還俗げんぞく)” の例文
もっともその娘は、ある女のように坊主だまして還俗げんぞくさせてコケラのすしでも売らしたいというような悪い考えでもなかったでしょう。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
逃亡後、しばらく江州ごうしゅうあたりに身をかくし、還俗げんぞくして、兄義輝の後を継いで、十四代将軍を名乗ったものである。年は二十七歳だった。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
後に還俗げんぞく侘助といつたが、この茶人がひどくこの花を愛玩したところから、いつとなく侘助といふ名で呼ばれるやうになつたといふのだ。
侘助椿 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
かず忍辱にんにくの袈裟を脱ぎ、無上菩提の数珠を捨て、腰に降魔の剣を佩き、手に大悲の弓矢を握ろうと! ……還俗げんぞくして戦場に立ちたいのじゃ!
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
木曽義仲が都へのぼるとき、この御方を天皇にさせ奉らんと、還俗げんぞくさせてお連れしているから、その時はこの方を御位につけよう、同じことじゃ
「ヘェ、それであっしも安心しましたよ、あの娘をお所刑台しおきだいに上げる位なら、あっしは此寝巻を持ち逃げして、還俗げんぞくしようかと思った程で——」
また自分の子を釈門に入れたからとて、それで永く家が断えるともきまらぬというのは、近ごろ出家した者の還俗げんぞく首飾する例が多いのでもわかる。
もし還俗げんぞくの望みがあるなら、追っては受領ずりょうの御沙汰もあろう。まず当分はおれの家の客にする。おれと一しょにやかたへ来い
山椒大夫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「勿論それには異論もあろう。さりとて今の場合じゃ。一時の方便にこの頭を剃り丸めたとて何があろう。時節が来れば再び還俗げんぞくするまでじゃ。」
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
さて宗觀は敵の行方が知れた処から、還俗げんぞくして花車を頼み、敵討が仕度したいと和尚に無理頼みをして観音寺を出立するという、是から敵討に成ります。
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
嘉永かえい元年その二十歳の時に有為の才を認められ、当職が召出して藩主の命を伝えました。それは、「一代還俗げんぞく仰付けらるゝに依り、儒学を修業すべし」
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
五百石を上地じやうちし、別當は還俗げんぞくして神主になり、名も前田道臣みちおみと改め、髮の伸びるまでを附髷つけまげにして、細身の大小を差し、しきりに女を買つて歩きなぞした。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
「ホ、ホ、ホ、上手だねえ、頭を丸めている癖にさ。あんまりうまい口ぶりを聴いていると、一そ還俗げんぞくさせて、こはだのおすしが売ってもらいたくなるってネ」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
氏輝に子が無かったので二十歳の義元を還俗げんぞくさせて家督を譲った。今川次郎大輔だいふ義元である。処が此時横槍を入れたのが義元の次兄で、花倉の寺主良真りょうしんである。
桶狭間合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
さっそく還俗げんぞくいたしまして、行く末先のよいなりわいを捜し求めようといたしましたが、先だつものは金。
國沴こくてんおほいわらつて、馬鹿ばかめ、おどかしたまでだと。これをゆるし、還俗げんぞくせしめて、柳含春りうがんしゆんはいせりとふ。
唐模様 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
摂津に生れ僧籍にあったが、還俗げんぞくして大和斑鳩いかるがに住み、国学を論じ勤王論を唱えて、気をはいていた。
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
明治の新たなる政策で修験しゅげんの立派は否認せられ、彼らの一半は法を慕うて忍耐して僧となり、他の一部分は御社みやしろの威徳を忘れかね、還俗げんぞくしてひらの神職に編入せられた。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
その着物にこもあやしい鬼気といったようなものを取扱ったのであるが、これも多分に鏡花式の文学分子を含んでいた。又美術学校の卒業製作には、還俗げんぞくせんとする僧侶を作った。
自分と詩との関係 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
この勢いのおもむくところは社寺領上地の命令となり、表面ばかりの禁欲生活から僧侶は解放され、比丘尼の蓄髪と縁付きと肉食と還俗げんぞくもまた勝手たるべしということになった。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
然し葷酒くんしゅ(酒はおまけ)山門さんもんに入るを許したばかりで、平素の食料しょくりょうは野菜、干物、豆腐位、来客か外出の場合でなければ滅多に肉食にくじきはせぬから、折角の還俗げんぞくも頗る甲斐かいがない訳である。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
しかし彼らの愛欲がそれで充足させられたろうとは考え難い。あるものはついに不犯ふぼんの誓いを破ったであろう。あるものは数年の後に還俗げんぞくしたであろう。それは自然のなりゆきである。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
馬翁はちょっと意地の悪い笑いをらしたが、ひそかに慧鶴を呼び寄せ娘の手紙を示し乍ら「恋女房とさし向いで、呉服を商うのもまた風雅ではないか」としきりに彼に還俗げんぞくをすすめた。
宝永噴火 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
だいたい、呵責かしゃくと云うものには、得も云われぬ魅力があるそうじゃないか。その証拠にはセヴィゴラのナッケという尼僧だが、その女は宗教裁判の苛酷な審問の後で、転宗よりも、還俗げんぞく
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
維新の後還俗げんぞくして名を神波桓、号を即山と称し東京に来って太政官だいじょうかんの小吏となり本郷竜岡町に住して詩書を教えた。明治二十四年一月二日没。享年六十歳。谷中三崎の天竜院に葬られた。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
先住せんぢゆうにはありませんけれども……。何うも皆な還俗げんぞくしたり何かして了ひましてな……。しかし、いづれは住職を置かないでは困るんですから、そのうち好いのがあつたらと思つてはをりますのです。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
伏見戦争のあとで直ぐ、朝命てうめいを蒙つて征討将軍のみや随従ずゐしうし北陸道の鎮撫に出掛けたと云ふ手紙や、一時還俗げんぞくして岩手県の参事さんじを拝命したと云ふ報知しらせは、其の時々とき/″\に来たが、すこしの仕送しおくりも無いので
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
この五十日間は阿園が心の還俗げんぞくするか、里方が尼の願いを許すか、両者その一に定まるべき期限なりし、その後里方は娘が心をめぐらさんともせず、また慰むべき人をもやらず、村人も訪い来ざれば
空家 (新字新仮名) / 宮崎湖処子(著)
公卿くげさんのようでもあり、還俗げんぞくした出家のようでもあり、どうにもちょっと判断のつけようがない人柄ですが、その眼光の鋭いこと、人品におのずから人を圧する威力というようなものがあって
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
後に木曽義仲が京へ攻めのぼるとき皇位につけようと還俗げんぞくさせたので、還俗の宮とも、木曽の宮ともよばれたのである。
「へエ、それであつしも安心しましたよ。あの娘をお處刑しおき臺に上げるくらゐなら、あつしこの寢卷を持ち逃げして、還俗げんぞくしようかと思つた程で——」
百「うん、何とか云ったッけ忘れた、ん、ん何よ元は榊原様の家来で、一旦坊様に成ってまた還俗げんぞくしたと云うが、何でもはア年は四十二三で立派な男だ」
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
といわれて、還俗げんぞくを強いられ、直ちに、一城を持たせられたほど、朝倉家の中でも、群をぬいていた人物だった。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
還俗げんぞくして神主になつた別當は、ただ一つ取り殘された梅の坊に移り住んで、「西さん」と呼ばれてゐた。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
昔、慈覚大師仏法を習ひ伝へんとて、唐土へ渡り給ひておはしける程に、会昌年中に、唐の武宗、仏法を亡して、堂塔をこぼち僧尼を捕へて失ひ、或は還俗げんぞくせしめ給ふ乱に逢ひ給へり。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
一旦、還俗げんぞくした後、僧形になっている敵を討ってめでたく帰参しようというのか。
仇討三態 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
そればかりでは無い、若い時から落魄らくはくの苦痛までもめて来た三吉には、薬を飲ませ、物を食わせる人の情を思わずにいられなかった。彼が臥床とこを離れる頃には、最早還俗げんぞくして了った。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そいつは元は上野の山内さんないの坊主で、歌女寿よりも年下なんですけれども、女に巧くまるめ込まれて、とうとう寺を開いてしまって、十年ほど前から甲州の方へ行って還俗げんぞくしていたんですが
半七捕物帳:05 お化け師匠 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
しかる処後家の方にても不身持の事につき、親戚中にてもいろ/\悶着もんちゃく有之候が、万一間違など有之候ては、かへつて外聞にもかかはり候事とて、結局得念に還俗げんぞく致させ候上、入夫にゅうふ致させ申すべきおもむき
榎物語 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「よく聞け。——この護良もりなが還俗げんぞくして、仏手ぶっしゅ干戈かんかを取ったのは、遊戯ではないのだぞ。そのほうらにも、父のきみにも、いっこうわけの分らんところがある」
あれを還俗げんぞくさせて島田にゆわせたなら何様どんなであろう、なんかと碌でもない考えを起すものなどもござりました。
「眞言律で、魚は喰へず、牝猫めんねこも飼へなんだのが、還俗げんぞくしたんやもん。張りきつた馬の手綱を切つたやうなもんや。……平野屋のお源を手初めに、方々撫で斬りや。」
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
「話の前に、増田屋金兵衞は生れ乍らの町人では無く、元は武家の出で、今から二十年前、増田屋の亡くなつた後家に惚れられ、還俗げんぞくして町人になつたといふことを覺えてゐて下さい」
いっそ還俗げんぞくするつもりで私と一緒に逃げてくれと云う。
半七捕物帳:66 地蔵は踊る (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
還俗げんぞくして戦場に立ちたいものじゃ」
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
頼朝、義経の運命とおなじく、幼少の折、醍醐寺に入れられていたが、やがて頼朝の幕府に召しだされ、還俗げんぞくして、北条時政のむすめ政子の妹、滋子しげこと結婚したのであった。
清水港から江戸へ入つた大井筒屋の船には南蠻物のおびたゞしい品物の外に、金銀珠玉が積んであり、宗次郎は還俗げんぞくしてこの莫大な富を承け繼ぎ、お喜代と一緒になつたのは、それから後の話です。
此方こちらに有るのじゃ、わし還俗げんぞくしてお前のためには力を添えて、何の様にも仕よう、長旅をして、お前を美作まで送って上げようとは、今迄した修業を水の泡にしてしまうのもみんなお前のためじゃ
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
寺を出て還俗げんぞくしたばかりの若い義昭、しかも名ばかりの将軍家をようして、諸州の大名に、義を説き、奮起をうながして、惨憺さんたんたる逆境を今——いかに切り抜けるかに一人苦しんでいたのが
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
イヤな事じゃないか、でも、石井依右衛門も、これでりるだろう、下女に手を出したり、尼を還俗げんぞくさしたり、悪い好みじゃないか、——後添らしく、仲人を立てて親類にも披露ひろうの出来る相手を