白脛しらはぎ)” の例文
もし枝葉に置く霜の影に透したらんに、細いかいなに袖からみ、乳乱れ、つま流れて、白脛しらはぎはその二片ふたひらの布をながれ掻絞かきしぼられていたかも知れない。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そればかりでなく、衣紋が滅茶々々に崩れて、紅の裾も踏みしだいたまゝ、白脛しらはぎが苦惱に揉れて、淺ましい取亂しやうは、猛獸の惡戯にしても念が入り過ぎます。
綿かと思うやわらかな背を見物へ背後うしろむきに、そのこしらえし姿見に向って、筵に坐ると、しなった、細い線を、左の白脛しらはぎに引いて片膝を立てた。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
うしろり前へし、もだえ苦しみのりあがり、くれない蹴返す白脛しらはぎはたわけき心を乱すになむ、高田駄平は酔えるがごとく、酒打ち飲みていたりけり。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お山の草叢くさむらから、黄腹、赤背の山鱗やまうろこどもを、綯交なえまぜに、三筋の処を走らせ、あの踊りの足許へ、茄子畑から、にょっにょっと、蹴出す白脛しらはぎからましょう。
貝の穴に河童の居る事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あわや台座に留まろうとして、わざの施す隙なきさまに、そのまま仰向あおむけに黄昏たそがれの地に吸われたが、白脛しらはぎを空に土をて、つまをかくして俯向うつむけになって倒れた。
暮れかかった山の色は、そのなめらかな土に、お君の白脛しらはぎとかつ、もすそを映した。二人は額堂を出たのである。
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
船の中でも人目をいとって、紺がすりのその単衣ひとえで、肩から深く包んでいる。浦子の蹴出けだしは海の色、巌端いわばな蒼澄あおずみて、白脛しらはぎも水に透くよう、倒れた風情に休らえる。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
親まさりの爪尖尋常に白脛しらはぎからんだままと横に投出した、肩肱かたひじ処々ところどころ、黒土に汚れたるに、車夫等が乱暴のあとが見えて、鈴かと見える目はすずしく、胸のあたりにはりはあるが
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
痩法師やせほうしが杖にすがって、珠数までみながら、ずッと寄ると——ついと退く。……端折はしょった白脛しらはぎを、卯の花に、はらはらと消し、真白まっしろい手を、って押退おしのけるようにしたのです。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
促して、急いで脱放しの駒下駄をさぐる時、白脛しらはぎが散った。お千もあわただしかったと見えて、宗吉の穿物はきものまでは心着かず、可恐おそろしい処をげるばかりに、息せいて手を引いたのである。
売色鴨南蛮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おんなが、這搦はいからまるか、白脛しらはぎ高く裾を払い、立ってすがるか、はらはらと両袖を振ったあおりに、ばっと舞扇に火が移ると、真暗まっくらな裏山から、さっの葉おろしするとともに、火をからめたまま
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
たまにてへる白銀しろがねみのの如く、かいなの雪、白脛しらはぎもあらはに長く、斧を片手に、てのひらにその月を捧げて立てる姿は、かたも川もつまさきにさばく、銀河に紫陽花あじさい花籠はなかごを、かざして立てる女神じょしんであつた。
光籃 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「あれ、」とげにかかる、小腕こがいなをむずと取られた。なりも、ふりも、くれない白脛しらはぎ
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
が、白脛しらはぎか、前脚か、緋縮緬ひぢりめんて、高飛びに追かけたお転婆な若いのが
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
早朝上野の不忍しのばずの池の蓮見はすみ歩行あるいて、草の露のいと繁きに片褄かたづまを取り上げた白脛しらはぎ背後うしろから見て、既に成女の肉附であるのに一驚を喫した書生がある、その時分から今も相変らず、美しい
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
やや蓮葉はすは白脛しらはぎのこぼるるさえ、道きよめの雪の影を散らして、はだを守護する位が備わり、包ましやかなおおもてより、一層世のちりに遠ざかって、好色の河童のたわけた目にも、女の肉とは映るまい。
貝の穴に河童の居る事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
黒格子をほのかに、端がなびいて、婦人おんなは、頬のかかり頸脚えりあしの白く透通る、黒髪のうしろ向きに、ずり落ちたつまを薄く引き、ほとんど白脛しらはぎに消ゆるに近い薄紅の蹴出けだしを、ただなよなよとさばきながら
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
はらはらと白脛しらはぎも透いてかさなって正屋おもやへ隠れた、そのあとの事なんですが。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
たもとを、はつとみだすと、お納戸なんど扱帶しごきめた、前褄まへづましぼるばかり、淺葱縮緬あさぎちりめん蹴出けだしからんで、踏出ふみだ白脛しらはぎを、くささきあやふめて……と、吹倒ふきたふされさうに撓々たわ/\つて、むねらしながら
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
無慙むざんや、行燈の前に、仰向あおむけに、一個ひとつつむりを、一個ひとつ白脛しらはぎを取って、宙に釣ると、わがねの緩んだ扱帯しごきが抜けて、紅裏もみうらが肩をすべった……雪女はほっそりとあからさまになったと思うと、すらりと落した
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ああ、白脛しらはぎが、と目に映る、ともう暗い処へ入った。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)