其時分そのじぶん)” の例文
わたし其時分そのじぶんなんにもらないでたけれども、母様おつかさん二人ふたりぐらしは、この橋銭はしせんつてつたので、一人前ひとりまへ幾于宛いくらかづゝつてわたしました。
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
カピ妻 さいの、其時分そのじぶんにはきつ鼠捕ねずみとりであったさうな。したが、わたしが不寢ねずばんをするゆゑ、いま其樣そのやうねずみをばらすことぢゃない。
わたくしはもう十ねんまへから、さう申上まをしあげてゐたのですが、全體ぜんたい病院びやうゐん設立たてられたのは、四十年代ねんだいころでしたが、其時分そのじぶん今日こんにちのやうな資力しりよくではかつたもので。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
さうしてつたところ始終しゞふそとで、たま其下宿そのげしゆくつたこともあつたけれど、自分じぶん其様そん初々うひ/\しいこひに、はだけがすほど、其時分そのじぶん大胆だいたんでなかつたとふことをたしかめた。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
昨年さくねんくれおしつまつてから産聲うぶごゑをあげて、はじめて此赤このあかかほせてれましたときわたしはまだ其時分そのじぶん宇宙うちうまよふやうな心持こゝろもちたものですから、いまおもふとなさけないのではありますけれど
この子 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
其時分そのじぶんは人間が大様おほやうだから、かねあづける通帳かよひちやうをこしらへて、一々いち/\けては置いたが、その帳面ちやうめん多助たすけはうあづけたまゝくにかへつたのを、番頭ばんとうがちよろまかしてしまつたから、なに証拠しようこはない。
塩原多助旅日記 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
ぬまは、其時分そのじぶんからうごす……呼吸いき全躰ぜんたいかよふたら、真中まんなかから、むつくときて、どつと洪水こうずゐりはせぬかとおも物凄ものすごさぢや。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
しかしです、新生活しんせいくわつあかつきかゞやいて、正義せいぎかちせいするやうになれば、我々われ/\まちでもおほいまつりをしてよろこいはひませう。が、わたし其迄それまでたれません、其時分そのじぶんにはもうんでしまひます。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
其時分そのじぶんはまだ一ヶのさういへ二十けんあつたのが、むすめて一にち、つひほだされて逗留たうりうした五日目かめから大雨おほあめ降出ふりだした。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
わし其時分そのじぶん果敢はかないもので、さう天氣てんきふねるのは、じつあしはうであつたが。出家しゆつけ生命いのちをしむかと、ひとおもはくもはづかしくて、怯氣々々びく/\もので乘込のりこみましたぢや。
旅僧 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)