筋違すじかい)” の例文
すると新らしく線路を延長する計劃でもあると見えて、彼の通路に当る往来の一部分が、最も無遠慮な形式で筋違すじかいに切断されていた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
突き当って筋違すじかい見附、右へ行くと、柳原から両国だ。柳原は辻斬りの名所、柳の下にむしろを抱えて仲間ちゅうげんや折助相手の、辻君つじぎみが遊泳した。
江戸の昔を偲ぶ (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
さらに三人連れだって殺気のあふれた町々を浅草橋の見附みつけから筋違すじかいの見附まで歩いて行って見たのは二十三日のことであったが
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
横堀筋違すじかい橋ほとりの餅屋の二階を月三円で借り、そこを発行所として船場せんば新聞というあやしい新聞をだしたのは、それから一年後のことであった。
勧善懲悪 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
また別なときに「筋違すじかいねぎを切るなり都ぶり」という句を君はどう思うと聞かれたときも句の意味がわからなかった。
思い出草 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
きずは「首構くびがまえ七寸程、左肩ひだりかた六七寸ばかり、右肩五寸ばかり、左右手四五ヶ所、鼻上耳脇またかしらきず二三ヶ所、背中右の脇腹まで筋違すじかいに一尺五寸ばかり」
忠義 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
四五軒筋違すじかいの向う側に、真赤まっか毛氈もうせんをかけた床几しやうぎの端が見えて、氷屋が一軒、それには団扇うちわが乗ってるばかり、涼しさは涼し、風はあり、月夜なり。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
筋違すじかい」「講武所こうぶしょ」。現万世橋が「眼鏡橋」。「御隠殿ごいんでん」「喰違くいちがい」「鉄砲洲」「お玉ヶ池」「新堀端」「大根河岸」「竹河岸」「白魚河岸」「へっつい河岸」。
昔の言葉と悪口 (新字新仮名) / 三遊亭金馬(著)
神田川の筋違すじかい橋から、西へさかのぼり、お茶の水の堀、吉祥寺橋、小石川橋を経て、牛込御門、土橋に至るあいだ。
今し、彼等の間に拡げられた大地図は、尾張の中原平野の地図であって、その上に筋違すじかい打布うちしかれたのが、尾張名古屋城の細部にあたる絵図面であります。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
筋違すじかい見附みつけ跡、俗にめがね橋といった旧万世橋、それが東京一の大通りに架った石橋で、その手前二、三丁の間が全くの空地、緑したたる柳の立木が不規則に並んで
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
聖堂裏から昌平橋を渡って、筋違すじかい御門を抜けた土手沿いに、求める屋台の灯がまた六つ見えた。
老中の眼鏡 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
外神田の筋違すじかい橋を渡った所で、毎月集古会という会があり、『集古』という雑誌を出していた。
故郷七十年 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
筋違すじかい見附より神田川を渡って御成道おなりみちを、上野広小路から黒門くろもんに入り文珠楼もんじゅろう前を右へ、凌雲院りょううんいん前通の松原を過ぎ、大師堂わきなる矢来門の通から龕前堂がんぜんどうに護送せられたのである。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そうして、とうとう両国の広小路へ出ると、なんと思ったか一匹の牛は左へ切れて、柳原の通りを筋違すじかいの方角へ駆けて行って、昌平橋のきわでどうやらこうやら取押えられた。
(新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それでも姉娘の継子つぎこは、お延の座があいにく自分の影になるのを気遣きづかうように、うしろを向いて筋違すじかい身体からだを延ばしながらお延にいた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
筋違すじかいを入ってここまで来ると、いきなり後ろから、一太刀浴びせられたような気がしましたが、振り向いて見る気もしません
半蔵らは八十余里の道をたどって来て、ようやくその筋違すじかいの広場に、見附の門に近い高札場こうさつばの前に自分らを見つけた。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そのお伴は鉄砲をかついで、弾薬袋を肩から筋違すじかいげておりました。能登守はこうして今、家来とお伴とをつれて雪に乗じて、得意の鉄砲を試そうとするものと見えます。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
半七は筋違すじかいから和泉橋の方をさして堤づたいにぶらぶらたどってゆくと、長い堤の果てから果てまでが二百何十本とかいう一列の柳は、このごろの霜や風にその葉をふるい尽くして
半七捕物帳:43 柳原堤の女 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
高麗こうらい橋通りにかかった筋違すじかい橋のたもとから四ツ橋まで、西横堀川に添うた十五町ほどの間は、ほとんど軒並みに瀬戸物屋で、私の奉公した家は、平野町通りから二三軒南へはいった西側の
アド・バルーン (新字新仮名) / 織田作之助(著)
往来ゆききには突懸つッかからず、ひょろついた揚句が大道へ筋違すじかいに寝て、捨鐘を打てば起きてくまで、当障あたりさわりはないからであったに、そのは何と間違ったか、門附の天窓あたま束髪たばねがみのまま砕けて取れよう
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
東都柳原やなぎわらの土手には神田川の流に臨んで、筋違すじかい見附みつけから浅草あさくさ見附に至るまで毿々さんさんとして柳が生茂おいしげっていたが、東京に改められると間もなく堤は取崩されて今見る如き赤煉瓦の長屋に変ってしまった。
道場を出て、空いている駕籠かごを捜しながら、小走りに筋違すじかい御門のほうへ向かった。時刻はひる少しまえ、桜でも咲きはじめそうな暖かい日で、往来の人たちのなかには、片肌ぬぎになっている者がいた。
その花はまた規則正しくしおれるころになると活けえられるのです。琴も度々たびたびかぎの手に折れ曲がった筋違すじかいへやに運び去られるのです。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「この空模様じゃ筋違すじかいまでもちませんぜ。お通は仕度をしているはずですから、ともかく晴らしてから出かけましょう」
うわさに聞く浅草橋あさくさばしまで行くと、筋違すじかいで見たような見附みつけの門はそこにもあった。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
森から上はのべつ幕なしの星月夜で、例の天の河が長瀬川を筋違すじかいに横切って末は——末は、そうですね、まず布哇ハワイの方へ流れています……
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
与力筆頭笹野新三郎の心祝いの小宴に招かれて、たらふく飲んだ八丁堀の帰り、二人は八つ小路を昌平橋へ——、筋違すじかい御門を右に見て歩いておりました。
横からも、たてからも、筋違すじかいからも、眼の位置と、角度を少し変えれば千差万別に見る事ができる。そうしてそのたびたびに四角の恰好が違う。
創作家の態度 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
病人は日本の蒲団ふとんを敷いて寝ているんだから、彼の眼には強い色の空と、電信線の一部分が筋違すじかいに見えるだけであった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
帰りには、暑さが余りひどかったので、電車で飯田橋へ回って、それから揚場あげば筋違すじかい毘沙門前びしゃもんまえへ出た。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
右者みぎは本月ほんげつ二十三日午前十一時五十分出生しゅっしょう致しそろ」という文句の、「本月二十三日」だけに棒が引懸けて消してある上に、虫の食った不規則な線が筋違すじかいに入っていた。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
こうして首筋ばかり眺めていた自分は今比較的自由な場所に立って、彼らの顔立を筋違すじかいに見始めた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「二階の下に飛石が三つばかり筋違すじかいに見えて、その先に井桁いげたがあって、小米桜こごめざくられ擦れに咲いていて、釣瓶つるべが触るとほろほろ、井戸の中へこぼれそうなんです。……」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
けれども実際は砂利を敷いたみちが往来から筋違すじかいに玄関を隠しているのと、正面をさえぎる植込がこんもり黒ずんで立っているのとで、幾分かいかめしい景気を夜陰に添えたまでで
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そこには薄墨で棒が一本筋違すじかいに書いてあった。その上に「この棒ひとり動かず、さわれば動く」とさんがしてあった。要するに絵とも字ともかたのつかないつまらないものであった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
真紅しんくの厚い織物を脳天から肩先までかぶって、余る背中に筋違すじかいささの葉の模様を背負しょっている。胴中どうなかにただ一葉ひとは消炭色けしずみいろの中に取り残された緑が見える。それほど笹の模様は大きかった。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼女がこの曲り角へかかった時、北から来た一台の電車がちょうど彼女の前、方角から云えば少し筋違すじかいの所でとまった。何気なく首を上げた彼女は見るともなしにこちらがわの窓を見た。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
坂の中途へ来たら、前は正面にあったほのおが今度は筋違すじかいに後の方に見え出した。坂の上からまた左へ取って返さなければならない。横丁よこちょうを見つけていると、細い路次ろじのようなのが一つあった。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
主人は武右衛門君に「そうさな」を繰り返していたところへ、先生と玄関から呼ばれたので、誰だろうとそっちを見ると半分ほど筋違すじかいに障子からみ出している顔はまさしく寒月君である。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼の頭にはこの芝居とたかとが何の意味なしに結び付けられていた。突然鷹が向うに見える青い竹藪たけやぶの方へ筋違すじかいに飛んで行った時、誰だか彼のそばにいるものが、「れた外れた」と叫けんだ。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その時うしろから来た電車が、突然自分の歩いている往来の向う側でとまったので、もしやという心から、筋違すじかいに通を横切って細い横町の角にある唐物屋とうぶつやそばへ近寄ると、そこにも一本の鉄の柱に
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
例えば時鳥ほととぎす平安城を筋違すじかいにと云う俳句があります。平安城は器械的法則の平衡を保って存在しているのだから、そうむやみに崩れてはしまいません。それすら明治の今日には見る事ができません。
創作家の態度 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
五分ごふんばかりは無事であったが、しばらくすると、いつのにやら、黒い眼はページを離れて、筋違すじかい日脚ひあしの伸びた障子しょうじさんを見詰めている。——四五日藤尾にわぬ、きっと何とか思っているに違ない。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)