へた)” の例文
かねての心願に任せて至極安穏に、時至って瓜がへたから離れるが如く俗世界からコロリと滑り出して後生願い一方の人となったのであろう。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
すべすべとふくれてしかも出臍でべそというやつ南瓜かぼちゃへたほどな異形いぎょうな者を片手でいじくりながら幽霊ゆうれいの手つきで、片手を宙にぶらり。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
甘い香のする柿の花が咲くから、青いへたの附いたむだな實が落ちるまで、私達少年の心は何を見ても退屈しませんでした。
そういう人はお豆腐と一緒に食べると酔わないと申します。松茸の中へ茄子なすへたを入れるのも解毒の功がありましょう。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
つまり、普通果物を眼前に置いた場合、へたの手前から剥き始めるのを、夫人の場合は、蔕の向う側から剥き始めるのだ。——勿論こんな癖は一寸珍らしい。
花束の虫 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
そして、へたのないところから推して、そこから泥状の青酸加里が注入されたものと推断された。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
中途半端にへたからくさって落ちた自由主義の歴史に煩わされて、日本のインテリゲンチアは、十九世紀初頭の政治的変転を経たフランスのインテリゲンチアとは同じでない。
冬を越す蕾 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
喧嘩はただ豚のは柿のへたに似ているとか似ていないとか云うことから始まっていた。
玄鶴山房 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
幾度封筒を逆さにしてみても、なかからは柿は愚かな事、柿のへた一つ出なかつた。芥川氏は前の日によこした原稿が気に喰はなかつたらしく、態々わざ/\書きかへて送つてくれたのだつた。電報は
「えゝ、すべつちのに」かね博勞ばくらうあとからげた。それはこずゑから風呂ふろなかちたへたのないあをかきであつた。かき手桶てをけみづへぽたりとちて、みづのとばちりがすこしおつぎのあしかゝつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
またその実のへたが二重になっているからダイダイといわれるとの説もある。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
良人の左がわの耳のうしろに赤小豆あずきほどのいぼがある。どういう機会にかそれをみつけてから気になってしかたがない。それで或るとき白茄子しろなすへたでこすると取れるということをそれとなく申上げた。
日本婦道記:桃の井戸 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
へたばかり枝にはつけて日のあたる豆柿ならしここだくの蔕
海阪 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
外屋敷や野分のわきに残る柿のへた 野童
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
おまんが漬け物おけの板の上で、茄子のへたを切って与えると、孫のお粂は早速さっそくそれを両足の親指のところにはさんで、茄子のへたを馬にして歩き戯れる。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
心あって鳴くようで、何だか上になった、あのへたの取手まで、小さなつのらしく押立おったったんです。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
... 一つ入れるかあるいは丸茄子がなければへただけでも入れるのはどういう訳だろう」中川
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
今日までの婦選が一方において中流的な婦人層の政治的な成熟の形となって完成されず哀れやへたぐされて落ちた如く、他方勤労的婦人の生活の声も組織されず、昭和十三年の婦人年表には
女性の歴史の七十四年 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
部下の諸将等がおおいに城を築き塁を設けて、根を深くしへたを固くしようという議を立てたところ、流石は後に太閤たいこう秀吉をして「くせ者」と評させたほどの政宗だ、ナニ、そんなケチなことを
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
(仔細らしげに小首をかしげながら、かも瓜のへたのあたりを嗅ぎまはる。)
独楽園 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
柿のへた黒くこごれる枝見ればみ冬はいたも晴つづくらし
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
御覽ごらんわたしへたかたいこと。まるでたけのやうです。これをおまへさんのにいさんのところへつてつて、このうらたひらなところへなにつておもらひなさい。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
南瓜かぼちやへたほどな異形いぎやうものを、片手かたてでいぢくりながら幽霊いうれいのつきで、片手かたてちうにぶらり。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
弱いそのへたから、パラパラと実を落されたと云えないであろうか。
よもの眺め (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
柿のへた黒くこごれる枝見ればみ冬はいたも晴つづくらし
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
かきはな時分じぶんくと、あのあまにほひのするちひさなはなが一ぱいちてます。時分じぶんくと、あのへたのついたあをちひさなかき澤山たくさんちてます。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
一人だから食べ切れないで、きつき過ぎる、と云って、世話もなし、茄子なすへたごとしょうのもので漬けてありました。つかり加減だろう、とそれに気が着いて、台所へ出ましたっけ。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
甘い香気においのする柿の花の咲くから、青いへたの附いたむだな実が落ちるまで、少年の時の遊び場所であった土蔵の前あたりの過去った日の光景はまだ彼の眼にあった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
(早いな、われがような下根げこんな奴には、三年かかろうと思うた分別が、立処たちどころは偉い。おれを呼ぶからには工夫が着いたな。まず、褒美ほうびを遣る。そりゃ頂け、)と柿のへたを、色白な多一の頬へたたきつけた。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
生れて初めて女というものに子供らしい情熱を感じたその娘と一緒に、よく青いへたの附いた実の落ちたのを拾って歩いた裏庭の土蔵の前の柿の木の下の方へ帰って行った。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ぢいやがはたけからつて茄子なすは、とうさんにへたれました。その茄子なすへた兩足りやうあし親指おやゆびあひだにはさみまして、爪先つまさきてゝあるきますと、丁度ちやうどちひさなくつをはいたやうで、うれしくおもひました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)