店賃たなちん)” の例文
つい四五日前、町内の差配人おおやさんが、前の溝川の橋を渡って、しとみおろした薄暗い店さきへ、顔を出さしったわ。はて、店賃たなちんの御催促。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「そうすると、おすえちゃんのうちの近くに、裏長屋だけれど空いているうちがあって、店賃たなちんも安いもんだからそれを借りてね」
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
店賃たなちんの借りのある大屋さんの前へ出た熊さん八さんでもあるかのよう、わけもなく圓太郎は玄正に対し、ヘイコラしてしまうのが常だった。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
「もうズーツと一年も空いて居ますよ。尤も、誰か借りて一年分の店賃たなちんを前拂ひにしたまゝ、上方へ行つて了つたと言ふ話もありますがね」
(遠国へ立つので、今宵はよその身寄の家へ泊るから——)と断って、近所の借銭や店賃たなちんも、とどこおりなく片付けて来ている。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
蓮「私にい工夫が有るんです、先方さきは大変に困って居る様子だから、可愛がって店賃たなちんを負けておやんなさいよ」
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
夫は我家に入りて菜籠なかごかたよせかまどに薪さしくべ、財布の紐とき翌日の本賃もとでをかぞえけ、また店賃たなちんをば竹筒へ納めなどする頃、妻眼を覚し精米の代とはいう。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
こやつは店賃たなちんを払わねえからいてやらねえの、あれは付届けがいいから贔屓分ひいきぶんにしてやれとはいわねえ……
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
あの朝大家さまから使つかひが来てネ、おめひら何年もこゝに居て気の毒だが、さう/\店賃たなちんが滞つちやア困るから、どうも仕方がねい、あしたにも出てもれひてい
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
「そうだ。幽霊に貸して置いたのじゃあ店賃たなちんも取れず、早く毀れてしまった方がいいな」
半七捕物帳:60 青山の仇討 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
財産を天理様にささげてしまって、嬉々ききとして労役者ろうえきしゃの生活をして居る者もある。天理教で財産をって、其報償むくいを手あたり次第に徴集ちょうしゅうし、助けなき婆さんをいじめて店賃たなちんをはたる者もある。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
当前あたりまへなら内へ帰るべきであらう。店賃たなちんが安いので此頃このごろ越して来た、新しいこけらぶきから雨の漏る長屋である。しかしそこは恐ろしい敵がゐる。八はいつでも友達と喧嘩けんくわをすることをはばからない。
金貨 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
「何しろ十月許りで、もう店賃たなちんは三つも溜めちまう。震災後、無理算段で建てた長屋は焼かれる、類焼者には、敷金を一時に返さにゃならず。夫に火災保険が、先々月で切れて居たのです」
越後獅子 (新字新仮名) / 羽志主水(著)
それで長屋建ながやだてで、俗にいう尺二けん店賃たなちんが、よく覚えてはいないが、五百か六百……(九十六もんが百、文久銭一つが四文、四文が二十四で九十六文、これが百である。これを九六百くろくびゃくという)
色々なものの支払いのたまっている、大晦日がじきに来た。品物でかりた知合の借金に店賃たなちん、ミシンの月賦や質の利子もあった。払いのこしてあった大工の賃銀のことも考えなければならなかった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「一人もの店賃たなちん程は内に居ず」
「もうズーッと一年も空いていますよ。もっとも、誰か借りて一年分の店賃たなちんを前払いにしたまま、上方かみがたへ行ってしまったと言う話もありますがね」
ぼろ長屋の店賃たなちんを払って、一人がやっと食えるほどの手当にしかならず、おたねは自分からすすんで、箱根の湯治宿へ女中奉公にいってくれたんだ
へちまの木 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
其の内でも私はお萩原様の家来同様に畑をうなったり庭を掃いたり、使い早間はやまもして、かゝあすゝぎ洗濯をしておるから、店賃たなちんもとらずにたまには小遣こづかいを貰ったり
そつちこつちで三両二分もあつたかネ、それに店賃たなちんが三月分たまつて二両と七〆さ。
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
夫婦に小児一人の飯米三こく五斗四升、この代銀三百五十四匁、店賃たなちん百弐拾匁、塩、醤油、味噌、油、薪炭代銀七百目(一日銀一匁九分余)、道具家具の代百二十匁、衣服の価百二十目
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
店賃たなちん言譯いひわけばかり研究けんきうをしてないで、一生いつしやうに一自分じぶんいへへ。
月夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
入口の格子戸のはづれるくらゐのことは、三年でも我慢する氣でなければ、店賃たなちんを六つも溜められる道理はありません。
お豊が来たら荷物を渡してやるように、それまでは閉めきってかぎを掛けておくように、店賃たなちんは自分が払うから。
花も刀も (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
あちらの方はあの団子坂の方から染井そめい王子おうじへ行く人で人通りも有りますし……それに店賃たなちんも安いと申すことでございますから、只今では白山へ引越ひっこしまして
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
はりのやうなきのこ洒落しやれつゝいたのであらうとおもつて、もう一度いちどぶるひすると同時どうじに、うやらきのこが、ひとつづゝ芥子けしほどのいて、ぺろりとしたして、店賃たなちん安値やすいのを嘲笑あざわらつてたやうで
くさびら (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ばあさんはその金で店賃たなちんも、ほかの借財も奇麗に払つたといふ話しをまだ長々としつゞけ、大家がどんな顔せしたとか、あとに残つたお金はどうつかふとか聞手のあるまゝにうれしげに話しつゞけまして
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
「まだ四十両残るが、これはお静と俺が湯治とうじに行って、溜めた店賃たなちんを払って、残ったら大福餅の暴れ喰いでもするか」
いかにも住みよさそうではあるが、店賃たなちんも高いだろうし、角家かどいえで自分たち親子には晴れがましかった。
枡落し (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
まア/\これでお米を買うがよろしいとか、店賃たなちんを納めたがかろうとか、寒いから質に入れてある布子ぬのこを出して来たら宜かろうと、母子おやこ三人が旱魃かんばつに雨を得たような、心持こゝろもちになり
「ああ、三両二分か、何でも二分というはしただけは付いてると聞いたよ。そうか、三両二分か。ふ、豪儀なもんだ、ちょっとした碁盤よりが張ってら。格子戸で、二間なら一月分の店賃たなちんだ、可恐おそろしい、豪傑な。」と熟々つくづく見ながら
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「まだ四十兩殘るが、これはお靜と俺が湯治たうぢに行つて、溜めた店賃たなちんを拂つて、殘つたら大福餅のあばひでもするか」
今日はしのぎがついたが明日はどうする、かかあがとやについた、がきが生れそうだ、店賃たなちんが溜って追い立てをくってる、どこでどうくめんしたらいいか、——毎日毎晩
女房おみねは萩原のたくへ参り煮焚にたきすゝぎ洗濯やおかずごしらえお給仕などをしておりますゆえ、萩原も伴藏夫婦には孫店まごだなを貸しては置けど、店賃たなちんなしで住まわせて、折々おり/\小遣こづかい浴衣ゆかたなどの古い物を
俺はまたしやくにさはることばかりだよ。暮に拂へなかつた店賃たなちんを、三つまとめて大家のところへ持つて行くと、苦しいのはわかつてゐるから、そんな無理を
銭形平次捕物控:315 毒矢 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
一面ごうつくの点にかけても、その母親を少しは凌駕りょうがしていた。彼女は五番めの婿が逃亡して以来、それまで母親の役目であったところの、店賃たなちんの取立てを自分で執行した。
長屋天一坊 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
安い店賃たなちんでお貸しなすって下せいまし
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「路地の番人じゃねえ、こう見えても店賃たなちんを払って住んでいるんだ、——もっとも二つ三つ溜めてはいるがネ」
おさんが次つぎに男をれ込むので、長屋の女房たちがうるさいから家を明けてもらった、店賃たなちんの残りは預かってある、という文面だった。男は辰造だけではなかったんだ。
おさん (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「路地の番人ぢやねえ、斯う見えても店賃たなちんを拂つて住んで居るんだ、——尤も二つ三つ溜めては居るがネ」
店賃たなちんが溜って追立てをくってたんだ」さぶはてれくさそうに頭へ手をやった
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
店賃たなちんと米屋酒屋の払いと、煙草を一つと大福餅を十六もん買って、一両二分と六十八文」
店賃たなちんと米屋酒屋の拂ひと、煙草を一つと大福餅を十六文買つて、一兩二分と六十八文」
「親分がそれを默つて受取つて、三つ溜つた店賃たなちんでも拂ふのかと思ふと大違ひ——こんなものを受取る筋合ひはありません——とポンと返した、いやその小氣味のよかつたこと」
總髮そうはつに汚ない袷、尻が拔けて膝が拔けて、それを晴着にも寢卷にもしようといふ徹底振り、江戸といふ時代には、こんなにまで落ち果て乍ら、ゑもこゞえもせずに、店賃たなちんを三年も溜めて
店賃たなちんは確かに一と月分頂戴しましたが、店を開いて、たった一日で、どうも商売は思わしくないから、故郷の府中へ帰ると言い出すじゃございませんか、あんな店子たなこは見た事もありません
そのくせ、年がら年中、ピイピイの暮らし向き、店賃たなちんが三つ溜っているが、大家おおやは人が良いから、あまり文句をいわない。酒量は大したこともないが、煙草は尻から煙が出るほどたしなむ。
店賃たなちんがキチンキチンと入ってないから、大家へ気の毒でならねえ