とき)” の例文
同時に一兵たりといたずらに損ずべからざる御直臣じきしんの兵をば、より有為なときに備えておかねばなるまいと愚考いたした次第にござりまする。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
近年、我が日本において、都鄙とひ上下の別なく、学問の流行すること、古来、未だその比を見ず。実に文運降盛のときと称すべし。
学問の独立 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
日本民族がかかる美を、かかるかたちで切り開いていることを、この大いなる出発のときに、再び深く顧みるべきであると思うのであります。
日本の美 (新字新仮名) / 中井正一(著)
灯下書に親むべきとき、刻々にちかづく、万物は涼々たる清味を湛へ始めた時、——諸君の健康と努力とをひたすらに祈ります。
〔編輯余話〕 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
国の亡ぶるとき遠からず——といったような感慨が、骨まで腐り込んだ主膳の魂のどこかを、軽く突いたようなものです。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
然し今宵は一代の繁栄を決する大事のときで人まかせには致しかねるところから、かうして出向きましたやうな次第で。
盗まれた手紙の話 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
物質と物質との戦いの最中さいちゅうに精神論を強調し、今最も精神を必要とするときに、精神を忘れているのではなかろうか。
硝子を破る者 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
ときに当って、小さく地方に、自分丈の持前を守って居ようなど考えて居る者達は、より大なろうとして居る強者の為にもみつぶされて仕舞うことになる。
桶狭間合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
そうして当時沖縄人が朝聘ちょうへい観風かんぷうする所の両国を見るに、一方は八代将軍幕府中興の時にして、他方は清の聖祖が兵乱を平げて文学を奨励するのときであった。
琉球史の趨勢 (新字新仮名) / 伊波普猷(著)
常々あれば心おごりて湯水のごとくつかい、無きも同然なるは黄金なり。よって後世こうせいちょうことあるときの用に立てんと、左記の場所へ金——サア、これはわからぬ。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
何故なぜなら、日本帝国のためどんなものでも立ち上るべき「とき」だったから。——それに、蟹工船は純然たる「工場」だった。然し工場法の適用もうけていない。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
そして愛国銀行の破綻は自ら北九州鉱業会社株の暴落となり、彼の自決せねばならぬときが来たのであった。
空中征服 (新字新仮名) / 賀川豊彦(著)
ここに於て世界の比類のない歴史を有する偉大なる支那は、今や危急存亡のときに際会しているんである。
社会が全体主義へ革新せらるるとき、軍隊また大いに反省すべきものがある。軍隊は反自由主義的な存在である。ために自由主義の時代は全く社会と遊離した存在となった。
戦争史大観 (新字新仮名) / 石原莞爾(著)
その翌年、すなはち慶應の三年、僕の廿さいの年には所謂いはゆる時事益々切迫で、——それまでは尊王攘夷そんわうじようゐであつたのが、何時いつにか尊王討幕になつてしまつた。所謂危急存亡のときだ。
兵馬倥偬の人 (旧字旧仮名) / 塚原渋柿園塚原蓼洲(著)
海棠かいどう酔った我膳の前の春はたちまち去って、肴核かうかく狼藉ろうぜき骨飛び箸転がるのときとなった。
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
島津は愚か、徳川も、或いは日本の国も、危急存亡のときに立っているのが、只今の時世だ。
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
資本主義の一般的危機××の基礎の上に発展した世界経済恐慌が例外なくすべての資本主義国を強襲しているとき、ソビエト同盟にだけは恐慌など薬にしたくもないばかりでなく
十月革命と婦人の解放 (新字新仮名) / 野呂栄太郎(著)
当時はある外交上の危機がわが英国民の注意を一せいに呼集めていたときだったため、事件の重大な割合には、人々に感動を与えることが薄かったという事情もあるので、従って
鈍翁にしていい書を、価値ある書を書くことについて、今より上手と下手といずれを学ぶべきかという岐路に立つとすれば、誰がなんといおうとも、下手をこそ選ぶべきときである。
現代能書批評 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
「大小お捨てなさいまし! 野山を越えて行きましょう! 頬冠ほおかむりの似合うときですよ」
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そして彼等は、絶えず自国の存在を脅す墺国に対しては、折があったら積年の怨みを晴らそうと、常に一矢を酬ゆるのときを待っていた。此の結社の一方の団長にFという青年がいた。
二人のセルヴィヤ人 (新字新仮名) / 辰野隆(著)
ただちに平家撃滅のご謀叛むほんあるのみですぞ。平家、この世から去らば、宮はご即位、そして法皇へのご孝養もできます。これに過ぐるものはござらぬはず。今こそ、宮のご決意のとき
まことに危急存亡のときなるに、このおこないありしをあやしみ、またそしる人もあるべけれど、余がエリスを愛する情は、始めて相見しときよりあさくはあらぬに、いまわが数奇さっきあわれみ
舞姫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
これは国家危急のときで武士の坐視ざしすべきでない、よって今からここを退去する、幸いに見のがしてくれるならあえてかまわないが万一職務上見のがすことはならないとあるならやむを得ない
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
昔聞く暁月坊、国に死す承久のとき、今見る公が兄弟けいてい真箇しんこ、古人のたぐい
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
ドドンと帆村は敢然かんぜん引き金を引いた。今や危急存亡ききゅうそんぼうときだった……
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
静かに観君はますべし善き悪しきのちつぶさなりそのときたむ
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
しかも世は一転機のほかなきときとも思われます。このたびのお使いとは、すなわち、私を以て、両家のかたい結盟むすびを成しとげてまいれ。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
忘るゝこと勿れ持して放つべからず 今や父上の亡きと云へども帰らざることなれば此のときこそ御身も剣を与へられたる心となりて立ちて行かれたし
(新字旧仮名) / 牧野信一(著)
この危急存亡のときに、天なる哉、めいなる哉、ゆらりゆらりとこの店へ繰込くりこんだものがありました。それは別人ならず、長者町の道庵先生でありました。
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「カピッツアはソ国の市民で国家の費用で教育した者である。祖国は今その総ての科学者を必要とするときである」
カピッツア争い (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
「常々あ○○心おご○て湯水のごとくつかい、無きも○○なるは、黄金なり。よって後世一○事あるときの用に立てんと、左記の場所へ金八○○両を埋め置くもの也——」
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
然るところ、数日前、正確に申上げれば×月×日のことであるが、はからずも自分は重大な霊感を得て、ここに再び一代の浮沈を決する大事のときが近づいたことの予告を受けた。
盗まれた手紙の話 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
兎に角、そんな風であるから、わたくしの青年時代は中々文筆に親しむどころの騷ぎではない。すなはち十七年のときから明治元年の二十一歳まで、東奔西走、居處なしといふ有樣だつた。
兵馬倥偬の人 (旧字旧仮名) / 塚原渋柿園塚原蓼洲(著)
危急存亡のとき切迫すること間髪を容れず、抑々そも/\昨年来一時の平和の形をなすといへども、大小藩主おの/\狐疑を抱き、天下人心恟々然きよう/\ぜんとして、その乱れること百万の兵戈へいくわ動くより恐るべし……
二千六百年史抄 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
一芸一能あるものは手につばして立つべきとき、おこがましくはござりますが、このそれがしも弓馬の道、刀槍の術には一通りいで、他人に劣るとも存じませぬが、この上さらに忍術を学び
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「会社存亡のとき」を名として、全職工を売ろうとしている彼奴等のからくりをそこで徹底的にさらけ出した。——と、職工たちのなかに、風の当った叢林そうりんのような動揺がザワ/\と起った。
工場細胞 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
我一身の大事は前によこたはりて、まことに危急存亡のときなるに、このおこなひありしをあやしみ、又たそしる人もあるべけれど、余がエリスを愛する情は、始めて相見し時よりあさくはあらぬに、いま我数奇さくきを憐み
舞姫 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
当寺の危急存亡のとき、破滅のときである。
あめしたことむけむ、とき今成りぬ。
新頌 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「自然、ときは来るかもしれないが、それまでは」と、深い井戸の側に立寄る者を戒めるように、自分の弱い心を独り警戒していた。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
対岸の火事のようには見ていられない、今日まで自分本位で生きて来たが、とにかく、一朝主家興亡のときということになってみると、別に考えなけりゃならん
将軍家平素の御鴻恩ごこうおんに報ゆるはこのとき、なんとかして日光御下命の栄典に浴したいものじゃと、日夜神仏に祈願、ほんとでござる、水垢離みずごりまでとってねがっておりましたにかかわらず
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「新一郎、若年ではござるが、大義のためには親を滅するつもりじゃ。平生同志として御交際を願っておいて、有事のときに仲間はずれにされるなど、心外千万でござる。中座など毛頭思い寄らぬ」
仇討禁止令 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「H・S危急存亡のとき、諸君の蹶起を望む!」
工場細胞 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
あめしたことむけむ、とき今成りぬ。
新頌 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
「直江山城が、北国東国にって、内府へ加担の軍を、遠く寄せつけているこのときに、秀頼公の御教書を乞い、西に毛利、島津を起たせ」
大谷刑部 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それが幾許いくばくもなくして運命逆転——相手の宿将の城を焼き、一族を亡ぼすときになってみると、秀吉としては、勝家の首を挙げるよりも、三度の古物ふるものではありながら、生きたお市の方の肉体が欲しい。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ああはれ、今ぞときや。
新頌 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)