背後はいご)” の例文
過渡期かときの時代はあまり長くはなかった。糟谷かすや眼前がんぜん咫尺しせき光景こうけいにうつつをぬかしているまに、背後はいごの時代はようしゃなく推移すいいしておった。
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
けれど、もうこうなっては、騎虎きこの勢いというもの、戒刀を引っさげた龍太郎は、まッさきに背後はいごからとびかかって
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あしには脚絆きやはん草鞋わらぢとを穿はいにはござうてる。ござえずかれ背後はいごにがさ/\とつてみゝさわがした。かれつひ土手どてかられてひがしへ/\とはしつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
四馬剣尺が腹をかかえて笑っているとき、ギリギリと奥歯をかみ鳴らした机博士、物凄ものすご形相ぎょうそうをしたかと思うと、いきなり四馬剣尺の体を背後はいごからつきとばした。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
おりからはげしい疾風はやてさえつのって、みことのくぐりられた草叢くさむらほうへと、ぶがごとくにせてきます。その背後はいごは一たいふか沼沢さわで、何所どこへも退路にげみちはありませぬ。
板を縛つた繩の結び目と、背後はいごへ突き拔けた脇差を捨てて逃げたのと、泥の中に深く入つた履物と——そんなものが揃ふと、あの晩二度迄藥取りに出た茂野が怪しくなるではないか
純一は五官を以てせずして、背後はいごに受ける視線を感ずるのが、不愉快でならなかった。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
やがて二三ちょうさきってしまった徳太郎とくたろう背後はいごから、びせるようにののしっていた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
いたい、だれだつ‥‥」と、わたしからだこたへながらその兵士へいしばした。と、かれやみなかをひよろけてまた背後はいご兵士へいしあたつた、「けろい‥‥」と、その兵士へいし呶鳴どなつた。
一兵卒と銃 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
とこうして川岸に出たが、そのとき一道の電光とともに、背後はいごに銃声がひびいた
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
日は真昼、そよとの風もなく、ふきあげは動かぬきぬの糸のすだれのようにもみえた。若者はそのとき、ほおづえを左手にかえて深いため息をついた。すると背後はいごにかすかにものの気配がした。
おしどり (新字新仮名) / 新美南吉(著)
いやにかたくなって受け合った。と、その背後はいごの物がニヤと笑ったようすで
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
蔚山城うるさんじょうのかこみのとけたのは、正月三日で、宇喜多秀家うきたひでいえ蜂須賀阿波守はちすかあわのかみ毛利輝元もうりてるもとなど十大将たいしょうが、背後はいごからみんの大軍を破った。このとき入城にゅうじょうしてきた毛利輝元は、重臣じゅうしん宍戸備前守ししどびぜんのかみにむかって
三両清兵衛と名馬朝月 (新字新仮名) / 安藤盛(著)
背後はいご山懐やまふところに、小屋こやけて材木ざいもくみ、手斧てうなこえる。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
背後はいごにひゞく萬国ばんこく資本家しほんか哄笑こうせふがおまへみゝたないのか
両雄が語り合っているところへ、敵の一城、上月こうづき背後はいごには、毛利家の尻押しによる浮田和泉守の手勢がだいぶいるらしい、という情報が入って来た。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
買ふの三道樂に身を持崩もちくづして、借金だらけな船頭三吉の死骸からは、腹卷の奧深く祕めた百兩の小判が現れ、野幇間七平の死骸には、背後はいごから突き刺した凄まじい傷が見付かつたのです。
若者の背後はいごには何ものにもまさって黒いかれ影法師かげぼうしが、悪魔あくまのように不気味な輪廓りんかくをくっきり芝生の上にえがいていた。老人は若者の背後にまわってそのかげのはしを両足でしっかりふまえた。
おしどり (新字新仮名) / 新美南吉(著)
入口いりくち背後はいごにあるか、……はるゝやうにえました。
雪霊続記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
そのときかれ背後はいごせま靴音くつおと
と、呂宋兵衛のさけびにこたえてどなったのは、隠密頭おんみつがしら菊池半助きくちはんすけ、いつのまにか、三人の背後はいご姿すがたをあらわして
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「みな半兵衛重治の友情によるところ」と、感じるとともにその背後はいごの人、秀吉の恩を感受せずにはいられなかった。ひいては、天地の意を悟らずにいられなかった。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして、秀吉ひでよしをあらそううえにも、つねに背後はいごの気がかりになる伊那丸君いなまるぎみやそれに加担かたんのものを、どんな犠牲ぎせいはらっても、根絶ねだやしにしなければならぬと、ひそかに支度したくをしつつあるのだから
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)