牡牛おうし)” の例文
何時いつのほどにか来りけん、これなん黄金丸が養親やしないおや牡牛おうし文角ぶんかくなりけるにぞ。「これはこれは」トばかりにて、二匹は再びきもを消しぬ。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
南部産の黒い牡牛おうしが、やがて中央の庭へ引出されることに成った。その鼻息も白く見えた。繋いであった他の二頭はにわかに騒ぎ始めた。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そういって少女が少女を誘うように牡牛おうしのように大きな倉地を誘った。倉地はけむったい顔をしながら、それでもそのあとからついて来た。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「爾の力は強きこと不弥の牡牛おうしのようである。われは爾のごとき強き男を見たことがない。」と卑弥呼はいって反絵の酒盃に酒をそそいだ。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
扉の上に、うきりになって、牡牛おうしがねそべり、そしてその牡牛はこっちを向いて、長い舌を出しているのが、とりついていることだった。
時計屋敷の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
もはや身を守り得ないほど死にひんしてはいるがまだ苦痛を感ずるくらいの命はある病める牡牛おうしを、初めて引き裂きかけた豪狗ごうくの喜びである。
いや、そればかりじゃない、僕はこの十年というもの、まるで牡牛おうしみたいに汗水たらして、その借金をきれいにしたんだ。
牡牛おうしの死ぬる前後のところも単なる実写的の真実に対する興味のほかに、映画としての取り扱い方のうまさは充分にある。
映画雑感(Ⅰ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
丈夫な快男子で、四十歳ばかりになっていて、色つやのいい大きな顔、丸い頭、かば色の髪、大河のようなひげ牡牛おうしのような首筋と声とをもっていた。
ラサリーリョ少年が奸黠かんかつ座頭ざとうの手引きとなって連れて行かれる途中で、橋飾りの牡牛おうしの石像に耳をつけて聞けばどえらい音がしているといって
屠手はうるさいともいわず、その牛を先にやってしまった。鳴きかけた声を半分にして母牛はおれてしまう。最も手こずったのは大きな牡牛おうしであった。
去年 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
血まぶれの Tourbadourトルバドル 華美はでないさみの若者が、ほふ牡牛おうしArènneアレエヌ桟敷さじきも崩れん叫び声。
勝平は、怒った牡牛おうしのようにプリ/\しながら、それでも正面から瑠璃子をたしなめることが出来なかった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
ひところなどは、牛小屋のどの区画くかくの中にも、牛が一とうずついましたし、いまはからっぽになっている牡牛おうし小屋にも、りっぱな牡牛がたくさんいたものでした。
ふと、自分が神前にささげた犠牲ぎせい牡牛おうしの、もの悲しい眼が、浮かんで来た。誰か、自分のよく知っている人間の眼に似ているなと思う。そうだ。確かに、あの女だ。
木乃伊 (新字新仮名) / 中島敦(著)
日本では象の重さといっても子どもには考えにくいので、それをでっかい牡牛おうしという話にしている。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
そのたにでて蜿蜿えんえんと平原を流るゝ時は竜蛇りゅうだの如き相貌そうぼうとなり、急湍きゅうたん激流に怒号する時は牡牛おうしの如き形相を呈し……まだいろ/\な例へや面白い比喩ひゆが書いてあるけれど……
(新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
黒人の群れがずっと奥地おくちにある市場から帰ってきます。黒いかみの毛のまわりに銅のボタンをつけて、あい色のスカートをはいた女たちが、重い荷をつんだ牡牛おうしを追っています。
が、大きいとちの木が一本、太ぶとと枝を張った下へ来ると、幸いにも放牧の牛が一匹、河童のく先へ立ちふさがりました。しかもそれはつのの太い、目を血走らせた牡牛おうしなのです。
河童 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
彼には七里ひと跳びの長靴があり、牡牛おうしのようなくび、天才的な額、船の竜骨のような腹があり、セルロイドのはねと悪鬼のような角があり、そして後ろには大きな軍刀をつるしている。
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
両腕や広い肩には筋肉がこぶをなしており、手も大きいし指も百姓のように太い、腰だけは若者のように細くひき緊っているが、ざっと見た眼には年老いた牡牛おうしのような感じを与える。
そは汝らが我につきて言述いいのべたる所はわがしもべヨブの言いたる事の如く正しからざればなり、されば汝ら牡牛おうし七頭、牡羊おひつじ七頭を取りてわが僕ヨブに至り汝らの身のために燔祭はんさいささげよ
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
膃肭獣おっとせい成牡せいぼ(ブル)、年齢八、九歳、体重八十貫、牡牛おうしのごとき黒褐色の巨躯きょく
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
葡萄酒ぶどうしゅを一パイント飲むのもけちけちする日があるかと思うと、それは、その翌日に牡牛おうしを一頭丸焼きにし、ビールの大樽おおだるの口をあけ、近所の人に一人残らずもてなしをするためなのだ。
「雑人、鞭を貸せ」覚明が、牛飼の鞭を奪って、百万の魔神もこの輦の前をはばめるものがあれば打ち払っても通らんとおおきな眼をいからすと、性善坊も、八瀬黒の牡牛おうしの手綱を確乎しっかにぎって
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ハンタアという学者はにわとりのけづめを牡牛おうしの首に移植したし、有名なアルゼリアの「さいの様な鼠」と云うのは、鼠の尻尾しっぽを鼠の口の上に移植して成功したのだが、僕もそれに似た様々の実験をやった。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
暗がりで、それは憎悪ぞうおに満ちた牡牛おうしうなり声に似ていた。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
筋肉で盛り上がった肩の上に、正しくはめ込まれた、牡牛おうしのように太い首に、やや長めな赤銅色の君の顔は、健康そのもののようにしっかりと乗っていた。
生まれいずる悩み (新字新仮名) / 有島武郎(著)
道の行手ゆくてに、砂けむりが立ったかと思うと、その砂けむりの中から、一頭の白い牡牛おうしが太い鉄のようなつのを左右に振り立てながら、飛ぶように走って来ました。
三人兄弟 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
それは山海さんかいの珍味づくしだった。車えびの天ぷら。真珠貝の吸物、牡牛おうしの舌の塩漬しおづけ羊肉ひつじにくのあぶり焼、茶ののおひたし、松茸まつたけ松葉焼まつばやき……いや、もうよそう。
海底都市 (新字新仮名) / 海野十三(著)
必要な者には手助けをしてやって、たおれた馬を起こしてやったり、泥濘でいねいにはまった車を押してやったり、逃げ出した牡牛おうしの角をつかんで引き止めてやったりした。
農場のうじょうのせわもしなくなりましたし、なにもかも、ほったらかしておきました。家もれはてるにまかせて、修繕しゅうぜんもしませんでした。牝牛めうし牡牛おうしも売ってしまいました。
北方の山地に住む三十人の剽盗ひょうとうの話や、森の夜の怪物の話や、草原の若い牡牛おうしの話などを。
狐憑 (新字新仮名) / 中島敦(著)
その議事堂の格子窓こうしまどからは、そのむかし皇帝こうてい戴冠式たいかんしきのときにあぶり肉にされて、人々のご馳走ちそうにされた、角のついたままの牡牛おうし頭蓋骨ずがいこつが、いまもなおきでているのですが、しかし
エジプトのスフィンクス、アッシリアの怪物、ペルセポリスの牡牛おうし、ポリシーのねばねばしたへび、などの間をクリストフは、ぞっとしながら黙って通り過ぎた。お伽噺とぎばなしの世界にいるような気がした。
附近の農家であろう、長い声を曳いて牡牛おうしく。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
牡牛おうしLe Taureau
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
「また地球で、わしをからかうんだね。地球のことはもうたなにあげときましょう。さて今夜の料理にはね、牡牛おうしの舌の塩づけに、サラダをそえて、その上に……」
三十年後の世界 (新字新仮名) / 海野十三(著)
傷ついた牡牛おうしのように元どおりの生活を回復しようとひしめく良人おっとや、中にはいっていろいろ言いなそうとした親類たちの言葉を、きっぱりとしりぞけてしまって
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
牡牛おうしのようにおおきい勝平と相対していながら、彼女は一度だって、おそれたことはなかった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
規則の牡牛おうし、ボス・ディシプリネ(規則牛)、命令の番犬、点呼の天使、彼は実にまっすぐであり、四角であり、正確であり、厳正であり、正直であり、嫌悪けんおすべきものなりき。
ところが、牡牛おうしたちは平気なものです。はなづらを上にむけて、モウと大声で言いました。
……名ばかりの妻、そうです、妾はありとあらゆる手段と謀計とでもって、妾の貞操をあの悪魔のためにけがされないように努力するつもりです。北海道の牧場では、よく牡牛おうしひぐまとが格闘するそうです。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
牛丸平太郎は牡牛おうしのような鈍重どんじゅうな表情でうなずいた。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)