臆測おくそく)” の例文
……これは、どうも少し、臆測おくそくに過ぎるかもしれない……けれども、どうしてもぼくの想像は、こんなふうにばかり傾いてくるんだ。
灯台鬼 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
ところが必要な鎖の輪が欠けているために実際は関係のよくわからぬ事件が、史家の推定や臆測おくそくで結びつけられる場合が多いであろう。
科学と文学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
私の臆測おくそくが若し間違っていなかったとするならばですね、私はやっぱり細田氏を三角形に脅かして間接に殺したことになるのです。
三角形の恐怖 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それも、これまでのような自動車旅行ではなく、謎と臆測おくそくと暗黒のうちにうずもれている、前人未踏の神秘境を指しているのだ。
人外魔境:01 有尾人 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
この頃、何よりも彼女にとって興味があるのは、他人のことで、人の気持をあれこれ臆測おくそくしたりすることが、殆ど病みつきになっていた。
壊滅の序曲 (新字新仮名) / 原民喜(著)
男と女が手を組み合って踊りさえすれば、何かその間に良くない関係があるもののように臆測おくそくして、直ぐそう云う評判を立てる。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
これらはすべて彼の正体、現実の犯罪手段、その動機などに関する世人の臆測おくそくを残したまま彼が世間の表面から埋めさった永遠の謎である。
女肉を料理する男 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
これまでは推理や臆測おくそくの長い道程を経て到達したことを、今では直覚的に認識する。哲学が作り上げたものを、僕は現実的に把握したのです。
彼女の頭には無論朧気おぼろげながらある臆測おくそくがあった。けれどもいられないのに、悧巧りこうぶってそれを口外するほど、彼女の教育は蓮葉はすはでなかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
……しかもそち自身は旅先にあって、何一つこれと目撃していたことはなく、すべてつまらんやから臆測おくそくだけではないか
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
自分のこういう臆測おくそくは正しいと思われたので、これ以上はいりこむつもりはなく、これまで見たことですっかり胸苦しくなっており、今この瞬間には
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
もっとはなはだしいのになると、家茂公は筆の中に仕込んだ毒でお隠れになったのだと言って、そんな臆測おくそくをさも本当の事のように言い触らすものもある。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
先王の死因に就いて、けしからぬ臆測おくそくささやき交されているという事は、わしも承知して居ります。怒るよりも、わしは、自分の不徳を恥ずかしく思いました。
新ハムレット (新字新仮名) / 太宰治(著)
「年月に添って侮るなどとは、あなた御自身がそうでいらっしゃるから、私のことまでも臆測おくそくなさるのよ」
源氏物語:39 夕霧一 (新字新仮名) / 紫式部(著)
俊助はいろいろな臆測おくそくあいだに迷いながら、新開地のような広い道路を、濠側ほりばたまで行って電車に乗った。
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
すべてのあり得べき奇異の事情と、その臆測おくそくされる推理の後で、夫人はすっかり混惑こんわくしてしまった。
ウォーソン夫人の黒猫 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
女性の要求から創り出された文化が、これまでの文化と同一内容を持つだろうか、持たぬだろうか、それは男性たる私が如何に努力しても、臆測おくそくすることが出来ない。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
これらの学者は皆原典に根拠を求めてその主張を出しているのであって、勝手な臆測おくそくをやっているのではない。しかもそれが右のように帰一するところを知らないのである。
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
話はくだらないことだけれど、それがためにどんな臆測おくそくをされるかわからないからな。
しかしそれは分別ふんべつある壯年さうねんあひだにのみ解釋かいしやく記憶きおくされた。事件じけん内容ないよう勘次かんじのおつぎにたいする行爲かうゐ猜忌さいぎ嫉妬しつととのもつ臆測おくそくたくましくするやうに興味きようみ彼等かれらあたへなかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
いろんな新しい想像や臆測おくそくが間もなく校内にみだれ飛んだことはいうまでもない。その中には、処罰は昨日の予想を裏切って非常に重く、つ範囲も校友会の委員全部に及ぶらしい。
次郎物語:04 第四部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
かくごと風雲ふううんは、加能丸かのうまる既往きわう航海史上かうかいしじやうめづらしからぬ現象げんしやうなれども、(一人坊主ひとりばうず)の前兆ぜんてうりて臆測おくそくせる乘客じやうかくは、かゝ現象げんしやうもつすゐすべき、風雨ふうう程度ていどよりも、むし幾十倍いくじふばいおそれいだきて
旅僧 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
などといってはおのおのの臆測おくそくについてまたひとしきり囁きあうのである。
(新字新仮名) / 島木健作(著)
お政如き愚痴無知の婦人に持長もちちょうじられると云ッて、我程おれほど働き者はないと自惚うぬぼれてしまい、しかも廉潔れんけつな心から文三が手を下げて頼まぬと云えば、ねたそねみから負惜しみをすると臆測おくそくたくましゅうして
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
言うまでもなく、単なる臆測おくそくである。科学のがえんじない臆測である。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
私はただ次ぎのように臆測おくそくするばかりだ。
しかし、私は当時の去来の頭の中にここに私の書いたこのとおりの心理過程が進行したのであろうと臆測おくそくするわけでは決してない。
連句雑俎 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
この三十すぎの小姑こじゅうとの口から描写される家の空気は、いろんな臆測おくそく歪曲わいきょくに満ちていたが、それだけに正三の頭脳に熱っぽくこびりつくものがあった。
壊滅の序曲 (新字新仮名) / 原民喜(著)
とるに足らない世間のうわさであるが、わが長浜が、尊公の御帰国の足もとを取るに絶好な要地にあるため、世上とかくの臆測おくそくかれておるらしい。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
御米は方位でも悪いのだろうと臆測おくそくした。宗助は押しつまって日がないからだろうと考えた。ひとり小六だけが
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
太政大臣は今日もまた以前のように内大臣へ譲ることが何かあったのではないかなどという臆測おくそくをした。
源氏物語:29 行幸 (新字新仮名) / 紫式部(著)
一つは原作者がこの小説を書くとき、たいへん疲れて居られたのではないかという臆測おくそくであります。
女の決闘 (新字新仮名) / 太宰治(著)
そして悲観のどん底に落ちた私の胸には、又いろいろな取り止めのない臆測おくそくが生じて来るのでした。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
定めし少女も小生と同様、桜の花や花崗岩みかげいししほしたたる海藻をおもひ居りしことと存じ候。これは決して臆測おくそくには無之これなく、少女の顔を一瞥いちべつ致し候はば、誰にも看取かんしゆ出来ることに御座候。
伊東から (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
色々な動機が臆測おくそくされているけれども、或る確かな一説によれば、あの美的観念の極度に強い小説家は、常に自分の容貌ようぼうのことばかり気にして、老醜を曝すのを厭がっていたということだから
老年と人生 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
「署長さん、それは貴下の臆測おくそくですよ」と青谷はアッサリ突き離した。
人間灰 (新字新仮名) / 海野十三(著)
かれは、わけもなく、つらい、悲しい、嗚咽おえつにせかれた。そしてもう十六、七ともなったころには、自然、年に似合わぬませたで、母の胸を臆測おくそくした。
仔細しさいもとより分らぬ。この男とこの女の、互に語る言葉の影から、時々にのぞき込んで、いらざる臆測おくそくに、うやむやなる恋の八卦はっけをひそかにうらなうばかりである。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
これは全くの臆測おくそくであるけれども、多分寝所へ駈け付けて来た武士共は、主人の顔に大切な物がなくなっていることを発見すると、一手は曲者くせものを追いかけたに違いないが
ただ人々の態度とおりおり聞こえる単語や、間投詞でおよその事件の推移を臆測おくそくし、そうして自分の頭の中の銀幕スクリーンに自製のトーキー「東京の屋根の下」一巻を映写するのである。
映画雑感(Ⅰ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
そうかといって今のままで境遇を変えずにいることはいやなことではないが、源氏の恋から離れて、世間の臆測おくそくしたことが真実でなかったと人に知らせる機会というものの得られないのは苦しい。
源氏物語:30 藤袴 (新字新仮名) / 紫式部(著)
そしてこの臆測おくそくは、蕪村の俳句や長詩に見られる、その超時代的の珍しい新感覚——それは現代の新しい詩の精神にも共通している——を考え、一方にまた近代の浪漫ろうまん詩人や明治の新体詩人やが
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
もう一歩臆測おくそくたくましくするのは、善くない事だと云う心もちもある。
お律と子等と (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
過去がこうであるから、未来もこうであろうぞと臆測おくそくするのは、今まで生きていたから、これからも生きるだろうと速断するようなものである。一種の山である。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
見ぬために、さてはと、悪く邪推じゃすいして、城外の下人どもまで、あらぬ臆測おくそくを口走ったものらしい
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
欺された上にも欺されていたことが分るにしたがい、私の神経は異常に鋭く、病的になり、いろいろな場合を想像したり臆測おくそくしたりし始めるので、そうなって来るとナオミと云うものが
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
もちろんこれも一つの臆測おくそくである。
連句雑俎 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
弟子の人々は、そう臆測おくそくしていた、もちろん、親鸞のこころにも、慕郷ぼきょうのおもいは燃えていた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかしそれはいつまで経ってもHさんの前で自分から打ちあけるべき性質のものでないと自分は考えていた。親しい三沢の知識ですら、そこになるとほとんど臆測おくそくに過ぎなかった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
だが、この二人のみは、なぜ先頃、信長が戦わずに美濃境から帰って来てしまったか? ——などという愚かな暇つぶしの臆測おくそくばなしなどはしなかった。犬千代には分っていた。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)