たた)” の例文
旧字:
いにしえの国主の貴婦人、簾中れんちゅうのようにたたえられたのが名にしおう中の河内かわち山裾やますそなる虎杖いたどりの里に、寂しく山家住居やまがずまいをしているのですから。
雪霊記事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この道では、日本一の名国手こくしゅたたえられているK博士の手術を受けるのであるから、何の不安もなく、経過もきわめて順調であった。
石川数正が帰って来て、しきりに秀吉の大気や、大坂築城の経綸けいりんの大をたたえたので、家中の反感は、却って勃然ぼつぜんたるものを現わし
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
覚悟むればなかなかに、ちっとも騒がぬ狐が本性。天晴あっぱれなりとたたへつつ、黄金丸は牙をらし、やがて咽喉をぞ噬み切りける。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
同じ奉公は奉公に違いなく、町の与太ものの意気もはなはだ愛すべきだが、科学人の白熱的な魂の燃焼も、十分たたえられるべきだと思われた。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
それを聞いていると、やはり、塩市の誉れを歌い、謙信の徳をたたえるものであるらしいが、歌詞はさっぱりわからない。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
この一条を田代玄甫たしろげんぽは「きもの太きこそ恐ろしけれ」とたたえ、小泉孤松こいずみこしょうは「伝吉の沈勇、極まれり」と嘆じている。
伝吉の敵打ち (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
彼は、自分のたてた大功を誇らず、まず何よりも忠勇な部下であり、そしてまた一度は脱走兵の汚名を着た杉田のために、その功をたたえたのであった。
浮かぶ飛行島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
『阿部一族』における蜻蛉の描写なども凄いほどの効果を示しているといって、鴎外の実相観入の力をたたえている。
かれは粘土や大理石や青銅に、神や人間の像を彫刻し、人々はそれらの彫刻を不滅の美としてたたえていた。
人間移動展覧会とたわむれに此をたたえてよく此事を友達に話す。近代が人に与えてくれた特別な機会である。
人の首 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
姉上、私は彼女の美をたたえることあまりにも長きに失するように思われますが、しかし彼女はただに美しいばかりではなく、また聡明そのもののような天稟てんぴんでした。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
太陽に光栄あれ! 神をたたえんかな、夢想と実行との神を、音楽をつくれる神を! ホザナ!……
エホバのいと、日の神の王子ホルスともたたうべき、地上最初の生命の群れに外ならなかったのだ。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
容姿ようしすぐれて美しく才気あり万事にさとせいなりければ、誘工ゆうこうの事すべてお政ならでは目がかぬとまでにたたえられ、永年の誘工者、伝告者として衆囚よりうやまかしずかれけるが
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
その有様を、ずるい、悪徳の芸術家が、一つあまさず見とどけて、的確の描写を為し、成功して写実の妙手とたたえられた。さて、それから事件は、どうなったのでしょう。
女の決闘 (新字新仮名) / 太宰治(著)
当時のいわゆる急進派新聞に高遠な宇宙形成論の色をつけていたジョゼフ・ド・メーストルをかしらとする神秘派は、必ずやジャヴェルを一つの象徴であるとたたえたであろう。
クライスラーは、ヴァイオリンを捨てても、人間として、褒められたたえられていい人である。
「自然」の美しさをたたえながら、他方では例の金子を用いて、諸国の志士や義人たちを集め、あるいは尊王抑覇の講義に、または新兵器の製造に、専心したものと断じてよい。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
至妙といってよいか、デリケートとたたうべきか、まことに悟りに悟って至り得た技能である。その技能が頂天に達している点、まことに天才の真価をいかんなく明らかにしている。
良寛の書 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
舞ふや蝴蝶こてふそで軽く、枯木も春の六花りくくわの眺めを、世にある人は歌にも詠み詩にも作り、月花に並べてたたゆらん浦山うらやましさよ、あはれ忘れがたき昔しを思へば、降りに降る雪くちをしく悲しく
雪の日 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
に基づいたもので、つまり牡丹の花の盛りが久しいことをたたえたものだ。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
博士は他意もなく明智の手柄をたたえたが、ふと何事か思い出した様子で
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ファラデーは講演者として古今に比いなき名人とわれ、また研究者としては幾世紀の科学者中ことに群を抜いた大発見をなした偉人とたたえられるようになったが、そのそもそもの初めをたずねれば
勝永これを見て、更に「あわれ父が子なり」とたたえたという。
真田幸村 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
それでこれをメンデルの法則とたたえるようになったのです。
グレゴール・メンデル (新字新仮名) / 石原純(著)
とよたたふるもよし、夢の世とかんずるもよし。
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
勝者は栄華を受けて、助くる神をたたう。
花の蜃気楼しんきろうだ、海市かいしである……雲井桜と、その霞をたたえて、人待石に、せんを敷き、割籠わりごを開いて、町から、特に見物が出るくらい。
瓜の涙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その不義暴逆な国へ味方して、自ら孤立を招き、自ら滅亡を遂げたところで、誰があなたを武門の本道にじゅんじた人だとたたえましょう
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「左様でございますよ、御承知の通り檜に椹、それから高野槙こうやまき羅漢柏あすひ𣜌ねずこを加えまして、それを木曾の五木とたたえている者もあるようでございます」
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
世界的考古学者また生物学者としてたたえられ、また海底のそのまた底までさぐって魚人代表を連れてかえったその勇気と辛抱づよさとその人徳をも賞めあげられた。
海底都市 (新字新仮名) / 海野十三(著)
おまえたちは私を主とたたえ、また師と称えているようだが、それは間違いないことだ。
駈込み訴え (新字新仮名) / 太宰治(著)
大佐は国王陛下マハラージャ謁見えっけんされましたが、太子殿下ラジクマールはその折ちょうど旅行で御不在でしたのでカムレッシ王女殿下クマーリがお逢いになりましたが、大佐は口を極めて王女殿下の美をたたえられました。
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
一方の目で創世記を見、他方の目で自然を見ているキュヴィエは、化石を創世記の原文と比べてみたり、象鼻動物をしてモーゼのことをほめたたえさしたりしながら、妄信的もうしんてき反動にこびを呈していた。
海をたたへむ。波を称へむ。
台所がしらの老人は、それきり日吉のことは忘れてしまった。そして、頻りと、主人の甥にあたる十兵衛光秀の人物を、たたえ始めて
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あえてきまった旦那が一にん、おとっさんが附いている、その意味を諷するのではない。その間のしょうそくは別として、しかき風采をたたえたのである。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この功徳を誰も知る者がなく、たたえる者がなく、感謝する者もない。
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そのほか黒山のようになった人だかりからも、口々にばてれんの徳をたたえる声が揚った。自分たちの純朴じゅんぼくをもって、単純にみな随喜した。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その美しき花の衣は、彼が威霊をたたえたる牡丹花ぼたんかかざりに似て、根に寄る潮の玉を砕くは、日に黄金こがね、月に白銀、あるいは怒り、あるいは殺す、き大自在の爪かと見ゆる。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
仲達は天下の奇才だ、といったが、私は、偉大なる平凡人とたたえたいのである。孔明ほど正直な人は少ない。律義実直である。
三国志:12 篇外余録 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
はだの白さも雪なれば、瞳も露の涼しい中にも、こぞって座中の明星とたたえられた村井紫玉しぎょく
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
だから中村辺では、筑阿弥をよくいう者はひとりもないが、藤吉郎の母には、最後までよく貞節をつくしたと、誰もたたえて、同情を寄せた。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
はだの白さも雪なれば、ひとみつゆの涼しい中にも、こぞつて座中ざちゅうの明星とたたへられた村井紫玉むらいしぎょく
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
恵瓊は、そういう話に触れたがらないように、天守閣の結構をめたり、城地の絶景をたたえたりしていたが、やがて秀吉から
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
体量も二十一貫ずッしりとした太腹ふとっぱらで、女長兵衛とたたえられた。
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あれほど、出城の機会を与えてやったのにと、彼女の貞節を、彼の肉親的な感情では、どうしてもたたえることができなかった。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
美しき使者をこそ、皆口々にたたえつれ。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ここには秀吉との対立観念もなければ利害もないので、正直にみな羽柴様羽柴様とその徳をたたえ、小谷の藤吉郎どのといえば、衆口一致して
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)