手蔓てづる)” の例文
「さあ、愈々いよ/\出世の手蔓てづるが出来かかつたぞ。明日あすは一つあの殿様のお顔を、舶来はくらい石鹸しやぼんのやうにつるつるに剃り上げて呉れるんだな。」
手蔓てづるを求めて捜してみたところ、二三の藩で似たような例のあること、また現在それがどう扱われているかということもわかった。
ちくしょう谷 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
しかし身寄みよりのものでもあるなら、折角うつした写真だけは届けてやりたいとも思ったが、無論そんな手蔓てづるのあろうはずもなかった。
勲章 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
叔母はさすがに女二人だけの外地の初旅に神経を配って、あらゆる手蔓てづるを手頼って、この地の官民への紹介状を貰って来て私に与えた。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
それ迄の間に彼は二三の手蔓てづるを求めて、御牧の性行その他のこと、父子爵や腹違いの兄弟たちとの関係のことなど、一通りは調べて見
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
推薦者の二家ばかりでなく、手蔓てづるのある限り、閣老たちの屋敷へも行った。そして武蔵の讒訴ざんそをあの調子でいて歩いたのである。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この隠し子の存在にはお梶さまも相当煩悶したよしであるが、自分の結婚前ということが、ともかく納得なっとく手蔓てづるではあったらしい。
不連続殺人事件 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
「御用があつたら、どなたかに頼んで、先達せんだつに引合せて貰つて下さいよ。通三丁目の井筒屋なんか、差當り結構な手蔓てづるぢやございません?」
「まあ、いいさ、そのうちには何とか手蔓てづるがあってわかるだろう、都合によっては、わたしの方で当りがつくかも知れない」
大菩薩峠:30 畜生谷の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それでも彼は強情にこの按摩から何かの手蔓てづるを探り出そうと試みた。今もむかしも根気が乏しくては出来ない仕事である。
半七捕物帳:09 春の雪解 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
第五巻の講ぜられる日などは御陪観する価値の十分にあるものであったから、あちらこちらの女の手蔓てづるを頼んで参入して拝見する人も多かった。
源氏物語:54 蜻蛉 (新字新仮名) / 紫式部(著)
いろいろの手蔓てづるを求めては、美しい女を狩り集めて来て、どころ利き所の諸侯へ勧めて、その側室とすることによって、一種の閨閥けいばつ形成かたちづくった。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
すると赤シャツさんが、手蔓てづるを求めて遠山さんの方へ出入でいりをおしるようになって、とうとうあなた、お嬢さんを手馴付てなづけておしまいたのじゃがなもし。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そうしてモデルツて來るモデルもモデルもかたはしから刎付はねつけて、手蔓てづるてやツとこさ自分で目付めつけ出したモデルといふのがすなはちお房であツた。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
値段も大いに高いけれども、しかし、それよりも、これを求める手蔓てづるが、たいへんだったのである。お金さえ出せば買えるというものでは無かったのである。
親友交歓 (新字新仮名) / 太宰治(著)
東京に出かけて行けば、さが手蔓てづるはいくらもある。中にはその居る所を教へてれたものもある。しかし出懸でかけて行く旅費もないほどその家は困つて居た。
(新字旧仮名) / 田山花袋(著)
川上氏は私の頑固なのにあきれて帰られたが、当時そういうよい手蔓てづるがありながらこの仕事に乗り出さぬというのは、あまりに臆病すぎる話であったかも知れない。
物質的にまだ一度もこれという力を貸していないことに相当け目も感じていたので、そんな点では決してぼんやりしていない彼女なので、何かの手蔓てづるを見つけて
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
財産と手蔓てづるとがないので、彼女たちは結婚することもできません。働くことに追われてばかりいるので、知的生活を営んでそれに愛着し慰められることもできません。
「江戸から、大作を追うておりまして、ようよう手蔓てづるを握ったかとおもうと、取逃しまして——」
三人の相馬大作 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
其中そのうちに或人が其は既に文壇で名を成したたれかに知己ちかづきになって、其人の手を経て持込むがいと教えて呉れたので、成程と思って、早速手蔓てづるを求めて某大家の門を叩いた。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
はな成佛じやうぶつ得度とくどなすともいふ何樣なにさま善惡ぜんあく相半あひなかばすべし偖も源八は彼の與八に暇のいでたるは我故なり今は云寄いひよる手蔓てづるもなく成りしかば通仙夫婦の者に遺恨ゐこんはらさばやと思ひてひそか鹿しか
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
一頃は本所辺に小さな家を借りて、細君の豊世と一緒に仮の世帯しょたいを持ったが、間もなくそこも畳んでしまい、細君は郷里くにへ帰し、それから単独ひとりに成って事業しごと手蔓てづるを探した。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
この信念のもとに、彼は去年の暮に出府した際も、あらゆる手蔓てづるを求めて目附衆めつけしゅうへ運動もしたし、それから後も山科に閑居して、茶屋酒にうつつを脱かしていると見せながら
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
学問も段〻進んで来るし人にも段〻認められて来たので、いくらか手蔓てづるも出来て、ついに上京して、やはり立志篇りっしへん的の苦辛くしんの日を重ねつつ、大学にも入ることを得るに至ったので
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
そして直接工場に入つて職工の手伝ひをするのであるから職工等に知り合ひも出来、職工になる手蔓てづるを得るにもよいと云ふことであつた。で私は善作さんにそのことを相談した。
ある職工の手記 (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
あんまり執拗しつこい、急迫した手段で、臼杵家に交際の手蔓てづるを求めるのも、こっちが狼狽しているようでおかしい……と言ったようないろいろな気兼きがねから、いよいよ形容の出来ない
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
また左官の正太郎は白島山平の手蔓てづるから正道しょうどうの者で有ると榊原様へお抱えになり、後には立派な棟梁となり、正太郎左官と云われて、下谷茅町したやかやちょう横町よこちょういけはたへ出ようと云う処に
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
人格を分析すると、手蔓てづるも少し入っているけど、要するに行政官は帝大法科出身者のうち最も優秀にして最も人格の高いものがなる。この故に行政官は地の塩である。世の光である
首切り問答 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
それでも判らずにおりましたが、飲み屋の女が唄う鼻唄から気がついて、聞いてみたら女飴屋の口真似だとか、それを手蔓てづるに方々聞き、ここへ来てみると子供の声で、昔聞いた節の唄
一本刀土俵入 二幕五場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
馬はおけ手蔓てづるに口をひっ掛けながら、またその中へ顔を隠して馬草まぐさを食った。
(新字新仮名) / 横光利一(著)
ふてえ御了簡ッちゃありゃしねえ。どうして探り出そう、誰から嗅ぎ出そうと手蔓てづるをたぐって行くうちにね、ゆうべこちらへ御菓子折とかを届けためくらとあの若い野郎とを嗅ぎ当てたんですよ。
「何か、いゝ手蔓てづるはないかね。煙草とか、衣類とか、出ないのかい?」
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
そしてそれは同時に清逸自身の存在を明瞭にし、それが縁になって、東京に遊学すべき手蔓てづるを見出されないとも限らない。清逸は少し疲れてきた頭を休めて、手を火鉢に暖ためながらこう思った。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
闇で鯖の乾物でも買って食べたいと思ったが、そんな手蔓てづるはない。
岡ふぐ談 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
「うむ、輪タク、結構。それにしたつて、手蔓てづるはいるだろう」
光は影を (新字新仮名) / 岸田国士(著)
わたくしの旧学園友達の赤坂の吉良の家へ何事か手蔓てづるを探り出すべく訪ねた帰りに豊川稲荷へお百度を踏みに行ったのだと言いました。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「浪人の身で」と大和守は云った、「かように高価なものが自由になるとは、よほど内福のうえによき手蔓てづるがあることだろうな」
そう決心して昭和十七年の暮に手蔓てづるを求め軍属になって満洲へ行き、以前入営中にならい覚えた自動車の運転手になり四年の年月としつきを送った。
羊羹 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
その死んだ日か、前に來た客のことを訊きましたが、下等な船比丘尼の客などは誰も氣に留めず、そこにも探索の手蔓てづるは絶えてしまひました。
「するととうぶんお別れだが、秀吉公ひでよしこうへ取りいったら、おれもお船手の侍大将さむらいだいしょうかなにかになれるように、うまく手蔓てづるをしてもらいてえものだな」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
海舟という偉大な総大将が復活の手蔓てづるを全然与えなかったのだ。明治新政府の政治力によるものではなかったのである。
安吾史譚:05 勝夢酔 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
女房などの中へ手蔓てづるを求めて姫君へ手紙を送る方法もあるし、直接に意志を源氏へ表明することも可能であるが、そうした大胆なことはできずに
源氏物語:24 胡蝶 (新字新仮名) / 紫式部(著)
手蔓てづるのない、しかも焦眉の急に応ずるための財力の発動としては、その方法に、相当微細にして巧妙なるものがなければ、かえって事を仕損ずる。
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
手蔓てづるを求めて招待券を都合した者が多いらしく、椅子席はほとんど満員で、うしろの方に立って見物している一群もあった。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
江戸へはいっても仕官は出来ず、町道場をひらくことも、寺小屋らしいものをひらくことも、手蔓てづると金とがなかったので、実行することは出来なかった。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
貴公今の婦人に手蔓てづるが有るなれば話をして、拙者の処の妻にしたいが、何うだろう、話をして貴公が媒介人なこうどにでも、橋渡しにでもなって、貰受もらいうけて呉れゝば多分にお礼は出来んが
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
もちろん天下の秀才が出るものと仮定しまして、そうしてその秀才が出てから何をしているかというと、何か糊口ここうの口がないか何か生活の手蔓てづるはないかと朝から晩まで捜して歩いている。
道楽と職業 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「矢っ張り同窓ってものは有難い。一寸電車で会っても、これ丈け胸襟きょうきんを開いて話せる。僕は同級生と先輩の関係で、それからそれと手蔓てづる手繰たぐって行くから、随分手広く勧誘が出来る」
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「ふむ、そうか」と、小平太は腕をこまぬいで考えこんだ。そういうことがあるとすれば、いっそここでこの女に大望を打明けて、その手蔓てづるで何事かを聞きだすようにしようかとも思ってみた。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)