あたひ)” の例文
新字:
ひとこゝろ宿やどところこひをすらわらふべくしんずべからざるものならば、人生じんせいつひなんあたひぞ、ひとこゝろほど嘘僞きよぎものいではないか。
湯ヶ原より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
正否せいひのほどは保證ほしようがたいが、それはとにかくこんな些細ささい事物じぶつまで科學的かがくてき整理せいりせられてゐることは歎賞たんしようあたひするであらう。
火山の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
汝思へらく、己があぢはひのため全世界をしてあたひを拂はしめし女の美しき頬を造らんとて肋骨あばらぼねを拔きし胸にも 三七—三九
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
かたかけ門口かどぐちへ出る所へ獨りのをとこ木綿もめん羽織はおり千種ちくさ股引もゝひき風呂ふろしきづつみを脊負せおひし人立止りて思はずもみせならべし水菓子のあたひを聞ながら其所そこに居たりし道之助を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
活計くらしを立つるには、鍼仕事はりしごとして得給ふ錢と、むかし我等が住みたりしおほいなる部屋を人に借して得給ふあたひとあるのみなりき。われ等は屋根裏やねうらの小部屋に住めり。
「僕は弱者にむかつて話してるんぢやない、またそんな奴等のことは考へてゐない。僕は唯、この事業にあたひする人に、そしてそれを完成し得る人に話しかけてるんですよ。」
讀去よみさ讀來よみきたつて纖細妙微せんさいみようびなる筆力ひつりよくまさしくマクベスを融解ゆうかいしたるスープのあたひはあるべし。
罪と罰(内田不知庵訳) (旧字旧仮名) / 北村透谷(著)
その時分、白米のあたひが、一等米圓に七升一合、三等米七升七合、五等米八升七合。
日本橋あたり (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
手桶をも其處に投出して一つは滿足成しが一つは底ぬけに成りけり、此桶これあたひなにほどか知らねど、身代これが爲につぶれるかの樣に御新造の額際に青筋おそろしく、朝飯のお給仕より睨まれて
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
就中なかんづく、ねうちものは、毛卷けまきにおしどりの羽毛うまう加工かこうするが、河蝉かはせみはねは、職人しよくにんのもつともほつするところ、とくに、あの胸毛むなげゆるは、ごとうをせる、といつてあたひえらばないさうである。
木菟俗見 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
宗助そうすけ抱一はういつ屏風びやうぶ辯護べんごするとともに、道具屋だうぐやをも辯護べんごするやう語氣らした。さうしてたゞ自分じぶんだけ辯護べんごあたひしないものゝやうかんじた。御米およねすこくさらした氣味きみで、屏風びやうぶはなしそれなりにした。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
死はなべてあたひのきはみ
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
ちずほろびずあたひある
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
さてその初戀の眞のあたひまれ、かくまれ、その君が心に充牣したるもの、今や無慙むざんにも引き放ちて棄てられ、その跡は空虚になりぬ。この空虚は何物もてうづむべきか。
私には生れながらに持つてきた内心の寶がある。若し外から來る樂しみがはゞまれ、または私の出し得ないあたひでしか與へられないとしても、それは私の生命を續けさせることが出來る。
ゆめ同樣どうやうあたひとぼしい幻影げんえいぎなかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
お菊はいたく氣の毒に思ひ我故にかく成行なりゆき給ふなれば何卒見繼みつぎ度思へども親にやしなはるゝ此身なるゆゑ何事も心にまかせず是は僅なれども私しが手道具てだうぐなれば大事なしうりてなりとも旅籠はたごの入用母御の藥のしろ爲給したまへと鼈甲べつかふくし琴柱ことぢ花菱はなびし紋付もんつきたる後差うしろざし二本是はあたひに構はず調とゝのへし品なりとて吉三郎に渡しければ大いに悦び其芳志そのこゝろざし
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)