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其時分
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そのじぶん
私は
其時分は
何にも
知らないで
居たけれども、
母様と
二人ぐらしは、この
橋銭で
立つて
行つたので、
一人前幾于宛取つて
渡しました。
カピ妻 さいの、
其時分には
甚い
鼠捕りであったさうな。したが、わたしが
不寢の
番をするゆゑ、
今は
其樣な
鼠をば
捕らすことぢゃない。
私はもう十
年も
前から、さう
申上げてゐたのですが、
全體此の
病院の
設立られたのは、四十
年代の
頃でしたが、
其時分は
今日のやうな
資力では
無かつたもので。
而して
会つた
処は
始終外で、
偶に
其下宿へ
行つたこともあつたけれど、
自分は
其様な
初々しい
恋に、
肌を
汚すほど、
其時分は
大胆でなかつたと
云ふことを
確めた。
昨年の
暮押つまつてから
産聲をあげて、はじめて
此赤い
顏を
見せて
呉れました
時、
私はまだ
其時分宇宙に
迷ふやうな
心持で
居たものですから、
今思ふと
情ないのではありますけれど
其時分は人間が
大様だから、
金を
預ける
通帳をこしらへて、
一々附けては置いたが、その
帳面は
多助の
方へ
預けた
儘国へ
帰つたのを、
番頭がちよろまかしてしまつたから、
何も
証拠はない。
此の
沼は、
其時分から
動き
出す……
呼吸が
全躰に
通ふたら、
真中から、むつくと
起きて、どつと
洪水に
成りはせぬかと
思ふ
物凄さぢや。
然しです、
新生活の
曉は
輝いて、
正義が
勝を
制するやうになれば、
我々の
町でも
大に
祭をして
喜び
祝ひませう。が、
私は
其迄は
待たれません、
其時分にはもう
死んで
了ひます。
其時分はまだ一ヶの
荘、
家も
小二十
軒あつたのが、
娘が
来て一
日二
日、つひほだされて
逗留した五
日目から
大雨が
降出した。
私も
其時分は
果敢ない
者で、
然云ふ
天氣に
船に
乘るのは、
實は
二の
足の
方であつたが。
出家の
身で
生命を
惜むかと、
人の
思はくも
恥かしくて、
怯氣々々もので
乘込みましたぢや。