頻繁ひんぱん)” の例文
そして、それがある時代には頻繁ひんぱんに現われ、他の時代にはほとんど現われなくなったとしても、それほど不思議な事とは思われない。
怪異考 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
午後の一番大切な時刻にこう頻繁ひんぱんに附合いをさせられるのは叶わない、と云った風な不平を遠廻しにらしたが、或る時やって来て
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
もっとも沼南は極めて多忙で、地方の有志者などが頻繁ひんぱんに出入していたから、我々閑人ひまじんにユックリすわり込まれるのは迷惑だったに違いない。
三十年前の島田沼南 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
それが卒業と共にポツ/\赴任する。○高以来六年間毎日顔を合せて来た連中も今やチリ/″\バラ/\になる。送別会が頻繁ひんぱんにあった。
負けない男 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
はたまた日本人にばかり特に、かつ頻繁ひんぱんに繰り返されねばならぬ事情があったのか。それすらも現在はなお明瞭めいりょうでないのである。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
長州なまりの侍、薩摩弁の侍、柳河藩のなにがし、荘内藩の誰——と、木挽町の西洋学者の門を出入する志士風の者はかなり頻繁ひんぱんであった。
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そういう事があったにしろ頻繁ひんぱんな主人の招待、被招待癖はやまなかった。彼の生理的運動には是非それも必要なものとなって仕舞っている。
バットクラス (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
炭坑の爆発はその後もかなり頻繁ひんぱんにあって、時局がら重大な問題なので、私もその人と一緒に少し手をつけて見たことがあった。
ここに電気商岩田京四郎は非常な不利な立場となりカフェ・ネオンの頻繁ひんぱんな電気工事の詳細について手厳てきびしい訊問じんもんが始まった。
電気看板の神経 (新字新仮名) / 海野十三(著)
六月以来頻繁ひんぱんな諸大名の通行で、江戸へ向けてこの木曾街道を経由するものに、黒船騒ぎに関係のないものはなかったからで。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
くつろいで車のすみによりかかり、両手を外套がいとうのポケットに突っこみ、——すでに寒くなりはじめていた——彼は往来の頻繁ひんぱんな通りをながめた。
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
健康を保つてゐる僅かな生徒に對しては、醫者が頻繁ひんぱんな運動の必要を固く主張したので、殆んど無制限の自由が與へられた。
塾中の生徒は長者に対するのみならず相互あいたがいの間にも粗暴無礼はもとより禁ずる所なれども、講堂の廊下その他塾舎の内外往来頻繁ひんぱんの場所にては
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
自分が話す段になるともっと頻繁ひんぱんにやる。話に興がのると、あまりひどくうなずくので、彼の腰かけている椅子ががたついて、動くことがある。
石ころ路 (新字新仮名) / 田畑修一郎(著)
一筋は白髯橋しらひげばしの方へ走り、それと交叉して浅草公園裏の大通が言問橋を渡るので、交通は夜になってもなかなか頻繁ひんぱんであるが、どういうことか
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
御病気を聞き伝えて御帳台のまわりを女房が頻繁ひんぱんに往来することにもなって、源氏は無意識に塗籠ぬりごめ(屋内の蔵)の中へ押し入れられてしまった。
源氏物語:10 榊 (新字新仮名) / 紫式部(著)
食扶持くひぶちくらゐは出して居る筈ですが、頻繁ひんぱんにお小遣を借り出すので、叔母さんの懷ろ具合のプラスになる筈はなく、そのくせ人の良い叔母さんは
深くなり、柳吉の通い方は散々頻繁ひんぱんになった。遠出もあったりして、やがて柳吉は金に困って来たと、蝶子にも分った。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
そう云われた僕にも実は余り頻繁ひんぱんな経験ではなかった。新らしい気分に誘われた二人の会話は平生ふだんよりは生々いきいきしていた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そうして子規居士との音信のまれであったにかかわらず余と碧梧桐君との間の書信の往復は極めて頻繁ひんぱんであった。それには文学以外の記事も多かった。
子規居士と余 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
彼は子供を抱いて、西願寺の崖下と小屋のあいだを、頻繁ひんぱんに往来したのだから、近所の人たちが見なかった筈はない。
季節のない街 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
もう、そのころには、廊下を行き来する塾生たちの足音も頻繁ひんぱんになり、ほうぼうから、わざとらしいかけ声や、とんきょうな笑い声などもきこえていた。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
大晦日おおみそかの晩に、田中が生活のたつきを得ず、下宿に帰ることも出来ずに、終夜運転の電車に一夜を過したということ、余り頻繁ひんぱんに二人が往来するので
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
Dさんは頻繁ひんぱんにここへ来ることはない。普通の友人として一週一度ぐらい来て、かえった、少くともこれまでは。
奸譎かんけつな老人は、占卜者せんぼくしゃを牛角杯二でもって買収し、不吉なシャクの存在と、最近の頻繁ひんぱんな雷鳴とを結び付けることに成功した。人々は次のように決めた。
狐憑 (新字新仮名) / 中島敦(著)
それからも一つは、雪枝さんの、無意味な文面だとはいえ、この頻繁ひんぱんな文通は、相手が若い男である丈けに、おかしく考えれば考えられぬこともありません。
日記帳 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
うっかりと夜道を戻って来た酔払いなどが突然狐や赤鬼におどかされてきもつぶしたり娘たちがひょっとこに追いかけられたりする騒ぎが頻繁ひんぱんに起ったりするので
鬼涙村 (新字新仮名) / 牧野信一(著)
それがしだいに頻繁ひんぱんになってきた。そういう日はたいへん粗末な食事だった。クリストフほどそれによく気づく者はだれもなかった。父には何も分らなかった。
仙台の新聞に「パンドラのはこ」という題の失恋小説を連載する事になって、その原稿発送やら、電報の打合せやらで、いっそう郵便局へ行く度数が頻繁ひんぱんになった。
親という二字 (新字新仮名) / 太宰治(著)
僕は長いあいだ船に乗っているので、頻繁ひんぱんに大西洋を航海する時、僕は変な好みを持つようになった。もっとも大抵の人間にはめいめいの好みというものはある。
春次は言うのだったが、銀子もそうかと思いながら、永瀬の熱があがり、座敷が頻繁ひんぱんになって来るにつれ、ぐっと引っ張って行かれそうな気がしてならなかった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
またこの扉では、傴僂せむしの眼の裏面が、たぶんその装置に必要な刳穴こけつだったので、その薄い部分が、頻繁ひんぱんに繰り返される乾湿のために、凹陥を起したに違いないのだよ。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
頻繁ひんぱんに名を変えているので、除隊になってからの足取りを拾うことははなはだ困難とされている。
浴槽の花嫁 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
以前から私のうち掃溜はきだめへも立廻たちまわって来て、馴染なじみの犬共ではあるけれど、ポチを飼うようになってからは、尚お頻繁ひんぱんに立廻って来る。ポチの喫剰たべあましを食いに来るので。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
工場の二階で、私は学徒に昼休みの時間英語を教えていたが、次第に警報は頻繁ひんぱんになっていた。
廃墟から (新字新仮名) / 原民喜(著)
千恵はわざわざ二階へ降りるのに東側の階段を使つたりして、なるべく廊下の往き来を頻繁ひんぱんにして、再び姉さまの姿をよそながら見る機会を、ひそかにうかがつてゐました。
死児変相 (新字旧仮名) / 神西清(著)
大都市においては太陽は南向きの人家を産み出し大きくなしてゆくということが真実であるごとくに、頻繁ひんぱんなる馬車の往来は街路を広くするということも確かな事実である。
眺めがよいというのではありませんが、あの頻繁ひんぱんに目の前を汽車が往復した家とは比較になりません。ただ夜更よふけには動物園の猛獣の唸声うなりごえがすると、女中たちはこわがりました。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
瀕死ひんしの病人は、死期が迫るにつれて、恢復の見込みを医師に頻繁ひんぱんにたずねるものである。そういう場合に老練な医師は患者を絶望させるようなことは決していわないものである。
予審調書 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
歳の暮が近くなっていて、人の往来ゆきき頻繁ひんぱんな為めであろう。その車には満員の赤札が下がっていたが、停車で二三人降りた人があったので、とにかく乗ることだけは乗られた。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
それで、満洲へ来ることが決ってから、伊藤は桂首相と頻繁ひんぱんに往来しているし、日本皇帝にもたびたび拝謁している。そして、連日長時間にわたる閣議が開かれているというんだ。
頻繁ひんぱんに心理的なしゃっくりになやまされる。考える果ては金が欲しい事だ。金さえあれば、単純な生き方が何年かは続けられる。このさきざき、珍らしい事が起きようとは思わない。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
火災くわさい震災しんさいよりも、より頻繁ひんぱんこり、より悲慘ひさんなる結果けつくわしやうずるではないか。
日本建築の発達と地震 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
異国との交通が頻繁ひんぱんになるにつれて、様々の教義が流入し、国内に様々の説を流布るふするものが続出するのはいつの世も同じである。国運隆盛は半面に必ずこうした危険を伴わねばならない。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
そういうものが外人との交際の頻繁ひんぱんになるにつれて所在にそれがある。
マデリン嬢の病には、熟練した医師たちもはやずっと前からさじを投げていた。慢性の無感覚、体の漸進ぜんしん的衰弱、短期ではあるが頻繁ひんぱん類癇るいかん(2)性の疾患などが、世にもまれなその病の症状であった。
私は、ゆこうかゆくまいかと思うよりも、行けるかどうかを気づかいながら、ともかくその長い板橋を向うに渡っていった。それでも、なかなか交通が頻繁ひんぱんだと思われて、相応に人が往来している。
狂乱 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
それに四谷でも新宿附近でも、まだ何となく新開地らしい気分が取れず、用足し場又は通り抜けという感じも多い、又電車や自動車などの往来が頻繁ひんぱんだからということもあろうが、妙にあわただしい。
早稲田神楽坂 (新字新仮名) / 加能作次郎(著)
大阪の利者きけもの岩下は最も頻繁ひんぱんに伺候していた一人である。
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
このくらいのならあとから来る余震が相当に頻繁ひんぱんに感じられるだろうと思っていると、はたしてかなり鮮明なのが相次いでやって来た。
断水の日 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)