山鳩やまばと)” の例文
初めは喉の奥で、低く山鳩やまばとの鳴くような声がもれ、それがくすくす笑いになり、こんどは声をあげて、顔を仰にしながら笑いだした。
ひとでなし (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
他の一方には、饒舌じょうぜつすずめのどを鳴らす山鳩やまばとや美声のつぐみが群がってる古木のある、古い修道院の庭の、日の照り渡った静寂さがたたえていた。
その最中、八幡宮の一隅にある、甲良大明神こうらだいみょうじんの前のたちばなの木に山鳩やまばとが三羽とんでくると、お互に食い殺し合って死んでしまった。
それともまた、その裏の林のなかで山鳩やまばとでもいたのだろうか? ともかくも、その得体えたいの知れぬアクセントだけがみょうに私の耳にこびりついた。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
近頃私の聞いた青森県八戸はちのへ附近の口碑に、山鳩やまばとの啼く声はテデコーケー、即ち「父よ粉を食え」と啼くのだという話がある。
彼はこずえ山鳩やまばとを眺めながら、弓矢を忘れて来た事を後悔した。が、空腹を充すべきは、どこにでも沢山あった。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
われわれは、この映画を見ることによって、われわれ自身が森の樹間をかける山鳩やまばと樫鳥かしどりになってしまうのである。
からすうりの花と蛾 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
かも小鴨こがも山鳩やまばとうさぎさぎ五位鷺ごいさぎ鴛鴦おしどりなぞは五日目ないし六日目を食べ頃としますがそのうちで鳩は腐敗の遅い鳥ですから七、八日目位になっても構いません。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
純白まっしろの裏羽を日にかがやかし鋭く羽風を切って飛ぶは魚鷹みさごなり。その昔に小さき島なりし今は丘となりて、そのふもとには林をめぐらし、山鳩やまばと栖処ねぐらにふさわしきがあり。
小春 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
それは二羽の山鳩やまばとに対するふくろうの憤ったねたましい目つきでは少しもなかった。五十七歳の罪のない老女の唖然あぜんたる目つきであり、愛の勝利をながめてるむなしい生命だった。
修善寺しゅぜんじの方へ蜜月みつづきの旅と答へた——最愛なる新婚の、ポネヒル姫の第一発は、あだ田鴫たしぎ山鳩やまばと如きを打たず、願はくは目覚めざましき獲物をひっさげて、土産みやげにしようと思つたので。
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
そこへ山鳩やまばととほりかゝりました。山鳩やまばとはやしなかれないにはとり鳴聲なきごゑきつけまして、そばんでました。百舌もずひはとちがひ、山鳩やまばとらずの雄鷄おんどりをいたはりました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
二人はそこで木いちごの実をとってわき水につけたり、空を向いてかわるがわる山鳩やまばとの鳴くまねをしたりしました。するとあちらでもこちらでも、ぽう、ぽう、と鳥が眠そうに鳴き出すのでした。
グスコーブドリの伝記 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
あとには、ホウ、ホウ、と山鳩やまばとくのがさびしげに……
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すずめがとびこんできました。頬白ほおじろがとびこんできました。つぐみがとびこんできました。山鳩やまばとがとびこんできました。からすがとびこんできました。
山の別荘の少年 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
森は木の芽を煙らせながら、孤独に苦しんでいる彼の耳へも、人懐しい山鳩やまばとの声を送って来る事を忘れなかった。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
山鳩やまばとには麻の実があり、ひわにはきびがあり、金雀かなりやには蘩蔞はこべがあり、駒鳥こまどりには虫があり、はちには花があり、はえには滴虫があり、蝋嘴しめには蠅があった。彼らは互いに多少相み合っていた。
山家やまが村里むらざと薄紅うすくれなゐ蕎麥そばきりあはしげれるなかに、うづらけば山鳩やまばとこだまする。掛稻かけいねあたゝかう、かぶらはや初霜はつしもけて、細流せゝらぎまた杜若かきつばたひるつきわたかりは、また戀衣こひぎぬ縫目ぬひめにこそ。
五月より (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
樫鳥かしどり山鳩やまばと山鴫やましぎのような鳥類が目にも止まらぬような急速度で錯雑した樹枝の間を縫うて飛んで行くのに、決して一枚の木の葉にも翼を触れるような事はない、これは鳥の目の調節の速さと
からすうりの花と蛾 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
山鳩やまばと一羽いずこよりともなく突然ほど近きこずえに止まりしが急にまた飛び去りぬ。かれが耳いよいよさえて四辺あたりいよいよ静寂しずかなり。かれは自己おのが心のさまをながむるように思いもて四辺あたりを見回しぬ。
わかれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
いて、山鳩やまばとはやしおくはうんできました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
一羽の山鳩やまばとが飛んできて止まった。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
彼等はその領巾を微風にひるがえしながら、若草の上に飛び悩んでいる一羽の山鳩やまばとを追いまわしていた。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
これは書物で読んだことだが、樫鳥かしどり山鳩やまばと山鴫やましぎのような鳥類が目にも止まらぬような急速度で錯雑した樹枝の間を縫うて飛んで行くのに、決して一枚の木の葉にも翼を触れるような事はない。
烏瓜の花と蛾 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
山鳩やまばと田鴫たしぎ十三、うづら十五かもが三——
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)