夫婦めおと)” の例文
「妾はあのお方と約束をした。行末夫婦めおとになりましょうと。……おいで下され! おいで下され! そうして妾を愛撫して下され!」
血ぬられた懐刀 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
……登子、形どおりな祝言や初夜の式もすんだが、まことの夫婦めおとのちぎりまではしていない。申さばそなたはまだ処女おとめの肌のままよ。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その中に一際目立つ烏帽子えぼし型の大岩があって、その大岩の頂に、丁度二見ふたみうら夫婦めおと岩の様に、石で刻んだ小さな鳥居が建ててある。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
夫婦めおと岩、蓬莱ほうらい岩、岩戸不動滝、垂釣潭すいちょうたん、宝船、重ね岩、宝塔とう等等の名はまたあらずもがな、真の気魄きはくはただに天崖より必逼ひつひつする。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
親父の重兵衛も勿論承知で、ゆくゆくは夫婦めおとにすると云っていたくらいですから、万次郎も今度の役を引き受けなければなりませんでした。
半七捕物帳:50 正雪の絵馬 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「それはそうと、二人の仲のいいことったら、どうでげす。振りわけ髪の筒井筒つついづつ、あのまま成人させて、夫婦めおとにしてやりてえものでげすナ」
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
答『人間界にんげんかい儀式ぎしきとはちがうが、矢張やは夫婦めおとになるときにはまった礼儀れいぎがあり、そしてうえ竜神様りゅうじんさまからのお指図さしずける……。』
「いいえね、格別、むつかしいことではないのだよ——わたしと二人、夫婦めおとごっこをしてあそんでおくれな——いいでしょう?」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
それを夫婦めおとと名づけたところに、大阪の下町的な味がある。そしてまた、入口に大きな阿多福人形を据えたところに、大阪のユーモアがある。
大阪発見 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
ああして笠をかぶった姿を遠くからながめたところでは、三十以上としが違ってもそれこそ「本来東西なし」で、いい夫婦めおとづれの順礼のようではないか。
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
乞食こじきででもあってみろ、それこそおれが乞食をしておれの財産をみなそいつに譲って、夫婦めおとにしてやる。え、お香、そうしておまえの苦しむのを見て楽しむさ。
夜行巡査 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
陸奥むつ宇曾利うそり山の登路にも、湖の岸は大ツクシ・小ツクシの二小峯がある。これまた夫婦めおと岩の類である。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「ええ夫婦めおとが出来るぞ。玉井組と藤本組とが手を握りゃあ、鬼に金棒じゃ。祝言しゅうげんは、この春ちゅうわけにも行くまいけ、秋に、早目にやろ。夏は暑うて、かなわん」
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
「キ、キ、キ、キ」二匹の夫婦めおとざるは、奇声をはっしながら、人間のようにおじぎするのでした。
幻術天魔太郎 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
「べらぼうめ! 安けりゃ買おう、高けりゃよそうというような贅六ぜいろくじゃねえんだ。たけえと聞いたからこそ買いに来たんじゃねえか。夫婦めおと一対で、いくらするんだい」
そのさきは小砂利を洲浜形すはまがたとでもいったように敷いてあったのだが、その芝生の上に、夫婦めおとになって二本高く茂っている孟宗竹の下で、物影の動くのを認めたからです。
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「鮭を獲るのを気の毒じゃと云うてやめたら、こちとら夫婦めおとが餓死せにゃならん」
鮭の祟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
事なく高砂をうたひ納むれば即ち新らしき一對の夫婦めおと出來あがりて、やがては父とも言はるべき身なり、諸縁これより引かれて斷ちがたきほだし次第にふゆれば、一人一箇の野澤桂次ならず
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
としからいえば五つのちがいはあったものの、おなじ王子おうじうまれたおさななじみの菊之丞きくのじょうとは、けしやっこ時分じぶんから、ひともうらやむ仲好なかよしにて、ままごとあそびの夫婦めおとにも、きちちゃんはあたいの旦那だんな
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
牧の旦那は菜の花畑から騎首をめぐらして、夫婦めおと池のかたわらへと出た。
南方郵信 (新字新仮名) / 中村地平(著)
夫婦めおとになったらさぞ泣かされるだろうと云っていましたよ
いしが奢る (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「牧の倅と、よい夫婦めおとだがのう」
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
夫婦めおとらし酸漿市ほおずきいちの戻りらし
六百句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
それじゃア手前は『夫婦めおと斬り』だな! こいつアい所で邂逅ぶつかった。逢いてえ逢いてえと思っていたのだ。ヤイ侍よく聞きねえ。
柳営秘録かつえ蔵 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
子供の恋仲てえのも変だけれど、相手が化け物みたいにませたチョビ安だから、わけもわからずに、末は夫婦めおとよ、てなことを言いあっているんです。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
答『いろにはらぬ。くろ黒同志くろどうし夫婦めおとになり、そしていつまでってもくろけないのもすくなくない……。』
熊蔵の話によると、お糸と伊之助は再び撚りを戻して、結局夫婦めおとになったということです。狐の正体は先ずこの通り、あなたも化かされましたか。あはははははは
半七捕物帳:52 妖狐伝 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
『それは、余りおひどいではござりませぬか。主税を初め、るり、吉千代、大三郎、多くの子まで、した夫婦めおとが、些細なことで、何うして今更別れられましょう』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こんど二階借りをやめて一戸構え、ちゃんとした商売をするようになれば、柳吉の父親もえらい女だと褒めてくれ、天下晴れて夫婦めおとになれるだろうとはげみを出した。
わが町 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
げるない、どうだ、うことをかねえか、うむといやあ夫婦めおとになるぜ。」
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
七つの年に同家中の重役古島五郎左衛門ごろうざえもんの長子六郎次といいなずけの縁を結び、その約束の印にと、右古島家に歴代伝わる内裏雛を二つにわかち、娘の里のほうへはのちの夫婦めおとの契りを現わし
いいえ、年がたった一つ上だとて、夫婦めおとの固めを
たとえば、夫婦めおととか——」
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
ある日お杉は偶然ゆくりなく、宿下りをした召使の口から、市中の恐ろしい噂を聞いた。それは「夫婦めおと斬り」の噂であった。
柳営秘録かつえ蔵 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
こんど二階借りをやめて一戸構え、ちゃんとした商売をするようになれば、柳吉の父親もえらい女だと褒めてくれ、天下晴れての夫婦めおとになれるだろうとはげみを出した。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
子供ごころにいたくその身の上に同情したのだろう、ひとつ違いの二人は、ふり分けがみ筒井筒つついづつといった仲で、ちいさな夫婦めおとよと、長屋じゅうの冗談の的だったのだが……。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
同房の法友たちは、彼のために、また念仏門のために、この一組の若い夫婦めおとを心から祝福した。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今度こんどは一つ夫婦めおとのいさかいから、あやう入水にゅうすいしようとしたおんなのおはなしいたしましょうか……。
その茶の間の一方に長火鉢を据えて、うしろに竹細工の茶棚を控え、九谷焼、赤絵の茶碗、吸子きゅうすなど、体裁よく置きならべつ。うつむけにしたる二個ふたつ湯呑ゆのみは、夫婦めおと別々の好みにて、対にあらず。
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「何うえ、夫婦めおとかいな」
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
美女と美男との夫婦めおとであり、人がうらやんで噂するほどの、まことに仲のよい夫婦でもあった。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「卯木。これやただ事ではないぞえ。何度も、二人は生き疲れて、あの夜も、いッそ夫婦めおと心中をして果てようか……などと、そなたもわしも、つい死の安けさに引かれていたが」
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
千浪の婿に、ははは、ま、仮祝言かりしゅうげんだけでも早うと考えておるわしの心中は、そちらも薄うす知ってであろう。いずれ夫婦めおととなるものならば、互いに苦も楽も、何もかも識り合うたがよい。
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
それが夫婦めおとになっているのだが、本当は大きな椀に盛って一つだけ持って来るよりも、そうして二杯もって来る方が分量が多く見えるというところをねらった、大阪人の商売上手かも知れないが
大阪発見 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
出来た隙間を無理につないで、友白毛まで添いとげる——というやつは高砂やアと、仲人っていう剽軽者ひょうきんものがはいり、謡ってこしらえた夫婦めおとだけさ。こいつア窮屈でお歯に合わねえ。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
『よいわさ! 夫婦めおとも、縁類も、かような時には、頼みにならぬが世の常じゃった。行け! 行け! 上杉家とは、これ限り絶縁してくれる。兵部に、そう伝えい。それで家来の分が立つかと』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
和田家へ入夫してお艶と正式に夫婦めおととなり、おさよとともに三人、いや、お艶の腹の子をいれて四人づれで、和田宗右衛門の遺志どおり、相馬中村へ帰藩して和田家をぐことになっているのだ。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
夫婦めおととなって三年を経た。そういう二人でありながら、その仲の親しさむつまじさは、ほとんど新婚と変わりなく、人眼なければ呼び合う言葉など、甘く、遠慮なく、したたるいのであった。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「なるほど、似合いの夫婦めおとだの。——のう道誉、うらやましくないか」
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いかがなものでござる、母上。似合いの夫婦めおとで……ははははは」
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)