東山ひがしやま)” の例文
私は毎日のように夕方になるとこの町に最後の別れをするために、清水きよみず辺りから阿弥陀あみだみねへかけての東山ひがしやまの高見へ上っていました。
蝶が飛ぶ 葉っぱが飛ぶ (新字新仮名) / 河井寛次郎(著)
「なる程、備前岡山は中国での京の都。名もそのままの東山ひがしやまあり。この朝日川あさひがわ恰度ちょうど加茂川かもがわ京橋きょうばし四条しじょう大橋おおはしという見立じゃな」
備前天一坊 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
今度やっとこさと法事に出掛けてきて、東山ひがしやま大雄寺だいゆうじ下の勘兵衛のうちに当分いるから遊びに来な、江戸の繁昌を話して聞かせてやらあ。
中山七里 二幕五場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
東山ひがしやま時分から高慢税を出すことが行われ出したが、初めは銀閣金閣の主人みずから税を出していたのだ。まことに殊勝の心がけの人だった。
骨董 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
新庄の町はずれに東山ひがしやまと呼ぶ窯場があります。美しい青味のある海鼠釉なまこぐすりを用いて土鍋どなべだとか湯通ゆどうしだとかかめだとかを焼きます。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
そう思うと、いくら都踊りや保津川下ほつがわくだりに未練があっても、便々と東山ひがしやまを眺めて、日を暮しているのは、気がとがめる。
西郷隆盛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そしてそれをみやこ四方しほう見晴みはらす東山ひがしやまのてっぺんにって行って、御所ごしょほうかおのむくようにててうずめました。これが将軍塚しょうぐんづかこりでございます。
田村将軍 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
すなわち山陽は『日本外史』を遺物として死んでしまって、骨は洛陽東山ひがしやまに葬ってありますけれども、『日本外史』から新日本国は生まれてきました。
後世への最大遺物 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
そしてうちの左の方は加茂川かもがはなのです。綺麗きれいな川なのですよ、白い石が充満いつぱいあつてね、銀のやうな水が流れて居るのです。東山ひがしやま西山にしやま北山きたやまも映ります。
私の生ひ立ち (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
今雄さんのお父さまは、ごん七さんといふ名で、東山ひがしやまの中ほどに、大きな家を建てて、瓦屋かはらやをしてゐました。
にらめつくらの鬼瓦 (新字旧仮名) / 沖野岩三郎(著)
二人ふたり毎晩まいばんやう三條さんでうとか四條しでうとかいふにぎやかなまちあるいた。ときによると京極きやうごくとほけた。はし眞中まんなかつて鴨川かもがはみづながめた。東山ひがしやまうへしづかなつきた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
古い都の京では、嵐山あらしやま東山ひがしやまなどを歩いてみたが、以前に遊んだときほどの感興も得られなかった。
蒼白い月 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
(わたくしが貼物はりものをしているあいだ、ここのお蒲団ふとんにすわって、お花見をしておいで遊ばせ。東山ひがしやま清水きよみずのあたりの山桜が、ここからちょうどよく眺められますから)
六月はじめのあさ日は鴨川かもがわの流れに落ちて、雨後の東山ひがしやまは青いというよりも黒く眠っている。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
これも夜火でございましたが、粟田あわた口の花頂青蓮院しょうれんいん、北は岡崎の元応寺までも延焼いたし、丈余の火柱が赤々と東山ひがしやまの空を焦がす有様はすさまじくも美麗な眺めでございました。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
四条通はあすこかと思った。八坂神社の赤い門。電燈の反射をうけてほのかに姿を見せている森。そんなものがいらか越しに見えた。夜の靄が遠くはぼかしていた。円山、それから東山ひがしやま
ある心の風景 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
尋けるに三條通りにありとをしゆるゆゑ即ち三條通りへ行き龜屋と云家にとまりしに祇園祭りとて見物人の相宿あひやど多く漸々八疊の間を二ツに仕切て其處へ落付未だ日も高ければ其日は東山ひがしやま邊を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
そのうちに、花が咲いたと云う消息が、都の人々の心を騒がし始めた。祇園ぎおん清水きよみず東山ひがしやま一帯の花がず開く、嵯峨さが北山きたやまの花がこれに続く。こうして都の春は、愈々いよいよ爛熟らんじゅくの色をすのであった。
藤十郎の恋 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
二人は毎晩のように三条とか四条とかいうにぎやかな町を歩いた。時によると京極きょうごくも通り抜けた。橋の真中に立って鴨川かもがわの水を眺めた。東山ひがしやまの上に出る静かな月を見た。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
またうしろをふりかえると御堂おどうの上にのしかかるようにそびえている東山ひがしやまのはるかのてっぺんに、くろしげったすぎ木立こだちがぬっとかおしているのをたにちがいありません。
田村将軍 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
これも夜火でございましたが、粟田あわた口の花頂青蓮院しょうれんいん、北は岡崎の元応寺までも延焼いたし、丈余の火柱が赤々と東山ひがしやまの空を焦がす有様はすさまじくも美麗な眺めでございました。
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
とこを見れば、東山ひがしやま名物でもありそうな名幅めいふくがかかっていた。花器を見れば、砧青磁きぬたせいじとおぼしき耳附みみつきびんに、ってけたばかりのような牡丹ぼたんのつぼみが笑みを割りかけている。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
我邦では東山ひがしやまの頃、玉澗ぎよくかんの八景の畫が珍重されて、それから八景々々といひ出されたのだが、その玉澗の八景が宋迪の八景から系統を引いたものであることも想像されるに難くない。
華厳滝 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
もなく躁狂さうきやうの芸者が帰つたので、座敷は急に静になつた。窓硝子ガラスの外をのぞいて見ると、広告の電燈の光が、川の水にうつつてゐる。空は曇つてゐるので、東山ひがしやまもどこにあるのだか、判然しない。
京都日記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
明日あすの朝まだきに、東山ひがしやまからがのぼるを出立しゅったつの時刻として、てんおかから桑名城くわなじょうへ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
夕立はすぐあがって、松や梧葉ごように夕陽が染まり、東山ひがしやまの空には、夕虹ゆうにじがかかった。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
東山ひがしやまに、金色こんじきくもがゆるぎだした。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)