縦横じゅうおう)” の例文
なぜならつくえかどは、小刀こがたなかなにかで、不格好ぶかっこうけずとされてまるくされ、そして、かおには、縦横じゅうおうきずがついていたのであります。
春さきの古物店 (新字新仮名) / 小川未明(著)
あしと蘆との間の静かなさざ波を切って水馬みずすまし川海老かわえびが小さな波紋を縦横じゅうおうに描いている。白い魚の腹も時々川底を光って潜った。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
頭上には、ドイツ機が、縦横じゅうおうに飛んでいた。爆弾は、ひっきりなしに落ちて、黒い煙の柱をたてた。大地は、しきりにふるう。
英本土上陸戦の前夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
洞の外には多くの人のくつあとが、朝露あさつゆにぬれて縦横じゅうおうに点々と印せられている、あきらかに海へびたちが昨夜、洞外を偵察ていさつしたときのくつあとである。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
ひるまは電車やバスや自動車が、縦横じゅうおうにはせちがう大通りも、まるでいなかの原っぱのようにさびしいのです。
青銅の魔人 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
それもそのはず、地中に細長い白色地下茎はくしょくちかけい縦横じゅうおうに通っていて、なえを抜く時にそれが切れ、依然いぜんとして地中に残り、その残りからまたなええるからである。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
それから自分でこの小説の中を縦横じゅうおうに飛び廻って、大いに苦しがったりまた大いに悲しがったりして、そうして同時に自分の惨状を局外から自分と観察して
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
たちまち躍ったり跳ねたりし出したのはむしろ当然ではないであろうか? かつまた当時は塞外さいがいの馬の必死に交尾こうびを求めながら、縦横じゅうおうけまわる時期である。
馬の脚 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
というのは、このタンナリーは、テキサス州のたいらな草原のおおかみ狩りにはなれてもいたろうが、このカランポーの谷は、高低があって、川の支流が縦横じゅうおうにいりまじっている。
朝寝はしたし、ものにまぎれた。ひるの庭に、くまなき五月の日の光を浴びて、黄金おうごんの如く、銀の如く、飛石の上から、柿の幹、躑躅つつじ、山吹の上下うえしたを、二羽縦横じゅうおうに飛んで舞っている。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
高橋伊勢守と清川八郎とがせつけた時は、新坂下は戦場のような光景で、気合の声は肉を争う猛獣のゆるが如く、谷から山にこたえる、雪と泥とは縦横じゅうおうに踏みにじられた中に
その声につれてだんずるびわの音は、また縦横じゅうおうにつき進む軍船ぐんせんの音、のとびかうひびき、甲胄かっちゅうの音、つるぎのり、軍勢ぐんぜいのわめき声、大浪おおなみのうなり、だんうら合戦かっせんそのままのありさまをあらわしました。
壇ノ浦の鬼火 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
ふたたび法師野ほうしのにあたって聞ゆる法螺ほら——。すでにはまったく明けはなれて、紫金紅流しきんこうりゅうの朝雲が、裾野すそのの空を縦横じゅうおうにいろどっていた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その天井の下には、やはりおなじ色のばしが、あみのように、縦横じゅうおうにとりつけられ、どこまでものびていった。
怪星ガン (新字新仮名) / 海野十三(著)
なかでも、ちいさな子供こどもたちは、毎日まいにちれをなして、水面みずもかび、太陽たいようらす真下ましたを、縦横じゅうおうに、おもいのままに、金色きんいろのさざなみをてておよいでいました。
なまずとあざみの話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
二ひきの黄金の怪獣が、あちらにとび、こちらにとび、少年たちをけちらして、あばれまわり、月光にてらされた黄金のにじが、縦横じゅうおうにいりみだれました。
超人ニコラ (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
穴の上にはちょうどおとし穴のように、表面だけ木の枝や草などを縦横じゅうおうにかけわたしてある、そのなかの一つの底には、動物の骨のようなものがちらばってある。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
松江へ来て、まず自分の心をひいたものは、このまち縦横じゅうおうに貫いている川の水とその川の上にけられた多くの木造の橋とであった。河流の多い都市はひとり松江のみではない。
松江印象記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
……ト此の奇異なる珍客を迎ふるか、不可思議のものにきそふか、しずかなる池のに、眠れるうおの如く縦横じゅうおうよこたはつた、樹の枝々の影は、尾鰭おひれを跳ねて、幾千ともなく、一時いちどきに皆揺動ゆれうごいた。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
が、性の本来は、陽物ようぶつだから時しも春けて、今ごろとなれば大いにうごく。龍起れば九天といい、人興って志気しきと時運を得れば、四海に縦横じゅうおうするという
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そしてなおも逃げようとするところを、旗男はエイエイと懸声かけごえをして、旗竿の槍を縦横じゅうおうにふりまわした。
空襲警報 (新字新仮名) / 海野十三(著)
縦横じゅうおうにわたした枝はくずれおちて、なんとも知らぬ動物が、おそろしい音を立ててくるいまわっている。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
のみならず、そこにはおおきな建物たてものならんで、けむりそらにみなぎっているばかりでなく、鉄工場てつこうじょうからはひびきがこってきて、電線でんせんはくもののようにられ、電車でんしゃ市中しちゅう縦横じゅうおうはしっていました。
眠い町 (新字新仮名) / 小川未明(著)
……本箱のいつななツが家の五丁目七丁目で、縦横じゅうおうに通ずるので。
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
おびふえを抜くよりはやく、れいの合図あいず、さッと打ちふろうとすると呂宋兵衛が強力ごうりきをかけてうばいとり、いきなりじぶんの力で縦横じゅうおうにふってふってふりぬいた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
青木 はい先生、平面の世界では縦横じゅうおうの長さはありますが、高さというものを知りません。僕達は立体の世界に住んでいるので、縦横、高さ、皆分っています。平面の世界の一例は静かな水面です。
新学期行進曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そして、このひろ野原のはら縦横じゅうおうけるであろう。
汽車の中のくまと鶏 (新字新仮名) / 小川未明(著)
織田信長は、その頃、自己の歩兵隊に、刀の長サ三尺、柄四尺という長柄を揃えて持たせて、敵陣へ突貫とっかんさせて、いつも敵の一陣を縦横じゅうおう刺撃しげきして駈けくずしたということである。
剣の四君子:03 林崎甚助 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
忍剣にんけん鉄杖てつじょう縦横じゅうおうむじんにふりまわして、やっと黒具足組くろぐそくぐみをおいちらしたが、ふと気がつくと、伊那丸いなまるをのこしてきた場所から大分はなれてきたので、いそいでもとのところへかけあがってくると
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)