眼球めだま)” の例文
俺と一所いっしょに静かに、二三度うなずいた船長は伊那少年を顧みて、硝子ガラスのような眼球めだまをギラリと光らした。決然とした低い声で云った。
難船小僧 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
眼窩に眼球めだまが据わった。やがて不思議な幻覚の力によって、暗がりの中に薄ぼんやりと、私の方を見守っている一つの顔が浮び出した。
誰? (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
両手をわなわなふるわせて、肩で息を切りながら、眼を、眼球めだままぶたの外へ出そうになるほど、見開いて、唖のように執拗しゅうねく黙っている。
羅生門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
自分の精神の全部はたちまちこの眼球めだまに吸いつけられた。そうして彼の云う事を、とっくり聞いた。彼はおれもを二遍繰り返した。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
で噴飯しましたよ、大笑いでさあ……いきなり拇指をグイと突込んで、ポンと刳り出しましたよ、左の眼球めだまを! アッハッハハハ
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
埠頭にはすでに黒山のようなイキトス号見送り人の喚声が湧き起って眼球めだまあおい船員たちはせわしく出帆の準備に立ち働いている。
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
己は生れてからまだ一遍も、あんな不思議な、底の知れない愛嬌と魔力と鬼気ききとをたゝえて居る眼球めだまと云う物を見た事がない。
小僧の夢 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ころげた首の、笠と一所いっしょに、ぱた/\とく口より、眼球めだまをくる/\と廻して見据みすゑて居た官人が、此のさまにらゑて
雨ばけ (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ことに疼痛が甚だしいために、それを除くには眼球を剔出てきしゅつすること、即ち俗な言葉でいえば眼球めだまをくり抜いて取ることが最上の方法とされて居ります。
痴人の復讐 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
「どんなうらみがあるか知らないが、太い野郎じゃないか。捕まえたら、眼球めだまでもくり抜いてやろうと思っている」
園田氏の眼鏡の中のふくれた眼球めだまが、一層ふくれ上って来る様に見えた。青い顔が一層青ざめて行く様に見えた。
悪霊 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
それは、ふくろうの時計どけいで、びょうきざむごとに、ふくろうの眼球めだましろくなったり、くろくなったりしたのです。
角笛吹く子 (新字新仮名) / 小川未明(著)
障子の破れ穴の一つに怪しい者の眼球めだまが光るような気がした。彼は逃げるように行火あんかに掛けてある蒲団ふとんを頭からかぶって、猫か犬かが寝たように円くなって寝た。
黄灯 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
その隙間から、これが死だと云ふやうに、濁つた、どろんとした、硝子ガラスめいた眼球めだまが見える。
板ばさみ (新字旧仮名) / オイゲン・チリコフ(著)
南天なんてんあか眼球めだまにしたうさぎと、竜髭りゅうのひげあお眼球めだまうずらや、眉を竜髭の葉にし眼を其実にした小さな雪達磨ゆきだるまとが、一盤ひとばんの上に同居して居る。鶴子の為に妻が作ったのである。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
あまりに土地の子供等がうるさく随いて来て、どうかすると後方うしろから駆け抜けるようにしては五人の顔を見ようとするので、その画家はわざと子供等の方へ大きな眼球めだまを突き付けながら
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
又万一然様いう企をしたとすれば、鶺鴒せきれいの印の眼球めだまで申開きをするほどの政宗が、直接自分の臣下などに手を下させて、後に至って何様どうともすることの出来ぬような不利の証拠を遺そうようはない。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
神經の興奮し切つてゐるお道は迚も安らかに眠られさうもなかつたが、なんにも知らない幼い娘はやがてすやすやと寢ついたかと思ふと、忽ち針で眼球めだまでも突かれたやうにけたゝましい悲鳴をあげた。
半七捕物帳:01 お文の魂 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
おれの家はだだつ広い野原で、蒼黒い雨雲が屋根の代りになるのだよ。鷲めがおれの鳶いろの眼球めだまをつつき、哥薩克男子をのこのこの骨は雨露あめつゆに洗はれて、やがては旋風の力でひからびてしまふことだらう。
唯今このいが、眼球めだまを抜きとつて御覧にいれます。
小熊秀雄全集-14:童話集 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
空も魚の眼球めだまに変り
春と修羅 第二集 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
骸骨コツを渋紙でり固めてワニスで塗り上げたような黒光りする凸額おでこの奥に、硝子玉ガラスだまじみたギラギラする眼球めだま二個ふたつコビリ付いている。
難船小僧 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
意識にこれだけの分化作用ができて、その分化した意識と、眼球めだまと云う器械を結びつけて、この種の意識は眼球がつかさどるのだと思いつく。
文芸の哲学的基礎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その時己は彼の女の顔に、更に二つの素的すてきに大きい黒い宝石が輝くのを一べつした。二つの大きい黒い宝石と云うのは、それは彼の女の眼球めだまのことである。
小僧の夢 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「第一お母様なんて、大きな眼球めだましてピリピリしてるんだもの、おっかなくて誰も、寄っ付く奴なんかいませんよ」
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
塀の外にはガラッ八を伏せておきましたから、眼球めだま一つぐらいは潰しても、間違いなく捕まえるつもりでした
子供こどもは、ふくろうの眼球めだまが、しろくなったりくろくなったりするのを、もう見飽みあきてしまいました。
角笛吹く子 (新字新仮名) / 小川未明(著)
それですから善女ぜんにょ功徳くどくのために地蔵尊じぞうそん御影ごえいを刷った小紙片しょうしへん両国橋りょうごくばしの上からハラハラと流す、それがケイズの眼球めだまへかぶさるなどという今からは想像も出来ないような穿うがちさえありました位です。
幻談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
たちまち針で眼球めだまでも突かれたようにけたたましい悲鳴をあげた。
半七捕物帳:01 お文の魂 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
驚ろいたなあ、本当の眼球めだまだ。
小熊秀雄全集-14:童話集 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
暗いが、ぎろりと光る三人の眼球めだまを照らした。光ったものは実際眼球だけである。坑はもとより暗い。明かるくなくっちゃならない灯も暗い。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そうして約三四十時間も前後不覚の状態に陥って、昏々こんこんと眠り続けると、又もや、アンポンタン・ポカン然として眼球めだまをコスリコスリ起上るのだ。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
右にも左にも山がそびえている。谷底に三人の異様な風をした男が一人の男をつれて来て、両手を縛って、荒莚あらむしろの上に坐らせて殺そうとしている。三人の悪者わるもの眼球めだまは光っていた。
捕われ人 (新字新仮名) / 小川未明(著)
私も其の真似をして裾を引っ張ると、信一の足の裏は、狆と同じように頬を蹈んだり額を撫でたりしてくれたが、眼球めだまの上を踵で押された時と、土蹈まずで唇を塞がれた時は少し苦しかった。
少年 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
やあ、眼球めだまだなあ。
小熊秀雄全集-14:童話集 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
しばらくすると、其色がかべの上に塗り付けてあるのでなくつて、自分の眼球めだまなかから飛び出して、かべうへへ行つて、べた/\く様に見えてた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ついでに県下の警察と新聞社の眼球めだまり抜いて、押しも押されぬ雷名を轟かしてくれよう。
山羊髯編輯長 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
その時、己とメリー嬢との顔は、わずかに五寸ぐらいの間隔を置いて、向い合って居た。己は彼の女の美しい容貌が殆んど虫眼鏡で見る如く擴大されて、眼球めだまうちを一杯にふさいでしまったのを感じた。
小僧の夢 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
しばらくすると、その色が壁の上に塗り付けてあるのでなくって、自分の眼球めだまの中から飛び出して、壁の上へ行って、べたべた喰っ付く様に見えて来た。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あの蟹口運転手のメチャメチャになった妖怪じみた死骸を見た瞬間に……壊れた額から飛出とびだした二つの眼球めだまが私を白眼にらんでいるのに気付いた時に私はモウ一度気が遠くなりかけました。
衝突心理 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
同時に左右に突っ張る。眼がつぼのように引ッ込んで、眼球めだまを遠慮なく、奥の方へ吸いつけちまう。小鼻が落ちる。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
私はいた口がふさがらなくなった。そのまま眼球めだまばかり動かして、キョロキョロとそこいらを見まわしていたようであったが、そのうちにハッと眼をえると、私の全身がゾーッと粟立あわだって来た。
一足お先に (新字新仮名) / 夢野久作(著)
仕舞には眼球めだまから色を出す具合一つで、向ふにある人物樹木が、此方こちらの思ひ通りに変化出来る様になつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
主人の心は吾輩の眼球めだまのように間断なく変化している。何をやっても永持ながもちのしない男である。その上日記の上で胃病をこんなに心配している癖に、表向はおおいに痩我慢をするからおかしい。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「蛙の眼球めだまの電動作用に対する紫外光線しがいこうせんの影響と云うのです」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)