摩擦まさつ)” の例文
彼女は、私を洗面臺に引つぱつていつて、石鹸と水とかたいタオルをとつて、無慈悲に、だけど幸ひにも簡單に、顏と手を摩擦まさつした。
利助の左の手が女の丸い肩に掛ると、右手に持つた濡れ手拭が、恐ろしい勢ひで女の背から、肩から、腕を摩擦まさつし始めました。
厘錢りんせん黄銅くわうどう地色ぢいろがぴか/\とひかるまで摩擦まさつされてあつた。どつぺをいたのがさらおやになつて一ごとにどつぺはいてつなへつける。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
こういう無慈悲な摩擦まさつを伴いながら、資本主義というものは大きな社会化された組織・独占の段階に進んで行くものなのだ。
工場細胞 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
また織田家の宿将とのあいだにも、かりそめに摩擦まさつを起さない。分を知って野望をあらわさず、よく内に蓄えて、同盟国に危うさを気労きづかわせない。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その酸乳を長い桶の内に入れその上へ少しばかり微温湯ぬるまゆを入れて、そうして棒の先に円い蓋の付いたもので上げたり下げたりして充分摩擦まさつすると
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
其所そこ叮嚀ていねいみがいた。かれ歯並はならびいのを常に嬉しく思つてゐる。はだいで綺麗きれいむね摩擦まさつした。かれ皮膚ひふにはこまやかな一種の光沢つやがある。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
未開人の發火法はつくわはうに二大別有り。一は摩擦まさつ利用りようにして、一は急激きうげきなる衝突しやうとつ利用りようなり。木と木の摩擦まさつも火を生じ、石と石或は石と金の衝突しやうとつも火を生ず。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
決して真直まっすぐに進行しませんで、廻転するものですが、その廻転性を利用して、一種の摩擦まさつ電気を作るんですなあ。
こういう不可逆的イルレバーシブルな現象は、摩擦まさつが主な役割を演じている場合に限るので、これは大変面白い現象なんです。一つ断層の研究を始めようじゃありませんか
腰膚ぬいで冷水摩擦まさつをやる。日露戦争の余炎がまださめぬ頃で、めん籠手こてかついで朝稽古から帰って来る村の若者が「冷たいでしょう」と挨拶することもあった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
それは時間中じかんちゅうに、砂場すなば採取さいしゅしてきた砂鉄さてつかみうえにのせて、磁石じしゃくかみうら摩擦まさつしながら、すなをぴょんぴょんとおどらせていたのを、先生せんせいつかったからです。
二少年の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
われわれにとってはむろんだが、塾生たちにとっても、こうした摩擦まさつは決して無意味ではない。どうせ将来は、もっと大きなスケールで経なければならない試練だからね。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
とてもこのままでこれ以上奥畑の眼や世間の眼を胡麻化ごまかして行くことはむずかしいから、いっそ各方面との摩擦まさつを覚悟の上で、一日も早く結婚してしまおう、と云う方へ
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
兵隊の失敗、文化人との摩擦まさつなど遠く離れて眺めていて、自分の直接の責任にならないばかりか、改めて己れの命令によって修正したり禁令したり、失敗まで利用している。
家康 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
ゴム靴のそこのざりざりの摩擦まさつがはっきり知れる。滑らない。大丈夫だいじょうぶだ。さらさら水がちている。靴はビチャビチャっている。みんないい。それにみんなは後からついて来る。
台川 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
メリーは注射針を刺された瞬間、「キャン。」と一声悲鳴をあげたが、あとは薬液やくえきを注入しおわるまでじっとしていた。獣医は注射をした跡をアルコールをしめした綿でかるく摩擦まさつした。
犬の生活 (新字新仮名) / 小山清(著)
場所はまだ下町の中央に未練があって、毎日、その方面へ探しに行くらしかった。帰って来たときの疎髯そぜんを貯えた父の立派な顔が都会の紅塵こうじん摩擦まさつされた興奮と、つかれとで、異様にゆがんで見えた。
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
大霧をるよと見る間に、急瀬きふらい上下に乱流する如くなりて、中霄ちゆうせうあふれ、片々団々だん/\さかれて飛んで細かく分裂するや、シヤボン球の如き小薄膜となり、球々相摩擦まさつして、争ひて下界に下る、三合四合
霧の不二、月の不二 (新字旧仮名) / 小島烏水(著)
相剋そうこく摩擦まさつなしに自然に成立する。
政治学入門 (新字新仮名) / 矢部貞治(著)
與吉よきち繃帶ほうたいをしてから疼痛いたみもとれた。繃帶ほうたいまた直接ちよくせつものとの摩擦まさつふせいで、かれこゝろよく村落むらうち彷徨さまよはせた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「いや、そうなんだ。火星の上では、重力が地球の場合の約三分の一しかないんだ。だから摩擦まさつも三分の一しかないから、えらくスピードが出てしまうんだ」
火星探険 (新字新仮名) / 海野十三(著)
時にきわどい摩擦まさつを起こすし、全戦局をあやまるような危険もなしとはしないが、さりとて、この気魄きはくもないような気魄では、敵と相見あいまみえても、直ちに、霊魂そのものとなって
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのまま、こいつあ困った、このまま死ぬのじゃないか知らんという考えを起したです。どうもして見ようがない。それからまあどうやらこうやら出来るだけ自分で摩擦まさつをした。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
「そう言われるとつらいが、それもしかたがない。やはり時勢には勝てないよ。今は無益な摩擦まさつの原因を作るより、なごやかな愛情を育てるために、できるだけの手段を講ずべきだね。」
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
お延の頭に描き出されたその稽古は、不幸にして女をくするものではなかった。しかし女を鋭敏にするものであった。悪く摩擦まさつするには相違なかった。しかし怜悧れいりすますものであった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そのときあちこちの氷山に、大循環到着者とうちゃくしゃはこの附近ふきんおいて数日間休養すべし、帰路は各人の任意なるも障碍しょうがいは来路に倍するをもっ充分じゅうぶん覚悟かくごを要す。海洋は摩擦まさつ少きもかえって速度は大ならず。
風野又三郎 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
それはこのジャンガラ星は重力が非常に小さい星であるために、摩擦まさつもまた小さく、したがって地球の上を歩くような力の入れかたをしたのでは、すぐ滑ってしまうのだ。
宇宙の迷子 (新字新仮名) / 海野十三(著)
早速羊を石にくくり付けて自分はまた自分の手で出来るだけ身体を摩擦まさつして暖気を取りました。で一時間ばかりもそんな事をして費やしたですがその川の広さはちょうど一町半ばかりある。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
若い自負心と自負心とが、触れるとすぐ摩擦まさつを起そうとするのであった。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「さけ得られる摩擦まさつはなるだけさけたいと思っていますが……。」
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
空気の摩擦まさつがはげしくなって、艇の外側はだんだん熱をおびてきた。このいきおいで落下がつづけば艇はぱっと燃えだし、燐寸箱マッチばこに火がついたように、一団の火のかたまりとなるであろう。
宇宙戦隊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
この方面の越境は、直ちに、上杉謙信との摩擦まさつを生じるからである。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
適当な摩擦まさつをもっていて、弾力だんりょくも頃あい、そして丈夫なことにかけては、巨人やブルトーザがのっても平気で、きめられたスピードで走るのです。さあ、私たちもあれにのりましょう。
ふしぎ国探検 (新字新仮名) / 海野十三(著)