往生おうじょう)” の例文
「まだあんなことをいってる! 殿様、あなたもずいぶん往生おうじょうぎわが悪いねえ、みんなお前さんのあたまから出たことじゃないか」
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
同行一 (ひざをすすめる)実は私たちが十余か国の境を越えてはるばる京へ参りましたのは往生おうじょうの一義が心にかかるからでございます。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
また、どんな人間でも、心をそこに発した日から、過去の暗黒を捨てて、いてきる——往生おうじょうの道につけるものだという導きであった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「君は君の立場に往生おうじょうできず、今君のすべての仲間の中でも明らかにいちばん身近にいるおれたちを無益に怒らせるつもりだったらしいな」
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
いや、あなた方ばかりでなく、どの作家や画家でも、測定器にかかっちゃ、往生おうじょうです。とてもまやかしはきませんからな。
Mensura Zoili (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そのときからだじゅうにけながら、じっとっててきをにらみつけたままんでいたので、弁慶べんけい往生おうじょうだといって、みんなおどろきました。
牛若と弁慶 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
『おいらは毎晩逆上のぼせる薬を四合びんへ一本ずつ升屋ますやから買って飲むが一向鉄道往生おうじょうをやらかす気にならねエハハハハ』
郊外 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
『しかし我々われわれ随分酷ずいぶんひど田舎いなか引込ひっこんだものさ、残念ざんねんなのは、こんなところ往生おうじょうをするのかとおもうと、ああ……。』
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
むろん「弥陀みだ」だの、「念仏」だの、「往生おうじょう」だのという言葉は、かれにはまだ、十分には理解もされず、気持ちの上でもぴったりしない言葉であった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
一殺多生いっさつたしょうというのはそれだ、その女一人を斬ってしまえば、駒井もひっかかりがなくなる、君も解脱げだつができる、その女も君に斬られたら往生おうじょうができることだろう。
しかあれどもかの遊女の中に多く往生おうじょう浦人うらびとの物の命を断つものゝ中にあってついにいみじき侍りし
蘆刈 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
西方の弥陀みだ浄土じょうどに押しせばめられて、弥勒みろくの天国はだんだんと高く遠のき、そのまぼろしはいよいよかすかになって、そこに往生おうじょうを期する者も今は至ってまれであるが
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
底には細長い水草みずぐさが、往生おうじょうして沈んでいる。余は往生と云うよりほかに形容すべき言葉を知らぬ。岡のすすきならなびく事を知っている。の草ならばさそう波のなさけを待つ。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
思出の記は一瞬いっしゅん水煙みずけむりを立てゝ印度洋の底深そこふかく沈んで往ったようであったが、彼小人菊池慎太郎が果して往生おうじょうしたや否は疑問である。印度洋は妙に人を死にさそう処だ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「寂滅を以て楽となす」すなわち寂滅為楽じゃくめついらくなどというといかにも静かに死んでゆくこと、すなわち「往生おうじょうする」ことのように思っている人もありますが、これは決して
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
油多き「ふ」を食い、うろこの輝き増したるを紙より薄き人の口のにのぼせられて、ぺちゃぺちゃほめられ、数分後は、けろりと忘れられ、笑われ、冷き血のまま往生おうじょうとげむか。
HUMAN LOST (新字新仮名) / 太宰治(著)
「なんて楽なことで御座ございましょう。お布団はふくふくして、なんとももうされないよい気持ちで御座います。おばあ様にあやかりまして、私も極楽往生おうじょういたしますように。」
歎異抄たんにしょう』はこう述べました、「善人なほもちて往生おうじょうぐ、いわんや悪人においてをや」と。
益子の絵土瓶 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
スゴイ、ドエライ地獄の話じゃ。罪もむくいも何にも知らない。正気狂わぬ普通の男女が。チャント物事わきまえながらに。不意に手足の自由を奪われ。声も出されぬ無理往生おうじょうだよ。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「ヒヒヒ……、青二才め、どうだ苦しいか。もう少しの我慢だ。今に気が遠くなって、極楽往生おうじょうだぜ。云い残すことはないかね。ヒヒヒヒヒヒヒ、云い残そうにも口が利けまい」
恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
あなたや愛子に看護してもらえばだれでもありがたい往生おうじょうができましょうよ。ほんとうに貞世は仕合わせな子でした。……おゝおゝ貞世! お前はほんとに仕合わせな子だねえ。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
かくも仏道を拡むる事を本趣意とせられて居るとうときお方が、かかる奇禍きかを買い悲惨なる処刑に遇いながら人を怨まず天をもとがめず自若として往生おうじょうせられたという尊者の大量に至っては
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
どうかすると、毎日のように夕だちが降って、そのたんびにきっとごろごろぴかりと来るんですから、雷の嫌いな人間はまったく往生おうじょうでした。それに、この頃は昔のような夕立が滅多めったに降りません。
半七捕物帳:34 雷獣と蛇 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
親鸞 往生おうじょうの次第ならばもはや幾度も聴聞ちょうもんしているはずだがな。まことに単純な事で私は別に話し加える事もありませんがな。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
明日帰洛みょうにちきらく』と云うのもある。『清盛横死きよもりおうし』と云うのもある。『康頼往生おうじょう』と云うのもある。おれはさぞかし康頼も、喜ぶじゃろうと思うたが、——
俊寛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「よしっ。そんなに楽しみが欲しいなら、往生おうじょうという安楽を与えてやろう。あの世でほぞを噛んでも追いつかぬぞ」
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
... とうとう三返目に見物人が手伝って往生おうじょうさしたと云う話しです」「やれやれ」と迷亭はこんなところへくると急に元気が出る。「本当に死にぞこないだな」と主人まで浮かれ出す。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
秘密にして置いてもらうためには、どんな犠牲だって払わなければ。けれど、あなたは、そんな無理往生おうじょうなことをして、それで寝ざめがいいのですか。私はどうしたって、あなたを
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
一つの器にも弥陀みだの誓いが潜むといい得ないであろうか。悪人必ず往生おうじょうぐとの、あの驚くべき福音が、ここにも読まれるではないか。工藝において、衆生は救いの世界に入る。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
もうもう往生おうじょうしたわ。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
僧二 往生おうじょうの一大事について承りたき筋あって、はるばる遠方から尋ねて参ったと申します。皆熱心おもてにあふれていました。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
「近くの山僧たちです。ご最期の手向たむけに、つどうて来たもの。無下むげにも追えません。お心をなだめられ、彼らの往生おうじょうを、受けておやりくださいまし」
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
法然ほうねん上人は念仏についていったではないか、「ひじりで申されずば、在家にて申すべし」云々、また「悪人は悪人ながらに」とも述べた。もとより自らの力で往生おうじょうが出来るのではない。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
彼がこの大鍋おおなべの中で倫敦のすすを洗い落したかと思うとますますその人となりがしのばるる。ふと首を上げると壁の上に彼が往生おうじょうした時に取ったという漆喰しっくいせい面型マスクがある。この顔だなと思う。
カーライル博物館 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
神将 (憤然ふんぜんと)このほこらって往生おうじょうしろ! (使に飛びかかる)
二人小町 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
一滴いってき悔悟かいごのなみだの後には、法然上人と師の親鸞から、そのままのすがたですぐ往生おうじょう仏果が得られるものだと説かれたあの時のことばを思い出して——
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
悪人必ず往生おうじょうを遂ぐとの、あの驚くべき福音ふくいんが、ここにも読まれるではないか。工藝において、衆生は救いの世界に入る。工藝の道を、美の宗教における他力道たりきどうと云い得ないであろうか。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
在りのままな姿の信心——在家往生おうじょうの如実をどうしたらそういう人々にわからせることができるだろうか。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
法然上人ほうねんしょうにんのようなお方ですら、御自身、十悪の凡夫だと云っておられる。親鸞しんらん上人は又——善人なおもて往生おうじょうを遂ぐ、いわんや悪人をや——とすら明言しているのではないか。
鍋島甲斐守 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
むなしく往生おうじょうしてしまった主従しゅじゅう三人は、もう胸の上まで濁水だくすいにひたって、の枝につかまりながら、敵のゆくえをにらんでいたが、そのとき、加賀見忍剣かがみにんけんは、はじめて破術はじゅつの法を思いだして
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ほとんど立ち往生おうじょうして地上におとされたことがある。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)