死人しびと)” の例文
此凄まじい日に照付られて、一滴水も飲まなければ、咽喉のどえるをだま手段てだてなくあまつさえ死人しびとかざ腐付くさりついて此方こちらの体も壊出くずれだしそう。
しかし疫病えやみは日一日と益〻猛威をたくましゅうし、たおれる人間の数を知らず、それこそ本統ほんとう死人しびとの丘が町の真ん中に出来そうであった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「ビリーはそれにゃおあつれえ向きの男だったな。」とイズレールが言った。「『死人しびとは咬みつかず』ってやっこさんはよく言ってたっけ。 ...
両方は死人しびとの山を築いたんでは何にもならねえではないか、意地を張るというやつは、得てしてこんなもんだが、さあ、こいつはいけねえ。
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
傳「旦那もう過去ったから構わねえが、此の人が死人しびとと知らずに帯につかまって出ると、死人しにんが出たので到頭ぼくが割れて縛られてきました」
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
その周囲を、死人しびと色の青黒い、紫がかったお化粧でホノボノと隈取って、ダイヤのエース型の唇を純粋の日本紅で玉虫色に塗り籠めている……
二重心臓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「あの竹藪たけやぶは大変みごとだね。何だか死人しびとあぶら肥料こやしになって、ああ生々いきいき延びるような気がするじゃないか。ここにできるたけのこはきっとうまいよ」
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
生きた人を喰う上に、亜剌比亜夜話にある「ゴウル」の様に墓を掘って死人しびとを喰う。彼は死人を喰うが大好きである。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
太郎は、死人しびとのにおいが、鋭く鼻を打ったのに、驚いた。が、彼の心の中の死が、におったというわけではない。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
したって今さら何の意味もないじゃありませんか、みんなもう死んでしまってるんですからね。諺にも、死人しびとじゃ垣根にもならないというじゃありませんか。
オヤ、そう云えば、この死人しびとの顔はお嬢さんにそっくりじゃありませんか。エ、そうは思いませんかい
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
また昨日きのふ今日けふ新墓しんばか死人しびと墓衣はかぎくるまってかくれてゐよともはッしゃれ。いたばかりでも、つね身毛みのけ彌立よだったが、大事だいじみさをつるためなら、躊躇ちゅうちょせいで敢行してのけう。
「ま、後から聞きやしょう。死人しびとを前に置いて因果話いんがばなしもぞっとしねえ。それより——おい、彦。」
「気のせいだよ。死人しびとなんてものは、きれいなものさ。生きてる奴のほうが、よっぽど、きたねえ」
銀河まつり (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おまけに、その犬は、世間普通な犬の吠え方を知らないのか忘れるかしている。吠える声を聞くといつも遠吠えだ。死人しびとの魂を動物の本能が感じて恐怖するという遠吠えだ。
吠える (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
死人しびとのような紫色の顔をして、かつて見たこともないほどに恐怖の沈滞しているような冷やかな眼をしたラザルスの姿が、物凄い光りのなかに朦朧として浮き上がって来た。
それから私はさういふ形の雲を死人しびと観音と名づけてその影をみればすぐにかくれてしまつた。
銀の匙 (新字旧仮名) / 中勘助(著)
さなきだにあおざめて血色しき顔の夜目には死人しびとかと怪しまれるばかり。あまつさえ髪は乱れてほおにかかり、頬の肉やや落ちて、身体からだすこやかならぬと心に苦労多きとを示している。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「君達はポカンと口をけて何に見惚みとれてるんだね。僕は踊子でもなければ、死人しびとでも無いんだ。ちよい/\小説を書いて暮らす男が、何が面白くてそんなにきよろ/\するんだね。」
死人しびとにうちがあるか」と作次は云った、「おれは死んじまった人間だ、ここにいるおれは」と彼は右手で自分の胸を掴んだ、「このおれは、死骸しがいも同然なんだ、それがおめえにわかるか」
おさん (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
鏡の中には死人しびとのやうに蒼ずんだ女の老けた顔が大きく眼をみはつてゐる。
晩菊 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
そのとき、三千子の眼は、素早く或るものにそそがれた。それは、奥から番号札を押し出した変に黄色い手であった。それはまるで、蝋細工ろうざいくの手か、そうでなければ、死人しびとの手のようであった。
鬼仏洞事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
老婆はそれをゆびさして、「この死人しびとがその黒瀬ぬいでござんやす。」
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それは難有ありがとうございます。なぜと云うに、死人しびとなんぞに
れは知れた事だ。死人しびとわれんから鶴の方がい。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「この足袋を見給へ、宛然まるで死人しびとが穿いたやうだ。」
伊豆の旅 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
死人しびとのようなその顔の上にもつれかかっていた。
「もう一歩でも上ってみ給え。君の脳天を撃ち抜くよ! 死人しびとは咬みつかないはずだね。」と言い足して、私はくっくっと笑った。
車「こいにおいか干鰯の臭いかは在所の者は知ってるが、旦那今わし貴方あんたの荷が臭いと云った時、顔色が変った様子を見ると、此の中は死人しびとだねえ」
「城下に疫病えやみが出来ようぞ」「死人しびとで丘をつくろうぞ」こう唄った彼らの唄の言葉が心にかかってならないのであった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
生胆いきぎも取りだの死人しびと使い、奴隷売買、人殺し請負いナンテものは西洋人でなくちゃ出来ない仕事だと聞いておりましたがマッタクその通りだと思いましたナ。
悪魔祈祷書 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
まだここまでも、死人しびとのにおいは、伝わって来るが、戸口のかたわらに、暗い緑の葉をたれた枇杷びわがあって、その影がわずかながら、涼しく窓に落ちている。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
イヤ、化物ばかりならいいんだが、もっと気味の悪いものがあるって云いますよ。死人しびとですよ。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
かれが何十人かの剣団けんだんを案内して江戸へ戻る途中をようし、ひさかた振りに根限り腕をふるって一大修羅場に死人しびとの山を築いてくれよう——こういう気だから表面はしごくのんきだ。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
たたんで上げると、何ともいえない嫌な匂いがするので——オヤ、死人しびと臭い——とっかり云ったら、お師匠様が、きっと私を見て、黙っていろ、と恐い眼をしてこう仰っしゃったんですよ
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
兎も角も、お蔭さまで助かりますと、片肘かたひじに身を持たせて吸筒すいづつの紐をときにかかったが、ふッと中心を失って今は恩人の死骸の胸へ伏倒のめりかかった。如何にも死人しびとくさい匂がもうぷんと鼻に来る。
鏡の中には死人しびとのようにあおずんだ女のけた顔が大きく眼をみはっている。
晩菊 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
やあ、こいつは——川原いっぱいが死人しびとの山になるのだ、気の毒だなあ——
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
あるひ暑中しよちう葬禮さうれいのばして死人しびと腐敗ふはいするもあり。
改暦弁 (旧字旧仮名) / 福沢諭吉(著)
ところでね、実際のところ、己ぁいい事をしていい目に遭ったってこたぁまだ一度だってねえ。先に打ってかかる奴が己ぁ好きだ。死人しびとは咬みつかねえ。
己も仕様がないから賭博をめ、今じゃア人力車くるまを引いてるが、旦那貴方あんた何処どこのもんだか知んねえが、人を打殺ぶっころして金をり、其の死人しびとを持って来たなア
成程な、死人しびとの髪の毛を抜くと云う事は、何ぼう悪い事かも知れぬ。じゃが、ここにいる死人どもは、皆、そのくらいな事を、されてもいい人間ばかりだぞよ。
羅生門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
見れば、死人しびとの指には、一束の小さな紙札が握られている。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
死人しびとで丘をつくろうぞ」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
又「白痴たわけた奴だ、どうもそんな事を云って篦棒べらぼうめ、手前てめえどう云う訳で死人しびとだと云うのだ、失敬なことを云うな」
侍たちは、口々にののしりながら、早くも太刀たちを打ちかけようとする。もうこうなっては、逃げようとしても逃げられない。猪熊の爺の顔は、とうとう死人しびとのような色になった。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
死人しびとや、死人や」
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
……寺の坊主が前町の荒物屋の女房にょうぼうと悪いことをしやアがって、亭主を殺して堂の縁の下へ死人しびとを隠して置いたのさ、ところで其の死人に此奴こいつつかまって出たと云う可笑おかしい話だが
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
何うたって何うにもうにもひどい目にうたぜ、わしア縁の下に隠れて、うしてお前様死人しびととは知らぬから先に逃げた奴が隠れて居ると思うたから、其奴そいつの帯をつかんでちま/\と隠れて居ると
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)