旗幟きし)” の例文
だが、そうしてようやく内治が調ととのったと思うと、こんどは国外からの圧迫がひしひしと、この一小国にも、旗幟きしの鮮明をうながして来た。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それが立ち直ったのだから、『千載集』の復古主義は非常に力の強い、旗幟きし鮮明な運動であったことを承知しなければならない。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
さきに海外に亡命していた孫文そんぶんは、すでにその政治綱領「三民主義」を完成し、これを支那革命の旗幟きしとして国内の同志を指導し
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
水戸の祖法護持的な、大藩主の改良主義的なスローガン「尊王攘夷」は、領主の旗幟きしいかんに関せず、各藩士の間で生命がけの実を結んだ。
尊攘戦略史 (新字新仮名) / 服部之総(著)
後又、北はさいを出でゝ元の遺族を破り、南は雲南うんなんを征して蛮を平らげ、あるい陝西せんせいに、或はしょくに、旗幟きしの向う所、つねに功を成す。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
全軍一斉に銃射を開始し、喊声かんせいとどろかし、旗幟きしを振って進撃の気勢を示した。水軍も亦船列を整えてかね、太鼓を鳴らして陸上に迫らんとした。
小田原陣 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
人世じんせいの複雑なる事実を取り来りてかくまでに詠みこなすこと、蕪村が一大俳家として芭蕉以外に一旗幟きしを立てたる所以ゆえんなり。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
彼等が第一次革命の旗幟きしとした憲法の制定、国民議会の召集にすら、各自に異をてて何時いつ定まるとも果しが着かない。
英仏両派の論陣はその旗幟きし甚だ鮮明で、イギリス法学者は殆んど皆な延期論を主張し、これに対してフランス法学者は殆んど皆な断行論であった。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
後年フランス楽壇に大きな旗幟きしひるがえした、ダンディ、ショーソン、デュパルク、ロパルツ、ピエルネ、ヴィダール、シャピュイの巨星が網羅され
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
水蔭すいいん乙羽おとわ柳浪りゅうろうやその他の面々は硯友社の旗幟きしが振ってから後に加盟したので、各々一、二年乃至数年遅れていた。
されば西南戦争の鎮定とともに彼らはその旗幟きしを撤して、また前日のごとく危言激論をさざるに至れり。
近時政論考 (新字新仮名) / 陸羯南(著)
この際唯一ゆいいつの手段として「しかし」をもう一遍かえす「しかし……今度の土曜は天気でしょうか」旗幟きしの鮮明ならざることおびただしい誰に聞いたって、そんな事が分るものか
自転車日記 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかし、これを旗幟きしとして行動する生活慾——この宗教には、貪婪どんらんな悪魔が牙を隠している。
二十歳のエチュード (新字新仮名) / 原口統三(著)
当時文風はなはだ盛ニシテ、名士くびすヲ接シテ壇坫だんてんヅ。旗幟きし林立スルコト雲ノ如シ。頼三樹兄弟、池内陶所いけうちとうしょ、藤本鉄石ノ諸人皆ともニ交ヲ訂ス。詩酒徴逐スルゴトニほしいままニ古今ヲ談ズ。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
それを旗幟きしにした作家もかなりに出た中でも、メイテルリンクは其チヤンピオンのやうな形の歓迎を受た。白耳義ベルギーの若い作家の群の中には、ロオデンバハなどゝいふ作家もゐる。
小説新論 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
如何なる時代に於ても少数者は常に偉大なる思想と自由の旗幟きしを真先に翻がへすのである。鉛の如く縛されたる群衆は何事をもなし得ない。この事実は露西亜ロシアに於て最も力強く証明せられた。
少数と多数 (新字旧仮名) / エマ・ゴールドマン(著)
EとT氏とはいろんな点で従来は深いつながりを持つてゐたが此の五六年Eのアナーキストとしての旗幟きしが鮮明になると同時に思想的にも、感情的にも二人は折れ会ふ事が出来なくなつてゐた。
監獄挿話 面会人控所 (新字旧仮名) / 伊藤野枝(著)
子路は二人を相手にはげしく斬り結ぶ。往年の勇者子路も、しかし、年には勝てぬ。次第に疲労ひろうが加わり、呼吸が乱れる。子路の旗色の悪いのを見た群集は、この時ようやく旗幟きしを明らかにした。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
また遂に勤王の旗幟きしあきらかにする時期の早きを致すことが出来なかった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
奇なるかな一は侠勇を尊び、一は艶美をたふとびて、各自特異の旗幟きしてたるや。その始めは、共に至粋の宿れるなり、だ一は之を侠勇に形成し、一は之を艶美(所謂粋)に形成したるの別あるのみ。
徳川氏時代の平民的理想 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
旗幟きし頗る鮮明だった。何にしても次の日曜に星野さんが
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
この旗幟きしの下に児童を動員する。
日本的童話の提唱 (新字新仮名) / 小川未明(著)
だが、次第に近づくに従って、ようやく旗幟きしがはっきり分った。関羽が、それと答えた時には、従う兵らも口々に云い交わしていた。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すなわち兵を率いて滹沱こだを渡り、旗幟きしを張り、火炬かきょを挙げ、おおいに軍容をさかんにして安と戦う。安の軍敗れ、安かえって真定に走る。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
し慶喜が本当に肚を据ゑて、佐幕派の藩士を集めて、反薩長の旗幟きしを掲げてつたならばどうであつたであらうか。
二千六百年史抄 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
勧善懲悪の旧旗幟きしを撞砕した坪内氏の大斧は小説其物の内容に対する世人の見解を多少新たにしたが、文人其者を見る眼を少しも変える事が出来なかった。
ところが写実主義というものは別に旗幟きしひるがえして浪漫派のむこうを張ってるんだから
創作家の態度 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「まあ然うだは旗幟きし鮮明を欠いているね」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
あわただしい退がいかれて、勝政の麾下は、それぞれの旗幟きしと組頭の行くを目あてに、堀切の崖を、道も選ばずじ登り出した。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
紅露は相対塁あいたいるいして互にを称し、鴎外おうがい千朶せんだ山房に群賢を集めて獅子吼ししくし、逍遥は門下の才俊を率いて早稲田に威武を張り、樗牛ちょぎゅうは新たにって旗幟きしを振い
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
どっちか片づけて旗幟きしを鮮明にしなければ済まないように見えるかも知れませんが、そう見えてはかえって迷惑なので、すでに誤解を防ぐためカロリーネの例や馬琴の例をひいて
創作家の態度 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
例の、源氏相伝そうでんの白旗も高々とひるがえされ、ここに初めて、時の世上へむかっての、足利家の“旗幟きし”はあきらかにされたのだった。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
果然、万年上田かずとしうえだ博士が帰朝して赤門派が崛起くっきすると硯友社の勢威が幾分か薄くなった。続いて早稲田派が新旗幟きしを建つるにいたって、硯友社はた更に幾分か勢力を削がれた。
「第一に自由、夫から統一」といふ叫び声を無意味なものとして聞き流した彼は、「第一に国家の権利、夫から国家」といふ旗幟きしを無遠慮に押し立てた。さうして其国家は即ち普魯西である。
点頭録 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
さるこくからとり下刻げこくまで、わずかまだ一刻半(三時間)のあいだでしかない。野に満ちていた味方の旗幟きしは、いずれへついえ去ったのか。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『我楽多文庫』の基礎がマダ固まらないうちに美妙が『都之花』にはしって別に一旗幟きしを建て
美妙斎美妙 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
時刻は、この頃、すでにこく(十時)——。敵の旗幟きしが目のまえの山々に見え出してから、はやくも二時間ちかく経過している。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
独逸から帰朝して以来は終に全くお伽噺に没頭し、著述以外に講演をも初めて通俗教育の旗幟きしを建て、博文館を引退してからは文壇よりもむしろ教育界に近い人となってしまった。
のみならず旗幟きし甚だととのわず、わけて援軍の織田勢には、戦意のないこと明らかです。機をはずさずおかかりあれば、勝算は歴々
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私は、それの一因として、劉玄徳以来、蜀軍の戦争目標として唱えて来た所の「漢朝復興」という旗幟きしが、果たして適当であったかどうか。
三国志:12 篇外余録 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
寄手は日ましにさかんな旗幟きしを加え出した。逃亡天皇の追捕と聞く大きな功名心のまとも彼らの眠っていた野望をふるわせたにちがいない。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「今や、曹丞相のお下知によって乱賊馬軍の征伐にくだる。生命いのちを保ちたいと願うならば、中央政府の旗幟きしのもとに拝跪はいきせよ」
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
舳艫じくろをそろえて、摂津の沿岸に上陸して来たら、ひとり荒木や高山や中川清秀にとどまらず、彼方此方に、離反の旗幟きしをかざす者が相継いで
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
高俅こうきゅうは、禁門八十万軍の軍簿ぐんぼを検して、部班ぶはんの諸大将から、旗幟きしや騎歩兵を点呼するため、これを汴城べんじょうの大練兵場にあつめたが、その日、彼は
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
関上遥けき一天を望むと、錦繍きんしゅう大旆たいはいやら無数の旗幟きしが、颯々さっさつとひるがえっている所に、青羅の傘蓋さんがい揺々ようようと風に従って雲か虹のように見えた。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
官兵衛孝高がその地の惣社大明神そうしゃだいみょうじんに七日間のみそぎをとって、神前に新しい旗幟きしをたてならべ、神酒みきをささげ、のりとを奉じ、家士一統、潔斎けっさいして
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
旗幟きしをひるがえし、許都へ攻めのぼろうと企てていた一軍は、その張済のおいにあたる張繍ちょうしゅうという人物を中心としていた。
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
直義の指揮下に、全軍は前へ押しすすめられ、佐々木方の旗幟きしも兵の影も望まれる松尾山、不破の真下へと迫りかける。
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そしてもう指呼しこのうちに見える敵今川の四万の布陣と、その気勢を見るべく、しばらくの間、旗幟きしをかくして、峰の一端から形勢を展望していた。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)