菩提樹ぼだいじゅ)” の例文
棕梠しゅろ、芭蕉、椰子樹やしじゅ檳榔樹びんろうじゅ菩提樹ぼだいじゅが重なり合った中に白い卓子テーブル籐椅子とういすが散在している。東京の中央とは思えない静けさである。
冥土行進曲 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
わけても「菩提樹ぼだいじゅ」と「セレナード」と「海辺にて」と「君こそ安らいなれ」と「焦燥しょうそう」が絶品である(ポリドール、スレザーク愛唱曲集)。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
一本の菩提樹ぼだいじゅの木がその切り取られた壁の断面の上から枝をひろげており、またポロンソー街の方では壁の上につたがいっぱいからみついていた。
コートの横手、菩提樹ぼだいじゅの老木のかげにベンチが一脚。それにアルカージナ、ドールン、マーシャがかけている。ドールンのひざには、本が開けてある。
きょうは灌仏会かんぶつえの四月八日なので、本堂の中には、菩提樹ぼだいじゅの葉で屋根をき、野の草花で柱を埋めた花御堂はなみどうができていた、御堂の中には甘茶をたたえ
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
精進を益々固く守り、彼女にとっては唯一の財宝である菩提樹ぼだいじゅの実の数珠が、終日その手からはなれなかった。
日は輝けり (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
甲谷は雨の上った菩提樹ぼだいじゅの葉影を洩れる瓦斯燈ガスとうの光りに、宮子の表情を確めながら結婚の話をすすめていった。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
部屋へ帰ると窓近いかしの木の花が重い匂いを部屋中にみなぎらせていました。Aは私の知識の中で名と物とが別であった菩提樹ぼだいじゅをその窓から教えてくれました。
橡の花 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
りく菩提樹ぼだいじゅの蔭に「死の宗教」の花が咲いた印度のうみは、を求めてくことを知らぬ死の海である。烈しいあつさのせいもあろうが、印度洋は人の気を変にする。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
その町というのは、大きな菩提樹ぼだいじゅかえでの木のしげった下を流れる、緑のつつみの小川の岸にありました。
墻壁しょうへきがある。菩提樹ぼだいじゅ椰子やし棕櫚しゅろ、雑草など、これを大方おおう。然し樹木の葉末を越して空が可成り広く見透せるので、時刻の推移を空の色の変化で汲み取る事が出来る。
阿難と呪術師の娘 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「身は是れ菩提樹ぼだいじゅ、心は明鏡台めいけいだいの如し。時々に勤めて払拭ほっしきせよ。塵埃じんあいかしむることなかれ」
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
壁に立て掛けてあったくだんの細長い袋から、菩提樹ぼだいじゅの杖に仕込しくんだ、夜目よめにもどきどきするような三稜の細身の剣ラツピエールを抜き出して、コン吉の鼻っ先へ突きつけ、さて「這え!」と
悉達多は六年の苦行の後、菩提樹ぼだいじゅ下に正覚しょうがくに達した。彼の成道の伝説は如何に物質の精神を支配するかを語るものである。彼はまず水浴している。それから乳糜にゅうびを食している。
侏儒の言葉 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
したたる眼も遥かな芝生の彼方此方かなたこなたには鬱蒼うっそうたる菩提樹ぼだいじゅがクッキリした群青ぐんじょうの空を限って
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
ここの案内をした老年の土人は病気で熱があるとかいってヨロヨロしていたが菩提樹ぼだいじゅの葉を採ってみんなに一枚ずつ分けてくれた。カンジーにあるという仏足や仏歯の模造がある。
旅日記から (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「青春の息の痕」というのは、涙のあとが手紙に残ってるように、菩提樹ぼだいじゅに若き日にナイフで傷つけた痕がいつまでも残ってるように、青春の苦悩の溜息ためいきの痕を示すという意味である。
青春の息の痕 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
これはいささか稚気を帯びた。が、にれぜんのほとり、菩提樹ぼだいじゅの蔭に、釈尊にはじめて捧げたものは何であろう。菩薩の壇にビスケットも、あるいは臘八ろうはちかゆまさろうも知れない。
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
庭は一町歩か、それとも、もう少し多いくらいの広さであったが、樹木はぐるりにだけ四方の垣根沿いに、幾本かの林檎りんごの樹と、かえで菩提樹ぼだいじゅ白樺しらかばが各一本ずつ植えてあるだけであった。
木彫りの羅漢らかんのように黙々と坐りて、菩提樹ぼだいじゅの実の珠数ずず繰りながら十兵衛がらちなき述懐に耳を傾け居られし上人、十兵衛がかしらを下ぐるを制しとどめて、わかりました、よく合点が行きました
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
とり水車小舎すいしゃごやまえにある菩提樹ぼだいじゅうえとまって、うたしました。
蜜蜂の羽音、菩提樹ぼだいじゅの香り……。
菩提樹ぼだいじゅこづゑに月のとゞまりて
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
……菩提樹ぼだいじゅの花のお茶か、イチゴのみつのお酒を、ちょいとあがっているうちに、すぐ元どおりになってしまいますよ。
この人の『菩提樹ぼだいじゅ』に随喜したのはもはや昔の夢になった。英国人臭く、ドイツ・リードを歌う人で決してうまくないが、昔のファンは懐かしかろう。
お光さんは、相手にならないで、笑いながら墓地の鎖をまたいだ。そして、大きな菩提樹ぼだいじゅの下から振りかえって
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ジャン・ヴァルジャンは菩提樹ぼだいじゅの枝がさし出てる壁の高さを目分量で計った。約十八尺ばかりの高さだった。
濡れた菩提樹ぼだいじゅの隙間から、しまを作った瓦斯燈の光りが、春婦たちの皺のよった靴先へ流れていた。すると、その縞の中で、ひと流れの霧が急がしそうに朦朧もうろうと動き始めた。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
菩提樹ぼだいじゅの下にいつも夜じゅう出しっぱなされている一台の荷馬車のながえが、下の窓から庭へさす電燈の光で、白く浮上っている。ブーウ……隣の室で石油焜炉の燃える音がする。
ズラかった信吉 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
天竺てんじく仏陀迦耶ぶっだがやなる菩提樹ぼだいじゅ下に於て、過去、現在、未来、三世さんぜの実相をあきらめられて、無上正等正覚むじょうしょうとうしょうがくらせられた大聖釈迦牟尼仏しゃかむにぶつ様が「因果応報」とのたもうたのはここの事じゃ。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
その背後に梢を見せている河岸の菩提樹ぼだいじゅの夕闇をこまかくきざんだ葉は河上から風が来ると、飛び立つ遠い群鳥のように白い葉裏を見せて、ずっと河下まで風の筋通りにざわめきを見せて行く。
巴里祭 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
乗込のりこんでから、またどうか云う工合で、女たちが二人並ぶか、それを此方こっちから見る、と云ったふうになると、髪の形ばかりでも、菩提樹ぼだいじゅか、石榴ざくろの花に、女の顔した鳥が、腰掛けた如くに見えて
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
録音のよさのせいか、『女の愛と生涯』よりは輝きがあり、そのうち『菩提樹ぼだいじゅ』と『死と乙女おとめ』はビクターの秘曲集に採られているが、ほかにも良いものはある。
「オオ、お上人様が手ずから植えて——やがてあの御堂の両側に伸びてゆく——柳と菩提樹ぼだいじゅのようにな」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
壁の上から菩提樹ぼだいじゅの木とつたとが見えてるところをみると、中は明らかに庭になってるらしかった。
菩提樹ぼだいじゅや白樺の老樹が霜で真っ白になった姿には、いかにも好々爺こうこうや然とした表情があって、糸杉や棕櫚しゅろよりもずっと親しみがあり、その傍にいるともう山や海のことを想いたくもない。
ショオベルは菩提樹ぼだいじゅ一つだけが気に入る歌だというと、シューベルトは、僕は僕の作ったほかのどんな歌よりもこの全部が好きだ、いつか君達も好きになる時が来るだろうよと言った
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
菩提樹ぼだいじゅの林に、こがね虫のずれもない。寒い、寒い、寒い。うつろだ、うつろだ、うつろだ。不気味だ、不気味だ、不気味だ。(間)あらゆる生き物のからだは、灰となって消え失せた。
その樹は、一方に柳樹りゅうじゅ、一方には菩提樹ぼだいじゅであった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今さら旧吹込みのスレザークを説くのは、あまりに死児のよわいかぞうるたぐいに堕するだろう。『菩提樹ぼだいじゅ』でも、『君こそ吾がいこいなれ』でも、昔のと今のと比べると、まことに今昔の感だ。
彼は夜中になるときまってせきが出たので、彼女は彼に木苺きいちごの汁や菩提樹ぼだいじゅの花の絞り汁を飲ませたり、オーデコロンをすり込んでやったり、自分のふかふかしたショールでくるんでやったりした。
可愛い女 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
やなぎ菩提樹ぼだいじゅ
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
(セレブリャコーフの肩に接吻する)さ、旦那さま、お寝床へ参りましょう。……さあさあ、参りましょう。……菩提樹ぼだいじゅの花のお茶を、入れて差上げましょう、おみ足をぬくめて差上げましょう。
菩提樹ぼだいじゅ」を作り、「ますの五重奏曲」を作り、「アヴェ・マリア」や「魔王」を作った、フランツ・シューベルトこそは、いつの世にも我らの身近に生きつつある、万人の心の友であったと言って
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
それとも庭の菩提樹ぼだいじゅの蔭の方がいいかな。……とにかくとても暑い。……小っぽけな男のや女の児たちが、自分の身のぐるりをまわりながら、砂を掘ったり草のなかの飄虫てんとうむしを捕まえたりしている。
富籤 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
菩提樹ぼだいじゅの林に、こがね虫の音ずれもない