すなど)” の例文
瀬田せた長橋ながはし渡る人稀に、蘆荻ろてきいたずらに風にそよぐを見る。江心白帆の一つ二つ。浅きみぎわ簾様すだれようのもの立て廻せるはすなどりのわざなるべし。
東上記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
自分もつづみを打ったりなどしている様子が——すなどる湖上の舟や往来ゆききの帆船からも手にとる如くわかるような騒ぎだったというのである。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もうこうなっては此処ここにとどまることは出来ません。あなたはこの後も耕し、すなどりのわざをして、世を渡るようになさるがよろしい。
「野猫型」の釣人は、ブルジヨア型の人が、鮎に遠出して、旅館に滞在し谿谷をすなどる人は別として、先づプロレタリアの釣りだ。
日本の釣技 (新字旧仮名) / 佐藤惣之助(著)
土用どようのうちの霖雨つゆのあめを、微恙びようの蚊帳のなかから眺め、泥濁どろにごつた渤海あたりを、帆船ジヤンクすなどつてゐる、曾て見た支那海しなのうみあたりの雨の洋中わだなかをおもひうかべる。
あるとき (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
キリスト十二弟子の一、魚をすなどりまた人を漁る(マタイ、四・一八以下等)。これに從つて帆を揚ぐるはその信仰にならひてキリスト教徒となるをいふ
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
けれども、次第しだい畜生ちくしやう横領わうりやうふるつて、よひうちからちよろりとさらふ、すなどあとからめてく……る/\手網であみ網代あじろうへで、こし周囲まはりから引奪ひつたくる。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ことにこの街のわかい六騎は温ければすなどり、風の吹く日は遊び、雨にはね、空腹ひもじくなれば食ひ、酒をのみては月琴を弾き、夜はただ女を抱くといふ風である。
水郷柳河 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
どこの植物的荒野においてもかれらにとって十分大きな獲物が見あたらないというほどにしたまえ——人をすなどる者であるとともにそれを狩る人にならせたまえ。
さうでなければ遂に君は、收穫する農夫、すなどる漁夫ほどにも生活の眞實に觸れることなくして終るだらう。さうだ。僕は敢て君に凡俗たれとすすめるものなのだ。
続生活の探求 (旧字旧仮名) / 島木健作(著)
血をくゞつて伝承した切支丹キリシタンの子孫が、今もこの島に住み、すなどり、さゝやかな山峡の畑を耕してゐる。三百年前の十字架が、サンタマリヤが、教会の壇に飾られてゐた。
波子 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
今までの彼は、狩はともかく、すなどりはむげに卑しいことだと思っていた。ひたすらに都会生活に憧れていた彼は、そうしたことを真似てみようという気は起らなかった。
俊寛 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
〈海にすなどっている舟がないばかりでなく、浜辺に揚げられてある小舟一隻すら見えなかった。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
おきいまいもがためわがすなどれる藻臥束鮒もふしつかふな 〔巻四・六二五〕 高安王
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
くに三輪みわさき大宅竹助おおやのたけすけと云うものがあって、海郎あまどもあまた養い、はた広物ひろものものを尽してすなどり、家ゆたかに暮していたが、三人の小供があって、上の男の子は、父に代って家を治め
蛇性の婬 :雷峰怪蹟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
すなどりの業人は海原へ、牛飼等は山向ふの牧場へ、小作家は田畑へ、皆々孜々として仕事に励み、一日の労銀を携へて帰る夕暮時に、その幾部分かをサイパンの箱へ投げ入れてバツカスを祈つた。
酒盗人 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
すなどり舟の艫の音は
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
それは漁民のする業で、「天の釣舟」は客観的にオツなものであつたらうが、すなどる業といふものは下賤のする事であつた。
日本の釣技 (新字旧仮名) / 佐藤惣之助(著)
浜御遊はまごゆうのとき憐れんで、じいよ、おまえのすなどりしたお魚はなんなと御所へ持っておいで……と仰っしゃって下されてから、一匹のたいでも、一トざる雑魚ざこでも
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
興津おきつを過ぐる頃は雨となりたれば富士も三保みほも見えず、真青なる海に白浪風に騒ぎすなどる船の影も見えず、磯辺の砂雨にぬれてうるわしく、先手の隧道ずいどうもまた画中のものなり。
東上記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
海にすなどっている舟がないばかりでなく、浜辺に揚げられてある小舟一隻すら見えなかった。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
この語淨、二二・六三にも見ゆ、されどウェルギリウスは「人をすなどる者」(マルコ、一・一七)の意に用ゐ、こゝにてはペテロの繼承者たる法王の口よりいでゝ侮蔑の意を含む
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
そのためでもあるが、三人は大宮人おおみやびとの習慣を持ちつづけて、なすこともなく、毎日暮していた。俊寛は、そうした生活を改め、自分ですなどりし、自分で狩りし、自分でたがやすことを考えた。
俊寛 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
日当ひあたりの背戸を横手に取って、次第まばら藁屋わらやがある、中に半農——このかたすなどって活計たつきとするものは、三百人を越すと聞くから、あるいは半漁師——少しばかり商いもする——藁屋草履は
小春の狐 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
虎列拉コレラけの花火、さては古めかしい水祭の行事などおほかたこの街特殊のものであつて、張のつよい言葉つきも淫らに、ことにこの街のわかい六騎ロツキユは温ければすなどり、風の吹く日は遊び、雨には
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
一つの魚をすなどつて歩くのも面白いとして、更に地理的に、一つの河川、一つの江湾を研究するのも面白からうと思ふ。
釣心魚心 (新字旧仮名) / 佐藤惣之助(著)
「貧しい翁のすなどり舟も軍に取られてしまったとみえる。こよいのうちに、どうかしてやれ」
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
はじめのうち、……うをびくなか途中とちゆうえた。荻尾花道をぎをばなみち下路したみち茄子畠なすびばたけあぜ籔畳やぶだゝみ丸木橋まるきばし、……じやうぬますなどつて、老爺ぢゞい小家こやかへ途中とちゆうには、あなもあり、ほこらもあり、つかもある。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
が、差し当っては、すなどりと狩をするほかに、食料を得る道はなかった。
俊寛 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
悠々千里の流れにすなどりして、江岸に住んでいる漁夫や住民は、もう連年の戦争にも馴れていて、戦いのない日には、閑々として網を打ち、はりを垂れているなど、決してめずらしい姿ではなかった。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こんな心弱いものに留守をさせて、良人がすなどる海の幸よ。
海異記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)