なら)” の例文
飯縄山のすぐ北にならんでいる黒姫山の蒼翠は、このおそれ入った雲の群集を他所よそにして、空の色と共に目もさむるばかり鮮かであった。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
下で寄り集まった眼球がみんな私たちを仰向いているような気がする、その稜角の窪んだ穴の中に、頭をならべて、横になったのが
白峰山脈縦断記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
たつと共に手を携え肩をならべ優々と雲の上にゆきあとには白薔薇ホワイトローズにおいくんじて吉兵衛きちべえを初め一村の老幼芽出度めでたしとさゞめく声は天鼓を撃つごと
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
『大英百科全書』またいわく、時として家馬のひづめの側に、蹄ある小趾を生ずる事あり。稀にはまた三、四趾をならび生ずるあり。
更に薏苡と題する詩の中には、「草木各〻よろしきあり、珍産南荒にならぶ。絳嚢茘枝をけ、雪粉桄榔をく」といふ句がある。
すなわち三つに分裂した殻片は存外その質が硬くその舟の様に成っている中央部へ縦に円い小さい種子がならんで着いている。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
靴紐くつひもや靴墨、刷毛はけが店頭の前通りにならび、たなに製品がぱらりと飾ってあったが、父親はまだ繃帯ほうたいも取れず、土間の仕事場で靴の底をつけていた。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
市郎は医師の手当てあてよって、幸いに蘇生したので、すぐふもとき去られていたが、安行とお杉と𤢖との三個みつの屍体は、まだ其儘そのままに枕をならべていた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
日本で沙翁と推されるのは作物の性質上近松巣林子ちかまつそうりんしであって、近松は実に馬琴とならんで日本の最大者である。
八犬伝談余 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
それで其の飛出した眼球が風早を睨付けてゐるやうに見える。此の眞ツ赤な人體の模造とならんで、綺麗に眞ツ白にさらされた骸骨が巧く直立不動の姿勢になツてゐる。
解剖室 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
両岸には蒼潤さうじゆんの山が迫り、怪石奇巌ならび立つて、はげしい曲折の水が流れては急渓、湛へては深潭しんたん——といつた具合で、田山先生も曾遊そういうの地らしく、耶馬渓やばけいなどおよびもつかない
故郷に帰りゆくこころ (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
世界文明の微光は兵の運動とともに始まり、武備の機関進歩するに従い社会はいよいよその歩を進め、二者並行いまだかつてくつわならべ、たもとを連ねて運動せざることはあらず。吾人は実に断言す。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
創造的勢力と馬をならべて、相馳駆ちくするものあり、之を交通の勢力とす。
国民と思想 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
寺院は随一の華主とくいなる豆府とうふ屋の担夫かつぎ一人、夕巡回ゆうまわりにまた例の商売あきないをなさんとて、四ツ谷油揚坂あぶらげざかなる宗福寺にきたりけるが、数十輛の馬車、腕車わんしゃ梶棒かじぼうを連ね輪をならべて、肥馬いななき、道を擁し、馭者ぎょしゃ
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼方此方かなたこなたにむらむらと立なら老松奇檜ろうしょうきかいは、えだを交じえ葉を折重ねて鬱蒼うっそうとしてみどりも深く、観る者の心までがあおく染りそうなに引替え、桜杏桃李おうきょうとうり雑木ざつぼくは、老木おいき稚木わかぎも押なべて一様に枯葉勝な立姿
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
幸村槍をならべて迎え、六文銭の旌旗しょうき甲冑かっちゅう、その他赤色を用いし甲州以来の真田の赤隊、山の如く敢て退かず。午後二時頃城内より退去令の伝騎来って後退した。幸村自ら殿軍となり名退却をなす。
大阪夏之陣 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
廟堂にずらり頭をならべている連中には唯一人の帝王の師たる者もなく、誰一人面を冒して進言する忠臣もなく、あたら君徳を輔佐して陛下を堯舜に致すべき千載一遇せんざいいちぐうの大切なる機会を見す見す看過し
謀叛論(草稿) (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
其山を御岳や鳥海山などのように附近に肩をならべる者のない其地方の最高山であると信じていた私は、西方の眺望の広闊なのに引換えて
利根川水源地の山々 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
葉縁にはするどき細鋸歯がならんでしごけばよく手を切る事は人の知っている通りである。支那の書物にも「甚ダ快利ニシテ人ヲ傷クルコト鋒刀ノごとシ」
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
障子ふすまくすぼれたその部屋には、持主のいない真新しい箪笥が二棹ふたさおならんでいて、嫁の着物がそっくり中に仕舞われたきり、錠がおろされてあった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
で、やがて娘はみち——路といっても人の足のむ分だけを残して両方からは小草おぐさうずめている糸筋いとすじほどの路へ出て、そのせまい路を源三と一緒いっしょに仲好く肩をならべて去った。
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
美妙や紅葉と共にくつわならべて小手先きの芸頭を競争するような真似は二葉亭には出来なかった。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
その結果、お葉も討たれ、重太郎も討たれた。𤢖二人ににんも枕をならべて死んだ。究竟つまり双方が相撃あいうちとなった処へ、忠一があとから又来合きあわせて、残る一人いちにんの𤢖も自殺を遂げるような事になったのであろう。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
前者は武内宿禰たけのうちのすくねなどが行った湯起請ゆぎしょうで国史にも見える。それと記しならべたるを見ると古く蛇起請も行われたるを、例の通り邦人は常事として特に書き留めなんだが、支那人は奇として記録したのだ。
傷だらけになる、信濃金梅しなのきんばいの花は、黄色な珠をならべて、絶頂から裾までを埋めた急斜の、大黄原を作っている、稀に女宝千鳥や、黒百合も交っているが、このくらい信濃金梅のさかん団簇だんそうしたところは
白峰山脈縦断記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
しかし夫と同じ山脈に肩をならべている幾座の山が、同じように東京の空を覗いていようとは、夢にも想わなかったのである。
望岳都東京 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
ぽつねんと独り待っているうちに、初夏の軽い雨が降り出し、瑠璃色るりいろのタイルで張られた露台に置きならべられた盆栽が、見る間に美しくれて行った。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
ダアクのあやつ人形然にんぎょうぜんと妙な内鰐うちわにの足どりでシャナリシャナリと蓮歩を運ぶものもあったが、中には今よりもハイカラな風をして、その頃流行はやった横乗りで夫婦くつわならべて行くものもあった。
これが山の肩のあたりに三ツ乃至四ツもならんで懸っている壮観は、北アルプスでなくては見られぬ特色である。
南北アルプス通説 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
彼はこまかく切ったその紙片を、さいなりに筋をひいて紙のうえにならべていながら、振顧ふりむきもしないで応えた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
この初陣ういじんの功名に乗じて続いて硯友社の諸豪とくつわならべて二作三作と発表したなら三唖もまた必ず相当の名を成して操觚そうこの位置を固めたであろうが、性来の狷介と懶惰とズボラとが文壇にも累をなし
此処から木立は全く尽きて短い笹の生えた鍋を伏せたような山が幾つかならんで、道は其間に縦横に通じている。
奥秩父の山旅日記 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
鶴さんは、それはそれとして大事に秘めておいて、自身の生活の単なる手助てだすけとして、自分を迎えたのでしかないように思えた。ならんで電車に乗ってからも、お島はそんなことを思っていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
山稜は一曲して西を指すようになる、生々しい赭色の大岩——尖ったのや角ばったのが乱杭の頭をならべて、音もなく流れ寄る霧の中に没してはまた顕われる。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
東に延びた尾根は四つばかりの小峰をならべて、最後に尖った岩峰が目に入る。それが牛王院山(御殿岩)である。
秩父の奥山 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)