この明晰な頭で考えに考え抜いてやったことが、どうして発覚するものかという、自惚れすぎた自信が、私を大胆にしました。
双生児:――ある死刑囚が教誨師にうちあけた話―― (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
あるいは島民と同じ目で眺めていると自惚れているのかも知れぬ。とんでもない。お前は実は、海も空も見ておりはせぬのだ。
環礁:――ミクロネシヤ巡島記抄―― (新字新仮名) / 中島敦(著)
あの時は甘々とお糸にやられたよ、——長い間十手捕繩を預つて、今度のやうな見當違ひをしたのは始めてだ、岡つ引は自惚れちやいけないな
銭形平次捕物控:042 庚申横町 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
けれどいくら自惚れてみても、彼はかなりの良識と皮肉とをそなえていて、そういう機会が自分には到来しないことを知らないではなかった。
ジャン・クリストフ:09 第七巻 家の中 (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
傷いた鷓鴣の羽根が落ちて来て、ひとりでに、この自惚れの強い猟師の帽子にささったとしても、わたしは、それがあんまりだとは思わない。
ぶどう畑のぶどう作り (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
自惚れではありませんが、呉もまたわれわれと結ばなければ、存立にかかわりましょう。もしわが主玄徳が、一朝に意気地を
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「自惚れてはいかん。とにかくこの代償として、わしはルーズベルト大統領がいつも鼻の上にかけている眼鏡を貰いたい。と、そういって伝えてくれ」
不沈軍艦の見本:――金博士シリーズ・10―― (新字新仮名) / 海野十三(著)
とにかく自惚れないことだ。いい気になって増長しないことだ。自分は強いと自惚れたら、もうそれは弱くなっている証拠なんだからね。やはり慈悲心さ。
次郎物語:02 第二部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
二都物語:01 上巻 (新字新仮名) / チャールズ・ディケンズ(著)
まあ黙ってきいていたまえ。君は自分でどの位いい頭の所有者だと自惚れているか判らないが、僕を
殺人迷路:08 (連作探偵小説第八回) (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
自惚れ鏡で拝見すると自分の顔が相応に踏める通り、自分の耳で拝聴すると自分の声が相応に聞える。謡曲の積りで歌っていることは本人が承知だ。今の節廻しは好かったと思う。
だのに、やつの自惚れようはどうだい。あの思いあがりようはどうだい。こんど停年でやめてみれば、あいつのことなんか、世間じゃ誰ひとり覚えちゃいない。名もなにもありゃしない。
ワーニャ伯父さん:――田園生活の情景 四幕―― (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
三太郎ツどんも惣七どんも、その御面相で自惚れるさかい困るわい。お糸さんの相手になりそなのは、わしの外にはない筈じやがな、ナ、ナ、これ長吉ツどんナ旦那の眼鏡もそうやろがな。
「自惚れにもほどがある。……紀久ちゃんが紀久ちゃんだけの意志で、いくらなんでもきみとなどと結婚をしようたあ思っちゃいないだろうなあ。それはおかしい。まったくおかしい……」
青銅の基督:――一名南蛮鋳物師の死 (新字旧仮名) / 長与善郎(著)
それにね、僕はこれでも自惚れを起すことがあるんだぜ、自惚れを。滑稽さ。時々斯う自分を非凡な男に思つて爲樣が無いんだ。ははは。尤も二日か、三日だがね。長くても一週間位だがね。
あの方の心がわたしに傾いて居るようにお言われなさったのを悦んで居る。そしてともすればあの方が本当にわたしをえこひいきして下さったのじゃないかしらんと自惚れ心がつけ上って来る。
十二支考:05 馬に関する民俗と伝説 (新字新仮名) / 南方熊楠(著)