翩翻へんぽん)” の例文
旧字:翩飜
三十人の会員の約三分の一は婦人ですが、その婦人達が一人残らず顔を隠して、翩翻へんぽんとして舞い、喃々なんなんとしてお喋舌しゃべりをするのです。
法悦クラブ (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
開いて太刀をつけたのは、鐘巻流での下段八双! 真っ向からかかれば払って退け、突いて来れば搦み落とす、翩翻へんぽん自在の構えである。
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
一時半月旗の影のダニウーブ河畔に翩翻へんぽんたりし時には、全欧州民族に顔色がんしょくが無かったでないか。しかるに今果して如何の状に在るか。
現代の婦人に告ぐ (新字新仮名) / 大隈重信(著)
「遠く、後方から来る一船団のうちの大船には、『こう』の字を印した大旗が翩翻へんぽんと立ててあるように見えまする」と、告げた。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
獅子が並んでお辞儀じぎをすると、すたすたと駈け出した。後白浪あとしらなみに海のかたくれない母衣ほろ翩翻へんぽんとして、青麦の根にかすく。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
例の招牌かんばんから釣込む植木屋は家々の招きの旗幟はた翩翻へんぽん金風あきかぜひるがえし、木戸々々で客を呼ぶ声はかれこれからみ合て乱合みだれあって、入我我入にゅうががにゅうでメッチャラコ
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
これも拍子抜けのていで、改めて、翩翻へんぽんとひるがえる旗印を見直すと、丸に立波、そう言われてみれば、まごかたもない、これは勘定奉行の小栗上野介殿おぐりこうずけのすけどの定紋じょうもん
大菩薩峠:28 Oceanの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そのじつ通路を見出そうとしてあせっているのであろうが、われ等の眼には少しもあせっている容子は見えず、翩翻へんぽんとして広い中庭に乱舞しているように見える。
丸の内 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
掌から申訳ばかりのあしの芽のような指先が出ているかの女のこどものような手が、意外に翩翻へんぽんひるがえって、うたにつれ毬をつき弾ませ、毬を手の甲に受け留める手際は
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
翩翻へんぽんとして、現実の隙間に、季節と光線の僅かなきらめく彫刻を施しながら、一瞬から一瞬へ、偶然から偶然への、その散策の途すがらに、彼の檻の一隅をも訪れたのである。
測量船 (新字旧仮名) / 三好達治(著)
行啓の名残で、黄や赤や紫や青やの万国旗が此処でもまだ翩翻へんぽんとしているその下を、薄いのかがやく蜻蛉とんぼや蝶々のつがいが、地にすれすれに流れたりもつれ飛んだりしていた。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
倨然ぎぜんたる戦車タンクの後尾に樹てられし旗竿には、ああ、南仏の春風に翩翻へんぽんと翻る日章旗。
やがて、夜が明けかかり闇が白みはじめたころ、私は、菩提樹の梢をとおして、暁にふるえるユニオン・ジャックの翩翻へんぽんたるを見たのである。印度インドの朝、しかし真実の黎明れいめいには遠い。
一週一夜物語 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
眼下はるかに塔米児タミイル斡児桓オルコン両河の三角洲。川向うの茫洋たる砂漠には、成吉思汗ジンギスカン軍の天幕ユルタ、椀を伏せたように一面に櫛比しっぴし、白旄はくぼう、軍旗等翩翻へんぽんとして林立するのが小さく俯瞰ふかんされる。
そして何よりも——眠れる獅子王ししおうの傍に咲く牡丹花ぼたんかのような容顔、春風になぶられてうごく雄獅子のひげに戯むれ遊ぶ、翩翻へんぽんたる胡蝶こちょうのような風姿すがた、彼女たちの世界の、最大な誇りをもって
マダム貞奴 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
今の科學博物館がある近所で、その高い屋根の上には、赤地に白く PANORAMA と書いた旗が、葉櫻の陰に翩翻へんぽんとしてゐた。私は此所で、南北戰爭とワータルローのパノラマを見た。
宿命 (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
頭上にリボンは翩翻へんぽんと靡く。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
仰天して、一方の峰へ逃げてゆくと、そこにも蜀旗林立して、翩翻へんぽんたる旗風の波をうしろに、蜀の趙雲が姿を現わして云った。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
八方に篝を焚いて、湧き起る唄と音楽の中を、翩翻へんぽんとして踊りに踊る処女おとめの大群は、全く前代未聞の不思議な観物でした。
女ながらも一党のかしら、隙のない手配てくばりを云い渡したが、やがて土塀へ手をかけると、翩翻へんぽんと向こうへ飛び越した。
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
三、四ヵ所のお小屋からお小屋へかけて、その幕は翩翻へんぽんと風をはらんでいるので、無数の兵たちは見えるが、信長のすがたは生憎と見えない。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一とくさり、當時の流行はやり歌を唄つた眞珠太夫は、そのまゝ、親方の女房のお六の三味線につれて、翩翻へんぽんと踊るのです。
裂帛れっぱくの掛け声掛かるや、大いなる蝙蝠こうもり天井に向かって翩翻へんぽんとして飛んだかと見えたが、これぞ上州花隈はなくまの城主戸沢山城守直伝の秘法すなわち天狗飛切りの術。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ただ城楼じょうろう高きところ——さがふじ大久保家おおくぼけ差物さしものと、淡墨色うすずみいろにまるくめたあおいもんはたじるしとが目あたらしく翩翻へんぽんとしている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鳰鳥の身の軽さ、胡蝶のように翩翻へんぽんと、右に左に前に後ろに、眼にも止まらず駈け廻わった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
桃川燕之助は、がい一咳と云った調子で、少し古風なエロキューションで続けました。大して暑くもないのに、胸のあたりでハタハタと白扇を使うと、ボヘミアン襟飾ネクタイ翩翻へんぽんとして宙に泳ぎます。
陳宮のいった通り、城頭にはもう敵の旌旗せいき翩翻へんぽんとみえる。——そして呂布来れりと聞くとそこの高櫓たかやぐらへ登った陳登が、声高に笑っていった。
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、男の影法師であろうが、翩翻へんぽんと背後へ飛び返ると、二度ばかり白光をひらめかした。と、同時に走りかかって来た多勢の影法師の先頭に立った二つは、もんどり打って地へ倒れた。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
彼ひとりのため、右翼は潰滅かいめつされ、余波はもう中軍にまで及んできた。丞相旗をめぐる諸軍すべて翩翻へんぽんとただおののき恐れて見えたが、その時
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その鞍壺へ手を掛けると甚内は翩翻へんぽんと飛び乗った。ピッタリ馬背ばはいへ身を伏せたのは、手裏剣を恐れたためであって、「やっ」というと馬腹を蹴った。馬はさっと走り出した。馬首は追分へ向いていた。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
沢庵たくあんは、雪山せっせんから降りてきた釈尊しゃくそんのように、風呂敷のすそを翩翻へんぽんと風にふかせながら、後ろから歩いて来るのであった。
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
翩翻へんぽんと姥が身をかわしたのである。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
大将張飛も最大な敬意と静粛をもって、出迎えの兵をえっし、黄旗青旗金繍旗きんしゅうき日月旗じつげつきなど、万朶ばんだの花の一時にひらくが如く翩翻へんぽんと山風になびかせた。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ところが先発した司馬昭が、先陣の張郃ちょうこうに会って、すでに街亭には、蜀旗翩翻へんぽんたるものがあると聞かされ
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
吉浜村よしはまむらへ出る谷間道をへだてて、平家方は、星山の峰つづき一帯を陣地として、翩翻へんぽんと、旌旗せいきをたてならべた。遠目にも白くきらめくのは、その間を歩く長刀なぎなたや太刀などであろう。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
見れば、野山いちめんに、翩翻へんぽんたる黄旗、青旗、紅旗がのぞまれ、遠い岸の蔭から、二そうの快舟はやぶねが、それぞれ四、五十人の剣戟けんげきを載せて、颯々さっさつとこなたへ向って近づいてくる。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
はてな? と孟達がふと後ろを見ると、何ぞはからん、翩翻へんぽんとして千軍万馬のうえに押し揉まれている大旗を見れば、「司馬懿しばい」の三文字が金繍きんしゅうぬのに黒々と縫い表わされてあるではないか。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この奇襲に、冷苞の勝色は、たちまち変じて、敗色を呈し、算をみだして、劉璝りゅうかいの陣地へ退却して行ったが、おどろくべし、そこの営内にはすでに見馴れない他人の旗が翩翻へんぽんとたなびいていた。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼方の岸辺にひめられている無数のとばりと、そしてたてや防材を組んだ塁や、また、遠方此方あちこちの森や民家の陰にいたるまで、およそそれの見えぬ所はないほど赤い旗の翩翻へんぽんと植え並べてある盛観に
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
夜明けの空に、翩翻へんぽんと立ちならんでいる。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
紅白その他のぬのをもって翩翻へんぽんと空を埋めよ
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)