入江いりえ)” の例文
それは、しろ公を、れいの「さっぱ船」にのせ、自分が船をこいで、とうとうおっかさんのおさとまで、入江いりえわたってしまったのです。
あたまでっかち (新字新仮名) / 下村千秋(著)
三鷹村みたかむらの方から千歳村をて世田ヶ谷の方に流るゝ大田圃の一の小さなえだが、入江いりえの如く彼が家の下を東から西へ入り込んで居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
その上綾瀬川あやせがわその他支流や入江いりえなども多く、捜査範囲は非常に広い地域にわたり、如何いかな警察力を以てしても、余りにも漠然ばくぜんたる探し物であった。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
いや、必ずしも一首残らずわからなかつた次第ではない。「日のした入江いりえ音なし息づくと見れど音こそなかりけるかも」
変遷その他 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
ヤーセ駅の一里ばかり東の方から、入江いりえのごとくになって居る湖水に流れ込んで居る川があります。その川にかかってある石の小橋を南に渡ったです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
たしか走水はしりみずというところ浦賀うらが入江いりえからさまでとおくもない、うみやまとのったせま漁村ぎょそんで、そしてひめのおやしろは、そのむら小高こだかがけ半腹はんぷくって
丁度入江いりえ某という華族出の女優を見るような、品の良さと冷たさが、相対する京極三太郎を窒息させそうです。
そして、じゅうたんの穴やけめに見えたのは、キラキラ光る入江いりえや小さなみずうみだったのです。
... いいですね、これはみんな幾年いくねんも前のことですよ。ところできのう」と、月は語りつづけました。「わたしはシェラン島の東海岸にある、どこかの入江いりえを見おろしていました。 ...
巨椋おほくら入江いりえとよむなり射部人いめびと伏見ふしみ田居たゐかりわたるらし 〔巻九・一六九九〕 柿本人麿歌集
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
清長きよなが型、国貞くにさだ型、ガルボ型、ディートリヒ型、入江いりえ型、夏川なつかわ型等いろいろさまざまな日本婦人に可能な容貌ようぼうの類型の標本を見学するには、こうした一様なユニフォームを着けた
自由画稿 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
あきともかずひるともらず朧夜おぼろよ迷出まよひいでて、あはれ十九を一期いちごとして、同國どうこく浦崎うらざきところ入江いりえやみしづめて、あし刈根かりねのうたかたに、黒髮くろかみらしたのである。
一席話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
暮の十二月二十五日と、中元の七月十日とが入江いりえ道場の年二回の表彰日なので、修業の半期半期を、門人たちは、夏の陣、冬の陣、と呼びわけて免許取りの早さばかりきそっていた。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
平助はいろいろ考えていましたが、ふと名案めいあんが浮かんできました。村の側を流れてる川が海にそそごうという川口のそばに、大きな入江いりえがありまして、深い深い沼を作っていました。
正覚坊 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
わかい女の人たちは、ちょうど日下くさか入江いりえのはすの花のようにかがやほこっている。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
酒かひにゆきの中里なかざとひとすぢにおもひ入江いりえ江戸川えどがわすえ
それは柳原さんや、入江いりえさんも知っている。
柳原燁子(白蓮) (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
深くもだした油壺あぶらつぼ入江いりえ
畑の祭 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
青い入江いりえの見えるみち
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
午後六時入江いりえに来る
舟夫 (新字旧仮名) / 渡久山水鳴(著)
黄金色こがねいろに藻の花の咲く入江いりえを出ると、広々とした沼のおも、絶えて久しい赤禿あかはげの駒が岳が忽眼前におどり出た。東の肩からあるか無いかのけぶり立上のぼって居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
わたくしかくれていたところ油壺あぶらつぼせま入江いりえへだてた南岸なんがんもりかげ、そこにホンのかたばかりの仮家かりやてて、一ぞく安否あんぴづかいながらわびずまいをしてりました。
おかあさんのお里の村までは、おかづたいに入江いりえをぐるりとまわっていけば、二あまりありましたが、舟でまっすぐに入江を横ぎっていけば、十四、五ちょうしかありません。
あたまでっかち (新字新仮名) / 下村千秋(著)
本丸ほんまる庭先にわさきになる山芝やましばの高いところに床几しょうぎをすえこんで、浪華なにわ入江いりえをながめている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あるいた道程みちのりは一あまりでございましょうか、やがて一つの奥深おくふか入江いりえ𢌞まわり、二つ三つ松原まつばらをくぐりますと、そこは欝葱うっそうたる森蔭もりかげじんまりとせる別天地べってんち
林太郎の家の裏手うらておかから北の方を見ると、霞ガ浦が入江いりえになっていて、そのむこうに一つの村があり、その村におっかさんのおさとがあるので、それで「むこうの家」といっているのでした。
あたまでっかち (新字新仮名) / 下村千秋(著)
えんたる船陣せんじんをしながら、四方の海から整々せいせい入江いりえへさして集まってくる。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)