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呻
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うめ
ふりがな文庫
“
呻
(
うめ
)” の例文
「違う。……違う」
呻
(
うめ
)
くように、彼はくりかえした。彼は、今日のあの女を、十二時間も同じ場所にいたあの娘のことを思っていた。
待っている女
(新字新仮名)
/
山川方夫
(著)
言葉も叫びも
呻
(
うめ
)
きもなく、表情もなかった。伊沢の存在すらも意識してはいなかった。人間ならばかほどの孤独が有り得る筈はない。
白痴
(新字新仮名)
/
坂口安吾
(著)
と、
呻
(
うめ
)
きながら、枕元で途方に暮れている、吾が子をぎょろりと睨むように見詰めると、枯木のように
痩
(
や
)
せ細った手で、引き寄せて
雪之丞変化
(新字新仮名)
/
三上於菟吉
(著)
アイーが歓喜だ! それが語尾で
ch-in
(
チイン
)
と変化する儂の言ったとおりだ! 最後に、グロルール、グロルールと
呻
(
うめ
)
いている。
令嬢エミーラの日記
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
と蚊の
呻
(
うめ
)
くようなる声して、ぶつぶついうその音調は、一たび口を出でて、唇を垂れ
蔽
(
おお
)
える鼻に
入
(
い
)
ってやがて他の耳に
来
(
きた
)
るならずや。
政談十二社
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
▼ もっと見る
小間使のまさがとんで来たとき、おしのは両手で胸を
掻
(
か
)
きむしり、けもののような声で
呻
(
うめ
)
きながら、夜具の中で身もだえをしていた。
五瓣の椿
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
秀吉が、茂山から方向を転じ、狐塚方面へ進軍してくると、
途々
(
みちみち
)
、乱軍のあと、無数の手負いが、炎熱の地上に
呻
(
うめ
)
いているのを見た。
新書太閤記:09 第九分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
その度毎に仙吉の苦しさうな
呻
(
うめ
)
き
声
(
ごゑ
)
がきかれた。池の水は多くの波紋を作つて揺れた。若者たちが去ると仙吉は柿の木の下に来た。
反逆の呂律
(新字旧仮名)
/
武田麟太郎
(著)
「お、お、おれは」と其の時まで独り黙っていた松山が苦しそうに
呻
(
うめ
)
いた。「おれは頭が痛い。
眩暈
(
めまい
)
がする。少し休みたい、ウウ」
麻雀殺人事件
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
久左衛門の門口や裏口は、こんな主婦たちに攻められ通しだが、今はもう誇張ではない、雨の中の
呻
(
うめ
)
きになった「もう死ぬ。」だ。
夜の靴:――木人夜穿靴去、石女暁冠帽帰(指月禅師)
(新字新仮名)
/
横光利一
(著)
そんなことを
呻
(
うめ
)
きながら、
迂路
(
うろ
)
つきまわっている
中
(
うち
)
、源吉の頭の中には、何時の間にか、恐ろしい計画が、着々と組立られていた。
鉄路
(新字新仮名)
/
蘭郁二郎
(著)
「うむ」と長谷川氏は
呻
(
うめ
)
くやうに言つて額を撫でた。「無い事はない。
種子田
(
たねだ
)
といつて、若い秀才がゐる、それから鈴木といつて……」
茶話:05 大正八(一九一九)年
(新字旧仮名)
/
薄田泣菫
(著)
また、ギンがしゃべっているとき、金五郎が身うごきして
呻
(
うめ
)
いた。それは無意識に発した苦痛の声であったろうが、マンの耳には
花と龍
(新字新仮名)
/
火野葦平
(著)
二人は帽子をしっかりおさえたまま、強いしめっぽい風に頭を下げた。風は樹々の葉をふるった枝のなかで、
軋
(
きし
)
んだり
呻
(
うめ
)
いたりしている。
トニオ・クレエゲル
(新字新仮名)
/
パウル・トーマス・マン
(著)
あの石の飛び込んだ音の後から聞いたという
呻
(
うめ
)
き声は、死人のものなどではないことになる……これアだいぶん事情が違ってきた
灯台鬼
(新字新仮名)
/
大阪圭吉
(著)
やがて、受話器から、なんともいえぬ悲痛な
呻
(
うめ
)
き声が耳をつんざくように響いてきた。一郎の声だ。あの美青年の声に違いない。
暗黒星
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
クリストフは
呻
(
うめ
)
き声をたてた。オリヴィエはびっくりして駆けてきた。クリストフは口がきけなくて、テーブルの上の手紙をさし示した。
ジャン・クリストフ:09 第七巻 家の中
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
彼を
喝
(
かつ
)
せし
怒
(
いかり
)
に任せて、
半
(
なかば
)
起したりし
体
(
たい
)
を投倒せば、
腰部
(
ようぶ
)
の
創所
(
きずしよ
)
を強く
抵
(
あ
)
てて、
得堪
(
えた
)
へず
呻
(
うめ
)
き苦むを、不意なりければ満枝は
殊
(
こと
)
に
惑
(
まど
)
ひて
金色夜叉
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
例の気象で、伯父はそれを、目をつぶってじっと
堪
(
こら
)
えようとするのである。時として、
堪
(
こら
)
えに堪えた気力の隙から、かすかな
呻
(
うめ
)
きが洩れる。
斗南先生
(新字新仮名)
/
中島敦
(著)
白髪の油に埃がつき、それが蒲団に覗いて乱れ、寝てゐるかと思へば、不意に啜り泣きのやうな迫つた
呻
(
うめ
)
き声を立てたりした。
鳥羽家の子供
(新字旧仮名)
/
田畑修一郎
(著)
かく神を怨みてやまざるは、神を忘れ得ずまた神に背き得ざる魂の
呻
(
うめ
)
きであって、やがて光明境に到るべき産みの
苦
(
くるし
)
みである。
ヨブ記講演
(新字新仮名)
/
内村鑑三
(著)
血に染ってのたうっていた父親の
呻
(
うめ
)
きが
哀
(
かな
)
しみになって切なく胸もとにこみあげるのだ。だらだらとなま温く涙が流れて来た。
石狩川
(新字新仮名)
/
本庄陸男
(著)
母の、恐ろしい
呻
(
うな
)
り声が美奈子の魂を
戦
(
おのの
)
かしたが、母の
呻
(
うめ
)
き声を聴いた途端に、悪夢は
断
(
き
)
れた。が、不思議に呻き声のみは、
尚
(
なお
)
続いていた。
真珠夫人
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
やたらに
喉
(
のど
)
がかわいて、
枕
(
まくら
)
もとのコップに少し残っていた砂糖水を飲もうとしたら、同室のおじいさんの患者が、みず、みず、と
呻
(
うめ
)
いている。
苦悩の年鑑
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
「わたし、
夢現
(
ゆめうつつ
)
に女の
呻
(
うめ
)
き声を聞いて目を覚ますと、お店をだれか駆けていく足音を聞いたんですよ。泥棒が入ったんじゃあないでしょうか」
宝石の序曲
(新字新仮名)
/
松本泰
(著)
「おお、」と
母親
(
ははおや
)
は
呻
(
うめ
)
いた。「わたしは千
丈
(
じょう
)
もある
地
(
じ
)
の
底
(
そこ
)
へでも
入
(
はい
)
っていたい。あれを
聞
(
き
)
かされちゃア、とても
堪
(
たま
)
らない。」
杜松の樹
(新字新仮名)
/
ヤーコプ・ルートヴィッヒ・カール・グリム
、
ヴィルヘルム・カール・グリム
(著)
幾度か測候所などの立つてゐる丘の下を疾駆する車内のクッションから尻を浮かせて「あゝゝ」とわめき
呻
(
うめ
)
いたのであつた。
途上
(新字旧仮名)
/
嘉村礒多
(著)
つまりナオミは天地の間に充満して、私を取り巻き、私を苦しめ、私の
呻
(
うめ
)
きを聞きながら、それを笑って眺めている
悪霊
(
あくりょう
)
のようなものでした。
痴人の愛
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
と同時に、二人の顔に
颯
(
さっ
)
と驚愕の色が
閃
(
ひらめ
)
いた。検事はウーンと
呻
(
うめ
)
き声を発して、思わず
銜
(
くわ
)
えていた
莨
(
たばこ
)
を取り落してしまった。
黒死館殺人事件
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
そして時どき苦しそうな声を出して
呻
(
うめ
)
いた。隣室に寝ていた住持も其の声を聞きつけて起きて来た。二人の介抱で玉音の苦しみはすぐ治まった。
法華僧の怪異
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
すると行く手から、一人の男がやって参りましたが、お台所ちかくまで参りますと、にわかに
呻
(
うめ
)
き声をあげて、地へ倒れたではございませんか。
怪しの者
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
私は
歔欷
(
むせびな
)
いている自分の哀れな心の中に痛い傷痕をかんじて、我知らず手足を折られでもした者のように
呻
(
うめ
)
き声を放った。
ある自殺者の手記
(新字新仮名)
/
ギ・ド・モーパッサン
(著)
ただそのどよみは前のような、勢いの
好
(
よ
)
い声援の叫びではなく、思わず彼等の口を
洩
(
も
)
れた驚歎の
呻
(
うめ
)
きにほかならなかった。
素戔嗚尊
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
労働服をつけたひとりの男は、腹に銃剣の一撃を受けて、その窓から投げ出され、地上に横たわって最後の
呻
(
うめ
)
きを発した。
レ・ミゼラブル:08 第五部 ジャン・ヴァルジャン
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
短銃
(
ピストル
)
の台尻で彼に一撃を喰わせ、次いで支配人に迫ったが、倒れた筈の岩見が
呻
(
うめ
)
き声を挙げたので、遂に曲者は目的を果さずに逃げたのであった。
琥珀のパイプ
(新字新仮名)
/
甲賀三郎
(著)
黙ってきいていた母の顔は土色になってむしろ何かに
怯
(
おび
)
えているようだった。そしてただ最後に、「まあ可哀相に……」と
呻
(
うめ
)
いたばかりであった。
何が私をこうさせたか:――獄中手記――
(新字新仮名)
/
金子ふみ子
(著)
苦しげな
呻
(
うめ
)
き
声
(
ごえ
)
から喚び起されて妻が語った夢は、彼には
途轍
(
とてつ
)
もなく美しいもののようにおもえた。その夢の極致が今むこうの空に現れている……。
苦しく美しき夏
(新字新仮名)
/
原民喜
(著)
ぐぐぐぐと云う
呻
(
うめ
)
きの聞えた当初から、その時の七人の位置、ゲーム中の黒子の男の言葉、態度、面識、感じ、そんなものまでが細々と訊ねられた。
撞球室の七人
(新字新仮名)
/
橋本五郎
(著)
フィロクテテスの深い不幸な魂の
呻
(
うめ
)
きは、私の心につよく響き、そしてなぐさめに近い同悲の情を呼び起こしました。ヨブなどの運命を思いました。
青春の息の痕
(新字新仮名)
/
倉田百三
(著)
結果は彼が最初に敵の腕に与えた痛撃と同様、ウムと苦痛に
呻
(
うめ
)
く刹那の隙を得たりとばかりドーブレクの喉と頸に両手をかけてぎゅっと絞め上げた。
水晶の栓
(新字新仮名)
/
モーリス・ルブラン
(著)
抉
(
えぐ
)
られている——それは胸か、腹か、
腸
(
はらわた
)
か知らないが、
両刃
(
もろは
)
の剣をもって抉られた瞬間でなければ出ない声だと思われる、大地を動かす
呻
(
うめ
)
きでした。
大菩薩峠:37 恐山の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
彼は海綿を取ると、それを浸してその死人のやうな顏をしめし、私の香ひ瓶をとつて
鼻孔
(
びこう
)
に持つて行つた。メイスン氏は間もなく眼を開けて
呻
(
うめ
)
いた。
ジエィン・エア:02 ジエィン・エア
(旧字旧仮名)
/
シャーロット・ブロンテ
(著)
この恐ろしい角度の違いは、低くごろごろいうような、または
呻
(
うめ
)
くような音とともに急速に増した。またたくまに部屋はその形をかえて菱形となった。
落穴と振子
(新字新仮名)
/
エドガー・アラン・ポー
(著)
見ていけないものを見たような気持で、思わず目を外らしたとき、
呻
(
うめ
)
くような小さな声で、吉良兵曹長の声がした。
桜島
(新字新仮名)
/
梅崎春生
(著)
それから一寸経てから、こわごわ頭を出して様子をきいて居ますと、又々人の
呻
(
うめ
)
くような声がきこえて来ました。
彼が殺したか
(新字新仮名)
/
浜尾四郎
(著)
お前達の母上からは私の無沙汰を責めて来た。私は
遂
(
つい
)
に倒れた。病児と枕を並べて、今まで経験した事のない高熱の為めに
呻
(
うめ
)
き苦しまねばならなかった。
小さき者へ
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
彼女はおよそ何時間ぐらいその床の上に
呻
(
うめ
)
き続けたかもよく覚えなかった。唯、しょんぼりと電燈のかげに坐っているような弟の顔が彼女の眼に映った。
ある女の生涯
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
それと同時に、私達は、花子の絶望的な
呻
(
うめ
)
きが彼女の唇から洩れるのを聞いた。すると、闖入者の顔には、記憶から記憶を一瞬に過ぎる深刻な影が走った。
バルザックの寝巻姿
(新字新仮名)
/
吉行エイスケ
(著)
ここには人生の
荊棘
(
けいきょく
)
に血を流し
呻
(
うめ
)
く声のかわりに、ハックルベリーの
実
(
み
)
の饗宴に充ち足り、想いをガンジスの悠久な流れにはせる、自信にみちた独白がある。
森の生活――ウォールデン――:01 訳者の言葉
(新字新仮名)
/
神吉三郎
(著)
ここには人生の
荊棘
(
けいきょく
)
に血を流し
呻
(
うめ
)
く声のかわりに、ハックルベリーの
実
(
み
)
の饗宴に充ち足り、想いをガンジスの悠久な流れにはせる、自信にみちた独白がある。
森の生活――ウォールデン――:02 森の生活――ウォールデン――
(新字新仮名)
/
ヘンリー・デイビッド・ソロー
(著)
呻
漢検1級
部首:⼝
8画
“呻”を含む語句
呻吟
呻声
呻唸
呻吟声
欠呻
呿呻
生呿呻
羽呻
吟呻
直呻
沈呻
横臥呻吟
懊悩呻吟
大欠呻
唸呻
呻聲
呻唸声
呻吟転輾
呻吟聲
呻吟籠居
...