手管てくだ)” の例文
此方から短銃ぴすとると言た時に直様すぐさまはい其短銃ぴすとる云々しか/″\と答えたのが益々彼れの手管てくだですわ、つまり彼れは丁度計略の裏をかいて居るのです
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
クリクリ坊主にさせたいからじゃ。是が非でも出家にさせねばならぬ必要があるゆえ、そちが一世一代の手管てくだを奮って、うまうまと剃髪ていはつさせい
何だか抱きついてやりたい樣な氣になつたが、いい氣になつて、女の巧みな手管てくだにのつたと思はれはしないかと思つて、ただ苦笑ひをしてゐる。
泡鳴五部作:03 放浪 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
狂人といっても発作の起らない限りはほとんど常人と変りがない。それどころか見えすいたお世辞を使ったり色々俗世間的な手管てくだをかなり無反省に使駆する。
流浪の追憶 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
今晩現われたあの芸妓だって、それだけの打算と手管てくだがありさえすれば、こんなだらしのないことにはなるまい。
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ところが、その娘に、旦那様、人もあろうにあの大伴おおともの大納言様が眼をつけましてな、例の手管てくだで物にしようとなさっているのが分ったのでございます。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
絶代の女形、三都にわたっての美男から、かくまで、手管てくだをつくした言葉を聴かされては、どのような、木石の尼御前でも、心を動かさずにはいられまい。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
殊に不手際と思はれるのは、見物が先へ行かうとするのを、無理矢理に引止めて置かうとする作者の手管てくだです。
「そんな優しい顔しててあんたはえらい手管てくだ上手や」とか、「くろとも及ばん凄腕すごうでや」とか、いろいろなこというておだてたり皮肉いうたりしますのんで
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そして、僕は酔ったときの癖で、鍵穴に秘めた最期の手管てくだをもって、ダンス・ホールからの女友達を眺めた。
満枝が手管てくだは、今そのおもてあらはせるやうにして内にこらへかねたるにはあらず、かくしてその人といさかふも、またかなはざる恋の内にいささか楽む道なるを思へるなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
伊之さん何うか察して下さいとほろりとさせる処でげすが、其様そんなケレン手管てくだなんどはちっともないお若さんですから、実は斯々云々かく/\しか/″\の訳あってと真実まことを話します。
「お米さん。じゃおめえは、ほんとに眼がさめたというのけえ。まさか、いつもの手管てくだじゃないでしょうね」
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そんなに気のきかねえ話じゃありませんよ。——れん手管てくだの裏表、色のしゅわけ——と言ったような」
三好曹長は判断力の昏迷こんめいして来るのを禁ずることができなかった。併し彼の多年の経験から来た直覚は「こんな手管てくだで化かされてはいかんぞ。油断するでないぞ」
偉大なる夢 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
而もその先生に、單純な中學生の心理を巧に綾なして行く程の教授法以外の手管てくだがあらう筈もない。
猫又先生 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
しかし彼の徳兵衛は実に巧いものであった。例の座頭ざとうの木琴のくだりで“かねて手管てくだとわしゃ知りながら”の粋なび声は、この人でなければ聞かれまいと思われた。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その間に共通のきずなはなかった。鶴見の方には盲目の衝動あるのみで、相手には性慾に加工した手練てれん手管てくだがあった。鶴見は好い加減にそれに乗せられていたのである。
だ十八九の初心うぶなあれに男の心を始終らさぬ手管てくだが出来るものか。わたしはこんなことを聞いては、娘の純潔を侮辱されたやうに思つて、つとして居られなかつた。
愚かな父 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
何らの手管てくだもなく、たった純潔一つであやつられていると思うと渡瀬は心外でたまらなかった。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
職業的の賭博者とばくしゃ陋劣ろうれつきわまる手管てくだを覚えこもうとし、また、その卑劣な術策の達人になってからは、いつもそれを実行して、仲間の学生たちのなかの愚鈍な連中から金をまき上げて
商売女でもない奈世に手管てくだを求めるのも無理とは知っているし、わしだけしか知らぬ奈世に男と女の歓びを、顔や体に現わすように要求するのも、これ又、無理なことではあろうけれど
(新字新仮名) / 富田常雄(著)
間夫まぶ」、「結び文」、「床へさし込むおぼろ月」、「櫺子れんじ」、「胸づくし」、「とりくまで」、「手管てくだ」、「口舌くぜつ」、「よいの客」、「傾城の誠」、「つねる」、「廊下をすべる上草履うわぞうり
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
「いき」の無関心な遊戯が男を魅惑する「手管てくだ」は、単に「手附てつき」に存する場合も決して少なくない。「いき」な手附は手を軽く反らせることや曲げることのニュアンスのうちに見られる。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
それをお勢は、生意気な、まだ世のさまも見知らぬ癖に、明治生れの婦人は芸娼妓げいしょうぎで無いから、男子に接するにそんな手管てくだはいらないとて、鼻のさき待遇あしらッていて、更に用いようともしない。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
もし井上侯を猛獣にたとへるなら、H氏は差し詰め手練しゆれんな猛獣使ひといふ事になる。猛獣使ひが余り名誉な職業しごとで無いと同じやうに、井上侯を手管てくだに取るのも、大して立派な事業しごとでは無かつた。
動きに動く物憎い抽象の恋人、わたくしはいつの間にかこの割りきれない落ちつきどころのない恋人の手管てくだ翻弄ほんろうされ始め、翻弄されるのを心ゆくばかり楽しい思いがして来たのでありました。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
こいつ何か奸策あってのことだろうと、典膳は、最初は相手にしなかったが、田舎に珍しいお浦の美貌と、手に入った籠絡ろうらく手管てくだとに誘惑そそのかされ、つい府中しゅくの料理屋へ上がった。酒を飲まされた。
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
無論、それ等のすべては皆、彼女の手管てくだに違いなかったので、彼女はこうして叔父を翻弄しつつ、その魂と肉体を一分刻みに……見る見るうちに亡ぼして行こうと試みている事がわかり切っていた。
鉄鎚 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
私は生れながらの盲目めくらですが、どういうものか、煙草の煙が大嫌いでしてね、旦那を揉んで居る間、どうかして、やめて頂きたいと思っても旦那はとても一通りの手管てくだではおやめにならぬと思ったので
按摩 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
それは手管てくだたくらんだ操縱でもつて引き出されたのではなかつた。
徳川時代のお家騒動や、一国の治乱興廃の跡を尋ねると、必ずかげに物凄い妖婦ようふ手管てくだがないことはない。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
宇津木兵馬て人はどうやら敵持かたきもちのようだから、ここの間で手管てくだをするとうまい仕事ができそうだ。
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
見物かた/″\根津へ往って引張ひっぱられてあがったのが縁さねえ、処が此奴こいつ中々手管てくだが有って帰さないから、とうとうそれがお前さん道楽のはじまりでひどいめに遭いましたけれども
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
女取引所にあらわれる体温によって花咲いた男性の手管てくだを、侵略に委せて刺青いれずみした、肉体的異国的な地図と感情を失ったエモーションの波、そこに愛情の新らしい鋳型いがたを僕は見出すのだ。
それで序文に、悪人の手管てくだを暴露することは良俗に貢献するであらうなどと効能を述べてゐるが、それでも尚、自信がなく、非難すべき根拠に就て自覚をいだいてゐたことは序文が語る通りである。
そこで、兎も角も夫の口からそれを聞いた上のことと、こうなると女というものは手管てくだのあるもので、すねて見たり、泣いて見たり、種々様々の手段をつくして、結局隙見すきみの一件を白状させて了った。
接吻 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そのウラに隠されている彼女の手管てくだを見透かしながら……。
鉄鎚 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
何処までが本気で何処までが手管てくだか分れしませんねんけど、それがまたいかにも気違いじみてて、たとえば私の夫のこと「あんた」いうたらもう眼エに涙めはって
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
人間が純良であるだけに、打込むことが深いと見え、女は商売柄、いくらかの余裕もあり、手管てくだがあっても、兵馬は突きつめた心で、その言うことの全部を信用してしまいます。
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
福松は泣きじゃくりながら、立てつづけて口説くどき立てますが、今日は山道中の手管てくだとは違います。兵馬の方でもまた、道中の時の煮え切らない挨拶とは違って、いよいよキッパリと
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そんな手管てくだや、思わせぶりも、御当人同士のお安くない間だけのことなら、御勝手だが、後ろに隠れて、早く自分の身の振り方をつけようとあせっている者の身になっては、こらえられない。
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)