年齡とし)” の例文
新字:年齢
老爺は六尺に近い大男で、此年齡としになつても腰も屈らず、無病息災、頭顱あたまが美事に禿げてゐて、赤銅色の顏に、左の眼がつぶれてゐた。
散文詩 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
三十にもならうとするお糸さんは、年齡としの半分も下の姪から愛情をいつも受けてゐた。その時も、糠星ぬかぼしのやうな眼に、急に火がとぼつて
日本橋あたり (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
「そんだが、年齡としになつて懲役ちようえきぐなれも」ぢいさんはずつとれたあたまおさへてわらひこけた。ばあさんもどつと哄笑どよめいた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「こなひだ、豐彦の雪中山水を手に入れましたが、一つ見とくなはれ。」なぞと、立ち上つて、年齡としのことを誤魔化して了ふのが常であつた。
父の婚礼 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
その情人といふのは此の宿の料理人で、年齡としはおりかよりも二つ三つ若い、苦味にがみ走つたいゝ男だといふのであつた。それも勿論暇を出された。
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
轉げ込んだのは、四十三四の女、——いやそれは後で年齡としを聽いてから四十三四と判つたことで、一寸見は三十二三と言つてもいゝ上品な女でした。
それとはまた打つて變つた癇癪持の負嫌ひの意地惡な妹娘は今でさへ見てゐて心を寒うするやうな行爲を年齡としと共に漸々だん/\積み重ねて行きつつあるのである。
一家 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
「それよりやそれだけの熱心で小學教員の試驗課目を勉強して、早く正教員の資格を取つた方がいゝぢやないか。三十近い年齡としでそれつぱかりの月給ぢや仕方がないね。」
入江のほとり (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
「えゝ、さうですとも。でもねえ、お年齡としちがひがあんまりですもの。ロチスターさんはもう四十近くでいらつしやるし、あの方はまだ二十五でゐらつしやるのですよ。」
彌次六に引合ひきあは種々いろ/\内談ないだんに及びぬ爰に諏訪明神の社人しやにん諏訪右門すはうもんとて年齡としいまだ十三歳なれど器量きりやう拔群ばつくんすぐれし者有り此度遠藤屋へ珍客ちんきやくの見えしと聞より早速さつそく彌次六方へ來り委細ゐさい
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
A君は皆なの年齡としを聞いて書いた。K君三十九、A君は三十五、M君三十、私は三十八だ。やがてK君は大蛇のやうに横に成つた。醉へば心地好ささうに寢て了ふのがK君の癖だ。
伊豆の旅 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
そしてこの牝牛ハダベコは恐らく私が二歳ふたつ年齡としから十六の年齡としになるまで心を惹きつけられた同じ土地のあらゆる處女しよぢよの眼遣ひをして、此の私といふ狹隘で、横着に人間生活を悟りすまし
地方主義篇:(散文詩) (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
「この通り年齡としもまだ若いし、客ずれもしてゐない、ほんのうぶなんですからね。」
天国の記録 (旧字旧仮名) / 下村千秋(著)
一通ひとゝほりの挨拶あいさつをはつてのち夫人ふじん愛兒あいじさしまねくと、まねかれてをくするいろもなくわたくし膝許ひざもとちかすゝつた少年せうねん年齡としは八さい日出雄ひでをよし清楚さつぱりとした水兵すいへいふう洋服ようふく姿すがたで、かみ房々ふさ/″\とした
年齡とし加减かげんかすんでも
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
「一つ珍物を喰はさうかなあ。」と、父はいつ年齡としを訊かれた時にするやうな手段てだてで、話をわきへ持つて行かうとした。
父の婚礼 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
まあ年齡としとつたら仕方しかたがないから我慢がまんしてるんだよ、あんまひどけりや他人ひと共々とも/″\ちやないから、それだが勘次かんじ有繋まさかそれほどでもないんだらうしね
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
二人は、それから名前や年齡としやをお吉にかれたが、大抵源助が引取つて返事をして呉れた。負けぬ氣のお八重さへも、何かのどつまつた樣で、一言も口へ出ぬ。
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
年齡としは十七八か、まだすつかり發育し切らない、いはゞ八分目位大人になりかけたみづみづしさだつた。
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
それは年齡としけてゆくといふをののきばかりではありません。それらのことは面影に、鏡に見出すより早く氣づいて、却て驚いて鏡を見直すくらゐデリカなものです。
鏡二題 (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
二十五といふ血氣盛んな年齡としですが、色も青白い、何んとなく弱々した感じの青年です。
年齡としは取つても私が川村家の總理大臣だ。」とかつて祖母が云つてゐたことがあつた。
孫だち (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
二歳ふたつ年齡としから十六歳じふろくになるまで何度見たか知れないこの海を、わたしは畢竟ウヂケデ空虚ボヤラと見て居たのだ。そこの表情には春、雪解けの野原で銀色の草の若芽モエを喰ふ牛のハダ柔和ヤヤシミがある。
地方主義篇:(散文詩) (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
大きな松の卓子テエブルが二つづゝあり、その卓子テエブルのひとつ、ひとつに一對の蝋燭が燃えてゐ、九歳または十歳から二十歳になるまでの年齡としごろの女の子の群が、卓子テエブルをとりまいて腰掛けてゐた。
ればなり今朝御親類の周藏と云る人此曼陀羅まんだらと引替に金は持參致されしと聞てそれは老人で御座るかと云ふに藤八いや皆未わかい御人其外に喜平治きへいぢにも來られしと語るに九助夫は皆年齡としが違ひますと聞藤八ハヽア成程なるほど違ふ筈だ跡で此方にも少し胡亂うろんの儀思ひ當る事も御座ればわたくしが明日參つて吟味致さんにより村中の者を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
一つには草臥くたびれためでもあるがわづかにちへだてかれにはか年齡としをとつたほどげつそりとやつれたやうな心持こゝろもちつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
今日の考へでは、脂粉のいらぬ年齡としになつても、たゞしく恥ない日日を送るために入用だと思つてゐる。
鏡二題 (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
その後年齡としと共に感傷癖は消失せて、社會批評を含んだ現實主義の作風に移り、ぢりぢりと文壇の一角に地歩を占めたが、會社勤をして衣食の資を得てゐる爲めか
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
父は何故あのやうに年齡としをいふことを厭がるのであらうか、と其の頃自分は不思議でならなかつた。
父の婚礼 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
母は年齡としを取つても長い間落着いてゐられる家がなくつて、苦勞してゐましたのですけど、あたしが村田の家へ嫁付かたづいてからは、此處が一番氣兼ねがなくつていゝと云つて、不斷でも
見学 (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
誰しも見るそのとしで、どうしてそんなことをと思へるくらゐ、二歳ふたつから三つ四つ五つぐらゐの年齡としまでの、とぎれとぎれながら樣々の周圍の光景を、幻のやうに今なほあざやかに記憶してゐる。
地方主義篇:(散文詩) (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
三郎兵衞は五十七八とすれば、どうしても二十五六も年齡としが違ふでせう。
私もこんな年齡としに成りながら、遂そんな心配もあるまいと、迂濶に油斷をした許に取り返しのつかないあなたの娘さんへ傷をつけまして、こらせと申されゝば野郎は手でも足でも打ち折りますが
白瓜と青瓜 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
置く場所も御座いませんし、お爺さんに、あの年齡としで風呂水を汲ませる譯にも行きませんしさ。近所で入れて貰ふより外爲樣が御座いませんよ。でも、たゞで入つてやしません。ちやんと附け屆けを
水不足 (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
考へて御覽な。私ぐらゐの年齡としでまだ耄碌もうろくして溜るものぢやない。
孫だち (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)