“秋(とき)” の例文
同時に一兵たりと徒(いたず)らに損ずべからざる御直臣(じきしん)の兵をば、より有為な秋(とき)に備えておかねばなるまいと愚考いたした次第にござりまする。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
近年、我が日本において、都鄙(とひ)上下の別なく、学問の流行すること、古来、未だその比を見ず。実に文運降盛の秋(とき)と称すべし。
学問の独立 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
日本民族がかかる美を、かかるかたちで切り開いていることを、この大いなる出発の秋(とき)に、再び深く顧みるべきであると思うのであります。
日本の美 (新字新仮名) / 中井正一(著)
灯下書に親むべき秋(とき)、刻々に近(ちかづ)く、万物は涼々たる清味を湛へ始めた時、——諸君の健康と努力とをひたすらに祈ります。
〔編輯余話〕 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
国の亡ぶる秋(とき)遠からず——といったような感慨が、骨まで腐り込んだ主膳の魂のどこかを、軽く突いたようなものです。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
然し今宵は一代の繁栄を決する大事の秋(とき)で人まかせには致しかねるところから、かうして出向きましたやうな次第で。
盗まれた手紙の話 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
物質と物質との戦いの最中(さいちゅう)に精神論を強調し、今最も精神を必要とする秋(とき)に、精神を忘れているのではなかろうか。
硝子を破る者 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
此秋(とき)に当って、小さく地方に、自分丈の持前を守って居ようなど考えて居る者達は、より大なろうとして居る強者の為にもみつぶされて仕舞うことになる。
桶狭間合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
そうして当時沖縄人が朝聘(ちょうへい)観風(かんぷう)する所の両国を見るに、一方は八代将軍幕府中興の時にして、他方は清の聖祖が兵乱を平げて文学を奨励するの秋(とき)であった。
琉球史の趨勢 (新字新仮名) / 伊波普猷(著)
常々あれば心驕(おご)りて湯水のごとく費(つか)い、無きも同然なるは黄金なり。よって後世(こうせい)一朝(ちょう)事(こと)ある秋(とき)の用に立てんと、左記の場所へ金——サア、これはわからぬ。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
何故(なぜ)なら、日本帝国のためどんなものでも立ち上るべき「秋(とき)」だったから。——それに、蟹工船は純然たる「工場」だった。然し工場法の適用もうけていない。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
そして愛国銀行の破綻は自ら北九州鉱業会社株の暴落となり、彼の自決せねばならぬ秋(とき)が来たのであった。
空中征服 (新字新仮名) / 賀川豊彦(著)
ここに於て世界の比類のない歴史を有する偉大なる支那は、今や危急存亡の秋(とき)に際会しているんである。
社会が全体主義へ革新せらるる秋(とき)、軍隊また大いに反省すべきものがある。軍隊は反自由主義的な存在である。ために自由主義の時代は全く社会と遊離した存在となった。
戦争史大観 (新字新仮名) / 石原莞爾(著)
その翌年、すなはち慶應の三年、僕の廿歳(さい)の年には所謂(いはゆる)時事益々切迫で、——それまでは尊王攘夷(そんわうじようゐ)であつたのが、何時(いつ)の間(ま)にか尊王討幕になつて了(しま)つた。所謂危急存亡の秋(とき)だ。
兵馬倥偬の人 (旧字旧仮名) / 塚原渋柿園、塚原蓼洲(著)
桜媚(こ)び海棠(かいどう)酔った我膳の前の春はたちまち去って、肴核(かうかく)狼藉(ろうぜき)骨飛び箸転がるの秋(とき)となった。
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
島津は愚か、徳川も、或いは日本の国も、危急存亡の秋(とき)に立っているのが、只今の時世だ。
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
資本主義の一般的危機××の基礎の上に発展した世界経済恐慌が例外なくすべての資本主義国を強襲している秋(とき)、ソビエト同盟にだけは恐慌など薬にしたくもないばかりでなく
十月革命と婦人の解放 (新字新仮名) / 野呂栄太郎(著)
当時はある外交上の危機がわが英国民の注意を一せいに呼集めていた秋(とき)だったため、事件の重大な割合には、人々に感動を与えることが薄かったという事情もあるので、従って
鈍翁にしていい書を、価値ある書を書くことについて、今より上手と下手といずれを学ぶべきかという岐路に立つとすれば、誰がなんといおうとも、下手をこそ選ぶべき秋(とき)である。
現代能書批評 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
「大小お捨てなさいまし! 野山を越えて行きましょう! 頬冠(ほおかむ)りの似合う秋(とき)ですよ」
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そして彼等は、絶えず自国の存在を脅す墺国に対しては、折があったら積年の怨みを晴らそうと、常に一矢を酬ゆるの秋(とき)を待っていた。此の結社の一方の団長にFという青年がいた。
二人のセルヴィヤ人 (新字新仮名) / 辰野隆(著)
ただちに平家撃滅のご謀叛(むほん)あるのみですぞ。平家、この世から去らば、宮はご即位、そして法皇へのご孝養もできます。これに過ぐるものはござらぬはず。今こそ、宮のご決意の秋(とき)。
まことに危急存亡の秋(とき)なるに、この行(おこな)いありしをあやしみ、また誹(そし)る人もあるべけれど、余がエリスを愛する情は、始めて相見しときよりあさくはあらぬに、いまわが数奇(さっき)を憐(あわ)れみ
舞姫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
これは国家危急の秋(とき)で武士の坐視(ざし)すべきでない、よって今からここを退去する、幸いに見のがしてくれるならあえてかまわないが万一職務上見のがすことはならないとあるならやむを得ない
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
昔聞く暁月坊、国に死す承久の秋(とき)、今見る公が兄弟(けいてい)、真箇(しんこ)、古人の儔(たぐい)。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
ドドンと帆村は敢然(かんぜん)引き金を引いた。今や危急存亡(ききゅうそんぼう)の秋(とき)だった……
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
静かに観君はますべし善き悪しき後(のち)つぶさなりその秋(とき)俟(ま)たむ
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
しかも世は一転機のほかなき秋(とき)とも思われます。このたびのお使いとは、すなわち、私を以て、両家のかたい結盟(むすび)を成しとげてまいれ。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
忘るゝこと勿れ持して放つべからず 今や父上の亡きと云へども帰らざることなれば此の秋(とき)こそ御身も剣を与へられたる心となりて立ちて行かれたし
蝉 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
この危急存亡の秋(とき)に、天なる哉、命(めい)なる哉、ゆらりゆらりとこの店へ繰込(くりこ)んだものがありました。それは別人ならず、長者町の道庵先生でありました。
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「カピッツアはソ国の市民で国家の費用で教育した者である。祖国は今その総ての科学者を必要とする秋(とき)である」
カピッツア争い (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
「常々あ○○心驕(おご)○て湯水のごとく費(つか)い、無きも○○なるは、黄金なり。よって後世一○事ある秋(とき)の用に立てんと、左記の場所へ金八○○両を埋め置くもの也——」
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
然るところ、数日前、正確に申上げれば×月×日のことであるが、はからずも自分は重大な霊感を得て、ここに再び一代の浮沈を決する大事の秋(とき)が近づいたことの予告を受けた。
盗まれた手紙の話 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
兎に角、そんな風であるから、私(わたくし)の青年時代は中々文筆に親しむどころの騷ぎではない。すなはち十七年の秋(とき)から明治元年の二十一歳まで、東奔西走、居處なしといふ有樣だつた。
兵馬倥偬の人 (旧字旧仮名) / 塚原渋柿園、塚原蓼洲(著)
危急存亡の秋(とき)切迫すること間髪を容れず、抑々(そも/\)昨年来一時の平和の形をなすと雖(いへど)も、大小藩主各(おの/\)狐疑を抱き、天下人心恟々然(きよう/\ぜん)として、その乱れること百万の兵戈(へいくわ)動くより恐るべし……
二千六百年史抄 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
一芸一能あるものは手に唾(つば)して立つべき秋(とき)、おこがましくはござりますが、この某(それがし)も弓馬の道、刀槍の術には一通り秀(ひ)いで、他人に劣るとも存じませぬが、この上さらに忍術を学び
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「会社存亡の秋(とき)」を名として、全職工を売ろうとしている彼奴等のからくりをそこで徹底的にさらけ出した。——と、職工たちのなかに、風の当った叢林(そうりん)のような動揺がザワ/\と起った。
工場細胞 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
我一身の大事は前に横(よこたは)りて、洵(まこと)に危急存亡の秋(とき)なるに、この行(おこなひ)ありしをあやしみ、又た誹(そし)る人もあるべけれど、余がエリスを愛する情は、始めて相見し時よりあさくはあらぬに、いま我数奇(さくき)を憐み
舞姫 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
当寺の危急存亡の秋(とき)、破滅のときである。
天(あめ)の下(した)ことむけむ、秋(とき)今成りぬ。
新頌 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「自然、秋(とき)は来るかもしれないが、それまでは」と、深い井戸の側に立寄る者を戒めるように、自分の弱い心を独り警戒していた。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
対岸の火事のようには見ていられない、今日まで自分本位で生きて来たが、とにかく、一朝主家興亡の秋(とき)ということになってみると、別に考えなけりゃならん
将軍家平素の御鴻恩(ごこうおん)に報ゆるはこの秋(とき)、なんとかして日光御下命の栄典に浴したいものじゃと、日夜神仏に祈願、ほんとでござる、水垢離(みずごり)までとってねがっておりましたにかかわらず
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「新一郎、若年ではござるが、大義のためには親を滅するつもりじゃ。平生同志として御交際を願っておいて、有事の秋(とき)に仲間はずれにされるなど、心外千万でござる。中座など毛頭思い寄らぬ」
仇討禁止令 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「H・S危急存亡の秋(とき)、諸君の蹶起を望む!」
工場細胞 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
天(あめ)の下(した)ことむけむ、秋(とき)今成りぬ。
新頌 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
「直江山城が、北国東国に拠(よ)って、内府へ加担の軍を、遠く寄せつけているこの秋(とき)に、秀頼公の御教書を乞い、西に毛利、島津を起たせ」
大谷刑部 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それが幾許(いくばく)もなくして運命逆転——相手の宿将の城を焼き、一族を亡ぼす秋(とき)になってみると、秀吉としては、勝家の首を挙げるよりも、三度の古物(ふるもの)ではありながら、生きたお市の方の肉体が欲しい。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ああはれ、今ぞ秋(とき)や。
新頌 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)