易々やすやす)” の例文
苗代川は現実の世から見ればまさに夢の国だとも思える。進歩を誇る吾々に易々やすやすいものが出来にくいのと何たる対比であろうか。
苗代川の黒物 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
それを道庵が出て易々やすやすと解決をつけてしまったから、今まで黒山のように人だかりしていた連中が、ここで一度にどっ喝采かっさいしました。
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
だが、易々やすやすと斬り得る足もとの敗者を斬らずに前髪の美少年は、身をかわしたはずみにはずみを加えて、ぶうんと横側の敵へ当って来た。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
はゝゝゝゝ、大丈夫だよ。人間はそう易々やすやすとは、死なないよ。いや待っていたまえ。今に、泣きを入れに来るよ。なに、先方が泣きを
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
今の彼女は倶係震卦教ぐけいしんけきょうの、立派な体得者であるのだから、尺地術を念じ行いさえすれば、易々やすやすとして木曽へ帰って行くことが出来た。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
如何に天才でも非凡人でもこう易々やすやすとトントン拍子に成上ると勢い矜驕きょうきょうとなり有頂天うちょうてんとなるは人間の免かるべからざる弱点である。
美妙斎美妙 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
三郎兵衛、何をろうとするのであろう? 広海屋のいのちを狙うに相違ないが、まさか、易々やすやすと、あの剛腹ごうふくな男を殺すことは出来まい。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
そんな大事件が、自分の一挙手によって、易々やすやすと実現出来るのだ。それを思うと、私は、不思議な得意を感じないではいられませんでした。
人間椅子 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
きっと、これには事情があるのだろう。ただ心境の変化、電撃的翻意くらいで、そう易々やすやすと片付けられるものではあるまい。
人外魔境:10 地軸二万哩 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
俺は自分の持物のようにリュックを易々やすやすかすめていたのだ。これはどういうことだろう。そう思うと俺はちょっと惑乱した。
(新字新仮名) / 梅崎春生(著)
こう易々やすやすと、敵軍のため、自国領土内へ侵入されるなんて、予想もしなかったことだ。わがスパイ局の連中は、一体なにをしていたのだろう。
二、〇〇〇年戦争 (新字新仮名) / 海野十三(著)
空もみちも暗かった。三人はポルタ・ヌオバの門番にまいないして易々やすやすと門を出た。門を出るとウムブリヤの平野は真暗に遠く広く眼の前にひらわたった。
クララの出家 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
大事件が人の知らない間に案外易々やすやすと仕遂げられた例はこれまでにもしばしばあるので、検視の役人たちもその点にはさのみ疑いを置かなかった。
半七捕物帳:36 冬の金魚 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
だが、彼女だって、そう易々やすやすと玉島の家の中には這入れないだろう。殊に女の事だ。玉島に組み伏せられたかも知れない。どうかそうあって呉れ!
罠に掛った人 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
石コロだらけの急坂を辿たどっておられ、その間に土居先生は易々やすやすと先廻りして第一着に歌川家へ戻られたのでありました。
不連続殺人事件 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
ところが、そういう訳だったから、私の小さな軽いボートが易々やすやすと安全に波に乗ってゆく有様は驚くべきものだった。
泥棒の入ったのは、南の縁側、わずかばかりのすきからのこぎりを入れて、かなり大きい穴を二つまで開けた上、輪鍵わかぎさん易々やすやすと外したことはよくわかります。
と招き寄せると、不思議やすくんで石のようになっていた筈の馬が、今は易々やすやすと動き出して直ぐに王の傍へ来た。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
ヘラクレスの十二の仕事は、わたしの隣人たちがくわだてているそれらにくらべると易々やすやすたるものである。前者は十二だけであって、やがて終わりになる。
見よ! 今こそ世界的の発明、驚くべき潜水艦C・C・Dは、動き出した、この潜水艦ひとつあれば、どんな国と戦争しても易々やすやすと勝つことができるのだ。
骸骨島の大冒険 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
いとも易々やすやすと、一つの美しき魂を奪去うばいさった「犯人」の手ぎわには、嫉妬に似たおそろしさを覚えるのであった。
鱗粉 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
八雲が易々やすやすとしてそう解し去ったのは、何かその意味を補うだけの前提があったものと見なければならない。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
そしていかにも易々やすやすあししたみずけて、見事みごとおよまわるのでした。そしてあのぶきりょうな子家鴨こあひるもみんなと一緒いっしょみずに入り、一緒いっしょおよいでいました。
いずくんぞ知らん、芥川はこの「つまり」を掴みたくて血まなこになって追いかけ追いかけ、はては、看護婦、子守娘にさえ易々やすやすとできる毒薬自殺をしてしまった。
巨人佐柄木に易々やすやす小腋こわきに抱えられてしまったのだ。手を振り足を振るが巨人は知らん顔をしている。
いのちの初夜 (新字新仮名) / 北条民雄(著)
そう言う皮膚は、あんなに易々やすやすと傷口の周囲までまくれてしまうものかね? 僕はそう思えないんだ。
カンカン虫殺人事件 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
『商売は儲かる』という人は、売上げから元値を引けば、後はそっくりそのまま利益として残るものとでも見るのであろうが、商売はそんなに易々やすやすとは行われていない。
どうして、あんなに易々やすやすと人間を殺し得るのだろう! どうして、あの男が殺されなければならないのだろう! そんなにまでしてロシア人と戦争をしなければならないのか!
(新字新仮名) / 黒島伝治(著)
けれども私の心配なのは、あの強情な、ことに私に対してはしお強硬になりたがる彼女が、仮に証拠を突きつけたとしても、そう易々やすやすと私に頭を下げるだろうかと云うことでした。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
この近所きんじょ揚弓場ようきゅうばねえさんなららねえこと、かりにもおまえさん、江戸えどばん評判ひょうばんのあるおせんでげすぜ。いくら若旦那わかだんな御威勢ごいせいでも、こればッかりは、そう易々やすやすたァいきますまいて
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
もがくだけ無駄で、童伊がいけねえっと近よってきた時には、早くも数間流されていた。着物ごとぬれると、犬ころよりもみじめだった。童伊は水の中で易々やすやすと大人をおぶることが出来た。
蕎麦の花の頃 (新字新仮名) / 李孝石(著)
しかし、素人はだますことができても、専門家はそう易々やすやすとはだまされない。
或る探訪記者の話 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
「僕は知っている、知っているよ。去年も君たちと一緒に来たことがあるからな。僕らはこの病院を検閲したんだよ。僕は何もかもすっかり知ってるんだから、そう易々やすやすとはだまされんぞ。」
たかが船長つきのボーイではないか、お茶を運んだり、靴を磨いたり、寝台の毛布をたたんだりする役目のボーイが、この千五百トン級の汽船を、海賊たちから易々やすやすと、奪うことが出来るものか。
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
見す/\敵本てきほんと分っていても、理の当然で何うも仕方がない。同じことならばと思って、到頭快く引き受けてやった。たまには先方むこうの言い分を易々やすやすと通して置かないと後から口を利けないからね
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
文麻呂様のような負けず嫌いのお方が、そのように夢中になられた造麻呂みやつこまろの娘を、大納言様なぞのために、どうしてそう易々やすやすあきらめてしまう気になったのだろうと云うことなのでございます。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
大体京都に都が定められたのは嵯峨天皇の御時であって、もう既に四百余年も経っているのであるから、何か特別の事情の無い限りはそう易々やすやすと都を改める等と云う事はあるべからざる事なのである。
現代語訳 方丈記 (新字新仮名) / 鴨長明(著)
易々やすやすと門を明けることは、勅命にもそむく事であり、と言って、年来、信仰して居ります山王様に弓矢をひいたとあっては、どのような罰を蒙ります事やら、弓矢の道も捨てねばならぬ次第ともなり
この小さい屋根の下には、これまでかわがわる、𨿸、兎、豚がすんでいたのだが、今はからっぽで、休暇中は、いっさいの所有権をにんじんが独占している。彼は易々やすやすとそこへはいり込むことができる。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
「市の字を、連れて来るッたって、お袖さんのいうように、そう易々やすやすとゆくものじゃアねえ。やり損なったら、あぶないものだ」
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
懺悔の重さに耐えかねてのたうち廻わっている心持ちが、うぬのような偽善者に易々やすやす解って堪まるものか。俺はお前と反対なのだ。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それにしても、余りの金高かねだかである。いくら可愛い子供の為とはいえ、易々やすやすと渡すのは、少し変だ。相手の男が果して信用して受取るであろうか。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
成功を信じていたとすれば、山際の無邪気さもいささかナンセンスであるが、しかし何よりフシギなのは、易々やすやすと強奪された三人のダンナ方である。
ゆえに、男湯の方の感電を計画し、またそれを遂行すいこうするための技術上の操作は、十分間も要さずに易々やすやすと行われた。
電気風呂の怪死事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
黒物は救われる約束のもとで作られているのである。誰が作ろうと、何が出来ようと、何時いつこしらえようと、そこに易々やすやすと美しさが現れるのに不思議はない。
苗代川の黒物 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
米友はついにこらえ兼ねて、その杖を塀のところに立てかけて、それに足をかけて飛び上りました。天性の敏捷な米友は易々やすやすと塀を乗り越えてしまいました。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
昨日きのうは、不当な大金を、お菓子をもらう子供のように、易々やすやすともらってしまい、もらった後で、相当考えてみたが、準之助氏の気持が、順逆いずれにもせよ
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「それが貴女はそう軽く云うけれども、真実というものはそう易々やすやすと口にできないばあいもありますからね」
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「そう言えばそうですが、易々やすやすと御金蔵へ入るのは、係り役人の外には出来ないはずじゃございませんか」
したがって、天晴あっぱれの気性者。その上、身の働きの素早さは、言語に絶し、目から鼻へ抜けるような鋭い機智で、どんな場合にも、易々やすやすと、危難のふちを乗り切るのだ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)