もてあそ)” の例文
沢山ならこれで切り上げるが、世間には自分の如く怪しげな書画をもてあそんで無名の天才に敬意を払ふの士が存外ぞんぐわい多くはないかと思ふ。
鑑定 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
それ以前の子供の遊びは、この花の長く垂れたしべを髪に結び、またはその形のままを髪の垂れた人に見立ててもてあそぶことであった。
「私達の間に何の虚偽があったでしょう? 種々な言葉をもてあそぶより黙っていましょう。ねえ、黙っている方が心が静まるでしょうから。」
囚われ (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
御身おんみは愛を二、三にも四、五にもする偽君子ぎくんしなり、ここに如何いかんぞ純潔の愛をもてあそばしめんやと、いつも冷淡に回答しやりたりき。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
生理学教室三昧さんまいの学士も、一年ばかりお孝に馴染なじんで、その仕込みで、ちょっと大高源吾ぐらいはもてあそぶことが出来たのである。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
われは枝上のこのみに接吻して、又地に墜ちたるを拾ひ、まりの如くにもてあそびたり。友の云ふやう。げに伊太利はめでたき國なる哉。
ある人(秋田県樺園子かえんし)曰く、万葉の歌は十中八、九まで世道人心に関係あれば善し。古今以後の歌はいたずらに月を賞し花をもてあそぶ。故に取らず。云々。
人々に答ふ (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
米友の頭では、今でもお君はさんざんに能登守のもてあそび物になって、いい気になっているものとしか思えないのであります。
もてあそブ/頑雲月ヲ包ミテ山角ニ走リ/急霰風ニ乗リテ帽尖ヲツ/遺却ス身材ハ襪線ノ如シ/擬ス涓滴ヲもっテ炎炎ヲ救フニ〕
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
其の兵器を鳩集きふしふする所以ゆゑんのものは、あたか上国孱士じやうこくせんしの茶香古器をもてあそぶが如し。東陲とうすい武夫もののふ皆弓槍刀銃をたしなまざるなし、これ地理風質のことなるにるのみ。
鎌倉の名にちなんだ「鎌倉彫かまくらぼり」なるものがありますが、今はむしろ素人しろうともてあそびになって、本筋の仕事からははずれました。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
圧制家デスポト利己論者イゴイストと口ではのろいながら、お勢もついその不届者と親しんで、もてあそばれると知りつつ、玩ばれ、調戯なぶられると知りつつ、調戯なぶられている。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
この時「脚気かな、脚気かな」としきりにわが足をもてあそべる人、急に膝頭をうつ手をげて、しっと二人を制する。
一夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
毎日磯に寝て飽くなく貝殻をもてあそんだり無心に砂を握っていたりして、甘い感傷に安らかないこいを覚えていた。
小さな部屋 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
それから市の塵芥ぢんかい人夫になつて悪臭を頭に被つた。オイチニの薬売りになつて手風琴をならして歩いた。帰つて来るとウメ子はそれをもてあそんだ。ブウブウと鳴るのだ。
反逆の呂律 (新字旧仮名) / 武田麟太郎(著)
いわんや鴎外漁史は一の抽象人物で、その死んだのは、児童のもてあそんでいた泥孩つちにんぎょうこわれたに殊ならぬのだ。
鴎外漁史とは誰ぞ (新字新仮名) / 森鴎外(著)
〔譯〕人一生ふ所、險阻けんそ有り、坦夷たんい有り、安流あんりう有り、驚瀾きやうらん有り。是れ氣數きすうの自然にして、つひまぬがるゝ能はず、即ち易理えきりなり。人宜しく居つて安んじ、もてあそんでたのしむべし。
ろうぜよ、今や、朝廷の御衰微、四海の騒乱、百姓たちも安んぜぬ世の様を。信長は、赤沢殿以上、放鷹は大好きでござるが、思うに、今はこれをもてあそぶ時でもありますまい。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なかには子安貝や、椿の実や、小さいときのもてあそびであつたこまこました物がいつぱいつめてあるが、そのうちにひとつ珍しい形の銀の小匙のあることをかつて忘れたことはない。
銀の匙 (新字旧仮名) / 中勘助(著)
公儀おかみへは遠乗りの途中暴れ馬が殿を乗せたまま雑木林に飛込み、木の枝で眼をつつかれた——と届出ているが、町人のもてあそぶ楊弓の矢で眼を一つつぶされては、何としても諦められない。
斯様かようなものは全体私なんぞの聞くべきものでない、いわんもてあそぶべき者でないと云うかんがえを持て居るから、ついぞ芝居見物など念頭に浮んだこともない。例えば、夏になると中津に芝居がある。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
帳面上洗礼を受けしものの増加せしを以て伝道事業の成功せしと信ずる宣教師——これらはみな肉眼を以て歩むものにして信仰に依て生くるものにあらざるなり、玩弄物がんろうぶつもてあそぶ小児なり
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
一は飾り立てられて美しく祭られるのと、一は手に握られてもてあそばれるのと相違はあるが、何処か似通っているところがある。その手毬が雛人形や雛道具が並べ立てられた店の片隅に在る。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
ある商人の書画をこのみてもてあそぶものありしが、その購入する所を聞くに、金岡かなおかが観音の像一てい代価千両なり。徽宗きそうの桃に鳩の絵わずかに長さ五、六寸に広さ六、七寸なる小幅が同じく千両なり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
明智はその最後の品を、何か楽しげにいつまでももてあそんでいた。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そをもてあそぶ男あり
詩二つ (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
故に茶人の茶をもてあそぶは歌人の歌をつくり俳人の俳句をつくるが如く常に新鮮なる意匠を案出し臨機応変の材を要す。四畳半の茶室は甚だ妙なり。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
どういうものか此方こちらには読書からの知識が多く、実験に基づかない概念ばかりが、もてあそばれているような傾向が著しかった。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
瀬戸せとかまは古くかつ広く、早くより歴史家から注意せられた。特に「志野しの」や「織部おりべ」は好んで茶人間にもてあそばれた。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
たけき、すさまじき、種々いろいろで、ちょいとした棚の置物、床飾り、小児こどももてあそぶのは勿論の事。父祖代々この職人の家から、直槙は志を立てて、年紀とし十五六の時上京した。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あいつらは、女をもてあそぶに、女を裸にして玩ばなければ満足のできないやからなのだ——ちぇッ、いいざまをして、このあまめ、笑ってやがる、小憎らしい笑い方だなあ——
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
我等は倒れたる一圓柱のの上に踞したり。ジエンナロの力に頼りて、乞兒かたゐの群を逐ひ拂ふことを得たりしかば、我等の心靜に四邊あたりの風景をもてあそぶには、復た何のさまたげもあらざりき。
公儀おかみへは遠乘りの途中暴れ馬が殿を乘せたまゝ雜木林に飛込み、木の枝で眼を突かれた——と屆出てゐるが、町人のもてあそぶ楊弓の矢で眼を一つ潰されては、何としても諦らめられない。
昔のようにただうつくしいからもてあそぶという心持は、今の僕には起る余裕がない
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
にそれ威をろうし権をもてあそぶためのみならんや。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
ですがこれはおおい得ない事実なのです。茶器も茶室も民器や民家の美を語っているのです。だがこの清貧は忘れられて、茶道は今や富貴の人々のもてあそびに移ったのです。
民芸とは何か (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
何も知らないお君を蕩してもてあそびものにしたのは、憎むべき駒井能登守と思うのであります。
もしそれがいつわりでなかったならば、(実際それは詐りとは思えなかったが)、今までの奥さんの訴えは感傷センチメントもてあそぶためにとくに私を相手にこしらえた、いたずらな女性の遊戯と取れない事もなかった。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
山形市の近くに天童てんどうと呼ぶ小さな静な温泉町があります。ここは将棋しょうぎの駒を作るのに忙しい所であります。吾々がもてあそぶ駒の大部分はこの小さな町から出るといわれます。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
その他編笠あみがさの類や、竹笊たけざるほうきなどにも、大変面白い形のものを見かけます。子供のもてあそぶ太鼓にも珍らしい出来のがあり、また女の児が遊ぶ手毬てまりにも美しいものを見かけます。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)