旌旗せいき)” の例文
荊州の城を訪うてみると、旌旗せいきも軍隊も街の声も、今はすべて玄徳色にいろどられている。——ああと、魯粛は嘆ぜさるを得なかった。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それに、双方とも長い旌旗せいきを持っているのですが、僕は最初、それを旌旗の入れ違いから推断して、犯人の殺人宣言と解釈したのです。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
旌旗せいきから輜重駄馬しちょうだばまでがそれにかなっているとの風評には一藩のものは皆顔色を失ってしまった。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
三国志流にいえば旌旗せいき林の如く風に飜って喊声かんせい天地に震うというようなすさまじい勢いだった。
国芳は武者奮闘の戦場を描き美麗なる甲冑かっちゅう槍剣そうけん旌旗せいきの紛雑を極写きょくしゃして人目を眩惑げんわくせしめぬ。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
信条は異論に対し、他派に対し、同一普通の信仰を有する一隊が敵と味方と朋友とを区別せんが為めの旌旗せいきなり。是れなかつせば以て精神界に出でゝ統制一致の運動をす能はず。
信仰個条なかるべからず (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
其ノ荊州けいしゆうヲ破リ、江陵ヲ下リ、流レニしたがツテ東スルヤ、舳艫じくろ千里、旌旗せいき空ヲおほフ、酒ヲソソイデ江ニのぞミ、ほこヲ横タヘテ詩ヲ賦ス、マコトニ一世ノ雄ナリ、而シテ今いづクニカ在ル哉
大菩薩峠:27 鈴慕の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
衆およそ三万五千、馬匹ばひつ千三百、旌旗せいき天をおおい、鼓声こせい地に震う。一藩の政、その利害の及ぶ所小、故にややもすれば改革行われやすし。一天下の政、その利害の及ぶ所大、故に較れば行われ難し。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
それで旌旗せいきを授け、諸将にふれて従前以上の権力をもたせ、浅野弾正と共に渡海せしめた。そこで二人は釜山に到着、東莱の宿舎に落付く。囲碁事件の起つたのは、この時のことであつた。
二流の人 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
さて、一方、ことごとく漢陣の旌旗せいきを倒しこれをって地中に埋めたのち、武器兵車等の敵に利用されうるおそれのあるものも皆打毀うちこわした。夜半、して兵を起こした。軍鼓ぐんこの音もさんとして響かぬ。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
軍皷の調しらべ旌旗せいきとどよもし
新頌 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
ここは山城の綴喜郡つづきごおり河内かわち交野郡かたのごおりとの境をなす峠路である。光秀は旌旗せいきを立てて、終日ひねもす、何ものかをこの国境に待ちうけていた。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いずれも手に旌旗せいき旆棒はたぼうを握っていて、尖頭から垂れている二様の綴織ツルネーが、画面の上方で密着していた。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
風雲惨澹として旌旗せいきを捲く 仇讎きゆうしゆう勦滅そうめつするは此時に在り 質を二君にゆだと恥づる所 身を故主こしゆうに殉ずるあに悲しむをたん 生前の功は未だ麟閣りんかくのぼらず 死後の名は先づ豹皮ひようひ
八犬伝談余 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
堂木山の北方を迂廻して来た木村隼人佑の旌旗せいきが、早くも行くての道を遮断して包囲して来たので、再び散々に潰乱かいらんしてしまった。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
つまり、小胆で迷信深い犯人は、一度苦い経験を踏んで、たしかおびやかされたに違いありません。ですから、昨夜はこっそり甲冑武者を担ぎ上げて、二りゅう旌旗せいきで問題の部分を隠したと云う訳なんですよ。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
怪しんでなおよく見ると、峰の頂上に、やや平らな所があり、そこに一群の旌旗せいきを立て、傘蓋さんがいを開いて対座している人影がある。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
旌旗せいき色なく、人馬声なく、蜀山の羊腸ようちょうたる道を哀々あいあいと行くものは、五丈原頭のうらみを霊車にして、むなしく成都へ帰る蜀軍の列だった。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だから自分が、勝名乗りを揚げるためにも、誰よりも真っ先に敵方の旌旗せいきであるところの大将首をまず先に挙げておく必要があったのだ。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
両軍は祁山きざんの前に陣を張った。山野の春は浅く、陽は澄み、彼我ひが旌旗せいき鎧甲がいこうはけむりかがやいて、天下の壮観といえる対陣だった。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
望楼ぼうろうへ上って、東の方を見ると、北陸街道に沿う脇本の辺に、羽柴方の一軍が早や旌旗せいきを現わして来た、と告げるのであった。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
仰げば、蜀の旌旗せいきばかりではないか。城頭には蜀の大将魏延ぎえんが、射よ射よと声をからして、乱箭らんせんを励ましている姿も見える。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
夜が白みかけると、城外の馬揃いの広場には、すでに、約一万四、五千の兵馬と旌旗せいきが、朝霧の底に、しゅくとして濡れていた。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
果たせるかな、大小の敵の旌旗せいきが吹きなびいている城壁上の一角——西門の上あたりに一りゅうの白い大旗がひるがえっていた。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
陳宮のいった通り、城頭にはもう敵の旌旗せいき翩翻へんぽんとみえる。——そして呂布来れりと聞くとそこの高櫓たかやぐらへ登った陳登が、声高に笑っていった。
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それから玄徳は矢倉へのぼって、敵陣を瞰望かんぼうしていた。すると、麓の近くに、静かなこと林のような一群の旌旗せいきが見える。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
天下の府、枢廟すうびょうへいや今きわまる。よろしく公明の旌旗せいきを林集し、正大の雲会を遂げ、もって、昭々しょうしょう日月の下に万代の革政を諸公と共に正さん。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
の声が各所に聞え、みだれはしる馬、士気なき旌旗せいき、草ぼこり蹴だてて退く荷駄、歩卒などの崩れが、嶺道みねみちを、西へ、約二十町も、急退していた。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なぜならば、謙信のひきいてゆく旌旗せいきは、犀、千曲の二大河をこえ、城から約一里ほど東南の妻女山さいじょさんったからである。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
各〻も知るがごとく、信玄の戦ぶりは、つねに重厚ちょうこうに軍をたたみ、深く内にひそんで、旌旗せいきをうごかすや敏、転ずるや速。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
河水をわたる風は白く、蕭々しょうしょうと鳴るは蘆荻ろてき翩々へんぺんとはためくは両陣の旌旗せいき。——その間一すじの矢も飛ばなかった。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
といわぬばかり、無数の旌旗せいきを植えならべて、陣々、鮮やかにその旗印はたじるしをさえ敵の目に見せつけて来たのであった。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
高松山の一きゅうには、徳川方の旌旗せいきが満ちている。大久保七郎右衛門、同苗どうみょう治左衛門の兄弟も、その中に陣していた。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
信玄に死なれて、一時に気を落とし、甲山峡水こうざんきょうすいの勇猛も、すっかり旌旗せいきの色がせたようだ——といわれただけでも、信玄の存在はやはり大きかった。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし、すでにその先手も中軍も、関内へ到着して、この日、城頭には、新たな旌旗せいきが目ざましく加わっていた。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それに旌旗せいきや刀槍のきらめきが満載されているので、その壮大華麗は水天に映じ、言語を絶するばかりである。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かがやく戦捷せんしょうの入城だ。将士は旌旗せいきを正してつつしみ迎えた。信孝は馬を降りて全軍堵列とれつのあいだを通った。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかしそれは“新手あらてがわり”の扇開陣かと見えもする。——蜘蛛くもの子と散ったうしろ側の二段の陣には、旌旗せいき、弓列、霜のごとき矛隊ほこたいが、厳然として控えていた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
旌旗せいき、兵馬、十万の精鋭は、無数の船にのり分れて、江上を打渡り、黄河の対岸へ攻め上って行った。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こういう間に、士気いよいよ高い蜀の大軍は、猇亭こていから川口にいたる広大な地域に、四十余ヵ所の陣屋と壕塁ごうるいを築き、昼は旌旗せいきくもまがい、夜は篝火かがりびに天を焦がしていた。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
咄嗟とっさ気転きてんで、城中の森、うしろの山、いたる所に、ありったけの旌旗せいきを立てて、気勢を示した。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「わが目には、列臣の勲爵くんしゃくも、うらやましい物でなく、禁軍八百万の旌旗せいきといえど、物の数ではない」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
手をかざして望むと夏侯惇、夏侯淵の二軍は、鳥雲の陣をしいて旌旗せいきしずかに野に沈んでいた。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
亀山を離れた軍馬のながれ、旌旗せいきの列は、前後して、続々とこの一地点に集まったのである。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
燦々さんさんと、その旌旗せいきよろいかぶとに旭光きょっこうがきらめいて、群集は眼もくらむような心地に打たれた。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
吉浜村よしはまむらへ出る谷間道をへだてて、平家方は、星山の峰つづき一帯を陣地として、翩翻へんぽんと、旌旗せいきをたてならべた。遠目にも白くきらめくのは、その間を歩く長刀なぎなたや太刀などであろう。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あれ、御覧ごろうぜられい。かきの外はいうに及ばず、諏訪すわ一帯は申すもおろか、年来われらの骨折って来たかいあって、いまや甲信すべてお味方の旌旗せいきに埋まっているではありませんか。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「徐晃みずから来るとあれば、敵にとって不足はない」と、精兵三千を引き具して城門を出、地の利をとって陣列を展開し、鼓をそろえて鉦を鳴らし、旌旗せいき天を震うの概があった。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
きょうの夜明けとともに、この山には小早川隆景たかかげ旌旗せいきが無数に見出された。おそらく夜のうちに着いて陣営をいたものであろう。ここの兵力だけでも二万は下るまいと察しられる。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
虎賁こほんの軍隊三十余万が、旌旗せいき旆旛はいばんを林立して、台下に立ちならび、このほか匈奴きょうどの黒童や化外かがいの人々も、およそ位階あり王府に仕えるものはこぞって、この祭典を仰ぐの光栄に浴した。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)