まろ)” の例文
そろばんにしてにこ/\とあそばさるゝかほつきは我親わがおやながらあさましくして、何故なぜそのつむりまろたまひしぞとうらめしくもりぬ。
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
指をまろげた様な蒔絵の椀、それから茶碗、小皿てしおなんぞ、みんなそのお膳に相当したのに、種々いろいろ御馳走ごちそうってありましたっけ。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
洗ひ髪をぐる/\とむごまろめて引裂紙をあしらひに一本簪いつぽんざしでぐいと留めを刺した色気無の様はつくれど、憎いほど烏黒まつくろにて艶ある髪の毛の一ふさ二綜後れ乱れて
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
郷里からあまり遠くないA村にまろ神社じんじゃというのがある。これは斉明天皇さいめいてんのうを祭ったものだと言われている。天皇が崩御ほうぎょになった九州のある地方の名がすなわちこの村の名になっている。
田園雑感 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
深い眼睫まつげの奥から、ヴィーナスはけるばかりに見詰められている。ひややかなる石膏せっこうの暖まるほど、まろ乳首ちくびの、呼吸につれて、かすかに動くかとあやしまるるほど、女はひとみらしている。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「でも、一時は真実ほんとう喫驚びっくりしましたわ。」と、冬子は眼をまろくして云った。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
信祝のぶときは、蒔絵まきえした黒漆くろうるしの大火鉢へかけた金網の上へ、背中をまろめながら、唇をゆがめたり、眼を閉じたり——それからせきをしたり——咳は、寂莫せきばくとした小書院こしょいん一杯に反響して、けたたましかった。
大岡越前の独立 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
よつ折の蒲団ふとんに君がまろくねて 芭蕉
芭蕉雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
また、書きさして裂きてまろめし
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
まろがれたるもかゝげねば
花守 (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
肩幅広く、胸張りて、頬に肥肉ししつき、顔まろく、色の黒き少年なりき。腕力ちからもあり、年紀としけたり、門閥もたっとければ、近隣の少年等みな国麿に従いぬ。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
降る雨をいとはず駆けいださんとせしが、ああ彼奴あいつだと一ト言、振かへつて、美登利さん呼んだつても来はしないよ、一件だもの、と自分のつむりまろめて見せぬ。
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
洗い髪をぐるぐるとむごまろめて引裂紙ひっさきがみをあしらいに一本簪いっぽんざしでぐいととどめを刺した色気なしの様はつくれど、憎いほど烏黒まっくろにて艶ある髪の毛の一ふさ二綜おくれ乱れて
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
まろがれ易き黒髮に
花守 (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
いやが上に荒れ果てさして、霊地の跡を空しゅうせじとて、心あるまちの者より、田畑少し附属して養いおく、山番の爺は顔まろく、色すすびて、まなこくぼみ、鼻まろ
清心庵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
正午ひるちかづけばおみね伯父おぢへの約束やくそくこゝろもとく、御新造ごしんぞ御機嫌ごきげんはからふにいとまければ、わづかのすきにつむりの手拭てぬぐひをまろめて、このほどよりねがひましたること
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
正午ひるも近づけばお峯は伯父への約束こころもと無く、御新造ごしんぞが御機嫌を見はからふにいとまも無ければ、わづかの手すきにつむりの手拭てぬぐひをまろめて、このほどより願ひましたる事
大つごもり (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
(後で洗いますよ。)とまろげて落した。手巾ハンケチは草の中。何の、後で洗うまでには、蛇が来て抱くか、山𤢖やまおとこ接吻キッスをしよう、とそこいらをみまわしましたが、おっかなびっくり。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
なまぬるいかぜのやうな気勢けはひがするとおもふと、ひだりかたから片膚かたはだいたが、みぎはづして、まへまはし、ふくらんだむねのあたりで単衣ひとへまろげてち、かすみまとはぬ姿すがたになつた。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
硫黄いおうヶ島の若布わかめのごとき襤褸蒲団ぼろぶとんにくるまって、抜綿ぬきわたまろげたのを枕にしている、これさえじかづけであるのに、親仁が水でもはかしたせいか、船へ上げられた時よりは髪がひっつぶれて
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)