転婆てんば)” の例文
旧字:轉婆
それもあり得ない事だ。庭の出入口の前には私が居たし、廊下の方には、あのお転婆てんばの姪の瑛子と、家政婦のかがみという女が話を
死の予告 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
……どうもこの娘は器量はいいがすこしお転婆てんばのようだとか。……性質はよさそうだけれど、すこし器量がよくなくってとか。
三つの挿話 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
「あのお転婆てんば娘が!」と彼は考えた、「おれを馬鹿にしやがって! 彼奴あいつまでが、俺をだましやがった。二人こっそり芝居をうってたんだな。」
(まあ、をんながこんなお転婆てんばをいたしまして、かはおつこちたらうしませう、川下かはしもながれてましたら、村里むらさとものなんといつてませうね。)
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「お前はこの夜中、何処どこへ行つたの。心配させるぢやないか。お転婆てんばもいゝ加減にするものだよ。そしてジウラは何処に、」
ラマ塔の秘密 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
先刻さつきうつくしいひとわきせきつたが、言葉ことばつうじないことがわかつたところで、いま日本語にほんごのよくはなせるお転婆てんばさんらしいおんな入替いれかわつた。
微笑の渦 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
一体、お紋さんという子も阿母おっかさんに似た見得坊で、おしゃべりのお転婆てんばで、近所で誰も褒める者はありゃしません。
半七捕物帳:35 半七先生 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
美妙に、令嬢気質かたぎを捨てろとでもいわれたためか、お転婆てんばな、悪達者わるだっしゃだともいわれ、莫蓮女ばくれんおんなのようにさえ評判された。
田沢稲船 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
からだの具合も、さいわい今朝から、こんなにすっきりして来ましたし、もうこれからは、いじけずに、昔のとおりにお転婆てんばなオフィリヤになるのです。
新ハムレット (新字新仮名) / 太宰治(著)
人一倍お転婆てんばの私にとっては、こうして手足をからげられてしまったような生活がどんなに苦しかったことか。
「ええ、そう、あたしはお転婆てんばなようだけれど、ほんとうの性質は陰鬱なのよ。———陰鬱じゃいけない?」
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「小次郎や、お前さんはやさし過ぎるよ。もっとやんちゃになるがいいよ。この妾のようにお転婆てんばにおなり」
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
妾自身、御覧の通のお転婆てんばでございますから、やっぱり強い男性の方が、一等好きなのでございますよ。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
誰でも朱実と一つに暮した者は皆、この娘は至って快活で、お転婆てんばで、そしてまだ、男性の恋愛が受け取れないほど開花のおそたちだと思いこんでいるらしいのである。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
起居ききょ振舞ふるまいのお転婆てんばなりしは言うまでもなく、修業中は髪をいとまだにしき心地ここちせられて、一向ひたぶるに書を読む事を好みければ、十六歳までは髪をりて前部を左右に分け
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
「いえ、私はこのボートで、毎日お転婆てんばしてますから、楊枝ようじを使うほどにも思いませんわ」
水郷異聞 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
◎千葉の娘はお佐野(千里駒には光子とありて龍馬より懸想したりと記したれど想ふに作者が面白く読ません為めに殊更ら構へたるものなるべし)と云つてお転婆てんばだつたさうです。
千里駒後日譚 (新字旧仮名) / 川田瑞穂楢崎竜川田雪山(著)
無論外形の一部分をモデルとしたので、全体を描いたのではなかった。第一、この女は随分マズイ御面相で、お勢のような美人でなかった。かつお勢よりもお転婆てんばであり引摺ひきずりであった。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
ただお転婆てんばの嫁と馬鹿な悴とが毎日ふざけているということが解った。隣家について詮議をしても他に違ったことをいう者がなかった。そこで裁判が決定して、王給諌は雲南うんなん軍にやられた。
小翠 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
「芥川龍之介と来た日には大莫迦おおばかだわ!」何と云うお転婆てんばらしい放言であろう。わたしは心頭に発した怒火を一生懸命におさえながら、とにかく一応いちおうは彼女の論拠に点検を加えようと決心した。
文放古 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
かの不貞無節なるお転婆てんばを事実の上において慚死ざんしせしめん事を希望します。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
転婆てんばさんたちの世話やきと監督にやってくるのだが、今年は、長兄と次兄が二人ながら戦地へ行っているのと、朱実さんのお嫁入りがちかづいたのとで、とてもこんなところへ来ていられない。
半さんの妻君が少しお転婆てんばで、長屋中の憎まれ者になっていたため、当日の騒ぎのあることを知らせずに、近所の人たちは各自に立ち退いたのだそうですが、世にも暢気な人があればあるものです。
「え、もう……お転婆てんばばかりしているそうでな」と母親は笑った。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
はっさい(お転婆てんば)で売っていたのだ。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
「ちっと女らしくなれ。お転婆てんば!」
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
(まあ、女がこんなお転婆てんばをいたしまして、川へおっこちたらどうしましょう、川下かわしもへ流れて出ましたら、村里の者が何といって見ましょうね。)
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
疎忽そこつであり、性急であり、唐突なお転婆てんばな動作をし、むやみに愛情に駆られ、いつも家の中の災難となった。
一体お嬢様は、非常に器量自慢の方で、どちらかと云えば意地の悪い、そうしてお転婆てんばな女学生であった。
小僧の夢 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
わたくしは例のお転婆てんばでございますから、大よろこびですぐに行くことにきめまして、継子さんとも改めて打合せた上で、日曜日の午前の汽車で、新橋をちました。
と叔母はあざけるような調子で「何でもお前が、不良少年と手紙のやり取りしたとか、夜遊びをしたとか、お転婆てんばだとか、そう言ったたくさんなごたくを並べ立ててねえ」
姉の春枝は既に十八、しかも妹のお転婆てんばにくらべて少しやさしく、自身の荒くれた男姿を情無く思う事もあり、熊の毛皮の下に赤い細帯などこっそりしめてみたりして
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
むかかわではSH夫人ふじんらしい、ちら/\うごほしのやうなきわめてすゞしいひとが、無邪気むじやき表情へうぜうをしてゐるのがについた。わたくしわきにゐるお転婆てんばさんが彼女かのじよめてゐた。
微笑の渦 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
「いや、あなたはお転婆てんばでござる。もっともそれがよろしいのではあるが。……」
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
何と言っても若くてお転婆てんばなだけだ、——火事ッと聞いて、夢中で飛出して家へ帰ったが、さすがに専助の脅かしが利いているから怖くて、親父にも打明ける気にはなれなかった——どうだ
「ええ、そうです、お転婆てんばでございましょう」
水郷異聞 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「——なんてえお転婆てんばな娘だろう」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いや、いけずなお転婆てんばで。……ところがはずみにかかって振った拍子ひょうしに、その芋虫をポタリと籠の目へ、落したから可笑おかしい。目白鳥は澄まして、ペロリと退治たいじた。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
てのひらの上へ乗る程であったが、そのお転婆てんばでやんちゃなことは、とんと七つか八つの少女、———いたずら盛りの、小学校一二年生ぐらいの女のと云う感じだった。
猫と庄造と二人のおんな (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
今考へますと、よくあんなお転婆てんばが出来たものだと、自分ながらあきれかへるくらゐでございます。
あたしは、いまは幸福です。とても、なんだか、うれしいの。これからは、昔のお転婆てんばなオフィリヤにかえって、誇りを高くもって、考えている事をなんでもぽんぽん言おうと思うの。
新ハムレット (新字新仮名) / 太宰治(著)
「女よ——少しお転婆てんばだけれど」
「お茶目、曲者くせもの、お転婆てんば……。」
今考えますと、よくあんなお転婆てんばが出来たものだと、自分ながら呆れ返るくらいでございます。
停車場の少女 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
転婆てんばのナオミは海さえ見れば機嫌がよく、もう汽車の中でしょげたことは忘れてしまって
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
一寸ちょっとはしゃいだ、お転婆てんばらしい、その銀杏返の声がすると、ちらりと瞳が動く時、顔が半分無理に覗いて、フフンと口許で笑いながら、こう手が、よっかかりを越して、姉の円髷の横へつたわって
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
姉はお洒落しゃれでお転婆てんばだから両親にも兄にも憎まれている。上州屋の使で、自分の店へ薬を買いに来ることはあっても、自分は碌に口もきかないと、宗吉はしきりに姉の讒訴ざんそをした。
半七捕物帳:22 筆屋の娘 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
あのがあるくとぐに鳴った——という育ちだから、お転婆てんばでな——
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さすがのお転婆てんばもくたびれたものか、い心持そうに眠っています。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
なにしろお転婆てんば同士だから堪まりません。
半七捕物帳:34 雷獣と蛇 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)