頭髪とうはつ)” の例文
旧字:頭髮
(あまり倉卒そうそつにとり出すので、頭髪とうはつをすく小さいくしが、まつわってとび出したこともある)ハンケチで鼻をしっかりとおさえる。
(新字新仮名) / 新美南吉(著)
ついでにおじいさんの人相書にんそうがきをもうすこしくわしく申上もうしあげますなら、年齢としころおおよそ八十くらい頭髪とうはつ真白まっしろ鼻下びかからあごにかけてのおひげ真白まっしろ
その日はあかも落とさなかった。唯、一年間の頭髪とうはつが女のように伸びているので、わずかに櫛を加え、紐を以て結ばせたのみである。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
家来けらいは、ながたびをしたので、かおいろは、けて、頭髪とうはつは、あめや、かぜに、たびたびうたことをおもわせるように、びてみだれていました。
珍しい酒もり (新字新仮名) / 小川未明(著)
頭髪とうはつに手をれるな、といった食卓作法テエブルマナアも、まだ出発して一週間にならない、あのころはよく守られていました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
顔に、ひげがぼうぼうとはえ、黒い鳥打帽子とりうちぼうしがぬげていてむき出しになっている頭髪とうはつは、白毛しらがぞめがしてあって、一見いっけん黒いが、その根本のところはまっ白な白毛であった。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
と、ちからのない、わらひかげかべて、つて、悵然ちやうぜんとしてあふいで、ひたい逆立さかだ頭髪とうはつはらつた。
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
綺麗きれいき取った〕頭髪とうはつもまた非常に多量で真綿のごとく柔くふわふわしていた手は華車きゃしゃで掌がよくしない絃を扱うせいか指先に力があり平手で頬をたれると相当に痛かった。
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
また頭髪とうはつを洗うにも使われ、またあるいは風呂ふろに入れて入浴する人もある。すなわち毒を除くというのが主である。佐渡さどではドクマクリというそうだが、これは毒を追い出す意味であろう。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
然れども余は不幸にしていまだかつて油画の描きたる日本婦女のまげ及び頭髪とうはつに対し、あるひは友禅ゆうぜんかすりしましぼり等の衣服の紋様もんように対して、何ら美妙の感覚に触れたる事なく、また縁側えんがわ袖垣そでがき、障子
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
紳士しんしふうのわかおとこと、頭髪とうはつをカールして、美装びそうしたおんなひとがきかかり、やがてかれとすれちがったが、そのひとたちは、まんざら学問がくもんのないひととはおもわれなかったのに
村へ帰った傷兵 (新字新仮名) / 小川未明(著)
頭髪とうはつひげものびっぱなしで、顔の中から出ているのは色の悪いソーセージのような大きな鼻だけだった。両眼りょうがん所在ありかは、煙色けむりいろのレンズの入った眼鏡にさえぎられて、よくは見えない。
見えざる敵 (新字新仮名) / 海野十三(著)
むすめは手をさしのべて木犀の花をたおり、若者のうしろにまわって冠にさしてやり、自分の頭髪とうはつにもかざした。ふたりがかたをよせあってそこにしゃがむと、ふたりの頭はくすぶりはじめた。
おしどり (新字新仮名) / 新美南吉(著)
然れども余は不幸にしていまだかつて油画の描きたる日本婦女のまげ及び頭髪とうはつに対し、あるひは友禅ゆうぜんかすりしま絞等しぼりとうの衣服の紋様もんように対して、なんら美妙の感覚に触れたる事なく、また縁側えんがわ袖垣そでがき障子しょうじ
浮世絵の鑑賞 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
それよりもおどろいたのは、かがみうつった自分じぶん姿すがたでありました。頭髪とうはつは、半分はんぶんしろく、かおにはじわがって、当年とうねん若々わかわかしさが、まったくせてしまったことです。
風はささやく (新字新仮名) / 小川未明(著)
X号は鬼のように、頭髪とうはつ逆立さかだてさせて、火花の息を吹きだした
超人間X号 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そのとき、三十五、六のおんなが、頭髪とうはつみだして、ぶつぶつとつぶやきながら、せわしそうなあしどりで、なにかざるにいれて、わきにかかえながら、平三へいぞうまえとおぎようとしました。
赤いガラスの宮殿 (新字新仮名) / 小川未明(著)
のねずみはのぞくと、天井てんじょうから、ぼろきれがるしてあり、バケツには、川水かわみずんであって、頭髪とうはつびた父親ちちおやらしい乞食こじきが、がった指頭ゆびさきで、もらってきたぜにかぞえていました。
縛られたあひる (新字新仮名) / 小川未明(著)
風彩ふうさいからいえば、そのおとこのほうが、上役うわやくよりりっぱでした。頭髪とうはつをきれいにけ、はいているくつもかけるまえに、あわれな細君さいくんねんをいれてみがいたので、ぴかぴかとひかっています。
風はささやく (新字新仮名) / 小川未明(著)
みじかくろ着物きものをきて、びた頭髪とうはつは、はりねずみのようにひかっていました。
角笛吹く子 (新字新仮名) / 小川未明(著)