がん)” の例文
例によってお役人にソッと頼んで、ゆるい手錠に取替えてもらうように運動をしようとすると、本人の道庵先生ががんとして頭を振って
けれど、敵の本城、稲葉山から遠い飛領とびりょうなどは斬り取りできても、さて一水いっすいを隔てた斎藤家の本領は、さすがにがんとしたところがある。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
が、治まらないのは馬子先生である。法外な賃金を強請ゆすってがんとして動かぬ。欲張りの田舎者ほどつら憎いものはない。将軍忽ち
しかし彼れはがんとして動かなかった。ペテンにかけられた雑穀屋をはじめ諸商人は貸金の元金は愚か利子さえ出させる事が出来なかった。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
私が何と言って頼んでみても母はがんとして応じないのを見た私は、とうとう、次ぎの日、中村のいないときに母にこう言った。
さすがに定明はためらい、眉を伏せるような恰好をして見せたが、次の瞬間にはこの剛情者はがんとして動じないふうにいった。
野に臥す者 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
そこでそれを抜こうとしたが老人がんとしてどうしても承知しない。結局「アルラフの神のおぼしめしじゃ、わしは御免こうむる。さようなら」
自由画稿 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
しかしそれではあまり体面に関するので、夫人が是非フロックコートを新調するようにすすめたが、がんとして中々きかない。
しかし何度頼んでみても、小厮は主人の留守るすたてに、がんとして奥へ通しません。いや、しまいには門をとざしたまま、返事さえろくにしないのです。
秋山図 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
泣くようにして頼んで見たけれど浩平はがんとして聞かなかった、百方いろいろ手を尽して見たけれどもそれは全く無駄であった。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
彼女には個性があり、強烈な自意識があった。私がならい覚えた技術をフルに動員しても、彼女はがんとして服従しない。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
その時になっても、山村氏の家中衆だけは長い武家時代の歴史を誇りとし、がんとして昔を忘れないほどの高慢さである。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
金煙管きんぎせるたばこひと杳眇ほのぼのくゆるを手にせるまま、満枝ははかなさの遣方無やるかたなげにしをれゐたり。さるをも見向かず、いらへず、がんとして石の如くよこたはれる貫一。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
一たび不利な立場におしやられた彼らの前には、誠心誠意をもってもがんとして動かし得ない権力がのしかかっていた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
ことに見ず知らずの年長者ががんと構えているのだから上座じょうざどころではない。挨拶さえろくには出来ない。一応頭をさげて
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それでも房枝は、がんとしてへんじをしなかった。これにはスミ枝も、全く手をやいてしまったが、ふと思い出して
爆薬の花籠 (新字新仮名) / 海野十三(著)
音楽のことを話しては、クリストフが最もよく知ってる事柄を彼に説明してやり、判定を下してがんとして応じなかった。彼女を説伏しようとしても無駄むだだった。
しかし井上氏はがんとして受付けなかった。この二番目の脚本にはいっさい手を着けてはならないと云い渡した。そうして、とうとうそれを押し通してしまった。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
が、お仲もがんとしてそれに屈しなかったばかりでなく、またも大変なことを言い出したのです。
銭形平次捕物控:130 仏敵 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
がんとして、木像の如く、木杭の如く、電信柱の如く断じて心臓をひらくことを拒むものである。
FARCE に就て (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
かれがこれを着たとき、すずめがそれだけはよしてくれといった、かれはがんとしてきかない。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
然るに甲斐守はがんとして之を聴かず、おのれは徳川氏の臣にして罪を幕府に獲たのである。幕府より赦免の命を受くるにらざればわたくしに配所を去るわけにはゆかないと言った。
枇杷の花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
しかし、直吉の顔は、がんとして南の方を向いたきりで、どうにもならなかった。どうにもならないどころか、直吉の足は、かえってそのために、一層速くなる傾向けいこうさえあった。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
彼の前の最前列はがんとしたままで、誰一人身動きもせず、誰もKを通らせなかった。
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
されどもいささか思い定むるよし心中にあればがんとしてくっせず、他の好意をば無になして辞して帰るやいなや、直ちに三里ほどへだたれる湯の川温泉というにいたり、しこうして封書ふうしょを友人に送り
突貫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
がんとして動く気色もありませんでしたので、客は失望して帰りました。
ジェンナー伝 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
人の幼穉ようちなるとき、意を加えてこれを保護せざれば、必ずみ、必ず死す。また心を用いてこれを教育せざれば、長ずるにおよびて必ずがん、必ずにして、蛮夷の間といえども共にたつべからざるに至る。
教育談 (新字新仮名) / 箕作秋坪(著)
改訂のものが手もとにあることはもちろん事実であった。しかしワ氏はがんとしてかず、それはもはや間に合わぬ。また作者の後日の改訂が必ずしも作を良くするとは限らないゆえ、断じて応じ難い。
そこを押してゆくと、マタ・アリはがんと口をつぐんでいる。
戦雲を駆る女怪 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
実際と強き立体感ががんとして控えているのだ。
油絵新技法 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
直義はがんとして退かず、細川、赤松らも遠くたたかって伝令はまま切断され、ために退軍の令もほとんど思うようにおこなわれなかった。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そしてその晩は腹が痛んでどうしても東京に帰れないから、いやでも横浜に宿とまってくれといい出した。しかし古藤はがんとしてきかなかった。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
医者嫌いな人間が悪い風邪にかかり、くしゃみとせきと熱で苦しみながら、がんとして医者を呼ばず薬ものまずにいる。
霜柱 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
じじしきりに嘆願しているが、馬車屋はがんとして応ぜぬ。事情を聞けば、草津行の乗合馬車には赤馬車と称する会社があって、すこぶる専横を極めている。
仏頂寺が躍起になって怒るのを、高杉はがんとして勝ちを主張してこの場を去った。これは高杉一流の手前勝手。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
多くの人に知られないような神仏のごときをもなおかつかろんずることをしない。しかも一度それを信奉した上は、がんとしてその誓いを変えないほどの高慢さだ。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
時とすると一方が、咳き込んでる相手に意見をすることもあった。しかし相手は息がつけるようになると、少しも煙草たばこのせいではないことをがんとして言い逆らった。
自分はがんとして破談を主張したが、最後に、それならば、彼が女を迎えるまでの間、謹慎と後悔を表する証拠として、月々俸給のうちから十円ずつ自分の手もとへ送って
手紙 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そういったきり、博士は、がんとして、そのあとのことをしゃべろうとはしなかったのだ。
人造人間の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
しかしかれはいつもの従順さに似ず、がんとして自分の考えをまげようとしなかった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
これを文庫と書斎と客間とにてて、万足よろづたらざる無き閑日月かんじつげつをば、書にふけり、画にたのしみ、彫刻を愛し、音楽にうそぶき、近き頃よりはもつぱら写真に遊びて、よはひ三十四におよべどもがんとしていまめとらず。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
しかし娘を極度に高く評価したヴィークは、がんとして二人の結婚に承諾を与えなかった。事はついに法廷に持出され、長い審議の後、法に許されて二人が結婚したのは、同じ年の九月であった。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
そう彼は多分に多寡たかをくくっていたのだ。——がんとして初志をひるがえさない一因のものは、彼の持ったその公算にもあったのである。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ブルさんと仇名あだなされる波木井船長は、東湾汽船の三十六号船の船長だが、停年が過ぎたのにがんとして船をおりない。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
しかし、先生ががんとしてこの乗り方を改めないものですから、馬方もぜひなく、そのまま馬をひき出しました。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それを兄ががんとして聞入れなかったということなぞが、それからそれへと引出されて行った。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
昔なら少しは幅もいたか知らんが、あらゆるあばたが二の腕へ立ち退きを命ぜられた昨今、依然として鼻の頭や頬の上へ陣取ってがんとして動かないのは自慢にならんのみか
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
クリストフはがんとしてき入れず、二人の友の幸福なさまをうれしげにながめてる人のよいモークが腹をたてるのも構わずに、フランスの古いことわざを勝手に意地悪くもじってしょうしてきかした。
私は博士に、琴をひくのをすぐやめるようにいったのに、博士はがんとしてきかない。君があのとおり恐竜をおっぱらってくれなかったら、私たち三人は次々に恐竜の餌食えじきになってしまったろう。
恐竜島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
万七はがんとして譲りません。