干戈かんか)” の例文
また、戦国の世にはすべて武人多くして、出家の僧侶にいたるまでも干戈かんかを事としたるは、叡山えいざん三井寺みいでら等の古史に徴して知るべし。
徳育如何 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
さて彼女が夫をれ去らんとするに臨み、侯呼び還して、今後また汝の夫が干戈かんかを執ってわが軍に向わばどう処分すべきやと尋ねると
そのころはまかり越し候もの売買をいたし、宗門をひろめ、その上、干戈かんかをもって日本を横領する内々の所存にて参りし儀と存じ候。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
今は「四十年前少壮の時、功名いささひそかに期する有り。老来らず干戈かんかの事、ただる春風桃李のさかずき」と独語せしむるに到りぬ。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
惟任光秀これとうみつひでを始め、ここは干戈かんかを用うるべからずと、説く者も二、三ある。そちと同意見だが、しかし使いには、余人を向けてもよい」
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
されば、その根本的精神の如何いかんによりて、経済戦争というその語の中には、既に干戈かんか相見あいまみゆる戦争なるものの意義が潜在しているのである。
列強環視の中心に在る日本 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
しかし聡明な徳川慶喜は、惰弱に慣れた旗本を以て、慓悍な薩長二藩の兵と、干戈かんかを交えるということの、不得策であることを察していた。
大捕物仙人壺 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
国と国との間には干戈かんかを交える真の戦争のほかに、つねに平和の戦争なるものがあって、これにければやはり国は衰える。
教育と迷信 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
また一度、奉天で我軍と、その敗残兵との間に干戈かんかを交えんか、惧るべき市街戦となって、奉天在住の日本人はどんな目に遭うかわからない。
私が張作霖を殺した (新字新仮名) / 河本大作(著)
宗教類似の信仰に夢中になって家族を泣かせるおやじもあれば、あるいは干戈かんかを動かして悔いない王者もあったようである。
コーヒー哲学序説 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
平和の時節に自身耕作を経営するには右申す通りである。一朝干戈かんか沙汰さたが起っても、退いて守るにはタテの方が最も良い。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
主君のちゅうを討つ時、彼らは父が死んでほうむらぬ間に干戈かんかを起すは孝行でなく、臣が君をしいするは仁でないといって武王をいさめたが用いられなかった。
真の愛国心 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
国際間においても干戈かんかを以て立つということは、既に平和の破壊であって、正義人道とは全く矛盾した行動である。
何故の出兵か (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
津田も前身は旧幕臣で、維新当時は干戈かんかの間に榎本と進退をともにした間柄、いわば生死をともにした莫逆である。
渡良瀬川 (新字新仮名) / 大鹿卓(著)
つぎに人争につきては、これに有形的と無形的との二種ありて、有形的戦争とは、兵器干戈かんかをもって相争うものにして、普通にいわゆる戦争これなり。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
政宗が陳弁は此等諸方面との取合いの起った事情を明白に述べて、武門の意気地、弓箭の手前、むに已まれず干戈かんかを執ったことを云立てて屈しなかった。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
干戈かんかに訴えるという大騒動となり、一四六九年には、双方各々五百人ばかりの勢をひきいてニブレー・グリーン(Nibley Green)の野に戦った。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
十に余る大国はそれぞれ相結び相闘って干戈かんかの止む時が無い。斉侯せいこうの一人は臣下の妻に通じて夜ごとそのやしきしのんで来る中についにその夫にしいせられてしまう。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
いたずらにひとあやめる丈である。国と国とも同じことで、単に勝つ見込があるからと云つて、みだりに干戈かんかを動かされては近所が迷惑する丈である。文明を破壊する以外に何の効果もない。
点頭録 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
おのれを知らず敵を知らずして徒らに干戈かんかるものは亡びる、おれが蒙昧といったのはその点なんだ、夷狄を撃ち払うといっても、寛永の鎖国当時とは根本的に彼我の差がある
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
尾張は織田信雄のぶかつ、三河駿河遠江は家康の所領で、この両名は秀吉と干戈かんかを交へた敵手であり、現在は秀吉の麾下きかに属してゐるが、いつ異心を現すか、天下万人の風説であり、関心だ。
黒田如水 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
無数の黒い小鬼こおにたちが音もなく干戈かんかを交えているみたいな、影も形もない無言のおたがいの意識のたたかいは、次第に、私と彼女との、二人きりの奇妙なゲームのように思えてきた。
軍国歌謡集 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
口頭の宣伝や弁論とちがい干戈かんかを以て互に応ぜねばならぬのだから面倒だ。
鳴雪自叙伝 (新字新仮名) / 内藤鳴雪(著)
もし支那が外国と干戈かんかを交えた時には軍医として出征し、新しい支那の建設のため骨身を惜しまず働こう、とここに自分の生涯の進路がはじめて具体的に確定せられたわけであったが、ひるがえって
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
干戈かんか満目まんもくこもごもふる
愛卿伝 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
春来しゅんらい、国事多端、ついに干戈かんかを動かすにいたり、帷幄いあくの士は内に焦慮し、干役かんえきの兵は外に曝骨ばっこつし、人情にんじょう恟々きょうきょう、ひいて今日にいたる。
中元祝酒の記 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
しかるに非徳の自分が京都にあるためその禍根をかもしたとは思わずに、かえって干戈かんかを動かし、自分を敵視するものをつとあっては
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
天文以来、すでに幾回、干戈かんかのあいだにまみえても、容易に、彼の中核を粉砕ふんさいしあたわぬも、つまりは彼の用兵の妙と、その智謀の並ならぬにある。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かくの如きは独り日本に憎悪の念あるもののみならず、同情を有するものもまた同様の意見を抱いて憂えたのであった。しかるに干戈かんかひとたび交えるや如何いかん
三たび東方の平和を論ず (新字新仮名) / 大隈重信(著)
その略に曰く、太祖たいそ升遐しょうかしたまいておもわざりき大王と朝廷とげきあらんとは。臣おもえらく干戈かんかを動かすは和解にかずと。願わくは死を度外に置きて、親しく大王にまみえん。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
尾張は織田信雄のぶかつ、三河駿河遠江は家康の所領で、この両名は秀吉と干戈かんかを交へた敵手であり、現在は秀吉の麾下きかに属してゐるが、いつ異心を現すか、天下万人の風説であり、関心だ。
二流の人 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
勝つべき理由ござりませぬ! 所詮一応干戈かんかを交え、相手に一泡吹かせたあげく、一方の血路を開いて走り、他領の地へ潜入仕り、後日の計を立つるが得策! ……考え見ますれば我々同志が
猫の蚤とり武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
高家こうけといわるるも、みな干戈かんかを枕とし甲冑かっちゅうを寝巻にし、寒夜も山野に起臥きがし暑日も道路に奔走し、酒肴しゅこうに飽くこともなく朝夕雑飯に糠汁にてくらし、一生身体を労苦し、はては畳の上の死まれなり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
これまで合衆国他邦と会盟いたし候儀もこれあり候えども、右は干戈かんかを用い候儀はこれなく、条約をもって相結び候事に御座候。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
干戈かんかすでにおさまりて戦勝の主領が社会の秩序ちつじょを重んじ、新政府の基礎きそを固くして百年の計をなすに当りては、一国の公道のために私情を去り
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「よく聞け。——この護良もりなが還俗げんぞくして、仏手ぶっしゅ干戈かんかを取ったのは、遊戯ではないのだぞ。そのほうらにも、父のきみにも、いっこうわけの分らんところがある」
時に支那に向って干戈かんかを動かした様であったけれども、ついに十分な独立国とは為り得なかった。しかしまた同時に十分支那の統治にも入らずに来たのである。
三たび東方の平和を論ず (新字新仮名) / 大隈重信(著)
干戈かんか弓鉄砲の地へ踏込む前に当って、床の間の花、釜の沸音にえおと、物静かなる草堂の中で風流にくつろぎ語るのは、趣も深く味も遠く、何という楽しくも亦嬉しいことであろう。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「宮方ご勝利! 何んの疑がい! つもっても見よ当今の鎌倉、また南北六波羅の殿ばら、おごり増長我慢熾烈、神明仏陀の怒りの矢先、眼にこそ見えね迫りおるに、一朝宮方と干戈かんかに及ばば、土崩瓦壊疑がいなし!」
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「ほ。左様なお下知を、どうしてお下しになりましたか。永禄の元年、互いに、爾後じご干戈かんかを交えまいと、神文しんもんを交わし、約定を取結んである御両家のあいだがらなるに」
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
幻詭猥雑げんきわいざつの談に、干戈かんか弓馬の事をはさみ、慷慨こうがい節義のだんに、神仙縹緲しんせんひょうびょうしゅまじゆ。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
既に日耳曼ゲルマンと英国と干戈かんかを交えんというまでに進んだ。
外交の方針 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
けれど、その宿命も、四年前の永禄元年このかたはんでいた。将軍足利義輝のあつかいで和睦わぼくが成立したのである。相互、誓紙をかわし、神文しんもんに誓って、干戈かんかおさめたのだ。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
財をし兵を損して而して功無きものは国に謀臣無きに近しとなし、願わくは斉王をゆるし、湘王をほうじ、周王を京師けいしかえし、諸王世子せいしをして書を持し燕に勧め、干戈かんかめ、親戚しんせきあつうしたまえ
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
その極はついに干戈かんかるに至らなければ止まぬ。
永久平和の先決問題 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
地に干戈かんかの音、雲に戦鼓せんこの響き、いわゆる乱に入り始めたものではありませんか
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
世嗣せいしの位置をめぐって骨肉たがいに干戈かんかをもてあそび、人民は嘆き、兵は怨嗟えんさを放つの有様、天も憎しみ給うか、昨年来、飢餓蝗害こうがいの災厄も加わって、いまや昔日の金城湯池きんじょうとうちも、帯甲たいこう百万も
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
甲斐かいの武田信玄は、小田原の北条氏政にとっては、母の弟にあたるので、この叔父は、天文十六年の冬以来、越後の上杉謙信と干戈かんかを交え始めてから、互いにその領土を侵したり侵されたりしつつ
篝火の女 (新字新仮名) / 吉川英治(著)