ベル)” の例文
モルトナス島の慘劇發見からわづか五日目の三月七日の月曜の夕方午後五時といふに主任警部室の電話のベルがけたたましく鳴り響いた。
「これは……」と龍介君が云った時電話のベルが突然激しくなり出した。博士が受話器をとった。電話は山川少将宅からだった。
危し‼ 潜水艦の秘密 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
わたしの司祭館のドアのベルが長くはげしく鳴りだしたのです。老婆が立ってドアをあけると、一つの男の影が立っていました。
博物館の門はたちばうの指先で押したベルつてあけられ、僕は中庭へはひつたが、番人の妻は縦覧時間が過ぎたと云つて謝絶した。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
ザビーネの仕度したくがととのわないうちに、小婢こおんなが帰ってしまうこともたびたびだった。すると客は、店の入口のベルを鳴らした。
交換の方にも厳命が下って、単に受話器を持上げただけで、直ちに警部の卓上電話と接続され、消魂しいベルの音が鳴り響こうという趣向である。
ロウモン街の自殺ホテル (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
追い立てられるように非常ベルは鳴ったけれど、李鴻章だけは、水煙管をくわえたまま、吃驚びっくりした表情もあらわさなかった。
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私は、半ばにとられながら、その釦を押した。何処かで、かすかに合図のベルが鳴ったようだ——。どうも実に風変りなバー・オパールである。
白金神経の少女 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
自働車のラツパが鳴る、馬車の轍音がする、更に耳を澄すと無数の自転車のベルの音が絶え間なく、巡礼の群がおし寄せてゐるかのやうに続いてゐる。
村のストア派 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
社長のお供をして旅行に出ても、事を欠かさないようにと思って、洋服を着たまゝ寝たものです。社長がベルを鳴らせば、直ぐ起きて行って、そのまゝ用が足せます
冠婚葬祭博士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
そのかくしベルは人間が楽にはいられるくらいの大きさで、鉄の締金しめがねびょうとで厳重に釘付けにされていた。
表の往来から聴えて来る威勢いせいのいい玄米パンの呼声、自動車の警笛、自転車のベル、そして、障子を照すまぶしい白日の光、どれもこれも、彼の暗澹たる計画に比べては
灰神楽 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
やがてベルが鳴ると、ココフツォフを先頭に一同ぞろぞろと、改札口から舞台の、奥の雪で明るいプラットフォウムへ出て行く。遠くから汽車の音が近づいて来ている。
新橋しんばしを渡る時、発車を知らせる二番目のベルが、霧とまではいえない九月の朝の、けむった空気に包まれて聞こえて来た。葉子ようこは平気でそれを聞いたが、車夫は宙を飛んだ。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
やがベルが鳴る、此の場合に於ける生徒等の耳はいちじるしく鋭敏になツてゐた。で鈴の第一聲が鳴るか鳴らぬに、ガタ/\廊下を踏鳴らしながら、我先われさきにと解剖室へ駈付ける。
解剖室 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
「ここです」天辰の主人が玄関の戸をあけると、そのベルの音で二十はたち前後の娘が出て来た。唇をきっと結び、美しい眼をじっと見据えたその顔を見た途端、どきんとした。
世相 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
晩餐のベルが鳴つた。そして彼はその他に一言も云はずに俄に立ち去つてしまつた。その日中、私は彼に會はなかつた。そして翌朝彼が起きないうちに出發してしまつた。
実際癩病患者が自分たちの歩いていることを人々に警告するために頸にベルを付けているように、彼の頸にも鈴を付けさせようと提議されたが、夜などに突然その鈴の音が
歩いている周囲まわりにぎやかになった。明りもいていて物音もする。町を走る車輪の音、電車のベルや笛の音、頭の上を走る重い汽車のはためく音などがする。女はぎっくりした。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
新聞社の編輯局独特の深夜の緊張が四辺あたりを支配して、電話のベルの音、ザラ紙の原稿紙に鉛筆の走る音、校正の読み合せの声——などが、ようやく活気付いて来た工場の雑音を背景に
流行作家の死 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
ちやるめらを吹く、さゝらをる、ベルを鳴らしたり、小太鼓を打つたり、宛然まるで神楽かぐらのやうなんですがね、うちおおきいから、遠くに聞えて、夜中の、あの魔もののお囃子はやし見たやうよ
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
が、またも椅子深く腰を埋めて、折から執拗に鳴り続ける、電話のベルに眉をひそめた。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
その間に、電話のベルがひびいて取次がれた、彼女は輝く手でまぶたをおさえながら
江木欣々女史 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
七月三十一日午後六時すぎの事、阪神電車の梅田停留場から神戸行の電車に乗込んだ。ベルが鳴つて電車がこれから出かゝらうとした時、席の真中程からあわたゞしく衝立つゝたち上つた若い男がある。
街はひどい霧でね、その中にけたたましい電車のベルです自動車の頭灯ヘッドライトです。
(新字新仮名) / 池谷信三郎(著)
午餐おひるベルが鳴って、食堂に降りて行くのもしぶしぶなくらいでした。
だから、この掛ける所は上に上って、受話器を外してあるのと同じ事になっていたのだ。その証拠には今電話が掛って来た時に、リンリンとベルが鳴らないで、ジージーコツコツと小さい音がしたのだ。
計略二重戦:少年密偵 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
議長の卓上には書類うずたかく積まれて開会のベルを待ちつゝあり
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
ベルボタンを押す。ボーイが来る。煽風機が廻り出す。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
運転手への相図のベルの綱をやけに引張った。
電車停留場 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
捨吉はその木戸の前に立ってベルを押した。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ベルがなるよう働らいた今日のをはりの
行乞記:03 (二) (新字旧仮名) / 種田山頭火(著)
幾等いくらベルを鳴らしても戸が明かないので、仕方なしに門の石段の上へ革包かばんを据ゑて其れに腰を掛けて二人で書物を読んで居た。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
一時半、二時——電話は来るか、来るか——と、来た——ベルが鳴るとジュッド医師は、顔色を変えて椅子に飛び上った。
アリゾナの女虎 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
その時ヤンセンは少しずつ卓子テーブルへ近寄って、龍介に気づかれぬように、床板に取りつけてあるスイッチを踏んだ。リーンというベルの音がちかくでした。
黒襟飾組の魔手 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
清一はそつと格子戸に手を掛けると、努めて静かに開けたつもりだつたが、けたゝましいベルの音がして夥しい気おくれがした。その音で出て来た女中の里が
清一の写生旅行 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
卓子テーブルへ人を集める客引きラバテュウル——この成語はナポレオン当時募兵員が巴里パリーの街上に立って通行人に出征を勧誘した故事から来ている——やがて、開会のベルを聞いた代議士のように
踊る地平線:09 Mrs.7 and Mr.23 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
ちやるめらをく、さゝらをる、ベルらしたり、小太鼓こだいこつたり、宛然まるで神樂かぐらのやうなんですがね、うちおほきいから、とほくにきこえて、夜中よなかの、あのもののお囃子はやしたやうよ
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
五分ベルが鳴ると、女将は、のび上がって、一等車のなかをのぞいた。華族のお孫になってこれから東京の邸へ迎えられようとする豆菊とトム公とは生れ代ったように、品よく見えた。
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
給仕の声と電話のベルの音が、千種十次郎の横着な夢想を破りました。
音波の殺人 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
突然電話のベルが鳴って、その一瞬を境に、事態が急転してしまった。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
「早くベルを鳴らして被下ください、早くしないと死んで仕舞いますよ」
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
発車のベル鳴らす車掌君の顔色さへ羞耻おもはゆげに見ゆめり
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
船中の警戒のベルが鳴り響いて、命令の声々が慌しく飛び交す。機関の音が調子を低めた。
運命のSOS (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
「英語を話します」「独逸ドイツ語もわかります」と窓に広告してある。這入ってみる。マネケンの置物、マネケンのベル、マネケンの灰皿、マネケンのさじ、マネケンの Whatnot ——。
踊る地平線:04 虹を渡る日 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
と、その時電話のベルが烈しく鳴って、横須賀から電話が掛ってきた。
骸骨島の大冒険 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
込むとも。東京のよりも込む。東京よりも賑かだと言うと妙だけれど実際此方の方が人口稠密ちゅうみつだからね。往来が雑沓するんで市内電車にしても東京見たいにベルぐらいでは人が避けないから、そのポーッポーッと空気ラッパを
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
もとより発車をらせるベルも無ければ
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
ホテルの私の部屋で、電話のベルが私を驚かしたのは、その日の午後だった。
踊る地平線:10 長靴の春 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
間もなくベルが鳴って汽車は動き出した。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)