親戚しんせき)” の例文
若い甲野博士は、電波の研究が専門で、隆夫がアマチュアになったのも、この人のためで、隆夫の家とは遠い親戚しんせきにあたるのだった。
霊魂第十号の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
やがて納棺の用意もできるころには、東西の隣宿から泊まりがけで弔いに来る親戚しんせき旧知の人々もある。寿平次、得右衛門は妻籠つまごから。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そうしていま女は親戚しんせきに当るこの三輪の町の薬屋(薬屋といっても売薬屋ではない、旅籠屋はたごやである)源太郎の家へ預けられている。
と言っていて、尚侍は源侍従を弟と思って親しみを持っているのであったから、その人も近い親戚しんせきの家としてここへ出てくるのである。
源氏物語:46 竹河 (新字新仮名) / 紫式部(著)
新吉は七、八歳までは、おぼッちゃんで育った。親戚しんせきにも家柄のうちがたくさんある。物はくしても、家の格はさまで低くなかった。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
しかしこうしている間にも、私らは祖父の家から独立した別の家に棲んでいて、村村に散っている親戚しんせきたちの顔を私はみな覚えた。
洋灯 (新字新仮名) / 横光利一(著)
夜に入って上裁籤の組は、皆国元の父母兄弟その他親戚しんせき故旧に当てた遺書を作って、もとどりを切ってそれに巻き籠め、下横目に差し出した。
堺事件 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
美禰子はこの夏自分の親戚しんせきが入院していた時近づきになった看護婦を尋ねれば尋ねるのだが、これは必要でもなんでもないのだそうだ。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
大迫氏、神尾はあんたの親戚しんせきにでも当るのかな——親戚しんせき、うわッはははは、わしとあんたが親戚、さよう、親戚のようなものでござる。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
私は田舎の親戚しんせきで食べたことが幾度もあるので、お母さんに云はれると、あのざつくりと、歯にさはつてくる味がたまらなくなつてきた。
お母さんの思ひ出 (新字旧仮名) / 土田耕平(著)
父や親戚しんせきの反対を押切って、無理やり結婚をしたほど嫂を愛していた兄が、三年そこそこの別居で外の女に子を生ませたという。
(新字新仮名) / 山本周五郎(著)
その婦人も婦人の夫も僕は何となく心惹かれたが、僕は何となく遠い親戚しんせきだろう位に思っていた。突然、婦人の夫が僕に云った。
鎮魂歌 (新字新仮名) / 原民喜(著)
親戚しんせき朋友ほうゆうの注意すべきことなり。一度ひとたび互に婚姻すればただ双方両家りょうけよしみのみならず、親戚の親戚に達して同時に幾家のよろこびを共にすべし。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
ところが最初の待遇ぶりからして、彼女の夢をますに十分だった。このポアイエ・ドゥロルム家の人たちは、親戚しんせきの没落を怒っていた。
けれどおとう様のお身のためや、お弟子衆でししゅうや、親戚しんせきのかたの心持ちや、いろいろな事を考えて、とうとう会わない事に決心なすったのよ。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
あなた、これが由緒ただしい、貴族といってもいいくらいの家に親戚しんせき知己をもった、みなし児だってことはおわかりでございましょうね。
衣食の生活に憂いがないのですから活動の余裕はあるのですが、良人や親戚しんせきに対する気兼から引込思案になってしまうのです。
婦人改造と高等教育 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
結婚問題は今の世の人がともに心を悩ます所、男子も悩み、女子も悩み、父兄親戚しんせきに至るまでなこの事に心をくるしめざるなし。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
若いブレースブリッジと親戚しんせきの人たちが互いに挨拶あいさつをかわしているあいだに、わたしはこの部屋をしさいに見ることができた。
そのうちに、お正月しょうがつがきて、一にちおひまがました。まりにいく、親戚しんせきのあるものは、まってきてもいいというのでした。
真吉とお母さん (新字新仮名) / 小川未明(著)
その家の娘を嫁にむかえて親戚しんせきとなってからは、なにかにかこつけてしばしば物などおくっては母子の生活をたすけようとするのであったが
翌る日、私は皆と別れて青森へ行き、親戚しんせきの家へ立寄ってそこへ一泊して、あとはどこへも立寄らず、逃げるようにして東京へ帰って来た。
帰去来 (新字新仮名) / 太宰治(著)
彼はその為めに一週に三度、親戚しんせきの中学生に数学(!)を教えた。それでもまだ金の足りぬ時はやむを得ず本を売りに行った。
『新著百種』について憶出おもいだされるは薄倖はっこうの作家北村三唖きたむらさんあである。三唖は土佐の生れで、現内閣のバリバリで時めいてる仙石貢せんごくみつぐ親戚しんせきである。
東京の大新聞二三種に黒枠くろわく二十行ばかりの大きな広告が出て門人高山文輔、親戚しんせき細川繁、友人野上子爵等の名がずらり並んだ。
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「昨夜は昨夜でまた、都からのお飛脚。——ご親戚しんせき玄恵法印げんえほういんさまより、事つぶさに、これも楠木家を案じられてのご情報で」
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私の商売仲間や特に親戚しんせきのあいだでは私の訴訟のうわさが広まりはじめますし、そのためあらゆる方面からの中傷が起りましたが
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
そもそもまた親戚しんせき知己も多からず、人をしかり飛ばして内心には心細く覚ゆる叔母が、若夫婦にあきたらで味方ほしく思うをもよく知りつ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
が、大正九年のあき、たま/\ヨーロツパからかへつて來た親戚しんせきの人からイーストマンの葉書はん寫眞器しやしんきをみやげにもらつた。
「そうだろう。君みたいな……、コンゴ野獣の親戚しんせきでも、これには驚くだろう。しかし、最初のうちは抵抗しただろうが」
人外魔境:01 有尾人 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
殊に子爵や子爵家の親戚しんせきたちが、そう云うみだらな娘を出したような家庭と婚姻関係を結ぶことを許すであろうか。………
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
乙の批評を聞くにおよび、親戚しんせき関係でもある人かという疑問が起こる。同一の人にしても甲乙丙のようによりてはかくのごとき差異を生ずる。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
中学時代の初期には「椿説弓張月ちんせつゆみはりづき」や「八犬伝はっけんでん」などを読んだ。田舎いなか親戚しんせきへ泊まっている間に「梅暦うめごよみ」をところどころ拾い読みした記憶がある。
読書の今昔 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
夕刻私が小山田家を訪ねた時には、六郎氏側の親戚しんせきの人達や、碌々商会の社員、故人の友人などがつめかけていて、うちの中は非常に混雑していた。
陰獣 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
生前に父親も親戚しんせき婿むこをとるようかなりお蘭を責めたものだが、こればかりはお蘭はうべなわなかった。四郎が伝え聞いたらどんなに落胆らくたんするであろう。
みちのく (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
扶佐子のいた三畳は、親戚しんせきか同郷らしい学生が下宿して、扶佐子のときと同じ場所に机をおき、窓べりに腰かけて、ときどき詩を朗々と吟じたりした。
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
翌朝は遥々はるばると、下北沢の親戚しんせきの家に厄介になりにいった。老母をリヤカーに乗せ、これを押しながら妻や子供は焼土しょうどの町を行く。これは先発隊である。
親は眺めて考えている (新字新仮名) / 金森徳次郎(著)
四百名で成立っている紐育金満家組合が、まず、ジョージ・モルガンを除名し、モルガン一家の親戚しんせき会では、お雪夫人を持つ彼を、一門から拒絶した。
モルガンお雪 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「知らないの。一度伯母さまにいたのですが、エアと云ふ貧乏な、身分の低い親戚しんせきがあるかも知れないけれど、何も知らないと云つてゐましたわ。」
自分の草履ぞうりを始末しながら、葉子はすぐに二階の客間の模様を想像して、自分のために親戚しんせきや知人が寄って別れを惜しむというその席に顔を出すのが
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
親父おやじには絶えずおこられて叱責しっせきされ、親戚しんせきの年上者からは監督され、教師には鞭撻べんたつされ、精神的にも行動的にも、自由というものが全く許されてなかった。
老年と人生 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
ヨハネの母エリサベツはイエスの母マリヤの親戚しんせきであり、イエスの生誕より六か月早くヨハネを生んだのである。
キリスト教入門 (新字新仮名) / 矢内原忠雄(著)
敵をころしたる時復讐ふくしうの意を以て其肉を食ふとか、親戚しんせきの死したる時敬慕けいぼじやうを表す爲其肉を食ふとか、幾分いくぶんかの制限せいげんは何れの塲合にも存在そんざいするものなり。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
医者の注意と患者の希望とによって、これまで重吉の一度も会ったことのない親戚しんせきが二人、その一人は水戸から、他の一人は仙台から病院へ呼寄せられた。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
カピ妻 このじんはモンタギューの親戚しんせきゆゑ、贔屓心ひいきごゝろがさもないことまうさせまする。この不正ふせい爭鬪たゝかひには二十人餘にんよ關係かゝづらうてたんだ一人ひとりころしたに相違さうゐござりませぬ。
丁度その頃は真空管が我国わがくにでも実用化されかけて来た時であったし、それにM君の親戚しんせきに当る関西のる大会社でもその方面に力を入れようとしていたので
墺匈国おうきょうこくで領事の置いてある所では、必ず面会しなくてはならない。見聞した事は詳細に書きめて、領事の証明書を添えて、親戚しんせきに報告しなくてはならない。
自分の子供や婿や親戚しんせきやまたは朋友ほうゆうなどにさえ、できるだけのわずかな世話はしてやった。いい方面やいい機会や不意の利得などを巧みに世の中からつかんだ。
今度義理のある親戚しんせきをそこへ入れねばならなくなり、弟も事情があって断れないでいるとのことで、「少しずつでも遣ったら、また置いてもらわれましょうか」
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
それで、弟子は四人ありますが、店の方の仕事のことがありますので、昼のうちは附いておられず、奥の方では皆が附き切りになっている。師匠の家は親戚しんせきはない。