唐突とうとつ)” の例文
もうしまして、わたくしいまいきなりんでからの物語ものがたりはじめたのでは、なにやらあまり唐突とうとつ……現世このよ来世あのよとの連絡つながりすこしもわからないので
はなは唐突とうとつでありまするが、昨年夏も、お一人な、やはりかような事から、貴下あなたがたのような御仁ごじん御宿おやどをいたしたことがありまする。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
なぜと言うに、それを述べておかない限り、読者は恐らく余り唐突とうとつな変化に判断の心をき乱されるかも知れないと思うから……。
「え?」唐突とうとつなので、眼をしばたたいていると、性善坊は、はや口に、そこの土牢の中にいる若い僧こそ、寿童丸じゅどうまるであると告げて
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こう云うと、一見甚だ唐突とうとつの観があるように思われるかも知れない。が、それは恐らく、こんな事から始まったのであろう。——
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「焼芋を食うも蛇足だそくだ、割愛かつあいしよう」とついにこの句も抹殺まっさつする。「香一炷もあまり唐突とうとつだからめろ」と惜気もなく筆誅ひっちゅうする。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
考えてみると、うすら寒いアルバムですね。開巻、第一ペエジ、もう主人公はこのとおり高等学校の生徒だ。実に、唐突とうとつな第一ペエジです。
小さいアルバム (新字新仮名) / 太宰治(著)
それは小松の放心状態のとき唐突とうとつに年齢をたずねるという実験です。これにたいしてわたしは二様の返事を予期していました。
ハムレット (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
それは何物が刺戟しげきを与えるのか解らない唐突とうとつな微笑で、水面へ浮び上った泡のように直ぐ消えて平静になる微笑であった。
御身 (新字新仮名) / 横光利一(著)
わたくしは直接に渋江氏と交ったらしいという飯田巽さんを、先ず訪ねようと思って、唐突とうとつではあったが、飯田さんの西江戸川町にしえどがわちょうやしきった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
言うことばも唐突とうとつで、何だか辻褄つじつまが合わないよう——なので、大迫玄蕃は、いっそうゾッとして二、三歩、あとへ退った。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
とき/″\譫語うわごとのように「まあ、面白い」とか「ほんとに人を莫迦ばかにしてるよ」と言って、唐突とうとつにぱか/\と笑います。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
その身体つきや服装や唐突とうとつ拙劣な素振りなどの滑稽こっけいさ、時々その口から漏れる矛盾した奇抜な言葉、あかぬけはしていないがしかし広い強健な知力、また
一軒の古い大きな風変りな異人屋敷——その一端に六角形の望楼のようなものが唐突とうとつな感じでくっついている
旅の絵 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
それにしても、まことに唐突とうとつの出発である。いくら僕みたいな人間でも、このベルリンにあと十数時間しかいられないのだとわかると、周章あわてざるを得ない。
宇宙尖兵 (新字新仮名) / 海野十三(著)
この質問があまり唐突とうとつであったので、私は考えるひまもなしに返事が口から出てしまった。
入道がきのうの不参の詫びをしているのを耳にも入れないで、忠通は唐突とうとつに言い出した。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
イワン・フョードロヴィッチは万事が好都合に運ばれ、こんな急な出発に何の支障もないことを考えて、にやりと薄笑いを浮かべたほどであった。全くその出発は唐突とうとつであった。
あまりその理由が唐突とうとつなのでしばらく遅疑ちぎする様子であったが、証拠の手紙を出して見せると、だんだん納得が行ったらしく、「わたしでは分りませんから、年寄に会って下さい」
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
『これが土産みやげだ。ほかに何にもない、そら! これを君にくれる、』と投げだしたのは短刀であった。自分はその唐突とうとつに驚いた。かかる挙動ふるまいは決して以前のかれにはなかったのである。
まぼろし (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
初めの曖昧あいまいな調子に比べて、今の断定は少しく唐突とうとつの様に見えないでしょうか。
湖畔亭事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
わなにかかっていた川鴈かわがんを助けたことが、むしろやや唐突とうとつに語り添えられてあるのを見ると、そういう話しかたも試みられていたことはわかるが、もとは二人の男女の相喜ぶというだけでも
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
マドレーヌ氏は彼のその嘆願に答えるに、ただ次の唐突とうとつな問いをもってした。
それは本気で信じられるにはあまりに唐突とうとつなばかばかしい話に思われた。しかし身うけしたいと願っていた女と夜逃げをするということが彼の若い心に浪漫的な興味をいくらか燃やしていた。
泡鳴の日常を知るものならば、何が彼を唐突とうとつな行動に導くか、その行動の結果がどのように彼の生涯をいろどるか、それについての推量はほぼつくことである。泡鳴には常に動いて止まぬ好奇心がある。
「あれは、なんというとり剥製はくせいですか?」と、唐突とうとつにききました。
あほう鳥の鳴く日 (新字新仮名) / 小川未明(著)
美沢の態度が、唐突とうとつだったので、新子もハッとなって立ち上った。
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
平次の言葉の唐突とうとつな調子に、佐吉は思わず笑ってしまいました。
それがあまり唐突とうとつだったので、技師はちょいと驚いたが、相手の少佐が軍人に似合わない、洒脱しゃだつな人間だと云う事は日頃からよく心得ている。
首が落ちた話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
顎十郎は、ゆっくり一足進みよると、眼を据えて、穴のあかんばかり、藤波の顔をみつめていたが、唐突とうとつに口をひらいて
顎十郎捕物帳:05 ねずみ (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
時めくとうノ中将殿であるからだ。おそらくその唐突とうとつ出仕しゅっしに殿上でもまた同じような怪しみと静かな驚きの渦紋かもんがよび起されていたことであったろう。
唐突とうとつな申出を平気でいう金持の顔を今度は宗十郎がびっくりして見た。すると鼎造はそのけはいを押えていった。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
唐突とうとつなるかけ離れた二象面フェーゼスが前後して我をとりこにするならば、我はこのかけ離れた二象面を、どうして同性質のものとして、その関係を迹付あとづける事ができよう。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それがし今年今月今日切腹して相果あいはてそろ事いかにも唐突とうとついたりにて、弥五右衛門老耄ろうもうしたるか、乱心したるかと申候者も可有之これあるべくそうらえども、決して左様の事には無之これなくそろ
夫人は私に椅子の一つをすすめ、それに私の腰を下ろしたのを知ると、ほとんど唐突とうとつと思われるくらい、A氏に関するさまざまな質問を、次ぎから次ぎへと私に発するのだった。
(新字新仮名) / 堀辰雄(著)
彼はその唐突とうとつ出立しゅったつにびっくりして、どう言っていいかもわからなかった。彼女がそんな決心をした動機を知ろうと試みた。彼女は一時のがれの返辞をした。彼は落ち着く先を尋ねた。
唐突とうとつにそれを思った。作品だけが。——世界の果に、蹴込まれて、こんどこそは、謂わば仕事の重大を、明確に知らされた様子である。どうにかして自身に活路を与えたかった。暗黒王。
八十八夜 (新字新仮名) / 太宰治(著)
君はこのごろ毎夜狂犬いでて年若き娘をのみむちょううわさをききたまいしやと、妹はなれなれしくわれに問えり、問いの不思議なると問えるさまの唐突とうとつなるとにわれはあきれて微笑ほほえみぬ。
おとずれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「煙草というと……」と私はあまり唐突とうとつなので直ぐには気がつかなかった。
ゴールデン・バット事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
平次の唐突とうとつな問いはかなり六兵衛をおどろかした様子です。
「萩乃殿——唐突とうとつながら、わすれねばこそ思いいださずそろ
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
青年は唐突とうとつに始めた。
目羅博士の不思議な犯罪 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
何を見ての言か分らないが独りで大いにうなずくところあるもののようだった。そして唐突とうとつに云い出したものである。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
母はこの唐突とうとつな自分の決心に驚いたように、「どうせ出るならお嫁でもきまってからと思っていたのだが。——まあ仕方があるまいよ」と云ったあと憮然ぶぜんとして自分の顔を見た。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
無論この夫妻が唐突とうとつとそんな事をしゃべる道理もないから、声がした事は妙と云えば、確かに妙に違いなかった。が、ともかく、赤帽の見えないのが、千枝子には嬉しい気がしたのだろう。
妙な話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「広場の市」のあとで、あまりにその接触が唐突とうとつだった。猛烈な争闘と生々なまなましい光とから出て、沈黙と暗夜との中にはいったようなものだった。耳が鳴り響いていた。もう何にも見えなかった。
そしてそれらの花を見たばかりの時は、誰かが悪戯いらずらをして、その枝々におびただしい小さな真っ白な提灯ちょうちんのようなものをぶらさげたのではないかと言うような、いかにも唐突とうとつな印象を受けたのだった。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
平次の唐突とうとつな問ひに、堀周吉はギヨツとした樣子ですが
それはいかにも唐突とうとつな云いつけであった。
三人の双生児 (新字新仮名) / 海野十三(著)
『——眼をさますと、いきなりここへ来い、ここへ来ると、又唐突とうとつに修業に出ろ。——わかる筈はない』
御鷹 (新字新仮名) / 吉川英治(著)