はんやうもあらぬをおもひて、更に嗤笑あざわらひ猶嗤笑ひ、めんとして又嗤笑ひぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
締殺し候覺え毛頭もうとう御座なく元私し事はいやしき者の娘にて津國屋がまだ神田に住居ぢうきよ致せし節同人店に居候中兩親も死にはて候ひしを不便に思ひ私しを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
所為しわざいやしけれども芸術げいじゆつ極意ごくいもこゝにあるべくぞおもはるゝゆゑに、こゝにしるして初学しよがくの人げいすゝむ一端はししめす。
極めて生真面目きまじめにして、人のその笑えるをだに見しものもあらざれども、かたのごとき白痴者なれば、侮慢ぶまんは常に嘲笑ちょうしょうとなる、世に最もいやしまるる者は時としては滑稽こっけいの材となりて
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おのれにまさりて物しれる人は高きいやしきを選ばず常にあい見て事尋ねとひ、あるは物語をきかまほしくおもふを、けふはこの頃にはめづらしく日影あたたかに久堅ひさかたの空晴渡りてのどかなれば
曙覧の歌 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
社会の文明を進めるのは心の礼を世間の人に教えなければならん、心で人を貴び人を敬し人を愛し人をあわれむのが人の道だ、しかるに今の世人は口で人を貴んで心で人をいやしむというふうがある
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
白壁の土蔵、かしの刈り込んだかき冠木門かぶきもん、物心がついてから心から憎いと思ったのは、村の物持ちで、どうしてこの身ばかりこういやしく、こう憎まれ、こう侮られ、こう打たれるのかと思った。
ネギ一束 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
「要するに同胞の為めを計る職業は貴く、自己の為めを計る職業はいやしい」
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
すなわち二十、二十一節にいう「たとい我れ正しかるともわが口われを悪しとなさん、たとい我れまったかるともなおわれを罪ありとせん、我は全し、されども我はわが心を知らず、わが生命いのちいやしむ」
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
たちいやしき渡世は致せども然樣な惡事は少しもなさず善か惡かは明日出て聞給きゝたまへと平氣の挨拶なれば勘兵衞是非ぜひなく受書うけがき
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
鉄色縮緬てついろちりめん頭巾づきんえりに巻きたる五十路いそぢに近きいやしからぬ婦人を載せたるが、南のかたより芝飯倉通しばいいぐらとおりに来かかりぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
隣室には、しばらくいやしげに、浅ましい、売女商売の話が続いた。
鷭狩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)