可笑おか)” の例文
それが自分にうつろうがうつるまいが、そんなことは一切合財考えなしで随分可笑おかしな不調和な扮装つくりをしている人が沢山あるようです。
好きな髷のことなど (新字新仮名) / 上村松園(著)
天晴あっぱれ天下の物知り顔をしているようで今日から見れば可笑おかしいかもしれないが、彼のこの心懸けは決して悪いことではないのである。
西鶴と科学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
絞殺に鮮血がきでるというのは可笑おかしかった。なにかこれは別の傷口がなければならない。一郎は愛弟四郎の屍体に顔を近づけた。
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「乱調は虚子これをはじめ云々」などと言って居る。今から考えると可笑おかしいようである。漱石氏はその乱調を批難しているのである。
漱石氏と私 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
古木学士はいよいよ眼を細くして反身そりみになった。学士の肩の蔭で、アダリーも可笑おかしいのを我慢しながらうつむいている気配である。
冥土行進曲 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
その洞院左膳様と、花村様とお二人が、いずれも殿様のおためじゃといって、一人の遊女おんなを争うとは、どうにも可笑おかしなことではある
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
おれは馬鹿馬鹿しいから、天麩羅を食っちゃ可笑おかしいかと聞いた。すると生徒の一人ひとりが、しかし四杯は過ぎるぞな、もし、と云った。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
まるっきりきたての餅も同様だからな、ちょっと手荒に扱ってもすぐにひっちゃぶけちゃうもんなんだ、万吉、なにが可笑おかしいんだ
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
小田切大使の自殺に宮本夫人を引張り出すのはちょっと可笑おかしいが、私の頭の隅に、二十年前の記憶が今なお残っていたからであろう。
情鬼 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
いやがる妻を紀昌はしかりつけて、無理に機を織り続けさせた。来る日も来る日もかれはこの可笑おかしな恰好かっこうで、瞬きせざる修練を重ねる。
名人伝 (新字新仮名) / 中島敦(著)
「何処の家のだって同じごった。俺家の鵞鳥がちょうを見てけれったら。何処の世界に黒い鵞鳥なんて……。俺は、見る度に、可笑おかしくてさ。」
黒い地帯 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
さっきからあんまり野郎の神経質ぶりが可笑おかしいので、一つからかってくれようかという気持が、ムラムラとしていたのであった。
葛根湯 (新字新仮名) / 橘外男(著)
それに、もっといけないのは、私が人生の目標を持たなかったことです。何でも其日其日を面白可笑おかしく暮しさえすればいいのだ。
わたくしの幸福と申すのは可笑おかしゅうございますが、わたくしの平和は、あなたのためにも、どうでもよろしい物ではございますまい。
田舎 (新字新仮名) / マルセル・プレヴォー(著)
そんな言葉、思い出して、可笑おかしゅうございました。けれども、だんだん私は、心配になってまいりました。誰にも、秘密が在る。
皮膚と心 (新字新仮名) / 太宰治(著)
其の時分の書生のさまなぞ、今から考えると、幕府の当時と同様、可笑おかしい程主従しゅじゅうの差別のついて居た事が、一挙一動いっきょいちどう思出される。
(新字新仮名) / 永井荷風(著)
この人のなまりことに著しく、この地方特有の、「たい」を「てゃあ」、「はい」を「ひゃあ」と云う風に発音するのが可笑おかしくてたまらず
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「人の気を知らねえにも程がある」と源は怒気を含んで、舌なめずりをして、「何が可笑おかしい。気の毒に思うのが至当あたりまえじゃねえか」
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そして一番しまいに殿しんがりだとでもいうように大きな熊が一疋、無恰好な形をしてのそのそ列を追って行った。それは可笑おかしかった。
宝永噴火 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
ただ今でも可笑おかしいのは、その中にふと車を引いた、赤牛あかうしの尻が見えた事じゃ。しかしおれは一心に、さわがぬ容子ようすをつくっていた。
俊寛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「何が可笑おかしいのだ!」と彼は怒鳴った。一同が粛然と静まった。すると誰かが、「芸者の傘をさしている奴は誰だ!」と言った。
地上:地に潜むもの (新字新仮名) / 島田清次郎(著)
私だけが何か新派の芝居でもしているように見えて可笑おかしくてたまらない、やはり私は、さよか、おおきにはばかりさんといってしまう。
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
聴水は可笑おかしさをこらえて、「あわただし何事ぞや。おもての色も常ならぬに……物にや追はれ給ひたる」ト、といかくれば。黒衣は初めて太息といき
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
クリストフのくつの大きいこと、服の醜いこと、ほこりをよく払ってない帽子、田舎訛いなかなまりの発音、可笑おかしなお辞儀の仕方、高声のいやしさ
仲人は石版印刷屋の親爺——というと可笑おかしく聞えるけれど、私は当時大学で研究してはいたが何も大学へ就職しようとは思っていず
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
「あら! よく知っているわねえ。私は、どうせ馬鹿よ。新子ちゃんは、利口者よ。おほほほほ。」と、さも可笑おかしそうに笑い出した。
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
まるで見当はずれなので、銀子は可笑おかしくもあり、赤坂の芸者屋と聯絡れんらくでも取っているのかとも思い、見料をおいて匆々そうそうにそこを出た。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
それが何と思ったか、三千メートル近い高山の雪渓の発掘を始めたのだから、新聞が面白可笑おかしく書き立てたのは無理のないことである。
万豊はすべてにハッキリしたことを口にするのが嫌いで、ひとりで歩いている時も何が可笑おかしいのかいつもわらっているような表情だった。
鬼涙村 (新字新仮名) / 牧野信一(著)
そして可笑おかしな叫声を出した。喜びの叫声を出した。この群の男等はこの青年の真似をして、みな帽を脱いでそれを振り動かして叫んだ。
(新字新仮名) / ウィルヘルム・シュミットボン(著)
それを半分まで聞いていないうちに、「結構々々、」と旅人は可笑おかしくてたまらなくなりましたので、そっと逃げて行ってしまいました。
でたらめ経 (新字新仮名) / 宇野浩二(著)
彼ほどの冷静なかつ聡明そうめいな人にして全く可笑おかしな話であるが、そこで彼は自分の恥ずべき空想が私に見破られたことを焦慮して
(新字新仮名) / 坂口安吾(著)
私のやりかたは可笑おかしくてすぐやってしまう分はいつもちゃんちゃん行って、一遍落すとなかなか落しっぱなしになってしまう。
可笑おかしきは合祀先の神社の神職が、神社は戻るとも神体は還しやらずとて、おのれをその社の兼務させくれるべきしちに取りおる。
神社合祀に関する意見 (新字新仮名) / 南方熊楠(著)
どのようにしてもあなた様のおそばをはなれることが出来ないのに、上の官人もするに事欠いて人を試すことの可笑おかしさを述べた。
花桐 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
ここに可笑おかしい事がある。己は奥さんの運動を覚えているが、その静止しておられる状態に対しては記憶がすこぶ朧気おぼろげなのである。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「うむ……。可笑おかしいね。何が何だかわからなくなって来たぞ。……待てよ。じゃ、あのどろぼう船だけが、亡霊だったのかもしれないね」
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
横浜の、ええ、叔母の娘、姉妹でね、……叔母の娘は可笑おかしいんですが、叔父は私なんぞ顔も覚えないうちに、今の墓に眠ってるんです。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
里のうわさが拡まって、旅人までが、自分たちを天狗と信じている容子が可笑おかしくもありまた、自分等の思うつぼでもあったからである。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わたくしなが幽界生活中ゆうかいせいかつちゅうにもお客様きゃくさま水杯みずさかずきかさねたのは、たしかこのときりのようで、おもすと自分じぶんながら可笑おかしくかんぜられます。
青鞜社中でも第一期に殺すべき者なんてありますから、らいてうとでもいふのかと思つたら 可笑おかしくてたまりませんでした。
すると最前何所どこかへ逃げた小い可愛い仔狸が、何所からかヒヨコヒヨコと出て来て、面白可笑おかしい手付腰付をして、踊り出して来たのです。
馬鹿七 (新字旧仮名) / 沖野岩三郎(著)
朴訥ぼくとつな調子で語りおわると、石津右門はホッと溜息ためいきを吐きます。鬼の霍乱がしおれ返った様子は、物の哀れを通り越して可笑おかしくなるくらい。
そんな道徳の教科書みたいな言葉に、ジプさんがどうしてそう凹まされてるか、俺にははがゆくもあったり可笑おかしくもあった。
溺るるもの (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
あとで先生の所へ来た葉書で、九大のK博士ということが知れたのであるが、随分びっくりされたことだろうと思ってちょっと可笑おかしかった。
由布院行 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
とても駄目だと思ったです。ところが入ってしまうと斯うなるのが当然のようで、何故あんなに煩悶したのか、自分ながら可笑おかしくなります。
小問題大問題 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
急に慌ててカッとなったのに自分ながら半分は可笑おかしさを感じないではいられなかったが、まだ日の光の新しい午前の往来で
のんきな患者 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
……そうじゃなくて? ね? それに、そのあごひげだって生やすなら生やすで、も少しなんとかしなくちゃねえ。……(笑う)可笑おかしな人!
桜の園 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
どうも怪しいことがあるです。芳子と約束が出来て、すぐ宗教がいやになって文学が好きになったと言うのも可笑おかしし、その後を
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
しそれも許して置いた処で「雲かかる」といへば一片の雲と見ゆる処いと可笑おかしく候。試みにこの歌の景を想像可被成なさるべく候。
人々に答ふ (新字旧仮名) / 正岡子規(著)