仕出来しでか)” の例文
旧字:仕出來
倅がこんなことを仕出来しでかす筈がない——という自分の考えに合槌がうってもらいたい——そうした欲求がむらむらっと起って来た。
情状酌量 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
今の話の様子じゃあ、それから又いろいろな面倒が起って、若いおふくろまでがなんぞの間違いでも仕出来しでかさねえとも限らねえ。
半七捕物帳:10 広重と河獺 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
決して裁判所の威厳や警察の威信に係わるような事は毛頭仕出来しでかさない。自分が出れば円満にみなが好いように解決を見る考えでいます。
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
長い準備時代を終って十日とたゝない中に一生涯の運命を片付けてしまった。問題はもう一人の堀尾君だ。この男が種々いろいろのことを仕出来しでかす。
負けない男 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
それに、いくら怪賊にもせよ。何の利害関係もない大使に、御迷惑を及ぼす様なことを仕出来しでかす気遣いもあるまいではないか
黄金仮面 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
もしこの上に進歩して行たならば日本はどんなことを仕出来しでかすかも知れない。何処の国でも恐らくは日本の将来を恐れて居らぬ者はなからう。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
「どうですかね。安心して私に委せておけないような人達ですからね。何を仕出来しでかすかと思って、可怕おっかないでしょう」お島は可笑おかしそうに笑った。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
出入りを差止められるようなことを仕出来しでかしたのも、原因は妙子にあると云う意味を、非常に婉曲えんきょくにではあったが、だんだんほのめかすようにした。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
早く妻子に死別れて独身生活ひとりぐらしをして居た自分の伯父の一人が、窮迫の余り人と共に何か法網に触るる事を仕出来しでかしたとかで、狐森一番戸に転宅した。
葬列 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
十六の年から思ふ事があつて、生れも賤しい身であつたれど一念に修業して六十にあまるまで仕出来しでかしたる事なく
にごりえ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「なにしろ頼む」と、宋江はくれぐれ朱貴にしょくした。「よもやわしとの約束は破るまいが、なにせい、あのやっこさん、なにを仕出来しでかすかわからんからな」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まだ兵卒の服を着ているところを見ると、戦線に出てから何か失策を仕出来しでかしたために進級が遅れたものらしい。
戦場 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
何か仕出来しでかしはしないかと注意していたんです。若し苅田の方に気がついていたら、子爵をお救いする事が出来たでしょうに、……それを思うと残念です
海浜荘の殺人 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
或はまた、女に振られた男が失望のあまり仕出来しでかしたことであるかもしれない。よって警察はウォーカーの家に出入した男女の取調べにかかったのである。
恐ろしき贈物 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
いっそあの時死んだら此のような苦労は致すまじきに、皆々様に余計な心配を掛けまして、飛んだことを仕出来しでかしましたなア、しかしこれも男のやくか知らんて
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
長い一生をかへつてみても、何一つ碌な事は仕出来しでかしてゐないので、この頃ではひとと話す時には、いつもパアシング将軍の舅を自慢する事に決めてゐる。
其れには安達君の直話じきわとして、いやしくも書を読み理義りぎを解する者が、此様な事を仕出来しでかして、と恥じて話して居た。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「俺が行って追返してやろう。よし追返されないまでも、惣治の傍に置いてはよくない。ろくなことを仕出来しでかしゃしない。とにかくどんな様子か見てきてやれ」
贋物 (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
あんまり穏和おとなしすぎるので、もうちつと悪戯いたづらをしてくれればよいと思つてゐる位の栄蔵が、そんな大それたことを仕出来しでかしたといふのは、わけが解らなかつた。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
だからわしは行く先々で話の種になるような事を仕出来しでかしたのじゃ。大したこともせなんだが——壁を汚したり、密柑をひっくりかえしたり、窓をこわしたりしましたじゃ。
老込んだ証拠には、近頃は少し暇だと直ぐ過去を憶出おもいだす。いや憶出おもいだしても一向憶出おもいだばえのせぬ過去で、何一つ仕出来しでかした事もない、どころじゃない、皆碌でもない事ばかりだ。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
この節ひまなものですから内職にそんな事をします。百姓が農業のあいだに慣れぬ事をするから、少し浪風があると毎度大きな間違いを仕出来しでかしますと云うのをきいて、実に怖かった。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「道鬼奴、偉いことを仕出来しでかしたな。きゃつの計画の戦車さえ、思う通りに出来上がったら、天下に恐ろしいものはない。謙信ごとき木葉微塵こっぱみじんだ。どれどれそれでは行って見よう」
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
由良という人のそこが堅いところで、いくら可愛い弟子でも、いくらその人間が仕出来しでかしても、だからといってそれだけのまだ貫禄もないものに決してそんな依怙えこの沙汰はしなかった。
春泥 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
唯、親としてのシメシがつかない。真実ほんとうに吾子の前では一言もないようなことばかり仕出来しでかしたんですからね。旦那も今ではすっかり後悔なすって、ああして何事なんにも言わずに働いてる。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
さまでの苦患くげんではないやうにおもはれては日の暮れつくすまで遊んでしまひ、人力車へと乗せられたのち、はじめて取返しの付かないことでも仕出来しでかしたかのやうに悔恨するのが常であつた。
異版 浅草灯籠 (新字旧仮名) / 正岡容(著)
お倉は手前の様な亭主に満足する女じゃ無い、今に見ろ何か間違いを仕出来しでかすからとか其様な事ばかり言て居ました、爾々そう/\夫ばかりでは有りませんよ昨年も老人とお倉さんと喧嘩をした事が有ます
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
なんで、これがおわびせいでおられましょう。なおこのが、いらぬことを仕出来しでかしましたこころなさからお師匠ししょうさんに、このようないやなおもいをおさせもうしました。堺屋さかいやあながあったら這入はいりとうおます
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
這奴しゃつ窓硝子まどがらす小春日こはるび日向ひなたにしろじろと、光沢つやただよわして、怪しく光って、ト構えたていが、何事をか企謀たくらんでいそうで、その企謀たくらみの整うと同時に、驚破すわ事を、仕出来しでかしそうでならなかったのである。
革鞄の怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
われにもない、愚事のかぎりを仕出来しでかしてしまふ。
山羊の歌 (新字旧仮名) / 中原中也(著)
とうとうこんな騒ぎを仕出来しでかしたんですが、だんだん調べてみると、こいつは女形おんながたで八百屋お七を出し物にしていたんです。
半七捕物帳:06 半鐘の怪 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
三年か四年の頃、僕は何か仕出来しでかして、毎日留め置きを食った。東金君は同情して、家へ帰らない。夕方まで必ず教室の窓下に立って待っていた。
村一番早慶戦 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
然るに京王電鉄は、一方先棒さきぼうの村内有力者某々等をして頗る猛烈に運動せしむると共に、一方田夫野人何事をか仕出来しでかさんとたかくくって高圧的こうあつてき手段しゅだんに出た。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
支那人に一弗半の持合せがあつたら、屹度天国をでも払ひ下げるやうな素晴しい事を仕出来しでかすに相違ない。
そういうひらめきと、いや謀叛人むほんにんはあのきんか頭である。明智ほどな者が、かかることを仕出来しでかすからには、水も漏らさぬ用意の上であろう。所詮は覚悟のときか。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
精神病者が一たん言い出した以上、その希望をかなえてやらねばどんなことを仕出来しでかすかわからない。
二重人格者 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
わたくし他事ひとごととは云いながら、命の恩人のかたき、すぐに飛びかゝろうかと思いましたが、先は剣術つかい、女の痩腕やせうででなまじいな事を仕出来しでかして取逃すような事がありましては
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
もちろん容貌ようぼうと淑徳とは別であったが、過去は過去として、後に葉子が仕出来しでかしたさまざまの事件にぶつかるまでは、庸三の魂もその若い肉体美の発散に全く酔いしれていた。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
のみならず、その結果スッカリ憂鬱ゆううつになってしまった私は、トウトウ皆をビックリさせるような事を仕出来しでかしてしまいました。……つまり何となく石狩川の上流に行ってみたい。
キチガイ地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
さすがにこいさんはいろいろなことを仕出来しでかすだけあって、あたしなどには真似まねの出来ないところがあると、貞之助に云っていたのであるが、あれはたしか七月の中旬のことであった
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
実に自分は親戚しんせきにも友人にも相談の出来ないような罪の深いことを仕出来しでかし、無垢むく処女おとめの一生を過り、そのために自分もかつて経験したことの無いような深刻な思を経験したと書いた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
何だってあんなことを仕出来しでかしたのか、自分にもまるで合点がゆかぬ。
ピストルの蠱惑 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
何か飛んでもない間違いを仕出来しでかした感じで、ハッとうろたえたけれど、よくよく考えて見れば、一途いちずに附文だと思い込んだのが彼の誤りで、さっきの若者は、多分スリででもあったのか、そして
木馬は廻る (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「面目次第もないことを仕出来しでかしまして」
剣侠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
仕出来しでかした、さればこそはじめた。
革鞄の怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
仕出来しでかして、あいつも可哀そうですけれど、奥さんは猶更お可哀そうですよ。奥さんは全くなんにも御存じないんですから。
探偵夜話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
菊太郎君も重かったそうだが、これは自分で仕出来しでかしたのだから仕方がない。それから四つの時に痲疹はしかをやった。これも菊太郎君のが移ったのである。
勝ち運負け運 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
例の黒旋風こくせんぷう李逵りきである。——李逵りきなどは無用な相棒、ヘマは仕出来しでかしても、ろくなしにはならぬと退けられたのだが——事件ことの起りは自分が殷直閣いんちょっかくを殺したことにある。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
若しや自分との約束にそむいて留置場を逃げ出すようなことを仕出来しでかしはしなかったか。こう思うと、康雄は何だか不安な心持ちになった。一刻も早く彼女の顔が見たくなった。
好色破邪顕正 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
成金の令嬢か新造しんぞの着る様な金目のものを取寄せて、思いきったけばけばしい身装なりをして、劈頭のっけに姉を訪ねたとき、彼女は一調子かわったお島が、何を仕出来しでかすかと恐れの目をみはった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)